運命乃家の地下、半壊した〈RISINGBLAST UNIT〉と〈FREEDOM UNIT〉、その武装達がロボットアームによって修復されていた。
ロボットアームの駆動音とバチバチと鳴る加工音の鳴り響く中に、少女の苦しそうな声が混ざる。
「うっ……」
彼女、運命乃ツバサの右足の太ももには痛々しい火傷後が出来上がっていた。そんな太ももへと薬を塗り、染みる傷口の痛みにうっすら涙を浮かべている。
この火傷は、空崎ヒナの持つマシンガン「終幕:デストロイヤー」による狙撃で、腰の右側に装備されたヴァイパー・レール砲が破壊されたときに起きた爆発が原因だ。
太ももから感じられる痛みに耐えながら包帯を巻き終えた彼女は右足を引きずるようにして椅子に座りパソコンへと向き直る。
「暫くは、歩くのキツイ……」
太ももからじわじわと感じる痛みを誤魔化すように、パソコンに表示されている武装を確認する。
「どの武装も修復には半日……」
修理している各ユニットのパーセンテージを見て、それまでにキヴォトスで戦闘が起こるのは簡単に想像できた。
ふと、パソコンのファイルの中から過去に作ったユニット達を確認する。
パソコンに表示された各ユニットは全てがキヴォトスでの戦闘にあわせて武装を変更、調整したものだがこれは違う。
メイン武装のひとつであるそれが振るわれたら、いくらキヴォトスの人でも耐えられるか……。
か
「このユニットだけは、使えない………」
パソコンのフォルダから表示された図面から目を離して目を瞑る。
このユニットを使えば、きっと私は……。
ふと明日の予定をスマホを開いて確認する、午前はDU地区で
「表彰式、か……守りきることすら、出来てないのに」
そう思いながら私は、右足を引き摺るようにして地下室から上の階へと向かった。
地下室、電源が落とされたパソコンの近くには少し焦げた折り紙で作られた花がおかれていた。
次の日、太ももの怪我をタイツで誤魔化した私は学園で生徒会の役割を担っているセミナーの早瀬さんと待ち合わせしていたDU地区にバスで向かっていた。
窓から流れていく景色を眺めながら、ぼんやりとしていると私が抱えるようにして持っていた黄緑色の球体型ペットロボットがその頭についた丸い羽根のような耳をパタパタと動かした。
『ハロ!ツバサ!ソロソロトウチャク!ソロソロトウチャク!ハロ!ハロ!』
「ありがとう、ハロ」
私が膝乗せているのは、私が友人の力を借りて作ったAIが内蔵されているペットロボットの『ハロ』だ。
表向きの理由として寝坊やバスの時間を忘れるから、助けてくれるAIを作りたい。
ということにして学園に通う知人に頼んで、一緒に開発したのがこのペットロボットのハロだ。
ユニットを扱う際に戦闘支援をしてくれるAIであるトリィを作りたかった、でも私はAIの方はまだ未知でどう作れば良いか分からなかった。
だから私はまず園の人達に教わり、手伝って貰い元となるAI、ハロを完成させた。
そして完成させたハロを改造し日常生活のサポートと戦闘支援を行えるよう調整したのが今私が使用しているサポートAIであるトリィなのだ。
このトリィはハロと呼ぶときのみ、日常サポート兼ペットロボット、ハロとして活動するけどトリィと呼べば、即座にトリィとしてのサポートが行える。
このハロには他にも様々な機能があるが、今はまだいいだろう。
DUに到着し、ハロのお尻部分と言える部分をバスの電子決済を支払うためにタッチさせる場所に近付ける。
『ハロ、マイドー!マイドー!』
「ありがとうございました」
すると即座にお金が支払われた事を知らせる音がなり、バスを運転していた獣人にそう言いながら頭を下げてバスを降りる。
両手でハロを抱えながらバス停から近くのコンビニへと向かうと、コンビニの方に待ち合わせしていたミレニアムサイエンススクールの生徒会セミナーの会計である早瀬ユウカさんが立っていた。
早瀬さんは私に気付くと、安堵した様子で私の方へと歩いてくる。
「集合時間より5分早く到着とは素晴らしいわねツバサちゃん。バスを乗り過ごしたりしてないか、少し心配してたけど」
「先輩や皆さんに手伝って貰って作ったこの子のお掛けです」
『ハロ!ユウカ!ハロ!ハロ!』
「ふふ、今日も元気そうねハロ。良かったわ、これならもう遅刻は大丈夫そうね」
私がまだライジングブラストユニット、フリーダムユニットをAIのサポート無しの手動で操作していた頃。
私は深夜までユニットでの大規模の戦闘を止めるために戦っていたり、ユニットの武器の改良案や調整を行ったりとして睡眠時間が取れず、疲労からか遅刻したりボーッとすることが増えてしまった。
そのせいか呼び出された私はセミナーの早瀬さんに心配されたこともあり、ハロの製作に入った。
「それにしても本当に凄いわねツバサちゃん!連邦生徒会に表彰されるなんて、今年のミレニアムプライスも狙えるんじゃないかしら?」
「アハハ、エンジニア部の方々もいますし、どうでしょうか……」
『ミトメタクナーイ!ミトメタクナーイ!』
「またそうやって謙遜して」
そう言いながら頭を撫でる早瀬さんを何もせず見上げる、私が頭を撫でて貰うのはいつぶりなのだろうか?
私が戦うと決めたあの日から、ずっとそれだけを考えて生きてきた。
どうすればヘイローを持たない人が傷付かないか、何があればヘイローを持たない人達にとって安全なのか。
とにかく、ヘイローを持たない人達が無事に生活できるように手を尽くしてきた。
でも、結局私は守れてない。
ほぼ毎日、ヘイローを持たない人が傷付くのに私は全てを守れない。
戦いを止められなくて、結局は私も銃を握って引き金に指をかけている。
守りきれない、守れていない私に頭を撫でられるような権利はあるのだろうか?
それだけの事をしているのだろうか?
「あなたの発明したもの達は全部キヴォトスに住む住民が感謝してもしきれないものをつくったって話と良い評判ばかりよ!本当に帰宅部なのが惜しいわ、今からでもエンジニア部、いやセミナーにこない?」
「アハハ、気持ちは嬉しいですがまだ……」
そう言いながら、それに比べてとエンジニア部や他の様々な部への不満らしき愚痴を漏らす早瀬ユウカさんを横目に周囲を見渡す。
私がこうしてここで連邦生徒会から表彰を受けること担った理由、それは私が表向きように行っている開発や研究の過程で作り上げたもの達が理由だ。
私が開発したのは『ガラスに吹き掛けるとガラスの強度を上げることの出来るコーティング剤』。『銃弾による建物の傷や損傷を防ぐためのコーティング塗料』。
キヴォトスの生徒達が起こす戦闘で起こるや衝撃を受けても大きな怪我をしないよう、住民向けに作った『軽量防弾ベスト』。
防弾ベストの技術を使った目立たない『防弾ベストの効果を備えた服』。
全部、キヴォトスに住む住民の人達のために作ったもの達だ。
ヘイローを持たない彼らが少しでも傷付かないように、巻き込まれても怪我をしないように考えて作ったものだ。
こうした発明品を売って稼いだお金を使って、私はユニットや武装の開発をしている。
キヴォトス全体の戦闘に介入するのには、どう努力してもお金がかかる。
ユニットの稼働用バッテリーやテーザー砲用の電力、ユニットの修繕とお金はどんどん消えていく。だからこうして、活動するためのお金を稼いでいる
「さぁ、行きましょう」
ユウカさんの隣を歩いて、連邦生徒会の人達に指定された公園についた。公園には多くの人が集まっており、人混みの先には一時的に用意された表彰台と連邦生徒会の人達や来賓の人達が見える。
連邦生徒会、初めて関わる人達だがどんな人達なのだろうか。
キヴォトス、DU地区の公園には、すでに多くの市民が集まっていた。
獣人、ロボット、一般生徒、記者、観客……人の波がゆっくりと揺れ、ステージ前にはざわめきが満ちている。
そんな大勢の人達に見守られるなか、ステージの司会台に白いスーツに青いネクタイが特徴的な制服を着た少女が現れ口を開いた。
「これより、ミレニアムサイエンススクールと連邦生徒会の共催による、技術開発優秀賞 表彰式を執り行います。」
瞬間、観客や公園へと集まった人々から拍手が鳴り響く。
「まずは、この場にお越しくださった来賓の皆さまをご紹介いたします来賓者の紹介を行います。ミレニアムサイエンススクール生徒会代理、早瀬ユウカ様。連邦生徒会防衛室長、不知火カヤ様。連邦生徒会長代理、七神リン様。」
紹介される来賓の人々に観客達から再び拍手が響き渡る。
「続いて、今回表彰に至りました。運命乃ツバサ様の功績について紹介させていただきます。」
そう言いながら、ステージの背後に設置されたミレニアム製のスクリーンに私の開発したもの達が表示される。
『まず、ガラスに吹き掛けるだけで、防弾ガラス以上にガラスの強度を上げることの出来るコーティング剤。ヤタノカガミ・コート、此方により、キヴォトスでの生徒同士の戦闘による周辺のガラスの破損が大きく減少しました。これには全ての地区の飲食店から感謝の声があがっています。』
『次に銃弾による建築物の損傷を防ぐためのコーティング塗料。フツノミタマ・アーマーフィルムです。此方は同じくキヴォトスの全ての建築現場や建物に使用されております。アビドス地区アビドス高等学校からも感謝のメッセージが届いており…』
『最後に身に付けるのが簡単かつ、軽量で強度も素晴らしい軽量防弾ベスト、アメノムラクモ。そしてこの防弾ベストの技術を使った目立たない防弾ベスト風のオモイカネシリーズ、これらはヴァルキューレ警察学校では大きな貢献をしており、私服警官としての活動等にも大きく貢献しています。』
説明や、開発したもの達がもたらした影響について説明されていく。全て、私にとっては学園でなくキヴォトスに住む人達に向けて作ったものだ。
でも、そのために作った発明がその目的のために使われないのは分かっていた。
ヴァルキューレ警察学校の人達はヘイローがある、だから生徒だけじゃなくてキヴォトス住民の人達に渡って欲しかった。
『それでは連邦生徒会、防衛室長より賞状及びメダルの授与に移ります』
そんなことを思っていると、その言葉が聞こえて私はステージへと登壇する。当然のように背後からハロ!ハロ!と泣きながら羽根ながらついてくるハロに会場から笑い声が少し聞こえてくる。
少しだけ緊張していると、私の正面に不知火カヤさんが登壇して近付いてくると近くに授与する予定のメダルと賞状をトレーに乗せた連邦生徒会の人が近付いてくる。
「あなたの開発技術と市民への貢献は、キヴォトスの安全保障において極めて重要なものです。よって連邦生徒会防衛室の権限により、ここに感謝の意を表します。」
そう言いながらカヤさんが私の首にメダルをかける、メダルには連邦生徒会のマークが掘られている。
「これがあなたの努力の証です。胸を張りなさい。」
続いて賞状を私へと差し出してきた。
私は賞状を受け取るため、賞状へと手を伸ばし受け取りながら頭を下げる。
そして頭を上げてメダルと賞状を観客の方へと向き直ると、観客席からの拍手がなり始めた。
そんな観客席の後ろ、この公園から歩いて離れていく見覚えのある白く長い髪にゲヘナ生の象徴といえる羽根を持つ幼馴染みの後ろ姿を見つけた。
『その度に、こうして武力介入するつもり?そんなことじゃ平和なんて永遠に不可能。平和を守りたいなら私たちのように風紀委員会に所属すれば』
『言った筈よ、次は撃つって……』
ヒナ……でも、私は決めたから。
その後、記念撮影も終わり表彰式が終わり私はミレニアムサイエンススクールへと帰ろうと公園から離れようとしたときだった。
「運命乃ツバサさん」
聞き覚えのある声が聞こえて、振り替えると連邦生徒会防衛室長の不知火カヤさんがいた。
「不知火さん?」
「突然申し訳ありません、運命乃ツバサさん。良ければ連邦生徒会へ来ませんか?貴方ほどの技術や発想力がある貴方を、私は」
「すいません、お断りします」
「は?」
「私なんかに連邦生徒会は勤まらないです、それに私にはまだまだやりたいことがありますから」
『ハロ!ハロ!』
そう言いながら頭を下げて、私はその公園を後にした。
公園から離れていく運命乃ツバサの後ろ姿に私、不知火カヤは深呼吸をしながら片手を頬へと添える。
思い出すのは、運命乃ツバサが表彰式で話したこれら全てはキヴォトスに住むヘイローを持たない人達が安全に暮らすため、安心して生活するために開発した、これからも開発し続けたいという演説。
「優しすぎるのは、脆さと同義です。——そして傷つきやすさと、利用されやすさの証明。」
彼女の作り出した技術、どれもが軍事転用可能だ。
命を守るために作った技術。
だが、武器に転じれば、部隊を丸ごと無力化できる可能性すらある……本当に、惜しい人材ですね。
どこでもあのような技術と発想力から発明できるのか、彼女がミレニアムサイエンススクールにいるからこそ、その技術が発揮されるものなのか。
まぁ、どちらでも今は構いませんね。
「……本当に“危険”なのは、あなたが悪意なく、世界を変える力を作ってしまっていることなんですよ、ツバサさん。」
フツノミタマ・アーマーフィルムにヤタノカガミ・コート……どれも防衛用としては極めて優秀。けれど、同時に“兵器の防護材”としても理想的です。
カイザーPMCが嗅ぎつけたら、間違いなく利用を考えるでしょうね。
逆にいえばこれらを流せば、彼らに恩を売ることも出来ますか。
運命乃ツバサ、彼女が“放置して危険になる存在”であることは間違いない。
まぁ、もう暫くは彼女に声をかけ続けることにしましょうか、必要な人材は確保しなければ。
もし確保できないなら………ふふ、良い返事をしてくれることを祈っていますよ運命乃ツバサさん?
ご愛読ありがとうございました。
感想、お気に入り登録、高評価
お待ちしています。