東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第12話 もう一手 

 

 三崎たちは校舎を脱出し、体育館へ向かっていた。

 

 裏手の道を進む彼らの前には、倒れた生徒や教師の体が無残に散乱している。

 

「……酷い……」絵里香が震えた声でつぶやく。

 

 だが、ただ殺されているわけではないようだ。

 

「奴ら、モツがお好みらしいな」

 

 死体は内臓が抉り取られている。

 

 不謹慎な事を言う陣内を絵里香が睨みつけた。

 

 おおこわ、と肩を竦める陣内。

 

「私、食べられたくない……」

 

 カンナが涙目で呟くが、答える者はいない。

 

 瓦礫と血の海があたり一面を覆い、鼻をつく生々しい鉄の匂いが漂っていた。

 

 地獄のような道中を、一行は身を潜めながら慎重に前へ、前へ。

 

 そんな中、「あ、ちょっとまって」と三崎が足を止めてかがみ込む。

 

「なぁに?」

 

 絵里香が覗き込むと、そこには幾つかの石が落ちていた。

 

「これって魔石?」

 

 絵里香の声には喜色が混じっている。

 

「多分ね、ほら、なんだか白く光っている。よく考えてみたら、僕ら以外にも人がいても不思議じゃないんだ。覚醒した人も多分いて、それで戦って……魔石に気付かずにどこかへ逃げて行っちゃったんだと思う。……多分ね」

 

 三崎の言葉に絵里香は納得した。

 

「一つは三崎、お前が使えよ。あの強い奴がいねえと始まらねえ。もう一つは……アンタか。あと一つは……一応三崎が持っておけよ。もしかしたら何かの時にまた再召喚しなきゃいけなくなるかもしれねぇからな」

 

 陣内はそういって、誠子を見た。

 

「陣内くんって不良なのに、あんまり不良っぽくないよね。佐伯みたいに魔石独占とかしようとしないし」

 

 杏子の言葉に陣内はしかめっつらを浮かべながら言う。

 

「俺を何だと思ってるんだよ、こういう時にてめえらをイジメても仕方ねえだろうが。今は全員バケモンを出せるようになるのが専決だろ。おら、三崎、さっさと魔石を使ってアレを呼べや。それとアンタもさっさと覚醒ってのをしてくれ」

 

 陣内が言って魔石を手渡そうとして──

 

「おい! かがめ! 隠れろ! 声を出すな!」

 

 陣内の焦った様子に、一同は慌てて木陰に身を潜めた。

 

 声だ。

 

 声がする。

 

 こんなに低く、狂暴そうな唸り声は人のものではないだろう。

 

 ──やっぱり、中々簡単には逃がしてくれないよなあ

 

 三崎は内心うんざりして道の先を見た。

 

 視線の先には立ちふさがる巨影が数体──。

 

 伸長は2mあたりだろうか、肌は灰色がかった色をしており、頭部は豚に似ている。

 

 武器こそないが、圧倒的な存在感を放っていた。

 

 ──『レア度3 / 暴食のオーク・ウォリアー / レベル3』

 

「……糞、レベルが高いな……」

 

 陣内が緊張した声でつぶやく。

 

 ゴブリンやコボルドよりも遙かに剣呑な怪物、オーク。

 

 RPGでは雑魚モンスターとしてカテゴライズされる事が多いがしかし、実際に見たら雑魚なんてとんでもない。

 

 濃密な死の予感に、三崎の背筋がぶるりと震えた。

 

 ◆

 

 ばきり、ばきり。

 

 オークが死体の骨を噛み砕く音を響かせながら、満足気に巨体を揺らしていた。

 

「くそ、あいつら……」

 

 陣内が顔を顰めるが、止めようがない。

 

 だが──

 

 もう一方のオークが鼻をひくつかせると、背に氷柱を突っ込まれたかのような怖気を覚える。

 

 ──鼻……? 匂い? まさか

 

「おい、三崎……もしかしたら」

 

 陣内がそれを伝えようとすると、オークはせわしなく周囲を見渡し、警戒している様子を見せる。

 

「やべえ、気付かれた……」

 

 陣内の言葉通り、オークは風上にいる三崎たちの存在に気付いた様だ。

 

「先に仕掛けよう。逃げても仲間を呼ばれるかもしれないし、もしかしたらあんなに太ってるのに物凄く足が早いかもしれない」三崎がなぜか山本を見ながら言った。

 

「おい、三崎~。なんで俺を見ながら言うんだよ!」

 

 山本が文句を言う。

 

 というのも、この山本という男は好意的に言っても少々ふくよかすぎる体型なのだ。

 

「ごめんごめん、つい……」

 

 三崎が悪びれずに言うと、山本はふくれっつらをして睨みつけた。

 

 だが場の空気は多少は良くなったようだ。

 

 目の前にそびえる二体のオーク。

 

 大きい方が貪欲に屍をむさぼり、もう一方は油断なく周囲を警戒している。

 

 校舎へと戻った所で何も始まらない。

 

 残された体育館の裏口から外へと逃げるしかない。

 

 しかしその道を通るためには、この怪物たちを倒すしかないのだ。

 

「タイガー・ゴブリン、頼む!」

 

 先ほどの魔石で呼び出せる様になったタイガー・ゴブリンが、鋭い咆哮とともにオークへ突進する。

 

 何となく何者かがいる、とは思っていても、正確にどこへいるかは分からないようで、オークたちは迎撃の態勢を整える事ができていない。

 

 ゆえにタイガー・ゴブリンの素早い動きに対し、オークは反応しきれず、その巨体を押し倒されかける。

 

 続いて三崎は手を翳して卑しき尖兵ゴブリンを二体召喚した。

 

 小柄なゴブリンたちがオークの足元に飛び掛かり、動きを妨害する。

 

 ──よし、できた! 

 

 この連続召喚は何となく出来ると思って何となく試してみた場当たり的なものだった。

 

 白い魔石が光となって体へ取り込まれた時、三崎は何となく "これ" が出来る気がした。

 

「僕が小さい方をやる! 大きい方が邪魔しないように、なんとか押さえてて!」

 

 三崎は頭の中でタイガー・ゴブリンの動きをトレースする。

 

 これもまた、先ほどの魔石吸収で出来るようなったことだった。

 

 完全にとは言わないが、思念のようなものである程度行動を指示できるのだ。

 

 タイガー・ゴブリンはそのまま小柄なオークへ飛びかかり、虎の様な鋭い爪で腹を深々と切り裂く。

 

 オークも腕を振り回して応戦するものの、素早いタイガー・ゴブリンの動きを捉えられないでいた。

 

 一瞬の油断で状況は崩壊するだろう。

 

 ──もう一手、ほしいかな

 

 そう三崎が考えて、そういえばと思い出す。

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