入学式。
それはここ、日本においては4月に行われる入学者を迎えるための学校行事。基本的にどの学校でも4月初旬に行われるこの式典は、清翔学園でも例外では無い。
だがスポーツ名門校である清翔の入学式───正確には入学式の直後だが───は少々特殊だ。
本来、入学式の後はHRであり、そのまま放課後という流れが一般的だ。
しかし清翔の場合は入学式の後に部活動生による部活動紹介が行われる。数多の部活動で結果を残し続ける名門校ならではの伝統行事である。
「1年生の皆さん、おまたせしました。これより、部活代表による入部説明会を始めます。私はこの説明会の司会を務めます、生徒会書記の椿です。よろしくお願いします」
生徒会書記の二年生、椿の挨拶の下、体育館の舞台上にズラっと各部の代表者が並ぶ。屈強そうな運動部の先輩から、綺麗に着物を着こなした女子、楽器を担いだ生徒など、様々。
順番に各部代表が自己紹介と所属している部活の説明を始めるが、ここはさすがの強豪校。
野球部のレギュラー投手陣がライジングキャノンやマリンボール、クレッセントムーンといった魔球を投げたり、バレー部がマイナステンポの変人速攻を披露したり、映像研究部がホログラムで演説して技術力の高さを見せつけたりと、各々の部活がまだ部活を決めかねている有望株に狙いを定めてアピールしていく。
最も、蒼斗からすればほとんど聞く意味が無いのでその大半を聞き流しているが。
(そろそろ行くか)
ちょうど最後の部活の説明が終わったタイミング。この瞬間を待ってましたと言わんばかりに、ズカズカと舞台上に殴り込みに行く蒼斗。
突然の乱入者に、館内は騒然とする。
『以上をもちまして、部活動説明会を……って、天翔くん!?ちょ、なんでここに!?』
「大々的に宣伝できるチャンスなんでね、流石にこれを見逃す訳にはいかないでしょ」
『だからといってなんで乱入するんですか!バカなんですか!いいえどうしようもないバカなんですね!』
「いや俺、入試で自己採点ですけど全教科90点くらい取ってるんすけど」
『高っ!?意外と勉強できるんだ……じゃなくて!貴方1年生でしょ!? 会長もなんとか言ってくださいよ!』
「構わん。俺が許可する」
『会長!?』
「会長からも許可を貰えたし、んじゃ遠慮なく」
椿からマイクを掻っ攫った蒼斗が壇上に立つ。
途端、彼の纏う空気が変わる。
不敵な笑みで生徒全員を見渡すその様から放たれる、人を惹きつけて離さないオーラ。
そんな彼は一度咳払いをして声を整えると、マイクをオンにしてよく通る声で口を開く。
『あー、俺は清翔にサッカー部を設立しようとしている天翔蒼斗だ』
肌を突き刺すような緊張感溢れる空気。この広い体育館にいる500人を超える新入生達をたった1人で黙らせてしまう。
蒼斗が放つ場を支配する気配が、より一層重たいものへと変わっていく。
『ここにいる奴らのほとんどは、もう既に入部する部活を決めているだろう。清翔はあらゆる競技の強豪校だ。夢を叶えるために、野望を成し遂げるために、この学校を選んだ人は多いはずだ』
清翔学園は昨年の大会で野球部、水泳部、女子バスケットボール部、男子バレー部、卓球部が全国大会出場。それ以外の部活動も、運動部なら最低でも県大会ベスト8以内。文化部は何かしらの賞を取っている。そして空手部は団体戦、個人戦共に優勝。ほぼ全ての部活が結果を残していると生徒会長は言った。
県内有数の強豪校。そんな学校に目標を持って入学してきた1年生は多い。蒼斗もその1人だから。
『だがこの中にも入るはずだ。まだ部活を決めきれていない、迷いのある新入生が。そんな奴らは是非聞いてくれ』
目標を持たないでただ清翔に入学してきた者、目的とする部活がなかった者、いざ部活を始めようにも何にするか迷っている者、様々な人達の視線が蒼斗に集中した。
天翔蒼斗という存在に興味を持った──否、持たされた。
『俺には野望がある。ゼロからチームを作りあげて、桐皇も琉居寺も横浜名鳳も、木戸川も帝国も雷門も、全部ぶっ倒して
ゼロからチームを作って日本一になる。あまりにも無謀すぎる野望。
叶えられる確率はとてつもなく、現実的にはほぼ不可能。
だが、この場に彼の野望を嘲笑う者が出ることはない。
『だがそのためには、そこの会長が組んだ練習試合で結果を残さなければならない。その試合をするためには、人数を揃える必要がある。だが試合をするにはあと10人は必要だ』
ふと生徒会長と目が合う。微動だにせず、試しているような、見定めるような面持ちで蒼斗を見つめている。
そんな会長を見て蒼斗は微かな笑みを浮かべ、最後の仕上げに入る。
『実力も経歴も関係ない! 本気で日本一を目指す気があるなら女子でも初心者でも歓迎する!経験者もだ!独学だとか弱小クラブ出身だとかは関係ない! 俺と共に伝説に挑みたい奴は是非来てほしい!!』
そして一呼吸置き、獰猛に笑いながら、最後にこう告げた。
『さあ、
天翔蒼斗という
だが、天翔蒼斗のこの演説が、どの部活よりも印象に残ったのも、また事実。
この演説が功を奏すかどうかは、まだ誰も分からない。