逆襲の戦艦長門   作:佐藤特佐

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撃ちます。


第三話 主砲の威力を見よ!

 

 

 

 海を切り裂き、白波を立てて進む戦艦長門。巨大な主砲が掲げられ、今にも火を噴かんとしている。

 

 敵艦隊との距離2万5千メートル。遂に戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「交互打ち方用意!」

 

 砲術長(暫定)の舞鶴の指示を受け、各砲塔は最終チェックを完了した。発射用意良しのボタンを押す。これで各砲塔の準備が整った。

 いつでも撃てる。

 

 

 しかし、彼女は唐突な不安に襲われた。当たり前だろう。この艦の運命がかかっていると言っても過言では無いのだから。

 何か指示を貰おうと、舞鶴は伝声管で戦闘指揮所に呼びかける。

 

「艦長、指揮官…。」

 

「頼みますよ。」「やってやれ!」

 

 瀬内と俺は迷わずそう答えた。ここまで来たからには彼女を信じるしかない。それに…上官の俺に尻込みせず淡々と意見を述べていたのだ、肝は座ってるんだろうから心配などいらない。そう信じられる。

 管の向こう側で「はい」と小さく聞こえた、気がした。

 

 

 

 そして直後。

 

「打ち方はじめ!」

 

 

ッッドォォーーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

 

 主砲・41センチ砲が火を噴いた。弾種・零式通常弾。各砲塔から1門ずつ計4発の斉射。甲板には爆炎が立ち込め、衝撃波と轟音が一帯を支配する。艦橋の中にいても感じるその衝撃を、俺は壁に掴まってやり過ごした。煙が晴れる頃には射撃した砲身が垂れ下がり、次弾装填に備えている。

 

 

 一方、発射された砲弾は空気を切り裂き、遥か彼方の敵艦隊めがけて飛翔していた。アナログの旧式装置での計算とは言え、長門の砲撃はかなりの精度を持っている。弾道を描いて降下を開始した砲弾群。雲を抜けた先に敵艦隊が見えてきた。

 長門が照準を定めたのは単縦陣で接近してくる敵艦隊の先頭艦・ズムウォルト級駆逐艦。4発の砲弾が襲いかかった。

 

 

 双眼鏡の先で、ズムウォルト級駆逐艦を取り囲むように水柱が立ち昇るのが見えた。隣で同じく着弾観測をしていた瀬内が興奮気味に言う。

 

「初弾で夾叉…!いけます!」

 

 

 「なぜ命中していないのに喜んでいるのか?」と思う人もいるだろう。しかしこれは喜ぶべき状況なのだ。

 そもそも、戦艦の射撃なんて滅多に当たらない。風や大気の状況、波の影響、さらには砲身の消耗や地球の自転なども影響してくるからだ。実戦での命中率は数%と言われている。

 

 低い命中率を補うために戦艦が採用した方法。それは「とりあえず計算通りの方向に撃ってみて着弾観測、ずれた分を再調整してまた撃ってみる…」というもの。

 具体的には、砲弾が落下する可能性の高い予想範囲”散布界”の中に敵艦を捉え続ける。それさえ出来ればあとは確率の問題だ。敵が散布界の中にいればいずれ命中するだろう。

 だが、お察しの通りこれもまた難しい。

 

 しかし今、一斉射で敵艦を散布界の中に捉えることができた。幸先が良い。つまりこの調子で撃てば良いのだ!

 

 

「照準修正完了!」

 

 照準担当の隊員が報告するのと同時に、舞鶴は叫んだ。

 

「第二射、撃てぇ‼︎」

 

 

ッッドォォーーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

 

 再び発砲!紅の炎が海面に反射するが、その光は直ぐに煙に遮られる。発射の黒煙から飛び出した第二射の4発は天に突き上がって行った。

 数キロメートルの高さまで上昇した砲弾は、やがて降下に転じる。行手には先ほどの駆逐艦。1000キログラムを超える鉄の弾が激突する衝撃は相当なものだ。

 

 

「弾着……今!」

 

 

ッバァーーーーン‼︎‼︎

 

 

 双眼鏡の先で真っ赤な火柱が上がった。……命中した!

 

 

 1発の砲弾がズムウォルト級駆逐艦の艦体中央に命中。着弾とほぼ同時に起爆し、無数に弾け飛んだ鉄の破片が艦をズタズタに引き裂いた。直後、炸裂の衝撃波と火炎が艦を包む。猛火に飲み込まれ、駆逐艦のミサイル格納庫に引火、弾薬類が大爆発を起こした!

 この間1秒。内部から破壊され、駆逐艦は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「命中!敵艦轟沈‼︎」

 

 良し!と拳を振り上げる瀬内。この時ばかりは俺も一緒に大喜びしてしまった。敵艦轟沈の知らせは上層階の射撃指揮所にも届いたようで、伝声管の向こうから歓声が聞こえてきた。

 そうなって当然だ。やっと敵に一矢報いたのだから。しかし俺たちの最終目的は”一矢報いる”ことではない。生きて、日本に帰ることだ。

 

 皆もそれを理解していたらしく、すぐさま後続艦への攻撃準備に取り掛かった。

 

 

 

 俺は瀬内の肩を叩く。

 

「やるじゃないか艦長。」

 

「優秀な隊員たちのおかげです。」

 

 そう言って彼は微笑む。地味でパッとしない奴だな、なんて思っていたが、仲間を大事にして出しゃばらないことの裏返しだったか。良い奴じゃねぇか。こういう仲間、欲しかったんだよな。

 

 

「次の目標、敵艦隊旗艦と思われる巡洋艦。距離2万2千!」

 

「攻撃開始!」

 

 

 

 

 長門の主砲が次々と発射。その度に薬莢の爆炎が噴き出し、周囲の大気が揺れる。唸りをあげて飛び出した砲弾群は数十秒の飛翔の後、20キロ先の海面に突き刺さるのだ。

 

 タイコンデロガ級巡洋艦の周囲に水柱が上がる。至近距離に砲弾が落下し炸裂、水飛沫が降りかかると同時に、破片が艦体の一部を傷つけた。一方、巡洋艦側の主砲はまだ射程距離に入らない。長門の一方的なアウトレンジ攻撃に手も足も出ない……かに思える。

 

 しかし一方、長門の主砲もなかなか当たらない。先ほども説明した通りだが、命中は確率ゲームなのだ。

 

 俺は焦りを募らせた。

 いくら戦艦といえど敵の接近を許せばタダでは済まないかもしれない。近距離からなら無誘導のミサイルや魚雷を当てられるかもしれないし、装填速度で勝る速射砲をたくさん撃ち込まれれば無傷では居られないだろう。

 早いところ勝負をつけなければ…。

 

 

 そのまま互いに有効打を出せないまま、両者の距離が17キロまで接近した時、瀬内は俺に尋ねてきた。

 

「副砲使えますか?」

 

 戦艦長門の副砲…50口径三年式14センチ砲。射程距離は19キロだからもう撃てる。しかし問題は副砲を撃つ人が居るかどうか。

 

「手数は多い方が良いな。自衛官で砲の扱いに長ける人員を探してみよう。」

 

 

 艦内放送の甲斐あって、副砲を撃てそうな人員が多少集まった。漂流していた自衛官たちを救助していたため、その中に砲雷科の隊員もいたのだ。

 彼らを総動員し、研究者からの簡単な説明を受けたあと、右舷側の副砲による射撃が始まった。

 

 

ダダダダダダッ‼︎‼︎

 

 

 各副砲が一斉に火を噴く。主砲に比べれば小型とはいえ、それでも14センチ砲……現代の戦闘艦の主砲並みのサイズはある。打撃力は確実にアップした。

 さらにこの砲は信頼性が高いとして有名だ。長門型・伊勢型の副砲以外にも、巡洋艦の主砲、また硫黄島などでは要塞砲として活躍した。日本人に扱いやすい設計とそれ故の射撃速度は、ここでも役立つこととなる。

 

 

 連射性能を活かし、次々と放たれる砲弾。タイコンデロガ級巡洋艦の周囲に水柱が上がり、至近弾を多数叩き込んだ。

 数斉射目で敵巡洋艦に命中。敵艦は大きく揺さぶられ煙を吐き出した。そして…やがて目に見えてわかる、速度が遅くなった!

 

 

 巡洋艦は反撃とばかりに主砲を旋回させ、こちらに照準を定める。ーー敵が撃ってくる!それを確認した俺は即座に伝声管に叫ぶ。

 

「総員、衝撃に備えよー!」

 

 

 装甲の薄い部分……例えば副砲付近……にいる者は一旦退避する。

 

 敵艦の主砲が閃光を放った直後、長門が鈍く揺れた。ーー被弾した!

 

 が、それだけだった。戦艦長門の重装甲は十数センチの砲弾など易々と弾き返す能力を持っている。仮想敵は諸外国の超弩級戦艦…40センチクラスの主砲を持った艦だったのだから、こんな攻撃は効かなくて当然だ。

 

 

 巡洋艦は主砲を連射しなんとか有効打を得ようとしているが、そんなの無駄だ。艦橋の付け根にも被弾するが、小さく火花が散っただけで損害は無い。これなら大丈夫そうだ。

 瀬内が射撃指揮所に声をかけると、ちょうど主砲を発砲するところだったらしい。

 

「撃てぇ‼︎」

 

 舞鶴の声と同時に引き金が引かれ、鉄の塊が撃ち出された。火薬と必殺の信念を内蔵した弾は一瞬で敵艦に詰め寄る。速力が圧倒的に低下し、敵はもう何もすることができなかった。

 

 

ッッドッガァァァン‼︎‼︎‼︎

 

 

 全弾命中!巡洋艦は閃光に包まれ燃え上がった。各所で爆発が伝染し、原型を留めないほどに艦は四散する。わずか数十秒後には海上に艦影は無く、ただただ黒煙だけが敵艦が存在していた事実を物語っていた。それはまるで線香の煙ようにたなびいていた…。

 

 

 

 

 そこからはワンサイドゲームだった。旗艦を失ったことで形勢不利と判断したのか、機械艦隊の残り2隻の駆逐艦は反転、逃亡した。だがタダで逃すなんてことはしない。長門は逃げる敵艦に向けて砲撃を敢行。

 弾種・三式弾。炸裂と同時に無数の子弾を撒き散らすこの砲弾が敵の直上で爆発し、敵艦隊の一帯に炎の雨が降り注いだ。艦に火の手が上がる。火の玉を浴びて、海上を漂う松明と化した一隻は真っ黒焦げになって沈黙、もう一隻は火を付けたまま水平線の先に逃走して行った。

 

 これにて初戦は長門の圧勝で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 ひとまず戦いを終え、安堵に包まれる戦闘指揮所。主砲が旋回し、定位置に戻っていくのを見守りながら、俺は深く息を吐いた。

 

 エレベーターのドアが開き射撃指揮所に居た面々が帰ってきた。拍手で出迎える。

 先頭で入ってきた舞鶴が俺と瀬内の前にやってきた。そして深々と頭を下げる。

 

「ありがとうございました。」

 

「いや、舞鶴二尉の指揮が良かったんだ。お疲れさん。」

 

 そう返すと、彼女の表情が少し緩んだ。やっぱり認められて嬉しいのは皆同じなんだろうな。

 舞鶴は顔を上げると、俺の隣に立っている瀬内を小突いた。

 

「でも、1番頑張ったのは艦長ですね。」

 

「あぁ。よく戦っていたな。」

 

 俺と舞鶴に褒められたのが相当嬉しかったのか、想定外だったのか、瀬内は恥ずかしそうに照れ笑いする。こいつも良い顔してるじゃねぇか。

 

「お疲れ様でした艦長。」

 

 彼女は瀬内の肩を叩いて歩き出す。びっくりすると同時に赤面し狼狽える瀬内を残してエレベーターへ。「砲塔の具合確認してきます」と言い残して出て行こうと…。

 

「あっ、じゃあ僕も……。」

 

「え艦長も?迷子にならないで下さいよ?」

 

「馬鹿にしないでくださいよ。」

 

 言い合いながら小走りで追いかけて行く瀬内。隣を通り過ぎて行った彼の顔は、今まで見たことないくらいに生き生きしていた。

 

「指揮は俺が執っておくから、ちょっと休んでおきな。」

 

 そう言って見送ると、瀬内は深くお辞儀をしてエレベーターに乗った。アイツは形だけの艦長だから大丈夫だ。それよりもアイツにとって大事なことがあるんだから…。

 

 2人はエレベーターに乗って下階に降りて行った。先ほどの戦いについて色々と議論している騒がしい中、俺は話し合いに参加せず、扉が閉まったエレベーターの方を眺めていた。

 

「……バレバレなんだよなぁ。まぁ頑張れよ瀬内くん。」

 

 

 




第四話に続く。
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