仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱   作:大島海峡

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8.追及と幻覚と暴かれた真実

「と、いうわけで」

 再び関係者が集合したクスクシエ。

 宴の時と異なり、それぞれの面持ちは複雑だ。

 ドクター真木の復活。その彼からの提言。伊達からもたらされた凶朗入り混じる報に、どう反応して良いのか、どういう顔をするのが正しいのか分からないといった塩梅だった。

 

 だが、戸惑いよりも先に、確かめておかなければならないことがある。

 がために、伊達一同は、クジャクカンドロイドの提げた画面越しに、件の人物を呼び出した。

 

「なんか、知ってるよね……会長」

 皆を代表して、話を持ち込んで来た伊達が率直に切り出した。

 すでに夜半。日が改まる頃合いである。だが、その男――鴻上の背には、煌々と照らされた会長室。

 派手な色のスーツも相まって、まるで時差によって昼夜逆転した海外のようだった。

 会長はいつものそこで、ごく当たり前のように通信に応じた。それが叶わなければ財団本拠や本宅に直接押しかけることも辞さない覚悟だったが、杞憂に終わった。

 

『なるほどね、ドクター真木が』

 と他人事のように鷹揚に頷く彼に、伊達は苦笑した。

「いやね、俺もなんか微妙に引っかかってはいたんですよ、打ち上げの時。それがなんだったのか曖昧だったけど、ドクターの言葉がキッカケで思い出せた」

『ほう?』

 いつもながらの大仰な様子で、会長は目を丸くした。

 

「里中ちゃんがケーキ持ってきた時、会長言ってたでしょ。王を倒してくれたことに対して『ささやかなお礼』って」

「でもそれって、別に普通の反応なんじゃ」

「いやいや比奈ちゃん、このヒト普通じゃないから……そう、会長らしくなかったんだよね。普段だったら、『ハッピーバースデー! 苦難を乗り越えた新しい世界!!』」

 突然に鴻上を真似て大音声を放った伊達に、一同数歩分退いた。

 

「……なんて、言うのがアンタじゃない。ましてや、世界の命運とか背負うような責任感なんかある人じゃない」

『ずいぶんな言いぐさだね』

 太い眉を下げて悲しんでみせる鴻上の反応を無視して、伊達は画面越しに詰め寄った。

「あれ、()()()()()()お礼だったんだ? いくら子孫だからってなんで、王様を倒したことに対して会長がお礼するんだ?」

 

 ――そう、引っかかっていたのは、そこだった。

 あまりにさりげない感じが過ぎて、かすかな違和感だけ覚えるだけでついつい流してしまっていたが。

 その言い方はまるで、自分たちのしでかした不始末(こと)に対応してくれたことに向けての感謝のようではないか、と。

 

 しばし目と口を閉ざしていた鴻上会長は

『伊達君』

 とおもむろに名を呼んだ。

「ん?」と伊達が眉を持ち上げると、感心しきったような態度で、

『いや、さすがだよ! 医者だけではなく、探偵役もサマになってるじゃないか』

 彼をそう讃えた。

 伊達は歯を見せて笑い、

「まぁー俺らもさ。会長とは長い付き合いだから」

『ハハハハハ!!』

「ははははは!」

 と応じて見せる。

 そして鴻上はいつもと変わらない様子で豪快に笑い声を立て、伊達もそれにつられた。

 

 ――付き合いは、長い。

 そんな見え透いた韜晦(ごまかし)など、一瞬で看破してしまえる程度には。

 

 次の瞬間、伊達は会長の眼前のテーブルに握り拳を叩きつけ、一同は会長を睨みつける。

 そして『またもや元凶の一人』はビクリと肩を震わせ瞠目し、その身を委縮させたのだった。

 

 ~~~

 

「はぁっ、はぁっ……はっ!」

 どこを通って逃れたものか。いつの間にか、映司は河原に突っ伏していた。

 砂利をつかみ、やっとのことで起き上がる。

 決死の抵抗により、自分の奥深くへと、表出していたゴーダを押し遣ることには成功していた。

 

 だが、それも時間の問題だった。

 もはや、ゴーダは映司を肉体の共有者とは考えてはいない。後藤たちへの攻撃を妨げたことで、明確な敵として認識しているはずだ。

 

 そして、予感する。

 程なくして、逆襲が始まる。明確な排除の意思によって。

 その時こそ、映司の人格の方が淘汰されるのだと。

 

 朦朧とする意識の中、絶望の淵、映司は顔を上げた。

 そして、目を見開いた。

 対岸に、細い人影が伸びている。

 右腕だけが鋭く異形化した、青年の姿で。

 

「アンク……!?」

 

 身を起こし、思わず川面に足を突っ込もうとする映司だったが、踏み止まった。

 

「なんて、訳ないよな」

 これは、弱った己が好き勝手に見ている幻だと悟る。

 

 前にも、弱った時に同じことがあった。

 あの時……アンクがもう一人の自分に取り込まれ、己がグリードになりつつあった時も、河岸で、アンクの幻影を視た。

 満たされることのない五感で世界を感じ、アンクが今まで秘めていた苦しみや葛藤を一端なりとも共有することができた。

 

 だが、今は真逆だ。映司の方こそがもう一人に喰われかけ、アンクはグリードに戻った。

 

「分かってるんだ。お前が、俺のところに帰ってくるはずなんてないって。憎まれて当然だって」

 幻と承知で、映司はアンクへ語りかける。

 

「でもだからこそ、お前に頼みたいんだ……俺の身体は、もうすぐ俺のものじゃ無くなる……もしその時、『俺』が皆を傷つけるようなことがあるのなら」

 幻だからこそ、虫の良い願いを、彼に託す。

 

「お前が、終わらせてくれ」

 と。

「見返りに、空いた俺の身体は、お前にやるから」

 他でもない、友や敵の一言では片付けられないが、運命を共にした相手であればこそ。

 

「それでその時には……比奈ちゃん達の下へ、帰ってきてくれない? いつかの明日は、お前が生きてくれ」

 そう言い終えてから、映司は苦笑する。

 

「……なんて、幻に言ってもしょうがないよな」

 そして当てもないままに、川沿いに歩き始める。

 

 『幻』は、彼が去った後もその場に残り、遠のいていく背を横目で見送った。

 そして、天を仰いで深く息を吐いて、苦渋の面持ちで、己もまたその場から踵を返したのだった。

 

 ~~~

 

 そのまま映司が河川敷に行き着いた時だった。

 

〈サーチホーク!〉

 小さな影が、彼の行く手を横切った。

 それは意匠がどことなくカンドロイドに似てこそいるが、形状が異なっている。円柱ではなく、真円をベースに、紅い翼を生やしたロボット。

 

 それは映司を遮るように飛び回ると、土手の上に居るスーツ姿の女性の手に飛び移る。そして上に向けたの掌の中で、腕時計のような形状に畳まれた。

 

「タカウォッチロイド。我が財団を含めたグループで共同開発が進められている、サポートメカの試作品です」

 フラットかつ事務的な調子で端的に説明するビジネスウーマン――里中の後ろから、もう数人分の姿が現れた。

 

「火野さん見つけましたので、お先に失礼します。時間外手当もよろしく」

 と、その内の一人、後藤にデバイスを手渡しながら彼女は言った。

「公務員に言うな。請求なら会長にしろ」

 と、元の上司に苦言を呈すも無視される。何の未練も無さげにその場を去っていく里中に、

 

「いや~、里中ちゃん平常運転過ぎない?」

 などと伊達が呆れを通り越してむしろ感心したように嘆を発し、

「多分、世界が滅ぶ前日でもあの調子ですよ、あいつ」

 などと後藤が本気か冗談か分からない調子で返す。

 

 そして、一同あらためて火野と向かい合った。

 だが、各々の表情は、再会の喜びや無事に対しての安堵とは程遠く、その様子で映司は察した。

 ――彼らが、すべて承知のうえでここに来たのだ、と。

 

「火野」

 集団から抜け出て、伊達が大股で映司に近寄ってくる。名を呼ぶ声は、先程と打って変わって、低く硬い。

 そして、映司に向けて大きく拳を振り上げた。

 

 が――それに先んじて、押しのけ、後藤が映司の頬を殴りつけた。

「え、あれ? 後藤ちゃんがやるの?」

 と目を丸くしながらそろそろと腕を下ろす伊達を、後藤は溜息交じりに見遣った。

「医者が病人殴っちゃまずいでしょ」

 と返しつつ、その場に力なくへたり込んでいる映司を見下した。

 

「そういうわけで、俺が皆に代わって殴った……そうされるだけの心当たりは、あるよな?」

 断定に近い圧をかけて、後藤は映司を問い質す。

 

「鴻上さんから、聞いたんですね」

 冷たい沈黙が、その確認に対する返答だった。

 項垂れるようにして、映司は頷く。

 

 心当たり、などというものではない。

 むしろ後藤の鉄拳は、最大限の温情にも等しかった。

 本当なら、それは殺されても文句は言えないほどの、大罪なのだから。

 

 

 

「はい――古代の王、そして他のグリードを蘇らせてしまったのは……俺です」

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