逆襲の戦艦長門   作:佐藤特佐

4 / 9
前半はラブコメ、後半はシリアスです。


第四話 水面下の衝撃

 

 

 

 

 やがて艦橋にも夕陽が差し込んできた。知らぬ間に日が傾き、空は橙色に染まっていた。話し合いは終了し、戦闘指揮所に居るのは外を見張っている3人の隊員と俺だけになった。静かな時間が流れていく。

 風を浴びたい気分になったので、艦橋の下層の吹き曝しの部分…羅針艦橋の上部デッキ…に行きたいと思った。見張りの隊員に「何かあったらデッキに来てくれ、日暮には戻る」と言い残し、戦闘指揮所を後にする。

 

 

 

 潮風が心地よい。昼間の戦場が嘘のように、波の音だけが聞こえる優雅な大海原が広がっていた。空を見上げると一番星が輝いている。

 

 ……そういえば、ガキの頃乗ったフェリーでこういう光景を見て、それで船乗りになろうと決めたんだった。

 俺はあの頃から船が、海が好きだった。この美しさを守るために海上自衛隊に入った。その決意が今試されているんだ。

 

「絶対に諦めないぜ。」

 

 今にも水平線にくっつこうとしている真っ赤な太陽に向かって、俺はそう誓った。

 

 

 

 

 

 声が聞こえた気がして、ふと下を見る。2番主砲塔の上に並んで座っている奴らが居た。そんなとこ登るな危ねぇぞ、と声をかけようとしたが、目を凝らして誰か確認して、止めた。

 

 2人は瀬内と舞鶴だった。二連装41センチ砲塔の上で夕陽を眺めるなんて、なかなかロマンチックじゃねぇか。

 

 

 

「綺麗ですね〜。」

 

「こんな非常時に夕陽眺めるなんて、これだから艦長は…。」

 

 なかなか辛辣な舞鶴に、傍観者の俺は苦笑する。やっぱり舞鶴は瀬内の気持ちに気づいていないらしい。

 何て返せば良いか分からずオロオロしている瀬内がさらに面白い。

 恋愛音痴同士の馴れ初めラブコメか……これを楽しめるのは気楽な傍観者の特権だ!

 

 ……とここまで考えて気づいた。俺、相当悪趣味じゃね⁉︎同じ艦に乗ってる仲間の交流を(意図的でないにしても)覗き見して…。

 もう艦内に引っ込んでそっとしておいてやろう…とは思うのだが、どうしても続きが気になってしまう。

 

 

 

 日が沈み始め辺りが闇に包まれだした。甲板も見えづらくなり、2人の様子もはっきり見えない。しかし声だけは波の音を背景にしっかり聴こえる。

 

 

 

 

「艦長…?ちょっ手が……」

 

 アイツ手ぇ繋ごうってのか。ひゅ〜〜かなり攻めたことするじゃないか。

 

「……瀬内さん?熱あるんですか?」

 

「いや…そのっ!舞鶴さん…!」

 

 

 お、いよいよ告白タイムか⁉︎

 空は暗さが増してきて、うっすらとしたオレンジ色と黒のグラデーションが美しさを醸し出している。そして星がちらほらと輝きを強めていた。

 

 言うなら今だぞ、瀬内ぃ!

 

 応援しているこっちまでドキドキしてきた。敵艦に砲弾をぶっ放した時よりも鼓動が速い。アイツの鼓動はもっと…CIWSの射撃速度くらい速いんだろうな。頑張れ。憧れの人のハートを徹甲弾で貫いてやれ!

 

 

 うっすらと影が見える。主砲塔の上で向かい合う2人…緊張でガクガクの瀬内と、意味がわからず突っ立っている舞鶴。

 意を決した瀬内が遂に…。

 

「その!あああなたのことが……」

 

「?」

 

 

 いやまだ分かんないのかよ察してやれよ舞鶴さん!

 

 

「ええと、僕は舞鶴さんのことが……」

 

 

 

 

ーーーーッドォォン‼︎‼︎‼︎

 

 

 突如、爆発音と凄まじい衝撃が艦を襲う!激しく揺さぶられた俺は手すりに掴まって何とか耐えた。壁伝いに立ち上がって下の2人を確認すると、案の定、2人揃って主砲塔から落っこちて甲板の上で伸びているではないか。

 

 

「2人とも大丈夫かー⁉︎」

 

 思わずそう叫んで、ハッと口を押さえた。やっべ、見てたことバレちゃうじゃん。

 

「えっ、あっ、山城さん⁉︎」

 

 上から見ている俺に気づいた瀬内は明らかに動揺していた。あたふたし過ぎてちょっと面白い。……いや、ごめんね。

 何か言葉をかけてやろうと思って思案するが、なかなか思い浮かばなかった。

 

 

「山城指揮官!」

 

 後ろから声をかけられた。振り返ると、先ほど見張りを託した隊員が息を切らして報告してくる。その内容は俺に危機感を抱かせるのに十分だった。

 

「左舷に1本被雷しました!敵の魚雷と思われます!」

 

「魚雷だと…⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 魚雷。それは戦艦が最も恐れる兵器だ。

 水面下を静かに移動し、接近に気がついた時には戦艦の機動力では回避できない。喫水線下を狙われるため、浸水の危険性が大きい…などなど、脅威的な特徴だらけだ。

 

 潮流の影響を受けやすいため当たりずらいといった欠点を加味しても、十分な脅威となり得るだろう。

 しかも発見しづらく、それ故に回避も難しくなる夜間での攻撃……。なかなか殺意が高い。

 

 

 

 被雷した左舷艦首付近に亀裂が入った。押し込んでくる水圧に耐えきれず、亀裂は一気に増大し決壊。海水が流れ込んできた。

 水は瞬く間に床を覆い尽くし、どんどん水位を上げていく。付近から退却した隊員が頑丈な防水扉を閉めようとする。鈍い音を立てて重い扉が閉まった。バルブを回して完全に閉鎖する。

 

「左舷艦首付近に浸水を確認。」

「隔壁を閉鎖、これ以上の浸水は食い止められそうです。」

 

 幸い、浸水は僅かで済んだ。航行に支障はない。

 しかし魚雷が当たったということは、我々は既にどこかから狙われているという事に他ならない。魚雷を主兵装とする艦といったら、駆逐艦か潜水艦か。特に後者なら、戦艦では歯が立たないだろう。

 

 何か映っているかもしれないと電探を確認させるが、何も発見できないと言う。所詮100年前の旧式装備だから仕方ないが、これに映らないとなると……駆逐艦だとしたらステルス艦だと思われる。

 外は真っ暗で何も見えない。この夜闇の中のどこかに敵が潜んでいるのだ。俺は無意識にその闇を睨みつけた。

 

 

 

 

「ーーっとすいませ〜ん。」

 

 瀬内と舞鶴が帰ってきた。平然としている舞鶴とは反対に(多分瀬内の好意にまだ気づいてないんだと思う)、瀬内はあからさまに俺に目線を合わせないようにしている。そりゃ気まずくなって当然だよな。

 しかし今は非常時だ。曲がりなりにも艦長である瀬内には働いてもらわねばならん。

 

「瀬内。俺たちは一方的に敵に捕捉され、魚雷攻撃を受けているらしい。どうする?」

 

 すると彼は思いのほか迷わず答えた。

 

「進路変更。船速上げ、取り舵いっぱい。」

 

 速度を変化させて魚雷を狙いにくくすると同時に、敵がいるであろう左側(先ほどの魚雷は左舷に当たったからそっち側に敵が居るのだろう)に艦首を向ける事で魚雷の航跡と艦体を平行にし、被雷する確率を減らそうとしている…。これは魚雷回避の基本行動。それをわかっているとは、こいつなかなかやるじゃないか。

 しかし敵の位置はいまだに分からないままだ。このままでは敵は暗闇に隠れてこちらが沈むまで魚雷を撃ち続けてくるだろう。敵艦を探すべきではないか?

 

 

「探照灯を使って魚雷の航跡と敵艦の位置を確認しよう。」

 

 しかし俺の提案は彼に一蹴された。

 

「ダメです。それでは自艦の位置を敵艦に露見する事になります。的になるだけです。

 

「しかし、敵はおそらく暗視装置か何かでこちらの動向を見ている。探照灯付けたって同じ…」

 

 すると瀬内はイタズラを仕掛ける子供のようにニヤリと笑い、俺の方に目を遣った。

 

「探照灯を使わずに敵も魚雷も見つけるんですよ。それで返り討ちにしちゃいましょ。」

 

 

 この真っ暗な海のど真ん中で探照灯を使わずに……⁉︎

 外はもう真っ暗だった。波の音だけが支配する闇には、本能的な不気味さや恐怖すら覚える。

 

 

「総員、海上の監視に努めよ。」

 

 瀬内の指示に、皆はゴクリと唾を飲んだ。自分たちの目が、戦艦長門と自分たちの運命を左右する。見逃しは許されない。

 

 

 艦内は静まり返った。少しでも多くの情報を得るため、必死に外を監視し、耳を澄ませて。その沈黙は緊張感として彼らにのしかかっていった…。

 




第五話に続く
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