遊戯王new stage〜デュエル喫茶は忙しい〜   作:山姫

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デュエル無し回なのに随分時間かかっちゃいました〜…
ねじ込もうかとも思ったんですが、12期のデュエルって扱うカード多過ぎて…
そんな感じで今回は新君の周辺環境をご覧ください。


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進藤 新のつまらない生活は幕開けもなにもなかった。

 いつも通り学校へ行き、授業を受け─決闘の授業はちょっとだけ真面目に受けた─、学校を終えるとチームの溜まり場に行って「俺、負けちまった」と正直に話した。

 

 

 「リーダーが負けた!!?」

 

 「嘘だろ…[タイラント]がそんなに強いなんて…!!」

 

 「話は最後まで聞け。[タイラント]には勝ったわ」

 

 それこそ[タイラント]の取り巻きと同じように取り乱すメンバーに呆れながらツッコむ。

 自分のチームメンバーにあのいかにもデュエル一辺倒なギャングどもと同じ知能レベルの構成員がいると知りたくはなかった。

 

 「俺が負けたのは余所者の大人だよ。引っ越してきたらしい。…あぁ、報復とかは考えんなよ?お前らじゃ束になっても勝てねえ」

 

 「そりゃリーダーが負けた相手に勝てるとは思わないっすよ」

 

 「一般人にチーム関係の事で絡んだらリーダー怒るじゃないですか」

 

 「公開処刑は勘弁っす」

 

 聞き分けのいい連中である。

 チームのまとめ役とはいえ、メンバー全員が「デュエルを教えて欲しい」「強い奴と戦う場が欲しい」と新に頼み込んだ結果がこの現状。実質客人とも言える新のささいな要望をちゃんと聞き入れるくらいには礼儀を知っている連中なのだ。

 

 「んで、アレだ。俺このチームから少し離れっから。他所から喧嘩売られた時だけ呼べ」

 

 話の流れでサラッと告げられた実質離脱宣言。

 一瞬シーンとするメンバー。次の瞬間、その場にいた全員からわっと問い詰められる。

 

 「うるせえうるせえ!!前にも言ったろ?俺含めて全員去る者は追うなってよ」

 

 「でも急にどうしたんすか!?理由くらい教えてくださいよ!!」

 

 「流石にそんくらいは説明してやるから大人しく聞いとけ。な?」

 

 とりあえず口を噤むメンバー。

 そう長くない期間とはいえ、なんだかんだデュエルを教えたり戦ったり、理想を語り合った面子だ。一人一人の顔を見るとどうしてもそれぞれとの思い出が蘇って、ここを離れる事に寂しさを感じる。

 だが自分は、この場にいる人間の中で自分だけは知ってしまったのだ。

 今の自分では辿り着けない世界を、その景色を。

 

 『自分に課せられた事を果たした人間だけが、自分の進む先を選べるんです』

 

 恥ずかしくても、寂しくとも。

 このままではいられない。

 

 「──俺はプロデュエリストになる。そのためにまず、デュエルアカデミア大学部の推薦枠にねじ込んでもらおうと思ってな」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 「[アカデミア]への推薦、か。お前からその打診を受ける日が来るとはな」

 

 翌日の早朝。新はもう1人の人物に先日チームメンバーに告げたのと同じ事を打ち明けていた。

 プロデュエリストを目指すのは元々決めていた事。だが、このまま適当な大学に進んでプロ試験に臨むだけで自分がプロになれるという幻想は菖蒲との戦いで打ち砕かれた。

 だからこそ、デュエリストとして必要な事を学ぶのに最適な[アカデミア]への進学を決めた。

 

 「俺の生活態度が良くなかった事は重々承知です。でも、成績面を考慮すればなんとかなりませんか?」

 

 新の言葉を受けてふむ、と考え込むのは道重 厳(みちしげ いわお)。この高校でデュエル関連の講義を受け持つ担当教員である。

 

 「まぁ耳が痛いだろう事は承知で言わせてもらうがな、遅ぇよ。二年生終わるってタイミングで今から推薦の材料集めろなんて無理にも程があるっての」

 

 「それは…申し訳ないです」

 

 こちらとしては頭を下げるしかない。

 

 「つーかお前、成績も悪くねえし普通に受験すりゃいいじゃねえか。なんだって態々推薦狙うんだよ?」

 

 「一般試験の為の勉強より、デュエルに時間を使いたいんです。推薦なら通常の学業の規定値と校内選考をクリアすればいいんですよね?だったら俺は、[アカデミア]で通用するデュエリストになる為に、少しでもデュエルに時間を使える進路が欲しいんです」

 

 そこは既に新も考えておいた点。はっきりと答える。

 その殊勝な態度を見て「調子狂うな〜…」と道重はポリポリ頬をかく。

 

 「…けどまぁ、できん事もねえ。お前が三年生の間利口にしてりゃあな」

 

 「本当ですか!?」

 

 まだ間に合うかもしれない。その希望にずいと道重に迫ってしまう。

 

 「近い近い離れろ。…ただやる事は多いぞ?

 他にも推薦枠希望の奴らはいる。そいつらは大体一年の頃からお利口さんだし、それと今から枠を競わなきゃならねえんだからな。デュエルにしろ成績にしろお前なら勝ち目はあるとは思うが、あとは生活態度次第ってとこか」

 

 道重はそこで一息。表情を申し訳なさそうなものに変える。

 

 「…俺はな、お前に申し訳ないと思ってんだ」

 

 「先生が、俺に?」

 

 急な話題転換に驚く。

 何を申し訳ないと思っているのだろうか?無茶な頼み事をしているのはこちらだと言うのに。

 

 「お前に成長の場を与えられなかった事だよ。

 俺がこれまで受け持った中で、お前ほど完成されてる奴はそういなかった。他の生徒とお前じゃ差が開き過ぎていて、講義のレベルをお前に合わせてやる事ができなかった。

 …だからお前も物足りなくて、外で野良試合なんてやってたんじゃねえか?」

 

 「そ…れは…」

 

 否定はできなかった。道重の講義は決して悪いものではない。高校生の学ぶ内容としては質が高い部類に入る。

 しかし新はその内容を実戦の中で自力で学んでとうに身に付けていたし、そもそもデッキの完成度も高かったため実技では負ける事もなかった。

 道重にはそれ以上を教える事ができず、新は自分に何が足りないかを知る機会がなかった。

 

 「言っちまえばお前の素行の悪さは俺にも責任があるんだよ。

 いや、素行の悪さってのは言い方が悪かったな。お前んとこはただのデュエル好きが集まってるだけで人様に迷惑もかけてねえ。ちっとばかり学業にも集中しろとは思うが」

 

 「一緒にされたくはないでしょうけど、部活一辺倒な奴らと同じですよ」

 

 「そうそう、そんな感じだ。

 で、何だったか…あぁそうそう、俺にも責任があるって話な。だから、お前の推薦には可能な限り手を貸してやる。贔屓とかじゃねえぞ?あくまで常識の範囲内でな」

 

 これまですまなかったな、と頭を下げられる。

 

 「ちょ、頭上げてくださいよ!!」

 

 「まぁそう言うな。ケジメなんだよ、こういうのはな」

 

 頭を上げた道重の表情は、どこか救われたようなスッキリしたものに変わっていた。

 

 「アカデミア大学部か。日本中の実力者達が集まるデュエリストの総本山。いい環境じゃねえか。デュエルバカのお前にゃお似合いの場所だよ」

 

 頑張れよ、と肩を叩かれる。

 道重の言葉がありがたいやら温かいやらで。

 少し視界が潤んだのを悟られないように勢いよく頭を下げ、逃げるように職員室を去った。

 

 「…ふぅ、偉そうな事言っちまったな」

 

 「立派じゃないですか。進藤君のあんな殊勝な態度、初めて見ました」

 

 コトリ、とデスクにコーヒーが置かれる。隣の席の国語科の教師だ。話をしている間は気を利かせて席を外していてくれたのだろう。

 

 「どうも。…あいつ、多分元からああいう奴なんですよ。根がまっすぐで、これと決めた道を突っ走る。悪い奴じゃない。それを、俺は腐らせちまうとこだった」

 

 グビ、とコーヒーを飲む。その苦味は道重の心をそのまま表しているようで、いやに美味く感じた。

 

 「俺にできるのはあいつの背中を押すだけです。

 …あいつ、どうして急にあんな事言い出したんだかなぁ」

 

 「きっと何か劇的な出会いでもあったんじゃないですか?何をしてでも辿り着きたい、そんな場所が見えるような」

 

 「流石国語の先生。素敵な解釈ですね。

 

 まったく…本当にあいつをあそこまで前向きにさせた相手がいるなら是非会ってみたいもんです」

 

 

 

 

 

 職員室を出た新は落ち着く為に校庭のベンチに腰掛けていた。

 

 (推薦の話、デュエルの腕で何とかなるとは思ってたが…道重先生があんな前向きに応援してくれるとはな)

 

 正直なところ、道重が自分を評価してくれてはいてもそれは講義の中だけの話だと思っていた。課題の出来は最低限、授業態度も普通程度。

 しかし、勝手に講義に失望していたのが申し訳なくなるくらい。道重は教師として新の事を考えてくれていたのだ。

 

 「教師ってのは…大人ってのは結構色々考えてんだなぁ」

 

 自分には難しい話だ。自分の考えている事すらまともに言葉にできないのに、他人を応援するなんてとても。

 

 「あれ?これは先客珍客〜」

 

 悩む新に声をかけてくる者がいた。

 セーラー服を身に纏う、亜麻色の髪をロングにした女子生徒。制服の線の数が示す通り、新より一学年上の先輩である。

 

 「香織先輩…いつもこんな早く来てるんですか?」

 

 五十嵐 香織(いがらし かおり)。学園三年の主席。

 この学園でチームメンバー以外の数少ない新の知人である。正確に言うと。新に対して物怖じしない、数少ない物好きである。

 

 「今日はちょっと卒業式関係でお呼び出しがあってね〜。新君こそ、こんな早くに学校来てやる事あるの?」

 

 「他に言い方なかったんすか…まぁちょっとした用ですよ」

 

 「ふふ、濁してもお姉さんはお見通し。進路の話じゃないの?」

 

 「…誠ですか。家族にチームの話すんなっつったのに」

 

 誠とは香織の弟である。現在新達と同じ高校に通っている一年生で、[アッシュ]のチームメンバー。新と香織が知り合ったのもその縁だ。

 

 「誠は新君にベタ惚れだからね〜。聞いてもないのに昨日は散々『俺の目標が〜』だの『姉さんも引き止めてくれよ!』だの聞かされたし。

 私、新君の事は認めてるけど集まって危ない事するのは反対してるのに」

 

 認めてる、と簡単に言うが事はそう単純ではなかった。

 チームがまだ結成されたばかりで無名だった頃、高校受験を控えた誠がチーム入りした事を危惧した香織が単身新の教室に乗り込んできて「弟に手を出さないで!!」などと宣戦布告したり、その後デュエルの末「誠に怪我でもさせたら承知しないからね!!」と面倒な形で収められたり。その後も事あるごとに喧嘩を売られ、追い込まれる事がありつつもなんとか勝ちを譲らずに済んでいたり。

 今でこそのほほんとしてるが、実態は思い込みの激しいブラコンである。

 

 「香織さんが引き止めるわけねえのに…誠、必死過ぎだろ」

 

 「新君の進路を応援したいけど、いなくなるのは寂しい〜って複雑な気分なんだろうね。

 私に丸投げされても困るけど」

 

 2人、ため息。可愛い弟分・弟の話ではあるが、こればかりはどうしようもない。

 

 「で、素行に気を使う事にした新君は遅刻しないためにこんな時間に登校したってこと?」

 

 「んな露骨な媚び売りじゃないっす。…いや、先生への相談っつかお願いなんで似たようなもんですね」

 

 「その結果は…表情を見るにいい結果だったんじゃない?」

 

 香織はそこそこ目ざとい。それで思い込みが激しいので周囲の人間は苦労させられるのだが、兎も角人の感情の機微に聡いのだ。

 

 「次の年度大人しくしとけば努力する、とは言ってくれました。見放されてなくてほっとしましたよ」

 

 「先生方は新君の成績が良いいから何も言う事がないだけだよ〜。生徒の方は…まぁ怖がってるだろうけど」

 

 「そういう余計なとこまではっきり言うとこ、誠に移さないでくださいね。余計な揉め事起きた時引っ張り出されるの大体俺なんすよ」

 

 気をつけま〜す、と適当な返事。

 ヘソを曲げているように見えるのは、姉である自分より弟に頼られている新に対する嫉妬だろうか。

 実のところ誠が香織ではなく新に頼る事が多いのは姉の暴走癖・やり過ぎる癖ゆえであり、香織の自業自得である。

 

 「しかし新君の進路か。アカデミアならまた私の後輩になるんだね〜」

 

 「そういや香織さんアカデミア受かったって言ってましたもんね。追いつけるように頑張ります」

 

 「うむ。楽しみにしてるよ〜。アカデミアに来たらその時こそコテンパンにしてあげる。

 と、いうわけで可愛い後輩にぷれぜんとふぉ〜ゆ〜」

 

 スッと差し出される1枚のカード。

 そのカードは…[転生炎獣レイジング・フェニックス]。

 

 「ちょ、これ先輩のエースじゃないですか!!?ポンと渡していいもんじゃないでしょ!!」

 

 「いいのいいの。三枚持ってるけど二枚で済むから〜。誠の事もそうだけど、私も新君にはお世話になったし。また私の後輩になれるように上手い事使ってね〜」

 

 受け取る気はない。そう背中で語りながら手をヒラヒラさせながら去っていく。マイペース過ぎて会話からは立ち去ろうとする気配も感じられず、結局見送るしかできなかった。

 

 「先輩も、応援してくれるのか」

 

 これまで何度も対面したカード。何度も蘇っては自身のエースである[聖炎王]とぶつかり合ったライバル。思えば香織との付き合いが長くなったのも、互いのエースやデッキの性質にどこか似通ったものがあったからかもしれない。

 

 受け取ったカードに対しては、感慨深さと同時に少し重みを感じる。

 応援される事、期待される事。これまでチームのリーダーをしていた間は受け流せたそれが、進路の事となるとどうも重い。

 デュエルが強ければいいわけじゃない。先日菖蒲に言われた事は、きっとこういう事なのだろう。

 

 「こういうもん背負ってようやくスタートラインなのかねえ?上手い事逃げ道潰してくれるよ、先生も先輩も」

 

 自分は所詮1人きりだと思っていても、周りが放っておかない。今の自分にはそれがとてもありがたいと思えた。

 

 「期待には応える。強くなってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふんぐぬぬ…!!このシャッター硬……っ!!

 ───あら?」

 

 「…マジかよ」

 

 強くなれそうな環境は、帰り道で見つかった。




 気にかけてくれる人間がいるってありがたい事ですよね。
孤独だなぁって思った時に味方してくれる人がいるような、そんな人間になりたい

 次でようやく喫茶店開店準備&新君デッキ改築回です
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