逆襲の戦艦長門   作:佐藤特佐

9 / 9
最終回です。


第九話 太平洋の覇者

 

 

 

 二日間に及んだ戦いを終え、ようやく帰路に戻った戦艦長門。装甲には無数の被弾痕が残り、艦橋もマストも前部主砲2基も、無惨にひしゃげていた。それでも航行に支障はない。ただ故郷に帰るために、巨大戦艦は行く。

 スコールを抜けた先は、快晴の空が広がっていた。日本はもう直ぐだ。

 

 

 

 

 

 俺は見張所に出た。先ほどまでの戦いが嘘であったかのように、静かな海が延々と続いていた。海風が心地よい。

 隣には瀬内。幸い、彼の額の傷は大した事はなく、出血は止んだ。今は包帯を付けているが…なんかこの見た目がアクション映画の登場人物に出てきそうな雰囲気で面白い。

 

「で、舞鶴さんに告白すんのか?」

 

 俺の問いに、瀬内は静かに、だがはっきりと頷いた。昨日までのこいつなら頷けなかっただろうに。成長したなぁ、と思ってしまうのは親心(?)のようなものなのか。

 

「あと1時間くらいで日本に着く。それまでに言いな。」

 

「はい。」

 

 彼はそれだけ答えると、艦橋の中に帰っていった。その背中を見送りながら俺は思う。

 

 幸せになれよ、と。

 

 

 

 だが、彼らの小さな幸せすらも、奪われようとしていた。

 

 

 

 

 戦艦長門が進む先の海が盛り上がった。まるで海底火山の噴火のように。いや、もっと言えば、巨大な何かが水面に姿を現そうとしていた。

 水飛沫が噴き上がり、その中に巨大な影が立ち上がる。艦上の人々は、現れた物体のあまりに異様な姿に驚きを隠せなかった。

 

 

 軍艦島、という言葉がある。採掘場や作業員の住居が密集した姿が軍艦のように見えることから名付けられたものだが……現れたものは、まさに軍艦島だった。

 

 その見た目は、数多の艦艇を無造作に重ね合わせたようにしか見えない。長門より遥かに大きく、全長1キロメートルは軽く超えているだろう。艦橋は、扶桑型戦艦の「違法建築」なんて比ではなく、無造作に建てられたタワーのようだ。そして目を引くのが武装だ。大小様々な砲・機銃・魚雷発射管がひしめいている。乱雑に配置されたようにしか見えない。

 

「戦艦の……化け物だ…!」

 

 本当にそうとしか形容できない。

 

 ”ゴースト・バトルシップ”は完全に浮上すると、自らの復活を誇示するかのように、警笛を鳴らした。海鳥たちが一斉に逃げてゆく。そしてその巨艦が、ゆっくりと動き出した。

 

 

「何なんだアイツは!」

 

 俺も混乱していた。夢でもみているのだろうか。こんな化け物戦艦が実在してたまるか。

 しかし、こんな時でも舞鶴は冷静だった。双眼鏡を覗き込み、ゴースト・バトルシップを観察する。

 

「各部に既存の艦艇の意匠が見えます。本当に沈没した艦艇を繋ぎ合わせたとしか思えません。」

 

 俺も彼女の隣で双眼鏡を覗くと、その意味が理解できた。

 

 例えば一際目を引く三連装砲は、最大最強の艦として有名な戦艦大和の46センチ砲に酷似している。たくさん配置されている大型の連装砲は、コロラド級戦艦の40.6センチ砲っぽい。さらに、ゴースト・バトルシップの艦体にも様々な艦艇の面影がある。赤錆の隙間から、戦艦ビスマルクに施されていた迷彩柄や、米海軍の識別番号が確認できた。

 

「つまり、スクラップ戦艦の亡霊ってわけか⁉︎」

 

 

 あれは誰が動かしているのか?どうやって動いているのか?何のために浮上してきたのか?何一つ分からない。

 しかし、一つだけ確実なことは……どうやら我々の「敵」であること。証拠に各砲身がこちらを向いている。その数は数十門。

 

「やばいやばいやばいやばい!」

 

 

 

 ーー閃光!

 

 

 ゴースト・バトルシップが砲撃を開始した。標的はもちろん戦艦長門だ。容赦なく降り注ぐ砲弾の雨。長門の乗組員たちは伏せて衝撃をやり過ごすしか無い。

 

 

ッドォォン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎

 

 

 被弾した!衝撃と同時に甲板から火の手が上がる。敵の弾は装甲を貫通し、艦内部で爆発。不運にも付近に居た乗組員たちが吹き飛ばされる。

 立ち上がる暇もなく、続け様に襲ってくる揺れ。圧倒的な手数に物を言わせ、砲弾のシャワーを浴びせられては、戦艦長門といえどひとたまりもない。

 

 既に長門はほとんどの戦力を喪失している。いや、浮いているのが奇跡と言っても良い。先のモンタナ級戦艦との戦闘で兵装の大半が破壊され、艦橋や煙突も破損、タービンも出力が大幅に落ちている。こんな状態ではただの的だ。

 

 煙をたなびかせ、傾きながら進む長門に、容赦なく襲いかかる敵弾。1発、また1発と被弾し、船体はさらに破壊されてゆく。

 

 

 

「このままでは!耐えられませんっ!」

 

 叫ぶ瀬内。彼は揺れに翻弄されながらも、備え付けの双眼鏡に掴まり耐えていた。俺も壁に背を押し付けて耐える。絶えず炸裂する轟音に遮られぬよう、大声で怒鳴り返した。

 

「退艦命令を出しても、船外に出た瞬間蜂の巣だぞ!」

 

「ですが!」

 

 

 もう長門が長くは持たないことは目に見えている。瀬内もみんなもわかっているはずだ。だが、逃げ場所がない。この砲弾の雨霰の中で船外に出るなんて自殺行為である。

 では戦う?否。先ほども述べたように、ほとんどの武装は既に破壊されてもう使い物にならない。残った兵装も、今受けている総攻撃で大半はお釈迦だろう。それに弾薬も底をついた。と言うわけで、逃げることも戦うこともできない。

 

 

「1番砲塔から出火!」

「右舷からの浸水が止まりません!」

「機関、完全に停止しました…。」

 

 次々と伝えられる報告は、ただ絶望を加速させるだけだった。

 

 

 

 ゴースト・バトルシップの艦上に並んだ40センチ砲、16.5インチ砲、15インチ砲、38センチ砲……。あらゆる重火器が火を噴き、撃ち出される。砲弾は、流星のように尾を引いて長門に命中すると、一際明るい閃光をあちこちで発生させた。

 炸裂の炎と水飛沫で、長門の船体はほとんど見えない。一方ゴースト・バトルシップの方も、発射の際の煙で、その巨体が隠れかけていた。

 

 砲撃は長門を一方的に叩きのめす。やがて真っ黒い煙が青い空に立ち昇り、どす黒い墓標を形作った。その中で、長門はまるで標的艦のように、抵抗することもできず沈没を待つのみである。

 ゴースト・バトルシップは、長門が煙の中に飲まれようと、砲撃を止めない。無尽蔵の弾薬を煙の中目掛けて連射し続ける。これほどの弾幕があれば、概算の砲撃でも問題ないのだ。

 

 射撃を続ける砲の横で、魚雷発射管が旋回する。一方向に指向され、雷撃の準備は整った。

 

ボシュ‼︎‼︎

 

 魚雷が一斉発射された。その数100本以上。戦艦でも数本喰らえば轟沈、というようなモノが100本である。

 魚雷群は海面に白い航跡を残して長門に向かう。魚雷の性質故、その大半は命中しなかったものの、十数本が沈みかけた長門の艦体に命中。巨大な水飛沫が突き上がった。

 

 

 

 被雷。艦が吹き飛んだと錯覚するような大揺れに襲われ、艦橋の皆も床に倒れる。頭を打ち付け血を流す者。骨折したのか、腕を抱えて喚く者。

 俺は静かに目を瞑る。轟く炸裂音もどよめきも遠のいてゆく。

 

 

 ここまで来たのに。こんな結末でーーー。

 

 

 悔しかった。日本を目の前にして、皆で生きて帰れると思ったのに。

 俺は本日2度目の諦めを感じた。

 

 

 すまない。

 

 

 

 

 

 

 不意に、辺りが静かになった。いつの間にか死んだのかなと思ったが、違った。敵の砲撃が止まったのだ。

 

「弾幕が止んだ……何事だ⁉︎」

 

「艦長、指揮官!あれを……!」

 

 傾いた戦闘指揮所を這って進み、窓まで辿り着く。黒煙のカーテンに阻まれて外は見えない。やがて風が吹き、煙が流されたことで、外の様子が見えるようになった。

 

「あれは!」

 

 俺は驚きを隠せなかった。隣の瀬内も口を大きく開けたままだ。

 

 

 

 

 遠い海に、点々と見える艦艇。数え切れないほどの大艦隊がこちらに迫っていた。即座に双眼鏡を覗いて艦種を確認する。

 

 見えたのはーー旭日旗。海上自衛隊の護衛艦隊だ!

 

「援軍が来たぞ!海上自衛隊の大艦隊だ‼︎」

 

 思わず叫んでしまった。その声は伝声管を通して艦内全体に通達された。管の向こうで湧き立っているのが聞こえてきた。

 

 

 

ザザザ……

 

 

 無線が鳴る。

 

 

『えーー、こちら海上自衛隊の護衛艦ちょうかい!戦艦長門、聞こえているか?』

 

「こちら戦艦長門の指揮官・山城だ!助かった!」

 

 なんとか無事だということを伝えられた。これで一安心……それだけではなかった。

 事態は思わぬ方向へと進展する。無線機から次々と通信が入ってきたのだ。

 

 

『第7艦隊旗艦のブリー・リッジだ。指揮下の空母から攻撃隊を発進させた。もうしばらく耐えてくれ!』

 

『こちらドイツ海軍バーデン=ヴュルテンベルク!微力ながら助太刀します!』

 

『ロシアだ。ミサイル巡洋艦ピョートル・ヴェリキー、到着!』

 

『オーストラリア海軍のイージス艦シドニーだ。人員救助に向かう!』

 

『我、中華人民解放海軍所属の駆逐艦昆明!攻撃を援護する!』

 

 

 国籍も事情もバラバラの艦隊が、駆けつけてくれたのだ。

 

 モンタナ級戦艦に搭載されていた機械艦隊の中枢AIを破壊したことで、情報通信やデータリンクが復旧。近くで各々機械艦隊と戦っていた諸外国の艦艇が手を取り合い、助けに来てくれたらしい。

 そしてその中には”彼”の艦も居た。

 

『コンニチワ‼︎こちらアメリカ海軍のジョン・ポール・ジョーンズだ!』

 

 最初の戦いで、山城たちと一緒に機械艦隊と戦った駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズ。海上自衛隊・アメリカ海軍の多くの艦が沈んだ中、一隻だけ逃げ延びた艦……。そしてその艦長は変わらず、俺の友人・アレックスだ。

 

「アレックス艦長!遅いぞ!」

 

『山城サン!オマタセイタシマシタ!』

 

 

 

 

 多国籍艦隊は一斉に攻撃を開始した。敵はゴースト・バトルシップ。トマホーク、YJ-18、P-700グラニートといった対艦ミサイル。127mm単装速射砲、MK.45 5インチ砲などの艦砲。シクヴァル、18式魚雷、SST-4のような魚雷……。持てる分の火力を一斉に叩き込む。

 すかさずゴースト・バトルシップで爆発が巻き起こり、魚雷の命中で水柱が噴き上がった。しかし、この程度の攻撃ではビクともしていないようだ。

 

 ゴースト・バトルシップは反撃しようと、主砲をもたげる。現代の戦闘艦には戦艦のような装甲は施されていない。あんなのが当たったら文字通り木っ端微塵だ。

 今にも発射するかという、その時!

 

 

 上空から筒が落ちてきた。それらはゴースト・バトルシップの甲板に接触すると、即座に爆発!轟音と爆炎がゴースト・バトルシップの巨体を飲み込んだ。

 アメリカ海軍の艦載機の空爆。正確に誘導された爆弾は、見事全弾命中し炸裂した。これにより電気系統に異常が発生したのだろうか、敵の砲塔がいくつか沈黙。それでも残りの砲で反撃を試みる。

 

 

 閃光!

 

 

 ゴースト・バトルシップの斉射だ。砲弾のシャワーは多国籍艦隊の先頭を務めていた駆逐艦シドニーを狙ったようだが……所詮は旧式の照準装置らしいようで、1発も当たらない。

 周囲に波が立ち、大きく揺さぶられながらも、艦隊は足を止めずに進む。怯まない。

 

 しかし、多国籍艦隊もゴースト・バトルシップを撃破する有効打を持っていないのは確かだ。どうしようと言うのだろうか。

 

 艦隊の前から2隻目の艦が見えるだろうか。他の艦艇とは全く違う見た目をしているではないか。どこかで見たことのあるような……。

 ミサイル発射装置などは備えていないようだが、その代わり、巨大な艦砲を装備している。長門の41センチまではいかなくとも、現代艦の主砲よりは遥かに大きい。そしてその砲塔を両舷に有する配置法。前弩級戦艦の特徴だ。

 

 

「あれは……戦艦三笠⁉︎」

 

 そう。横須賀で記念艦として保管されているはずの三笠そのものだった!あれはコンクリートで固められているはずなのにどうして……まぁ、細かいことはこの際どうでも良い。

 

 なるほど、三笠で肉薄するのか。俺はそう理解した。

 

 ゴースト・バトルシップの艦体は戦艦のスクラップのつぎはぎで出来ている。繋ぎ目があるのだ。そして繋ぎ目は強度が弱いと期待できる。実際あの戦艦大和も装甲の繋ぎ目から浸水して沈没したらしい。

 要するに、至近距離から繋ぎ目をぶち抜く作戦ってわけだ。戦艦三笠が付いて来たのは偶然だろうが、たまたま役に立てそうだ。ラッキーだな。

 

 

 多国籍艦隊は三笠を中心に守るようにしたまま突進。ゴースト・バトルシップは第二射を発射するが、これもまた当たらない。その隙に艦隊はさらに接近し、両者の距離は5000メートルを切った。

 ここで三笠を除く艦隊が反転。同時に魚雷を斉射し、三笠の単艦突撃を援護する。三笠の両舷を魚雷が通過、直後、艦は全速力で突撃を開始した。

 

 ゴースト・バトルシップは単騎突撃してくる三笠を最優先目標に設定したようだ。大口径砲の装填中に、中小口径の武器で射撃を開始。しかし、装甲に阻まれ通用しない。前弩級戦艦といえど、その装甲は十分なもので、このようなへなちょこ弾には屈するはずがない。

 

 

 それにしても、三笠を操っている乗組員たちの度胸も大したものだ。砲弾が降り注ぐ中を敵に突進なんて、よっぽどの勇気が無けりゃできることじゃない。ゴースト・バトルシップもその気迫に押されたのか、たじたじなようにも見えた。

 

 

 ゴースト・バトルシップの第三斉射!3000メートルというかなりの近距離であったため、今度は複数の弾が三笠を捉えた。マストが折れ、装甲がひしゃげる三笠。しかしそれでも一直線に突撃を止めない。

 

 

 

「今だ!撃てっ‼︎」

 

 俺は声援を送るが……三笠の奴、なかなか主砲を撃たないな。3000メートルなら十分当てられる距離だろうに。

 

「まさか、あいつ……!」

 

 気づいてしまった。三笠には砲以上に強力な武器があることに。

 

 前弩級戦艦の時代、まだまだ砲は未発達であった。装填に時間がかかり、命中精度も良くなく、与えられるダメージも未知数……。そんな状況下で、戦艦の設計者たちは、ある武装を施すことにした。

 衝角である。

 艦首の先端の水面下に、尖った突起を取り付けたのだ。これがあれば、敵艦と至近距離での戦いになった時、衝角で体当たりして攻撃できると考えたのである。

 

 この思想の元、多くの艦艇に衝角は取り付けられたが、実戦で活躍の機会はほとんど無かった。しかし、それが今、覆されようとしている。

 

衝角攻撃(ラムアタック)か!」

 

 

 

 

 三笠は全速力のまま、ゴースト・バトルシップに体当たりを喰らわせた。

 

 

ガッシャッ‼︎‼︎‼︎‼︎

 

 

 轟音が響き渡る。果たして結果はーーー。

 

 

 ゴースト・バトルシップの主砲が旋回した。だめだ、まだ敵は動けるようだ…。そして至近距離から三笠に砲を突きつけ一気にトドメを……。

 

 否!

 あまりに至近距離すぎて、それより仰角を下げられない!三笠は偶然にも敵艦の死角に入ったわけだ。

 

 

 三笠は敵艦に突き刺さったまま、砲撃を開始。至近距離での射撃により、三笠の側にも爆風が襲いかかる。しかし、この至近距離での打撃にも、ゴール・バトルシップは耐えて見せた。

 

 仰角を下げられず攻撃ができないゴースト・バトルシップ、有効打を得られない三笠……。戦いは膠着したかに思えた。

 

 

 

 

 俺が唸り声を上げた、その時。俺に声をかける者がいた。

 

「山城さん。九一式徹甲弾、どこかの弾薬庫に残ってませんかね?」

 

 瀬内だった。彼は真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。本気なようだ。

 にしても徹甲弾……。ここまでの戦いでほとんど使ってこなかったが……たしかモンタナと戦った時、2番砲塔に装填されたままになっていたはずだ。

 

「たしか2番砲塔にあるな。だがあそこは深刻なダメージを受けていて、いつ使えなくなるか分からんぞ。」

 

「なら、すぐやるしかありません。」

 

 俺が返事をする前に、奴は駆け出した。そして走りながら言い残す。

 

「山城さん、敵艦の装甲の繋ぎ目の位置を確認してください。舞鶴さんは弾道計算を!」

 

 

 この艦の徹甲弾でトドメを刺そうってのか。やるしかないな。

 

 

 

 

 瀬内は走った。額の包帯が剥がれ落ちるのも気にせずに。傾いた艦内で何度も転んだが、それでも走り続ける。

 砲塔から避難していた砲塔要員に遭遇。瀬内は彼らを説得し、一緒に走り出す。

 

「この艦と仲間の艦を守るため、皆さんの力が必要なんです。もう一度、手を貸してくださいッ!」

 

 

 

 

 俺は双眼鏡でゴースト・バトルシップを観測する。

 見えた。三笠が突っ込んでいるあたりに装甲の繋ぎ目がある。しかも衝角攻撃の成果あってか、ヒビが入っているようにも見える。あの辺りなら、徹甲弾でぶち抜けるかもしれない。

 

「舞鶴!狙う場所は三笠の右10メートルの位置だ。計算を頼む!」

 

 

「了解!」

 

 舞鶴は紙と鉛筆をとりだし、計算を開始した。敵の攻撃に晒されて測距儀も射撃磐も破壊された今、射撃の精度を保てるのは彼女を置いて他ない。複雑な計算をこなし、答えが導き出された。

 

「瀬内さん!聞こえますか??

 

「はい!」

 

 瀬内は砲塔要員を連れて、既に2番砲塔に到着していた。先の戦いで付近に被弾したため、砲塔内部はめちゃくちゃに破壊されていた。

 

「装填装置が壊れています。既に装填されている1発しか撃てませんが……。」

 

 瀬内の話に、舞鶴は喉を鳴らした。たった1発。この1発で運命が決まる。

 彼女は拳を握りしめ、そっと計算した紙を見つめた。天候、風向き、艦の傾きまで考慮した。これで正しいはずだ。当たるはずだ。

 

 舞鶴は伝声管を通して、彼に射撃データを伝えた。そして最後にこう付け加えた。

 

「勇気を出して。」

 

 

 

 

 瀬内は砲塔要員たちと視線を交錯させる。皆が頷いた。もう、勇気を出す覚悟はできている。

 

 

「撃てッ‼︎」

 

 

 

 

 

 ッダァァァァーーーーーン‼︎‼︎

 

 

 

 2番砲塔左側の砲が火を噴いた。弾種・九一式徹甲弾。高速で回転しながら空中に飛び出した砲弾は、大気を斬り裂き、轟音を轟かせながら、敵艦に向かって飛翔した。

 やがて砲弾は慣性に従い、降下を開始。ゴースト・バトルシップの巨体が迫る。……いや。落下する先は敵艦の少し手前だ……!

 

 

 徹甲弾はゴースト・バトルシップの僅か10メートル手前の海面に落下した。ボチャンと鈍い水飛沫を立てて、砲弾が水中に没する。

 あぁ。最後の一打は虚しく空振ってしまったのか。

 

 否!

 

 徹甲弾は水中に突入した瞬間、水面と平行になるように進行方向が変更した。まるで魚雷の如く、水面下を突き進む弾丸!白い泡の航跡を残して敵艦に一直線に…。

 

 

 

 九一式徹甲弾には「水中弾効果」と呼ばれる機能が備わっている。

 

 これは平たく言えば”敵艦の手前に着水した砲弾が、水中で弾道を変え、魚雷のように水面下を走って敵艦に突き刺さる”というものである。防御の薄い喫水線下への打撃により、浸水による大ダメージ、機関や弾薬庫の破壊といった深刻な被害を与えることが期待できる。

 

 射撃試験中に偶然これに気がついた日本海軍は、極秘で水中弾効果を研究。九一式徹甲弾では、以前の砲弾に比べ、この水中弾効果がより進歩しているのだ。

 

 

 

 水面下を突き進み、徹甲弾は敵艦に突き刺さった。強度の弱い装甲の繋ぎ目で、かつ三笠の突撃を受けて弱っていた部分に……。

 その分厚い装甲が貫かれた。砲弾は敵艦内部に侵入して構造物を次々とぶち抜く。そして最も内側の防御壁に突き刺さったところで、大遅動信管が作動した。

 

 

ドォォォン

 

 

 鈍い振動が響き渡り、あたりは沈黙に包まれた。

 

 ゴースト・バトルシップは艦体のあちこちから黒煙を噴き上げた。そしてそれっきり動かない。

 

 幽霊戦艦といえど、水中弾の被害は甚大だった。砲弾の炸裂で火災が発生し、大容量の弾薬庫に引火。そこらじゅうで誘爆が起こり、手がつけられない状態になった。防御力を高めるため密閉構造にしていたのが災いして、爆発の衝撃は全て艦へのダメージとなる。

 同時に、徹甲弾で貫いた穴から浸水が発生。本来なら隔壁が閉じられるはずが、爆発の衝撃で電気系統が故障し、対処できない。切れた電線がショートし、さらなる火災を引き起こす。

 

 ゴースト・バトルシップは、内部火災を起こしながらジワジワと傾いていった。もうどうすることも出来ない。ただ沈没を待つのみだ。

 

 

 

「敵艦、完全に沈黙…!」

 

 見張り員の報告に、長門の乗組員は歓声を上げた。遥か彼方水平線まで聞こえるような大歓声を。

 無線でも、多国籍艦隊が喜びを爆発させているのが聞こえる。

 

 遂に勝ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 こうして、機械艦隊の反乱事件は幕を閉じた。激動の数日間だったが、最後は各国が手を取り合い立ち向かうことで、一応の終結を迎えることができたのだ。

 まぁ、機械艦隊を運用していた米海軍のお偉いさんたちは、これから後始末が大変になってくるだろうが。

 

 だがそんなのは知ったことではない。俺たちは死力を尽くし、戦いを生き残った。それが1番大事なことなのだから。

 

 

 そして嬉しい報告がいくつか入ってきた。

 

 戦艦長門では、1人の戦死者も出なかったと医療担当から知らせが届いたのだ。もちろん負傷者は多数おり、彼らの一刻も早い回復を願うばかりだが……これは誇るべきことである。生きて、皆を故郷に帰すという俺の…俺たちの目標が達成できた。

 

 もう一つの嬉しい知らせは、戦艦三笠についてである。なんと、勇敢な活躍を見せた三笠の艦長は、敷島二等海佐だったのだ!

 誰も彼を覚えていないだろうが…彼は戦艦長門輸送計画の際に護衛の艦で艦長をやっていて、機械艦隊に撃沈され行方不明になっていた人物である(第2話を参照されたし)。先任もちゃんと生きていたってわけだ。

 

 

 

 ボロボロになり、傾きながらも沈まない戦艦長門は、多国籍艦隊に曳航されて日本に向かう。波に揺られる甲板の上で、夕陽で赤く染まる空を見上げ、俺は笑った。

 

 帰ってきたぜ。

 

 その思いは、戦艦長門も同じだっただろう。今度こそ守るべきモノを守ることができた。長門もそう感じ、艦体に受けた傷跡のことすらも誇りに思っているはずだ。

 

 

 

 ……いい感じの雰囲気だが、忘れちゃならないことがもう一つだけある。俺の目の前に。

 

 

 瀬内と舞鶴は甲板に2人並んで遠い空を見つめていた。今回は俺は邪魔しない。遠くの後ろからそーっと見守ってやるだけにしよう。

 

 

 

「舞鶴さん、その……。」

 

 

 頑張れ瀬内。お前は機械艦隊をやっつけたんだぞ。作戦を立て、柔軟な指示を出し、戦艦一隻を守り抜いたんだ。それだけの勇気があれば、告白なんてへっちゃらだろう?

 

 

「ーーーーーーーーーーーーー」

 

 

 彼は遂に何かを告げた。波の音にかき消されて、何て言ったのかこっちまでは聞こえなかった。だが、心配する必要は無さそうだ。

 舞鶴が歩み寄る。そして2人は静かに顔を近づけ……。

 

 

 

 良かったな。これで正真正銘のハッピーエンドだ。

 

 

「末長く大爆発しろよ。41センチ砲弾の炸裂くらいにな。」

 

 

 

 これは世界を守ったヒーローの話ではない。ちょっとだけ勇気を出して、隣にいる大切な人を守った、ちっぽけな人間の奮闘劇であった。

 

 

 

ーーーーー終ーーーーー




あとがき

『逆襲の戦艦長門』を最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
個人的に艦艇の中で長門が好きで、ちょうど「映画『バトルシップ』みたいなの作りたい!」と思っていたため、まぁこの作品が出来上がったのです。
実は、制作側としては出来栄えが非常に不満足です(笑)。3人称小説にしとけばよかったとか、潜水艦出したかったとか、文章表現が下手とか、最終回長すぎ問題(これは毎度)とか、あげたらキリがない…。いつか架空戦記モノでリベンジしたい。

最後に、次の連載の宣伝を。
3月下旬頃からSF怪獣小説『甲殻大怪獣ザリラvs宇宙怪獣ネビュラー』を投稿します。ちょうど1年ほど前に連載した『甲殻大怪獣ザリラ』の続編です。
前作に増して気合を入れて書いておりますので、お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。