M@STER OF HEROES   作:Crank

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 さすがに特撮とかクロスとかタグを付けてヒーロー未登場はまずいかと思い投稿しました。


変身ですよ(後篇)

 国際空港に着くと人の多さに圧倒される。大きなスーツケースを持った人々があっちこっちを行き来していた。あずささんが同行できなかったのは幸いだ。確実に迷子になる。

 

「二人とも逸れるなよ」

「はい~…………」

「分かりました!」

 

 元気の有り余っているやよいはともかく、男性の存在に怯えて雪歩は挙動不審になっている。ちょっと失敗したかと思ったが、直接的接触がなければ大丈夫だろう。

 二人の様子を窺いながらも真っ直ぐに到着ロビーに向かう。道が混んでいて時間ぎりぎりになってしまっていた。

 到着ロビーからは様々な人種の人達が次々と出てくる。もちろん日本人の姿は多いが、ここが外国との玄関口であることを感じさせられた。もしかしたらこの空港から俺のプロデュースするアイドル達が世界に向けて飛び出すかもしれないと夢想すると、自然と口角が上がってしまう。

 しかし夢は夢。とりあえず今が現実を直視すべし、と顔と心を引き締める。

 出口の正面に立って降りてくる人物の顔を目視できるポジショニングをとった。雪歩達も目を皿のようにして天海春香を探している。写真でしか見ていない俺より二人の方が早く見つけられるかもしれない。それに向こうも二人のことは知っているだろうし。

 

「おーい! 雪歩、やよい!」

 

 すると赤いリボンの少女がこちらに向かって小走りでやってくる。大きなキャリーバッグを二つも引きずっていて、いかにも長期旅行の帰りといった風だ。

 

「あ、春香ちゃん」

 

 雪歩が笑みを浮かべて名前を呼んだ。どうやら彼女が噂の天海春香のようだ。

 

「うっうー! 春香さん、お帰りなさーい! ハイターッチ!」

「イェイ!」

 

 やよいお得意のハイタッチも知っているので、間違いなく765プロ所属のアイドルだと認識する。初対面じゃ面食らうからな、あれ。実際に俺も最初はびっくりしたものだ。

 天海さんは、いや~懐かしいねこの感じ、と暢気に談笑をしている。その笑顔はさすがアイドルと思わせる輝かしいものであった。

 

「えっと……貴方がプロデューサーさん、ですか?」

 

 一通り挨拶は終わったのか、天海さんは俺の顔をじっと覗き込んでくる。ちょっと恥ずかしいが、これからの付き合いもあるのだから、俺はできるだけ爽やかな表情を作って挨拶をした。

 

「ああ。よろしく、天海さん」

「春香で良いですよ。よろしくお願いします、プロデューサーさん」

 

 笑いながら俺の出した手を握り返してくれた。本当に良い子だと思う、高木社長はどうやってこんなに良い子ばかり揃えたのか。一度、スカウトの秘訣を聞いてみよう。

 

「とりあえず長旅御苦労さま。疲れただろ? 荷物持つよ」

「え、悪いですよ」

「良いから、良いから」

 

 俺は半ば強引にキャリーバックを引き取った。春香も俺の善意を無碍にするのは気が引けるらしく、申し訳なさそうに頭を下げるが奪い返したりはしなかった。

 

「あ、じゃあ片方は私が持ちます!」

 

 楽しそうにやよいが春香のキャリーバックに手をかける。まあ無理に俺が二つ運ぶ必要もないかと考え素直に渡すと、嬉し気にバックを押して歩き始めた。

 ちょっとフライングだぞ、やよい。

 

「あ、ちょっと待ってやよひぃああああっ!」

 

 後を追おうとした春香が素っ頓狂な悲鳴を上げて一歩目で転倒した。どんがらがっしゃーんという擬音が頭に響いたのはきっと俺だけじゃない。それほどまでに漫画的な美しい転び方だった。

 

「は、春香ちゃん大丈夫? 修行でも治らなかったの?」

「あうう……うん」

 

 額をさすりながら上体を起こす春香に雪歩が心配そうに声をかける。俺はそれを聞いて漸く理解することができた。

 亜美の言っていたどんがらってこれか……。特徴的な子だな、さすが社長、どこから引っ張ってきたのか…………。

 

「ほら、行くぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 手を差し出すとしっかりと握り返してきたので、俺はそのまま春香を引き起こした。いきなり転んでしまって恥ずかしかったのか、その顔は真っ赤になっているが、それはあえて気付かずにいよう。

 

「やよい!」

「え? あれ? プロデューサー?」

 

 人が多くて少し羞恥があるのだが、俺は声を張ってやよいを呼び止めた。離れた所からいきなり呼び止められて、やよいは困惑している。

 

「先に行きすぎだぞ?」

「あうう~。ごめんなさい。荷物運ばなきゃって思ってたら、つい……」

 

 駆け寄って注意をするとやよいは申し訳なさそうに小さくなった。気持ちが先走ってしまうのは分かるんだがな。

 

「別に怒ってるわけじゃないさ。迷子にならないようにな」

「はい…………」

 

 可能な限り優しくフォローをしているが、やよいのテンションは復活しかった。ああ、周りの目が痛い。

 

「やよいちゃん、そんなに落ち込まないで」

 

 雪歩もやよいを慰めている。思い出したように春香もポケットからお菓子を取り出して、やよいに渡した。

 

「ほら、やよい。飛行機でCA(キャビン・アテンダント)さんに貰ったキャンディー上げるから、元気出して」

「うう……ありがとうございます……。とっても甘いです!」

 

 落ち込みながらも飴の包みを受け取り中身を口にすると、まだちょっとぎこちないがやよいは一生懸命春香に笑いかけた。えへへと向かい合ってはにかんでいる。

 それはまるで姉妹のようだった。

 

「それじゃあ、行くか」

 

 場も収まったようなので俺が出発を提案すると、三人とも『はい!』と声を揃えて返事をしてくれた。この団結力、大事だよな。

 

「あっちですね! プロデュぅああああ!」

 

 春香がまた転んだ。こっちを見ながら進行方向に後ろ歩きで進もうとしたのが原因だろう。ちょっとこの子、普通に歩けるのか不安になってきた。

 そんな考えが頭を過るが、体は反射的に反応して春香の手を掴もうと伸ばされる。後ろ向けに転んだから下手に頭でも打ったら危険だ。春香も本能的に何かを掴もうと必死に手を動かしていた。

 

『あ……』

 

 誰の呟きかは分からなかったが、それが何に対してかは理解できた。闇雲に出された春香の手は、すぐ隣にいた男性の顔を引っ掻いてしまったのだ。ちなみに春香は上手く体を捻ったらしく、両手を床について倒れていた。

 

「す、すみません! 大丈夫ですか!」

 

 目線で雪歩に春香を任せ、俺は顔を引っ掻かれた男性に頭を下げる。もし怪我でもしていてはいけないと思い、とりあえずハンカチは出しておいた。

 

「あ、ああ。大丈夫だ……」

 

 男性はどこか上の空で答える。だが額面通りに受け取るわけにはいかない。なんたってこっちはアイドル、もし適当に処理してしまっては後々の禍根になるかもしれない。ここはプロデューサーとしてしっかりと話を付けておかなければ。

 

「いや、でも怪我していらっしゃるかもしれませんし」

「大丈夫だっつってるだろ!」

 

 怒鳴って俺を追い払おうとする男。逆に逆鱗に触れてしまったのだろうか。とりあえず何かあったときの為に連絡先として名刺を渡そう。

 そのとき、俺はあることに気が付いた。

 

「顔が、裂けてる…………?」

 

 男の顔に、しわやシミとは明らかに違う裂け目ができていた。何故そんなものがあるのか分からないが、あまりに異質なそれはわずかではあったが俺の注意を引いたのだ。

 

「な、てめぇ!」

 

 小さい声だったとは思うが、男は俺の呟きを聞いて明らかに動揺した。そして、顔に触れると一気に激昂した。

 

「くそが!」

「きゃぁああああああああっ!」

 

 そして近くにいたか弱い少女、雪歩の腕を掴み取り力尽くで引き寄せた。

 

「雪歩!」

「来るんじゃねぇ!」

 

 一歩踏み出そうとした俺を制止し、男は懐からナイフを取り出した。その刃が男に囚われた雪歩の首筋に当てられる。

 

「お前ぇら、こうなったら無理やり踏み込むぞ!」

 

 その言葉で男の周りにいた連中が鞄を開け中身を取り出した。

 

「じゅ、銃だ……!」

 

 誰かがそう呟いた瞬間に周囲はパニックに陥る。誰も彼もが少しでも遠くに行こうと走りぶつかり転んで悲鳴を上げている。

 まさに阿鼻叫喚の中で、俺はどこか冷静でいられた。それは偏に、救いの眼差しを向けてくる雪歩がいたからだ。雪歩を助けるために俺にはパニックになってる暇なんてない。

 

「こっちに来い!」

「きゃっ!」

 

 男が雪歩を引きずろうとするが、恐怖のあまり雪歩は体が竦んで動かなくなっている。焦っているのだろうか、男は舌打ちをして雪歩の目にナイフを突き付けて脅迫した。

 

「来いっつってんだろが!」

「は、はいぃいいい!」

 

 目を閉じて必死に返事をする雪歩だが、動けるはずがない。ナイフという物理だけでなく、男性恐怖症という精神面の弱点が肉体を完全に支配してしまっていた。

 だが、男がそんな理由を知るわけもなく、男から見ると雪歩の行動は唯の犯行にしか見えなかったようだ。

 

「……この(アマ)!」

「止めろ!」

 

 歯噛みする男の表情から俺は咄嗟に制止の声を上げていた。本気で雪歩に怪我を、冗談じゃ済まない負傷をさせると確信したのだ。

 

「俺が、人質になる。あんた達の、言うことを聞く。だから、その子は放してくれ」

 

 男は少し思案するが、黙って俺を手招きした。動けない少女よりマシだと判断したのだろう。その証拠に男はナイフを手放して仲間から拳銃を受け取った。ナイフよりも俺を脅すのに有効だからだろう。

 ゆっくりと近付いた俺に銃を突きつけて、顎で先導するように指示をした。その先はエスカレーターで、上に向かうようになっている。背後から銃口を向けられる気配に肝を冷やしつつ、俺はゆっくりと男達の前を歩き始めた。

 

「プ、プロデューサー…………」

 

 今にも泣き出しそうなやよいの呼ぶ声を聞いて、俺は生きて帰ることを強く誓った。まだやよいも雪歩も真美もトップアイドルになっていないのだ。

 エスカレーターに乗って上に上がると、男からもっと上に行くように指示を受けた。目的地は四階の国際線出発ロビーらしい。

 四階まで上がるとロビーには警官が大量に待ち受けていた。噂に聞く空港警察署の人達だろう。拳銃を構えてこちらを威嚇している。自分が標的でないと分かっていても気分が悪かった。

 

「どけ!」

 

 男に押し退けられる。警察はその意図が理解できなかったのか咄嗟に反応できずにいた。ほんの一瞬の躊躇だったが犯人達は次の行動に移っていた。

 後ろに待機していた男の火器が文字通り火を噴いたのだ。

 炎は一直線に十メートル以上伸びて警察官に襲い掛かる。最前列に立っていた警官の制服に着火し周囲を照らし始めた。肉の焼ける匂いが立ち込め、俺は思わず吐きそうになるのを必死で堪える。もしここで動けなくなれば俺は殺されるだろう。

 男達の火炎放射機所持という事実は、警察の発砲すら押さえてしまった。下手に引火すれば空港の一部が吹っ飛びかねない。しかも男達は炎を盾に警察の海をモーセの如く割ってしまった。飛行機への道を阻むものはない。

 そう、なぜかロビーは完全に解放されていた。

 犯人達は今度は火炎放射機の男を最後に出発ロビーに雪崩込む。俺は当然そこにも警官が配置されていると思っていたが誰もいない。不思議に思いながらも男達の指示通りに歩いていると、途中の扉が開けられた。関係者以外立ち入り禁止のはずの区域から手招きされる。

 俺はその中へと押しこまれた。

 

「何やってんだ!」

「五月蝿ぇ! こいつの所為だ!」

 

 中では空港の作業員の格好をした男が待っていた。どうやら仲間のようだ。

 

「念のために準備しておいた爆弾のおかげで、警察(サツ)の動きは抑えてるがよ」

「分かってんだよ、んなこたぁ! さっさと飛行機に乗んぞ!」

「まだ準備できてねぇよ! 今丁度燃料を入れてたんだ!」

 

 男達の喧嘩を聞いて俺は事態が最悪の方向に向かったことを知った。もし本当に警察を爆弾で脅しているなら人質としての価値はもう俺にはない。狙撃を防ぐための盾は火炎放射機の燃料で事足りるだろう。下手な人質なんて邪魔なだけだ。

 どうする。一か八か暴れてみるか? 逃げてみるか? 別に縛られている訳じゃなない。周りを見渡すと犯人グループは七人組のようだ。七人を相手に倒す、逃げるということが俺にできるだろうか?

 答えは決まっている、不可能だ。

 万事休す。それは分かっているが諦めることはできない。折角アイドルのプロデューサーになったのに、何の結果も出せずにこんな所では死ねない。今死ねば、雪歩が責任を感じてアイドルを辞めると言い出しかねない。穴を掘って埋まるぐらいで済ませるためにも、ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 

「ああくそ! てめぇのお陰でよ! どうしてくれんだよ! くそ! ぶっ殺してやる!」

 

 だが現実は無情。俺には何のチャンスもないまま激昂した男に銃を突きつけられるという結論が下された。額に感じる冷たさが生々しい。

 ゆっくりと引き金が引かれる。いや、本当はそんなに遅くはないのかもしれないが、死を目前にした俺にはとても緩慢な動きに見えた。そして俺も動くことが、瞬き一つすることができない。時間が遅く流れているようだ。

 

「止めなさい!」

 

 その瞬間、あまりにも場違いな女の声が届いた。それは部屋の一番奥から聞こえてきたように思える。男の指の動きが止まり、誰もがその部屋の隅に視線を送った。

 

「その人を解放しなさい!」

 

 部屋の隅にはいつの間にか一人の少女(?)が立っていた。声こそ少女だがその格好は非常識なほどに奇抜だった。全身を黄色い服で包み数珠のようなネックレスをかけ、赤いフレームのサングラスに額には月を象ったシンボルが付いていた。

 でも、この声……聞いたことがあるような……。

 

「喧しい!」

 

 男が叫んで、俺に向けていた銃口を少女(?)に向けた。

 少女(?)は両手を回して印を結び呪文を唱える。

 

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)、阿耨多羅三藐三菩提、レインボー・ダッシュ7!」

 

 空中に飛び上がって回転する少女(?)に男が発砲する。轟音が部屋に響くが、弾は当たることなく少女(?)は俺の傍に着地をした。その姿は白い衣装になっており、目元の見えるターバンと額についた太陽のシンボルが目立っている。

 というか、この目って……。

 少女(?)は男の手を蹴り飛ばす。男は堪らず銃を手放して吹っ飛んだ。

 

「何だお前は!」

 

 犯人達の一人がそう叫んだ。それは問いかけというよりはあまりの疑問に耐えかねての悲鳴のように聞こえた。

 

「愛の戦士、レインボーマン!」

 

 少女が胸を張って答えた。ウーマンじゃないのかと思ったのはきっと俺だけだろう。そんなくだらないことを考えられるほど俺は安心していたのだ。この、レインボーマンという存在に。

 

「くっ!」

 

 犯人達がレインボーマンを撃とうと銃を構えた。拳銃ではなく自動小銃だ。連射されたら一溜りもないだろう。

 だがレインボーマンは冷静に相手に向けてその両手を振り下ろした。

 

「遠当ての術、たぁ!」

 

 その掛け声で爆発が起こり男が後ろに吹っ飛んだ。漫画で昔見た念動力(サイコキネシス)を思い出す。犯人達も驚愕し、それでもこちらに果敢に銃口を向けてきた。

 

「念力バリアー!」

 

 またしてもレインボーマンが両手を振るうと犯人達の発砲と同時に何かが当たって落ちる音だけが響いた。床を見ると目の前に銃弾が転がっている。不可視の壁に当たって落ちたのだろうか。

 

「阿耨多羅三藐三菩提阿耨多羅三藐三菩提、レインボー・ダッシュ5!」

 

 再び印を結んで飛び上がると、こんどは全身が金色の姿へと変わっていた。七変化とはこのことをいうのだろうか。

 

「黄金の術!」

『ぎゃぁああああ!』

 

 全身から光を放ち犯人達の目を眩ませた。光は俺の方へは向かってなかったようで膨大な光量に眩しくは感じたが視界が潰れるほどではなかった。

 その隙にレインボーマンは三人を叩き伏せて気絶させる。微かな視界の中でそれを見てとったのか、それども仲間の呻き声に何か感じ取ったのか残った三人が部屋の外へと逃げ出した。

 

「待ちなさい!」

 

 それを追って飛び出すレインボーマン。だが俺は相手の狙いに気付いてしまった。慌ててレインボーマンを追いかけて叫ぶ。

 

「駄目だ! 奴らは火炎放射機を使う気だ!」

 

 狭い室内では一瞬で酸欠になってしまい、また熱で自分もダメージを負う火炎放射機は通路でなら十分に活用できる。奴らはレインボーマンを焼き殺す気だ。

 

「もう遅え! 死ねぇ!」

 

 男が火炎放射機を撃とうとする。

 

「阿耨多羅三藐三菩提阿耨多羅三藐三菩提、レインボー・ダッシュ3!」

 

 再び姿を変えるレインボーマンは今度は青い姿だった。

 

「水冷砲の術!」

 

 手刀から強烈な水流が飛び出し、火炎放射機に真正面からぶつかった。そしてその水は炎を呑みこみ、衰えることなく男へと襲い掛かる。高圧水流は成人男性を燃料タンクごと吹っ飛ばして壁に叩きつけた。これなら引火して爆発することもない。

 

「阿耨多羅三藐三菩提阿耨多羅三藐三菩提、レインボー・ダッシュ7!」

 

 白い姿に戻り手を犯人の一人に掲げる。

 

「不動金縛りの術!」

 

 それで男は動くことができなくなったのか床に倒れ伏してしまった。そう、爆弾や火炎放射機まで持ち込んでいた犯人達がたった一人にほぼ、しかもあっという間に鎮圧されてしまったのだった。

 

「くそ!」

 

 最後に残ったのは雪歩を捕らえ、俺を人質にした男だった。その顔には犯罪者としての負の感情ではなく、どこか悲しげな諦観の念のような表情が浮かんでいた。もう抵抗する気もないのか、床に膝をついて力なく涙を流している。

 

「もう、お終いだ……。日本は滅び、日本人は皆殺しになる……」

 

 嘆きとも恨みともとれる弱々しい独白と共に男は銃口を自身のこめかみに当てた。俺達に見せつけるように引き金にかけられた指が小さく震えている。

 

「待て、どういうことだ!」

「恐ろしい組織が日本に来る……。奴らの目的は日本人全滅だ……」

 

 震えながら俺の問いに男が答える。それは恨みごでも嘆きのようでもある弱々しさを持っていた。男が本気で恐怖しているのが分かる。

 

「その前に日本から逃げようと思ってたのに……もう駄目だ、お終いだぁ…………」

 

 銃火器で武装し爆弾や火炎放射機を利用する程の男をこれほどまでに恐怖させる組織とはどんなものであろうか。俺には想像もつかないが、この言葉が妄想でないのなら日本がどれほどの危機に瀕しているのかは理解できる。

 

「〝死ね死ね団〟が動く……そのときが日本の最期だ……」

 

 乾いた笑い声を上げて男の指が動き引き金が引かれた。

 

「不動金縛りの術!」

 

 だが銃声が鳴り響くことはなく、レインボーマンの力で男は全身が動かなくなっている。そしてレインボーマンが男に近付いて直接打撃によって気絶させた。

 誰一人殺すことなく事態を収拾させたその戦い方は、まさに愛の戦士と呼ぶに相応しいものだ。

 

「無事で良かったです」

 

 俺がちゃんと立っていることを確認してレインボーマンが安堵の声を漏らした。俺も自分の体を確認して大丈夫だと頷く。

 

「では、わたしはこれで」

 

 そう言ってレインボーマンはその場を去る。

 

「あ、ちょっと待てよ……春香」

「ひぇ!」

 

 頓珍漢な悲鳴を上げてレインボーマンが立ち止った。目元しか見えないが明らかに動揺した目をしている。

 

「あ、あの! 私は天海春香なんて子じゃありませんから!」

「…………俺は春香の名字は言ってないんだが」

「はう!」

 

 一オクターブ高い悲鳴を上げて固まった。視線を逸らして何とか言い訳を考えようとしている。驚くほど高速で目が左右に泳いでいた。

 

「…………と、とにかく違いますから! では、これで!」

 

 思い付かなかったらしい。話を切り上げて再び踵を返し場を去ろうとする。

 

「ひやぁあああああ!」

 

 転んだ。

 

「………………」

 

 体を起してこっちに訴えかけるように視線を送ってくる。ちょっと涙目になっているあたりさっきまでの正義の味方っぷりはもう影も形もなかった。

 

「あ~大丈夫だ。お前が春香だってことは誰にも言う気はないから」

「…………本当ですか、プロデューサーさん?」

 

 本当だと強く頷いて見せると、レインボーマンはほっと安堵の溜息を吐く。そして頭を抱えて嘆き始めた。

 

「ああ……折角お師匠の教え通りに正義の戦士になろうとしたのに……」

「なあ、いったい何でそんなことをしようとおもったんだ?」

 

 そう聞くとレインボーマンの目が遠くを見るものへと変わって回想が始まった。夕日でもバックにしたほうが良さそうな雰囲気だったが俺にそんなことできるはずもないので、とりあえず黙って話の続きを促した。

 

「夢で見た仙人と会うためにインドへ飛んだんです」

 

 凄い理由だ。予知夢か何か……だと思いたい。

 

「それでパキスタンとの国境付近の山の中でダイバダッタと出会い弟子入りしました」

 

 ダイバダッタって釈迦の弟とかじゃなかったけ。確か兄を暗殺しようとした悪人だったような……。まあ名前が同じだけかもしれないしな。

 

「そして修業を終え、レインボーマンになる力に目覚めたんです。お師匠は私にレインボーマンとして正義のために戦えと」

 

 それで帰国してきたのか。

 

「それが、いきなり正体がばれるなんて……」

 

 また項垂れるレインボーマンに、俺は嘆息するしかない。あれほど超常的で圧倒的な力を持っているのに、メンタルは年相応の女の子なのだから。

 

「…………分かった。なら俺も協力する」

「え? 止めろって言わないんですか?」

 

 レインボーマンが驚きの視線を送ってくるので、俺は笑って頷いた。

 勿論、765プロのプロデューサーとしてはアイドルにそんな危険なことをさせるわけにはいかないのも理解しているのだが、ここまで凹まれると止め難い。そもそも助けられた身で他の人は救うなとは言えないし。

 まあこれから春香は正義の味方とアイドルの二足の――いや、高校生も入れて三足の草鞋を履くことになるのだ。とても一人でやりくりできるとは思えない。可能な限り俺もサポートしていく必要があると、俺はそう考えた。

 

「だから、一緒に頑張ろう」

 

 手を差し伸べると、レインボーマンは一瞬躊躇したのち満面の笑顔でその手を握り返してくれる。

 

「はい! よろしくお願いしますね、プロデューサーさん!」

 

 ターバン越しにも笑顔の輝きは眩しく、アイドルとしての素質は疑いようがなかった。




 ということで、愛の戦士レインボーマンとのクロスオーバーが第一話でした。EDのあいつの名前はレインボーマンとか結構好きです。私の中では元祖フォームチェンジヒーローですね。私が好きなのはダッシュ1です。あのサングラスみたいな目が格好良いと思います。

 ちなみに変身の呪文〝阿耨多羅三藐三菩提〟は一応一回だけルビを振りましたが、「いやあれぐらい読める」とか「レインボーマンだろ〝あのくたらさんみゃくさんぼだい〟に決まってる」なんて方はどれ程いらっしゃるのか気になっています。ハーメルンの利用者層とずれてると思うので……。
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