仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱 作:大島海峡
気を吐き勇んで飛び出したウヴァが、いくら経っても帰ってこない。
あっさり返り討ちになった展開を、残されたグリードたちが半ば予期しつつも待機していたそのアジト。
そこに踏み入れた二つの気配が、彼らに入り口の方角へと目線を上げさせた。
もっとも、その内の一つは転げ落ちて、同種であっても同胞ならざる三者の足下に突っ伏して醜態をさらした。
だが、肉体を保っている以上はまだ息はあるようだ。核が割れれば、物言わぬ硬貨の集合体に戻るだけだ。
そして彼を投げ込んだ張本人は、ゆったりとした足取りで再びアジトに足を踏み入れた。
その拍子に隙間から吹き込んで来た風が、打ち捨てられた備品を煽り、その頭上に深紅の幕が垂れ下がる。
「まさか、本当に助けに行くとはね」
呆れと揶揄を交えて、メズールが言った。
「これで少しは俺の話に耳を貸す気になったか」
睫毛の一本表情を変えず、その鳥男――アンクは返した。
「良いよ」
口端を吊り上げながら、しかして目は笑うことなく、カザリがその挑発的な調子の問いに答えた。
「君のことはともかく、君の話ぐらいは信じてあげようじゃないか。アンク」
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救急車のサイレンが、夜になっても
王の、そして今日はグリードの出現により、都心はなお混乱と負傷者が相次いでいる。
そして待機中だった伊達にも召集がかかり、白衣に袖を通し、緊急外来の加勢に当たっていた。
そして今――その映司の異変と消失について、クジャクカンドロイド越しに後藤から伝えられた。
『伊達さんの診断を信じてないわけじゃないですけど……本当に、昨日の晩、火野には異変はなかったんですよね?』
映し出される映像越しに声を低めて尋ねてくる相棒兼弟子に、自身に割り当てられた診察室で腕組みしながら伊達は頷いた。
「十中八九は、ただの過労。体調に問題ナッシング! ……てことはだ。残る一、二割。
『やはり、メダル絡みですか……』
「まぁ、なんかイヤな予感はしてたんだけどね」
『予感?』
「いや、具体的に何がってワケじゃないんだけどさ。火野の歯切れの悪さもだけど、それ以外にも色々妙に引っかかることがあって……俺ってば、
相変わらず、状況を選ばず、ふざけているのか本気なのか分からない調子で、身振り手振り説明する伊達。
そんな彼にはぁ、と嘆息とも生返事ともつかない調子で後藤は返す。
とはいえ、話をしているうちに後藤もいくらか落ち着いてきたようだ。
己のやるべきことを、見失ってはいない男の顔をしている。
『とにかく、警察と財団、両方から火野の行方や今までのことを調べてみます』
「また例のごとくブッ倒れてるかもしれないからな。こっちもこっちで、パンツだけとベルトしか持ってないヘンな行き倒れ、運び込まれてないか、藤田とかに聞い回ってみるよ」
『お願いします』
ボケの部分には欠片も触れることなく、素早く後藤は通信を切った。
「後藤ちゃん、年々スルースキルに磨きがかかってくね……さって、今日は不寝番だな」
と、伸びをしつつ、背越しにドアが、かすかに開閉した気配と物音がした。
「あぁハイ、待たせてごめんなさいね。次のか……」
と振り返った伊達は、言葉を失った。
来院者の丸椅子に座っていたのは、人ではない。顔つきは妙に人間っぽくはあるが、サイズは掌に乗る程度のものである。つまりは、
「うおぉっ!?」
――驚きつつも、予感はあった。
知人を模したそれが、保管されていたクスクシエから消えたと片手間に聴いていた時に。
その人形の足下に、いつしか銀貨が満ち溢れ、やがてそれらが寄り集まり、複数枚の紫のメダルを基点として人の形を成す。
十年前と、変わらない姿へと。
潔癖なまでに整えられた髪型に身嗜み眼鏡の角度。神経質なまでに伸ばされた直立姿勢だが、首だけは、二の腕に載せた自身の人形に向けられている。
「……まぁ、他のグリードが復活したんだ。もしかしたら、ってのは思ってたけどさ」
と、欠片も怖じもせず、その男を屈託なく歓迎した。
「久しぶり、ドクター」
「久しぶりですね、伊達君」
ドクター
バースシステムの生みの親である、天才科学者。かつてはバースの装着者として、彼のラボで寝起きをしていた伊達とは浅からぬ縁で結ばれている。
極端な終末論者であった彼は、やがてその身さえも
だがその精神もまた他のグリードと同様、今回の王のどさくさで復活していたらしい。
「今じゃすっかり
「ヤ・メ・ロ」
「そうそう、コレコレ! いやー、そーゆーとこはほんと変わんなくて安心だわぁ」
人形を取り上げようとするも、ロボット的な機敏な動作で回避された。
今目の前にいるのが紫の、虚無を司る異類のグリードであるとは知っているが、その駆け引きになつかしさを感じ、つい表情を
「私としては、別に望んで復活したわけではありません。せっかく完成した
徹底して伊達とは目を合わせず、ただ言葉だけは鋭く、
「君には、聊か失望したと言わざるを得ません」
そう、刺すように向けてくる。
「なにぃ? 会っていきなり辛辣じゃない。俺、ドクターをガッカリさせるようなことなんかした?」
「他でもない、今君がこんな病院にいること自体が」
伊達の横を素通りし、そのデスクに立てかけてあった写真立てを手に取る。
それは、二、三年前に患者と撮った一枚だった。
彼は将来有望ながらも試合のケガで、まず復帰は無理だろうと絶望視されていた柔道選手であったが、根気強いリハビリと本人の回復力の甲斐あって、奇跡の復活劇を遂げた。その時の記念のものだった。
「この病院に来てずいぶんと経つようですが、君の本懐は世界に向けられていたはずでは?」
「あー、それね……まぁ、十年の間にあっちの国で紛争とか感染症とか色々あってさ。ちょっとお偉いさんに引き戻されちゃって。で、日本にいる間は、知り合いのツテで色々手伝ってるってわけ」
バツが悪そうに苦笑する伊達へではなく、真木は写真の中の彼に冷ややかな視線を落とし、そして言った。
「ですが、その
と。
それを聞いた伊達は、眉を吊り上げた。
「いやだから、それは……あー、まぁ、クチで説明するより見てもらった方が早いか」
だが、論を説くのは彼の性分ではなかった。
あるがままの姿をさらけ出して証とするのが、伊達明のやり方だ。
「せっかくだし、もうちょっとだけ付き合ってくんない?」
臆することなく真木の腕を掴み、歯を見せた。