東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第14話 脅迫 

 ◆

 

 タイガー・ゴブリンは四足歩行となり、野獣のような鋭い動きでオーク・ロードの周囲を素早く駆け回り、その隙を狙って爪を繰り出していた。

 

 オーク・ロードの動きは鈍い。

 

 しかし要所要所ではしっかりタイガー・ゴブリンの攻撃を受け止める。

 

 メデューサは少し離れた位置からオーク・ロードを鋭く睨みつけている。

 

 石化の邪視が閃くたびにオーク・ロードは一瞬動きを鈍らせるのだが、その時間は1秒を10分割したそれよりも短い。

 

 しかしそれでも隙は隙だ。

 

 ──やれ! 

 

 傍目から見る三崎が思念で仕掛けを指示した。

 

 タイガー・ゴブリンは鋭い爪でオーク・ロードの胴を切り裂こうとする。

 

 だが重厚な鎧の丸みがタイガー・ゴブリンの爪を滑らせ、攻撃をスカされた隙を逆に突かれて痛打を受けてしまう。

 

「くそっ、やっぱり強いな……一旦離れて……え!?」

 

 オーク・ロードは強いが鈍い──そんな風に思っていた三崎だが、意表を突かれた。

 

 タイガー・ゴブリンの退き足にぴったりくっつく程の機敏な追い足、そこからの戦斧の一撃。

 

 タイガー・ゴブリンはあわや真っ二つになるところだったが──

 

 宙空で何かに引っかかったかのように動きが鈍る。

 

 メデューサの援護だ。

 

 結果、タイガー・ゴブリンは真っ二つになる代わりに薄皮一枚を裂かれるだけで済んだ。

 

 ──危なかった……きっと確実に一撃入れられる様に僕らを騙していたんだ

 

 モンスターも策を練ると言う可能性に思い至らなかった事を猛省する。

 

 だが、ともかくもこれで仕切りなおした。

 

「みんな、今のうちに体育館へ向かって!」

 

 三崎はオーク・ロードから視線を切らずに叫んだ。

 

 策を練るだけの知恵があると言う事は、人質を取るという手を使う可能性もある。

 

 三崎はそれを恐れた。

 

「で、でも……」

 

 絵里香は自分たちだけが逃げる事に反対の様だ。

 

「僕たちはここで時間を稼ぐから、瀬戸たちは安全な場所に!」

 

 三崎は冷静を装いながらも、内心では焦りが募っていた。

 

 このやり取りの間、オーク・ロードが手を出してこないのが不気味であった。

 

 まるでこちらの話を聞いているかのようだ。

 

「わかった……気をつけてね!」

 

 だが、三崎の想いが通じたか、絵里香たちは戸惑いながらもようやく三崎の指示に従い、100メートル先の体育館を目指して駆け出した。

 

 ◆

 

「先生、すみません。でも──」

 

 三崎の言葉を誠子が遮る。

 

「いいのよ、三崎君。私も教師だからね」

 

 誠子は淡々と言葉を返す。

 

 しかし、その手が僅かに震えている。

 

「何とか協力してあいつを倒しましょう。僕と先生のモンスターは相性が良いみたいだし。ただ、あのオークはちょっと頭がいいみたいです。気を付けないと……」

 

 そういった矢先の事だった。

 

 オーク・ロードが何を思ったか、タイガー・ゴブリンと距離があるにも関わらず戦斧を構える。

 

 やばい、と思ったのも束の間、三崎に向けて投げつけてくるではないか。

 

 思念を飛ばす暇もない。

 

 しかし、タイガー・ゴブリンは三崎が何も指示していないにも関わらず、三崎の前に立ち塞がり戦斧をその体で受け止めて──光の粒子となって消えていった。

 

 消え際に、三崎の方に目を遣ったのが印象的だった。

 

 タイガー・ゴブリンの目の光には明らかに知性を感じ、三崎の身を案じているといった気遣いの念が滲んでいたのだ。

 

「…………」

 

 オーク・ロードの笑みには、してやったりといった雰囲気が漂っている。

 

 それを見た三崎は珍しく "普通じゃない" 感情を覚えた。

 

 ぐ、と拳を固めたのだ。

 

「ちょっと、三崎君?」

 

 三崎の雰囲気が変わったのを敏感に察したのか、誠子が三崎に声をかける。

 

 しかし三崎は答えない。

 

 ──あいつ、嗤いやがった

 

 身を以て自分の事を助けてくれたタイガー・ゴブリンの事を嗤われたのが、自分でも妙に感じるほど三崎は頭に血が昇っていた。

 

 三崎という男は変な所でスイッチが入ってしまうのだ。

 

 とはいえ、これは勇気があるという話ではなく半ばヤケクソなのだが。

 

 いかんせんオーク・ロードにあれだけ機敏な動きが出来る以上は逃げられる筈もない。

 

 だったら一矢報いてやろうという気概で挑む──というのは、分からない話ではない。

 

 まあこんなもの、自殺と同じ様なものではあるが。

 

 しかし三崎は半ばヤケクソではあったが、残りの半ばはちょっとした期待があった。

 

 それは──

 

 ◆

 

 三崎の視界に表示された召喚パネルに異変が起きた。

 

 画面には「モンスター進化」のメッセージが浮かび上がっている。

 

 同時に、頭の中に "声" が響く。

 

 §

 

 ──『モンスター進化』

 

 ──『遭遇したモンスターの進化により、召喚者のモンスター進化オプションが解放されました。各等級の魔石を使用する事で、様々な力を得る事ができます。魔石の各等級は白、青、紫、赤、金の五種類があり、白が最も含有マナが低く、金が最も含有マナが高くなります』

 

 ──『モンスター進化はレア度2以上の魔物に対して行使可能。白魔石3つを必要とします』

 

 §

 

 やった、と三崎は内心に喜色を滲ませる。

 

 意思が能力を覚醒させるのならば、あるいは……という思いがあったのだ。

 

 強敵相手にも怯まないで挑もうと腹を括る事はまさしく意思を示す事に他ならないだろう。

 

 どうやら "声"は 視界に映る召喚パネルに書いてある事と同様の事を説明している様だ。

 

 ◆

 

 ──つまり、タイガー・ゴブリンを進化させるには再召喚分と合わせて4つが必要ってことか……そして1つは手元にある

 

 三つの白魔石をどうにかして手に入れなければならない、しかしどこで? 

 

 答えはすぐそこにあった。

 

 オーク・ロードの背後、もう一体のオークの死骸があった場所にきらめく何かが落ちている。

 

 三崎が誠子に向かって「先生、メデューサであいつの気を引いてください。考えがあるんです」というと、誠子は頷き、彼女はすぐさまメデューサに指示を出す。

 

「メデューサ、頼んだわよ」

 

 しかし、メデューサは誠子の命令を聞いてもどこか気怠そうな表情を浮かべた。

 

 その瞳が一瞬、誠子を睨むように細められたが最終的には命令に従った。

 

 メデューサの頭上に絡みつく無数の蛇たちが、まるでため息をつくようにぽろぽろと地面に落ちていく。

 

 どす黒い肌を持つ蛇たちは、瞬く間に地面を這い回り、オーク・ロードの巨体へと向かって滑るように進んでいく。

 

 蛇たちはオーク・ロードの巨体を取り囲むかのように這いずりまわり、オーク・ロードの注意が一瞬三崎から逸れた。

 

 その隙を三崎は見逃さず、しゃにむに駆けだした。

 

 ・

 ・

 ・

 

 三崎はこれまでの人生で、こんなにも早く走りたいと思ったことは一度もなかった。

 

 背後でオーク・ロードが何かを振り回す轟音が耳に届く。

 

 戦斧か、はたまた巨大な拳か。

 

 確認する余裕などはない。

 

 身を低くして地面を滑る様にして走る。

 

 死の風圧が頭のすぐ上をかすめ、毛穴が総立ちするほどの冷ややかな恐怖が全身を駆け抜けた。

 

 そうしてようやく滑り込むようにしてもう一体のオークの死骸が横たわる場所にたどり着いく。

 

 荒い息を整えながら、這いつくばるようにして地面に目を凝らと──きらりと白く輝く石がいくつか落ちているではないか。

 

 三崎は手を伸ばし、震える手で魔石を一つ掴み取って確かめる。

 

 石は白く淡く輝いており、白魔石で間違いなかった。

 

 数は、3。

 

 必要としていた数がぴったり揃う事になる。

 

 ◆

 

 三崎は残りの魔石に手を伸ばそうとして、直感的に動きを止めた。

 

 刹那、鋭い風切り音が耳をかすめ、目の前の地面に矢が突き刺さる。

 

 先ほどまで三崎の手が伸びていた場所だ。

 

「っ……!」

 

 道の向こう側に視線を送ると、そこに立っていたのは佐伯とその取り巻きたちの四人だった。

 

 佐伯の表情は冷たく、薄い笑みを浮かべながら三崎を見ている。

 

 取り巻きの一人の傍らに小柄な弓を持った小人の姿があった。

 

 恐らくは取り巻きが召喚したモンスターだろう。

 

 ・

 ・

 

「おい、三崎。魔石は貴重な資源だ。持って行かれたら困るんだよ。今手に持っているやつも渡せ、そうしたら今ここでお前達を殺す事はやめてやる。まあ、僕が見逃してやったとしても、あのでかいのに殺されちゃいそうだけどね。それは自分で何とかしろ」

 

 佐伯の言葉には有無を言わせない響きがあった。

 

 もし渡さなければ、本当にここで自分を殺すつもりだろうという凄みがある。

 

 なにせ佐伯は既に一線をこえているのだ。

 

 

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