逆襲の戦艦長門   作:佐藤特佐

6 / 9
第六話 旭日の反撃

 

 

ッドォォン‼︎‼︎

 

 

 副砲の炎が暗闇を照らす。真っ暗な闇に浮かび上がる爆炎が、射撃の瞬間に噴き出した。重量38キログラムの砲弾が一斉に飛び出し、2000メートル先にいるであろうまだ見ぬ敵艦を狙う。

 

 着弾までは約3秒。この間、砲手は勿論のこと、俺たちも含めた艦橋の面々、見張り、主砲射撃要員、その他の隊員たちまで、皆の願いが一つになる。

 

 当たれ。

 

 

 俺と瀬内も艦橋の窓から敵艦の居る方向を注視する。祈るように手を合わせて、暗闇に目を凝らす。果たして……。

 

 次の瞬間、水上に火柱が上がった。

 ーーー当たった!

 

「命中、敵大破!」

 

 俺も自前の双眼鏡で燃える敵艦を視認する。双眼鏡の先に見えた。炎のおかげで見えるようになった。

 敵艦は艦上構造物に被弾したようで、艦橋や煙突は吹き飛んでいた。ボロボロに破壊され、艦の至る所で火の手が上がっている。これは撃破と考えて間違いない。

 

 よし、次だ。

 

「主砲、目標βへ攻撃開始!」

 

 

「撃てぇ!」

 

 舞鶴の指示と同時に主砲の射手が引き金を引く。同時に艦前方に装備されている1番・2番主砲が火を噴いた。発射の衝撃で艦が揺れる。衝撃波を伴って放たれた4発の零式通常弾は敵艦を目掛け一直線に……!

 

 再び訪れる沈黙。発射の余韻が辺りを支配する。

 

 3秒後、前方で爆発を確認。炎が夜空を照らす中、暗視装置を構えた隊員による戦果報告は。

 

「敵艦を撃沈!」

 

 同時に炸裂の轟音が到達。大気を震わせた。

 

 その瞬間、戦闘指揮所の全員が感情を爆発させた。ここだけではない、おそらく艦内のあちこちで歓声が沸いただろう。危機的な状況を見事に打破したのだから。

 

 

「瀬内!見事な作戦だった。」

 

「いえ、成功させたのはあなたの指揮があってのことです。」

 

 俺たちはお互いの手をギュッと握り、強く握手を交わした。周りの隊員たちは拍手で彼を称える。ちょっと恥ずかしそうだけど、奴の顔は輝いているように見えた。

 

 

 長門は敵艦の残骸を押し除け真っ暗な海を進んでいく。時折輝く夜光虫の光が、その勝利を静かに祝福しているかのようだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

静岡県浜松市

 

 

 

 真夜中の市街地に警報音が鳴り響いていた。

 

 家から漏れた光や街灯の灯りを頼りに、ゾロゾロと市民が歩いていく。真夜中の避難。彼らの表情は恐怖に固まっていた。避難者の列が永遠に続いていた。

 

 何からの避難なのか。その答えは海にあった。

 

 暗い海を進む多数の艦影。滑らかな艦影と一切の明かりをつけていない様子から、それらがただの船ではないことは明らかだろう。

 

 艦首に設置されていた四角い艦上構造物が迫り上がってくる。その中から現れたのは一本の円柱形の物体。ーー砲身だ。ステルス性能を高めるため、砲を収納できるタイプの駆逐艦だ!

 

 ズムウォルト級駆逐艦とタイコンデロガ級巡洋艦から成る機械艦隊の分遣隊。彼らの目的は、この基地を艦砲射撃で破壊することだった。

 

 艦隊は一斉に射撃を開始。闇の中を赤い閃光が突き進んでいく様子はまるで流星群のようだった。この危険な流星群は航空基地に突入していった。

 

 航空基地には多くの機体が停められていた。しかし、機械艦隊による通信・情報共有システムのダウンとハッキングによって、最新機器は使用不能。つまりこれらの機体の大半は飛行できなくなってしまっている。

 そんな状態の航空機は格好の的だった。避難者の上空を通過する一閃。次の瞬間、航空基地の敷地で爆発が起きた。砲弾が着弾したのだ。

 

 抵抗することもできず一方的に破壊されていく航空機群。格納庫にレールガンの弾が直撃し、内部の機体ごと穴を開ける。一瞬遅れて火の手が上がり、夜空を真っ赤に染め上げる。

 やがて航空燃料に引火し、あちこちで火柱が立ち始めた。もはや手のつけようがない。基地の隊員たちも逃げ惑うばかりだ。

 1分にも満たないうちに、基地は地獄絵図と化した。

 

 

 基地職員の青島 響(一等空尉)は防空壕に身を隠していた。真っ暗な壕が砲撃の振動で揺れる。彼は目を凝らして、震える手で機械を弄り始めた。

 彼が取り出したのは、電鍵……モールス信号を送信する装置。ネットも電話も使えない今、頼りになるのは無線モールス信号だけだった。どこにいるのかもわからない仲間に向け、彼は電鍵を叩き始めた……。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

『コチラ ハママツコウクウキチ。0230、テキノ カンポウシャゲキヲ ウケテイル。キュウエンヲ ヨウセイス。』

 

 

 

 

 

「味方のものと見て間違いなさそうですね。」

 

 瀬内は紙を眺めながらそう言った。先ほど偶然受信した微弱な電波通信を、モールス信号として書き出したものだ。

 

「これが本当なら、敵艦隊の本隊は間も無く日本に到達する。」

 

「我々の目的地は日本…どの道戦う以外なさそうですね。」

 

 舞鶴に相打ちしつつ、俺は思案する。果たして戦って勝ち目があるのか。今までは数隻相手だったからいいものの、本隊となれば十数隻、場合によってはもっと居るかもしれない。いくら戦艦といえど20vs1で戦うのは分が悪すぎるのでは…?

 

 

「山城さん。迷ってらっしゃるようで?」

 

 瀬内に声をかけられ、俺は顔を上げた。そりゃあそうだ。

 

 

「ここで逃げたとしても、いつかは敵に見つかり戦いになります。それで沈められるかもしれない。どちらにせよそうなるのなら……。」

 

 舞鶴の意見は珍しく感情論を含んでいるようにも思えた。だが彼女の言う通りかもしれない。

 

 

「燃料の心配もあります。1番近いのは日本ですし…。」

 

 瀬内も日本に進路をとることに賛成か。他の面々も静かに頷くだけだった。是非もないか。

 

「分かった。日本に帰ろう。明日は長い1日になるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 明朝、日の出とともに、戦艦長門は進路を北寄りにとった。速度を上げる。日本近海に集結している敵艦隊との戦いは避けられないだろう。それでも長門は最大船速で高波を掻き分け、進んでいくのだった。

 朝日に照らされた艦が美しく輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

「電探に反応なし。」

 

「うむ。」

 

 

 日本に進路をとってから2時間半ほど経ったが、未だに敵影は無し。敵艦隊は思ったより日本に近づいているのかもしれない。俺は焦りを覚えてきた。

 敵を撃滅すると決めた以上、接敵できない方が問題だ。安心して日本に帰港できないし。

 

「あーあ、敵さんどうしたのかねぇ。」

 

 俺はそんなことを呟きながら、外に目を遣った。どこまでも続く青い空……。

 

 ん?小さい何かが……。

 

 俺としたことが気づけなかった。敵にたまたま遭遇していない訳じゃなかったのだ。敵はすでに俺たちを偵察していたんだ。

 

 伝声管に叫ぶ。

 

「防空指揮所!真上に敵機だ撃ち落とせ!」

 

 

 

 小型の無人機、いわゆるドローン。比較的安価に敵を偵察したりちょっとした攻撃もできる優れもの。現代の戦争になくてはならないもの…。

 これを機械艦隊が使っていないはずがなかった。

 電波でコントロールせず飛行できる自立型ドローン数機が、こっそり戦艦長門を尾行していた。小型すぎて電探にも映らないこともあり、発見が遅れたのだ。

 

 

 見張りの隊員がドローンの姿を確認した時、ドローンは長門の真上に移動しつつあった。機体下部に何かを吊り下げながら…。

 隊員が見上げると、日光を遮る何かが…ドローンから何かが切り離された。彼は咄嗟に叫んだ。

 

 

「手榴弾だ、伏せろ!」

 

 

バーーン‼︎

 

 

 直後、長門の甲板で爆発が起きる。そう、彼の言う通り、ドローンが小型の爆発物を投下したのだ。

 

 これがドローンの1番恐ろしい部分。小型の爆弾を取り付けて敵を奇襲してくる…。もし発見が少しでも遅れていたら、甲板の誰かがやられていたかもしれない。

 

 幸い爆弾は小型の手榴弾だったため、戦艦の船体を傷つけるほどの力はない。甲板が少し焦げただけで済んだ。

 

 隊員たちはすぐさま体勢を立て直すと、防空用の機銃座に座った。

 

「堕ちろ!」

 

 

ダダダダダダッ‼︎‼︎‼︎

 

 

 ドローンの編隊に向かって銃弾が打ち込まれた。閃光弾の光がドローンを覆い囲った刹那、1機目に命中弾が複数発生。プロペラを破壊されたドローンが力無く落水していった。

 射撃を続行し、すぐに2機目にも命中。機銃弾がボディを貫き、機体は木っ端微塵になりながら海に散った。

 

 

 残りのドローンは逃げ去っていく。それを見送りながら隊員たち。汗を拭き、遠い空を見上げて…彼らは真っ青になった。

 

 青い空を埋め尽くさんばかりの大量のドローンが、こちらに向かってきていたのだから。

 

 

「これは…やばいぞ。」

 

「すぐに指揮所に通達!」

 

 

 

 長門に襲いかかる無人機の軍団。その目的は「撃沈」ではなく「乗員の殺傷」だ。無人機の兵装で戦艦を傷つけることはできないが、乗組員を攻撃して戦闘能力を減衰させることはできる。この卑劣な攻撃を実行すべく、機械の鳥たちは手榴弾を抱えて戦艦の頭上に迫ってきた。

 対する戦艦長門は艦上に無数に設置された機関銃と高角砲で迎え撃つ。機銃要員たちは危険を承知で吹き曝しの機銃座に座り、空に向かって銃をぶっ放した。

 

 空を横切る対空砲の閃光。

 

 無人機軍団に対空砲の弾幕が覆い被さる。それでも突撃をやめない無人機。恐怖心の無い機械だからこそ、彼ら(?)は決死の攻撃を止めない。いや、止めるという選択肢は無い。

 

 弾幕を潜り抜けた無人機が接近。フックが外れ、搭載している手榴弾が切り離された。

 機銃要員は咄嗟に伏せる。その10メートルほど先、甲板の上で手榴弾が炸裂した。移動目標に対して精密な攻撃をするのは難しい。それでもこの距離での攻撃はかなり危険だ。

 

 危険が去ったことを確認し、機銃要員たちは再び対空射撃を再開した。戦艦長門は四方八方に対空火器を乱射しながら進んでいく。

 

 

 

 

 艦橋の目の前にドローンが迫ってきた。機銃で撃ち漏らしたやつだ。俺と瀬内が立ち尽くす中、ドローンは狙いを定めるようにこちらを伺い…突撃してくる!

 爆弾を満載して目標に突っ込ませる自爆型無人機…いわゆる神風ドローン。これは個人的によろしくないネーミングだと思うのだが、まぁとにかくそいつが艦橋の窓のすぐそばまで迫ってきたのだ。

 

 俺も瀬内も、叫ぶことすら忘れて固まっていた。

 もし、”彼女”の行動が一瞬遅かったら、艦橋要員はみんなで爆発に巻き込まれていただろう。

 

 

 ドローンが体当たりを仕掛ける寸前のところで爆発した。真っ赤な炎が窓いっぱいに広がり、俺たちは一瞬遅れて身を屈めた。

 艦橋の中部辺りの両側に取り付けられている機銃からの弾丸、それがドローンの爆発物に命中し誘爆した…。撃ったのは舞鶴だった。

 

 機銃座を見下ろすと、舞鶴は小さくため息を吐き、またすぐに別のドローンに向けて銃撃していた。決して体格の良いわけではない彼女が大きな機銃を操っている様子を見て、俺は理解した。

 なるほどな、これは瀬内が惚れるのも無理は無いな。

 

 

 

 長門を襲うドローン部隊の数はどんどん減っていった。大部分を撃墜したのだろう。

 射撃を続けながら進む長門の先に、やがて何かが見えてくる。行手の海に点々と浮かぶ艦影。待っていたぞと言わんばかりに、多数の艦影は一直線に接近してきた。

 戦艦長門は遂に敵の主力艦隊に遭遇したのだ…!

 

 

 

 

 




第七話に続く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。