仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱   作:大島海峡

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7.伊達と真木と見学料

 その病院の待合室で、足を揃えて背を伸ばし、人形を腕に載せて長椅子に座る男が、実のところ人間を捨てているとは誰も思わない。

 思いはしないが――同時に、忌避すべき存在ではあっただろう。

 

「ママ、あのおじさん、ヘンなお人形さん持ってるー」

 夜間、駆けこんで診察を負えたらしい少女がその男――真木清人(きよと)を指して率直な不審を口にし、それを制して母親らしき女性が娘の目なり口なりを塞ぐ。そして真木を見るなり引きつった愛想笑いを浮かべ、足早に彼から去っていった。

 

 真木は一応の体裁を気にして人形を下ろし、自らの膝の上に置き、それをさらに前から絵本で隠した。

 だが、当然固定されていない本はすぐに膝からずり落ち、その動揺からさらに人形を床に滑らせた。

 そしてその拍子に、人形のウィッグは外れ、本来の真っ白い禿頭が露わとなった。

 

「……~ッッ!」

 目を剥き、さながら掃除機の吸引音がごとき、声にならない悲鳴を漏らす真木の下に、あらかたの患者の診察と処置を終えた伊達が戻って来たのはちょうどその辺りだった。

 

「悪ィねドクター、待たせちゃって。つか、ヘンなところで義理固いのは相変わらずか」

「構いません。別に急ぐ用事もありませんので」

 

 今この瞬間までの狼狽などおくびにも出さず……ただ人形の若干のカツラのズレは直し切れないまま……すくっと立ち上がって真木は言った。

 

「ただ『待たせた』という自覚がある以上、それ相応のものを見せていただけると思って良いのですか?」

 圧を持たせた問いかけにも、伊達は曇りのない軽妙な笑いを返し、

「まぁまぁ、それは見てのお楽しみ」

 と茶目っ気たっぷりに答えたのだった。

 

 ~~~

 

「ここは……」

 そこに案内された真木は、しばし言葉を失った。

 その病院の最奥にある一室にて、いくつものモニターが映像を映し出している。

 それはリアルタイムと思しきもので、いくつものオペの様子、物資を運んでいるらしい、

 そしてその光景や営みの中では、真木にとってもなじみのある機械の動物や翼竜たちが飛び交って、室内を往来するスタッフや、現地の人間をそれぞれの領分でサポートしていた。

 

「へへ、どーよ」

 と、手製の秘密基地を披露するようなガキ大将そのものの、無邪気な笑いで真木の顔を覗き込んだ。

「これが、今の俺の使命(オシゴト)」

 と、はにかみ交じりに言う。

 

「海外(あっち)と日本(こっち)、それぞれの知識や技術を持ち寄って、みんなでお互いが抱える問題を解決していくんだ。で、財団にも色々と便宜を図ってもらってる。あの会長に借り作んのは色々こえーけど、まぁあっちはあっちで、なんか儲かる仕組みあるんだろうよ」

 そして画面の一角、太陽の下で懸命に働く若い医師に向けて、伊達は目を細めた。

「そういう働きかけを、色んな病院で試験的にやってるとこ。あっちはあっちで、学校を巣立っていった連中が、前線で張り切ってるよ。俺も情勢が落ち着いたら、今のうちに稼いだ資金でまたあらためて向こうに渡る予定。これが火野とは違う、俺なりの『手のつなぎ方』って奴かな」

 真木は吊られるかたちで、モニターを脇目に眺めた。

 

「欲望が縮こまったとか、とーんでもない! むしろメラメラ燃えて、欲望ムラムラよ、俺! そのために、あんたの遺したメカ(もん)も、使わせてもらってる」

「愚かしい……君も知っているでしょう。カンドロイドは、もともとはオーズのサポートメカとして製造されたもの。そして私の願望を実現させるためのもの。安易な人助けの道具ではありません」

「バッサリだねぇ」

 伊達は苦笑しつつ、翻意する気は微塵も無さそうだった。飛び乗って来たゴリラのカンドロイドを肩に載せつつ、悪びれることなく言い返した。

 

「でもさ、付喪神ってのがあるじゃん。道具にも、魂は宿るってヤツ。俺にはこいつらが、まだ『まだ俺たちはやれる! オーズと離れても、人の役に立ちたいんだ!』って言ってるように聴こえるぜ。そのお人形ちゃんだって、今はドクターの代わりに、知世子さんと一緒になってクスクシエを盛り立ててくれてるしさ」

 そう笑いかけてキヨちゃんに伸びる手を、背を翻して退ける。

 

「下らない……まったく、下らない」

 吐き捨てる、というより何かを噛み締めるような調子でそう繰り返した真木は、瞑目し、しばらく間を置いてから小さな声で続けた。

 

「ですが、君の足掻きは、理解しました。共感できるかともかくとして、前言は撤回します」

 

 〜〜〜

 

 病院の前まで真木を送り、というよりも無言で出て行ったのについて行きつつ、伊達はふと思い立ったように切り出した。

 

「見学料代わり、ってのもなんだけどさドクター。ドクターも『王様』に取り込まれてたんだろ? 火野の異変(こと)、もしなんか知ってんなら教えてくんない?」

 真木は、足を止めて揃え、それから横顔を向けた。

「無理に引き留めておいて見学料も何もありませんが……本人に直接訊けば良いのでは?」

 と、意外に素直な所感が返ってきた

 

「いやいや、その火野が見つかんないから困ってるんだって」

「そちらではありません」

 真っ直ぐというより直線的、直角的という表現が正しい語調で、真木は人形に視線を固定したまま続けた。

 

 

「何かが始まる時、誕生する時、あ(・)の(・)方(・)が常にそこにいる」

 

 

 と。

「……なるほどねぇ」

 具体性には欠けるものの、勝手知ったる間柄、その言葉は伊達に一瞬で悟らせるには十分だった。

 

「いや、参考になったよ。サンキュードクター。どう、このままおでんでも食いに」

 伊達がそう言いさした時、ちょっと目を離した寸分の間隙。真木の姿はそこから消えていた。

 代わり、大きく唸る風音と、夜灯によって浮き彫りになった大きな影が、頭上を通過していった。

 

「そういうところも、相変わらずか」

 伊達は苦笑しつつ、背を伸ばし天を仰ぐ。

 もはや痕跡さえない。すべては幻だったかとさえ錯覚するほど。どこへ飛んでいったのかも分からない。

 だが、この後の彼がどう行動するのかは分かり切っている。相(・)変(・)わ(・)ら(・)ず(・)で、あるがために。

「――決めたんだな、ドクター」

 そのけじめのための、再会であり同時に別辞であったのだと。

 

「俺も、いい加減腹括れってことかね」

 そう独語した伊達は、白衣を脱いで、久しぶりの戦士の貌へと戻ったのだった。

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