東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第10話 女教師

 ◆

 

 廊下は薄暗く、窓から差し込む僅かな光が乱雑に散らばる瓦礫を照らしていた。

 

 その先に一匹のコボルドがたたずんでいる。

 

 コボルドは獣のような目で周囲を監視し、唸り声を漏らしていた。

 

 ──『レア度2 / 卑しき獣牙兵コボルド・ポーン / レベル2』

 

「三崎くん、準備は?」と杏子が小声で問いかける。

 

 三崎は頷く。

 

「いくぞ……」

 

 ──『召喚:卑しき尖兵ゴブリン』

 

 小柄なゴブリンが2匹現れ、挑発するように唸り声をあげる。

 

 コボルドは即座に反応し、狂ったピットブルの様にゴブリンたちへ向けて駆けだした。

 

 三崎はその瞬間を見逃さず、「今だ、杏子!」と合図を送る。

 

 杏子の手元から召喚されたピクシーが素早く飛び回り、コボルドの注意を逸らした。

 

 その隙に、山本が巻きつけていたパイソンを放つ。

 

 パイソンは素早く地を這い、コボルドの足元に忍び寄った。

 

「やれ!」

 

 山本の合図でパイソンが鋭く噛みつきコボルドがよろめいた瞬間、ゴブリンが一気に飛びかかり、汚れた牙と爪でコボルドに噛みつき、突き刺し──コボルドは呻き声を上げてそのまま崩れ落ちた。

 

「あ! 魔石!」

 

 杏子の声は明るい。

 

「小林さん、私は次でいいから先使いなよ」

 

 そう言ったのは鷹野 早紀だ。

 

 陸上部所属の女子生徒で、物静か。

 

 スポーツ推薦で狙っている大学があるらしく、日々部活動に勤しんでいる。

 

「え、いいの……?」

 

 小林 カンナがおずおずといった様子で答えた。

 

「いいよ。その代わり私が危ない時は守ってね」

 

 ややぶっきらぼうに早紀が言うと、カンナは頷いた。

 

 その脳裏に親友の遙が死んだ事が過ぎったかどうかは──彼女しか知らない事だ。

 

 そうして魔石を握り締めるとその手が茶色い光を帯び──

 

 ──『レア度2/石砕く小人ウッド・ノッカー/レベル1』

 

 ボロ頭巾を被った全長60cmほどの小人が現れた。

 

「わ、なんか可愛い……」

 

 カンナの言葉に早紀は怪訝そうな表情を見せる。

 

「可愛いけど……あのハンマー、ちょっと凶悪っていうか……」

 

 早紀の言葉通り、ノッカーは小ぶりのハンマーを持っている。

 

「でも武器を持っているっていうのはちょっと心強いよね」

 

 三崎の言葉にカンナは頷いた。

 

「あとは鷹野さんだけだね」

 

 絵里香の言葉に早紀は頷いて、ノッカーに目を遣りながら「どんな子が出てくるか楽しみ」と答える。

 

 そうして──

 

 ◆

 

 ──『レア度1/貫き喚くランサー・クロウ/レベル1』

 

 カラスにも似た一羽の鳥が一声鳴き、早紀の肩へととまった。

 

「うわ、嘴尖り過ぎだろ……」

 

 山本がビビり散らしながら言う。

 

 見目こそカラスに似ているが、ランサー・クロウの嘴の先端の尖り様は本能的な恐怖に訴えかけてくるものがある。

 

 ともかくも、そうしてそれぞれが覚醒を果たすことに成功した。

 

「少しは希望が見えてきたかもね!」

 

 杏子が元気よく言う。

 

 この戸田杏子という少女は良い意味で楽観的なのだ。

 

「ええ~? 希望見えてきたって本当に? 俺まだ全然安心できないんだけど!」

 

 対して、悲観的なのが山本である。

 

 杏子と山本は色々とかみ合わない様に見えて、しかしその関係は悪くはない。

 

 マイペースな三崎と鷹野、喝を入れて皆を引っ張る陣内、ヒロイン気質な絵里香、元気印の杏子に小動物めいたカンナ。そして三枚目枠の山本。

 

 ──案外みんなタイプがバラけたなぁ

 

 三崎は内心、そんな事を思っていた。

 

 そうしてまずは校舎を脱出しようと進んでいく三崎達だが──

 

 ・

 ・

 

 廊下の隅に、若い女教師が座り込んで震えていた。

 

 長い黒髪が乱れ、顔は蒼白で、両手を強く抱きしめたまま、虚ろな目で何かを見つめている。

 

 杏子が驚いたように声を上げた。

 

「九条先生!」

 

 九条誠子──厳格な性格から堅物として知られている女教師だ。

 

 普段は毅然とした態度を崩さない彼女だがよほどの目に遭ったのだろう、今は恐怖に打ちひしがれ震えている。

 

「先生……大丈夫ですか?」

 

 杏子がそっと問いかけるも、返事はなかった。

 

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