首を狩られた皆殺しの天使   作:加代明賀

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思いついたので書いてみました。


修復降臨

 人を殺せ。人を、殺せ。

 

 暗闇。それは何もできない真っ暗な空間で一つの思考を働かせていた。人なら一秒居るだけで発狂してしまう真なる虚無の闇、死とさえいえる暗闇が支配する空間でそれは同じ考えを何度も繰り返している。水滴石を穿つとは違う。どこまでも機械的と断じれる行動をしているのは、実際に人間ではない。

 

 それが呼ばれていた名は、ハシュマル。

 

 天使の名を冠したそれは。人を殺す、ただそれだけにのみ突き抜けて製造された無人殺戮兵器。とある世界で殺戮の限りを繰り広げた兵器の一機、それに搭載されていた人工知能が機体を破壊された筈なのに活動を止めていない。部品はなく、電気信号もなく。意識として認識できるのかも定かでないナニカは永遠と、水面に一石を投じて波紋を生じさせるように、暗闇の中で自らが製造された基本コンセプトを出力している。

 

 人を殺せ、と。

 

 ■ ■ ■

 

「なんだ、このラプチャーは」

 

 撫でられてハシュマルが覚醒する。まるで真っ暗な部屋に突然明かりがついたかのように、チカチカと走るノイズ混じりのメインカメラがどうにか周囲を収める。

 砂嵐で真面に機能していないカメラ画面に飛び込んできたのは武装した少女たちの姿。

  

「こいつ急に!?」

「指揮官下って!早く!」

 

 完全に沈黙していた正体不明な機体が、異音を伴う鈍い起動音を上げだしたことに驚くも、間近にいた少女たちは瞬時に戦闘へと意識を切り換える。彼女たちが携帯する火器の引き金に指が掛かり次の瞬間に何が起ころうが対応できる心持ち。研ぎ澄まされた警戒心で迎え撃つ彼女達に対して、肝心のハシュマルの注意は彼女達に向けられていない。

 

 そのメインカメラの中央に捉えているのは、走り逃げる人間の背中ただ一つ。

 

 ハシュマル(人工知能)に混乱はない。瞬間移動したに等しい突然の状況変化にも、一切の理解が及んでいない現状に対しても。全壊一歩手前の機体で見知らぬ地にいる状況でも関係なく、製造時より組み込まれている原初の定向、如何なる雑念が介在することなく「人を殺す」ことにのみハシュマルは邁進する。

 狙いを付けた唯一の標的を取り逃すのを許さず。損傷激しい機体は火花を散らし身じろぎながら、取れる手段を即座に検討していく。

 メインカメラだけではない、脚代わりのクロー、うねるワイヤーの先に付けられたテイルブレードまでも十全に機能していない。呼びかけても周囲からプルーマの反応も返ってこない。

 満身創痍で孤立。弾丸が次々と傷だらけの機体に撃ち込まれ始め、刻一刻と損傷が深くなる。絶望的としか言えない危機的状況に自身がいることを認識してもハシュマルの思考に焦りは生じない。

 この状態であっても遠い男を殺せる、唯一残された殺害方法を起動させた。

 鳥類の嘴みたく突き出た頭部が裂ける。開かれた口内から覗かせる砲口へ、動力炉から流れるエネルギーを集中させてスパークが飛ぶ。明らかな大型兵装が発射準備に移行したことに少女たちも黙っておらず。なりふり構わず各々が持ち得る瞬間最大火力をハシュマル一機に集中させる。貫通性の高い狙撃銃の一発、自動小銃からの絶え間ない掃射、ロケットランチャーから放たれたロケット弾の爆発。それら全てが一斉にハシュマル一機に襲い掛かる。

 それでも止まらない、止められない。

 

「この!?」

「なんで、どうしてこんな!」

 

 弾丸の飛び交う音に絶叫が混じり始める。全力をもっても防ぎようのない脅威を前に溢れ出てしまった、生にしがみ付こうとする命からの危険信号。泣き叫び、それでも引き金を引き続ける指を止めず。

 本能から沸き起こる衝動、剥き出しの死への拒絶に殉じ。

 

 それら全てを無情に呑み込み、鉄を焼き溶かす鳴き声が上がる。

 ロックした標的に目掛けて放たれた高熱の光線。狙った標的は勿論のこと射線上にあった障害までも巻き込んで、跡形もなく融解させた光線の輝きが乱れる。無慈悲なる光輝の根本、発射口が設置された頭部で爆発が起き光線もまた収束が解け、無数の光子となって離散してしまう。

 

 たった一射。それだけでハシュマルは首を垂れ、限界を迎えてしまった。

 それほどまでに機体状態は悪く、後がない。ただ放置するだけもう、完全に沈黙してしまうのは時間の問題なほどに。

 

 

 ――ハシュマルは完全自立型殺戮兵器である。

 機械化思想へと、科学の進歩その方向性を定めた文明が生み出した兵器には人間からの操作を必要としないことが大前提。然るに目標の設定や次に取るべき行動は勿論のこと、己自身の修復手段すらも備わっている。

 

 外部ユニットの反応――あり。

 その返答を受けてメインカメラは今、散らばる残骸を中心に定めていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ハァ!」

 

 そのニケは逃げ時を見誤ってしまった。

 全力で駆ける後ろから轟く機械音が、一瞬でも足を緩めればその瞬間がラプチャーによって命を落とす時だと理解させられる。

 馬鹿だった、悠長にし過ぎた。いくら信じられない光景を目にしたとは言え、周囲への警戒心を疎かにして食い入るように観察した過去の自分を呪う言葉を吐く、そんなことに使う体力をも逃走の脚を動かすのに回している。 

 

 事の発端はラプチャーが沈黙したこと。

 アークガーディアン作戦。人類の敗北が決定的となった決戦から約二ヵ月。地上から地下施設アークへと人類の生存圏を移住させる大計画が軌道に乗ってから、連日続いたアークの入り口へと殺到していたラプチャーの大軍がある日を境にピタッと止んだのだ。

 彼女が防衛を担当していた入り口に突然訪れた静けさ。降って沸いて出た平穏に最初こそ休めると気が緩んだが、何日も続けば自分達が知らない何かが水面下で起きているのではという不安、そして此処だけという情報が知れ渡って拭い切れない不気味さへと膨れ上がった。

 異常事態。

 基地にいる誰もが静かさの正体を、その四文字に結論していた。

 この類を見ない事態に中央政府から通達された命令はラプチャーの追跡。ラプチャーたちがアークへの襲撃よりも優先して向かう先にあるのは何か、その詳細を調べる調査が命じられた。

 

 彼女は仲間たちと一緒にその任務に就いてたニケである。

 追跡は細心の注意を払った。ラプチャーの行動目的を異常事態の原因から自分達へと移行してしまったら本末転倒。ラプチャーの索敵に引っ掛からず、それでいて連中が熱心になっている事柄を目視で確認し、無事に基地に情報を持って帰ることにのみ注力する。

 戦闘が起きることがそのまま任務失敗を意味することを肝に銘じ挑んだ任務。

 隊全体に徹底させたのが功を為したのか。彼女と仲間たちは無事に目的のものを、一部のラプチャーたちが熱心に狙っているものが何なのか、その光景を目にすることができた。

 

「ラプチャーがラプチャーに襲われている……?」

 

 眼下で広がっていたのは大混戦。

 彼女達がよく知るラプチャーが、全く見覚えがない新型の()()()()()にのしかかられている。身動きが止まってしまった機体から順に新型の味方機が次々と群がりばらしていく。のしかかれるのを避けるために、彼女たちが追跡していた方は新型と十分に距離を置いて撃ちまくっている。

 これを両軍、百機は下らない数によって両者が入り乱れる大規模な衝突を繰り広げている。

 

「どんどん、部品を剥いでいっている……」

 

 ラプチャー同士が争っている。どう見てもその事実を示唆する光景を前に、いつまでも衝撃が抜けず。それこそ食い入るように観察し、彼女たちは眼前の光景から眼を離すことができなくなっていた。

 ただ、考えを巡らせる余裕は次の瞬間に吹き飛んだ。

 

「ッ!」

 

 戦場から少し離れた茂みに隠れていた彼女達。

 そこに吹き飛ばされたラプチャーの部品が落っこちてきた。突然の脅威にそれぞれが身を躱すことにだけ考えた前転の緊急回避、そして続いて鉄の塊が地面とぶつかり戦場にまで響く乾いた音。全ての音は戦場の喧騒に飲み込まれて、戦場で激しい戦闘に勤しむ兵隊たちの動きに変わりはない。気づいた様子はなく、依然として目の前で戦っている敵に注視している。

 

「……ふぅ」

 

 誰が漏らしたのか。小さな、ほんの小さなため息が漏れ出た。

 これが限界、ここにこれ以上留まるのは危険。運よく訪れなかったが、たった今全員の頭に過った最悪の想像は絶対に回避しなければならない、そしてここで起きていることを絶対に基地に知らせなければならない。元々重かった任務の重要度に更なる重みが圧し掛かったことを肌で感じ取った。

 隊長の任に就いていた彼女が隊に帰還すると伝えるために味方を見渡し。

 

 彼女のすぐ隣にいたニケが吹っ飛んだ。

 

「ぇ?」

 

 飛び散る破片。悲鳴をあげる暇すらなく転がる味方。 

 すぐ後ろから地面を踏み潰す音が聞こえてくる。

 

「ッ散開!全員、帰還することだけを考えよ!」

 

 脱兎の如く。取る手段は逃げの一手のみ。

 いかなる戦闘はあり得ない。背後から迫っていたラプチャーが追跡していた軍勢とは別の集まりなら、一体だけとは考えられない。倒れている味方を助けている暇はないと即断、どんな犠牲を払ってもこの情報を持ち帰らなければと駆け出す。

 

「はぁ、ハァ!」

 

 背中越しに聞こえる駆動音。機械音が確実に近づいてきて、引き離せない彼女は自身の能力の無さを憎みだした。先ほど目撃した光景がどれほど重要なのか、あの光景がもつ価値を、もたらす影響力を考えただけで。この情報が中央政府に持ち帰れない恐怖が膨れ上がり、全力で地面を蹴る脚へと更に力が入った。

 

「あっ」

 

 そうやって速度を上げた先に現れたのは、先ほど見た新型のラプチャー。

 丁度両機に挟まれる形に追い込まれた。正面にいる機体を目視した瞬間、前後に逃げ道が存在しないことを悟ってしまった。

 

「――ァァァ!!」

 

 それでも彼女は脚を止めない。否、止められない。

 今このタイミングで、脚を止めてしまったらそれこそ自分はここから動けなくなってしまうと、漠然とながら恐怖からくる確信を得てしまっていた。

 だから進む、進み続ける。脚の回転を一切緩まさず。

 近付く敵の正面。眼前の敵との距離が徐々にゼロへと――

 

「ぇ」

 

 そして、そのまま両者ともに相手の横を通り過ぎた。

 間を置かず彼女の背後から鳴り響く衝撃音。

 直接視野に収めなくとも彼女は理解してしまう、ついさっきまで観察した光景が後ろでも繰り広げられていると。ただ振り返ることすらままならない彼女は、そのまま直進する。休む暇なく働かせる脚と同じ位に、その頭の中も騒がしく働いていた。

 

 困惑、理解不能。ラプチャーが眼前のニケを襲わずスルーした。

 アーク襲撃よりも重要視している目標がある故の任務であったが、見逃された当の彼女はそこまで頭を働かせる余裕はなく。今起きた出来事を現実だと受け止めきれず、ただ基地を目指して猛進した。

 

 

 ラプチャーがラプチャーに襲われていた、ラプチャー同士で戦っている、ラプチャー内で仲間割れが起きている。思案を働かせる度に言葉を変えることで、どうにか信じ難い情報を噛み砕いて事実として飲み込もうとする。

 あらゆる混乱と疲弊が内心で混ぜこぜになり、責任感で突き動かされて目的地の基地に辿り着いても彼女の心は永遠と混沌とした状態から抜け出すことはなかった。

 




ハシュマルの優先順位
1.人間を殺す
2.ラプチャー。大破状態の今、資材として価値が高いラプチャーを優先的に狙っている
3.ニケ。至上命題を妨げる障害。生体部品に使われている未知の技術を脅威として定めているも、自身の修理に使う資財としてはラプチャーの方が使えるパーツが多いので、現在だとどうしても狙う順位が下になる


思い立ったから書いてみようと書いただけなので、続きは未定です。
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