東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第17話 モノリス

 ◆

 

 東京銀座の様子は惨憺たるものだった。

 

 ビルのガラスは粉々に砕け散り、破片が歩道に厚く積もる。

 

 道路は無数の裂け目と焦げた跡に覆われ、瓦礫と折れた鉄骨が無秩序に散らばっていた。

 

 ショーウィンドウは崩壊し、内部の商品は荒らされるか、跡形もなく消え去っている。

 

 ただ、それを金に換える場所も破壊されてしまっているのだが。

 

 何物がそんな事をしたのか? 

 

 それはそこら中を徘徊している、どこから来たのか知れぬファンタジー世界の怪物たちだった。

 

 ゴブリン、コボルト、オーガ、オーク──姿を見た事がなくても、名前だけは知っているようなメジャーな怪物たち。

 

 決して存在しない筈の化け物。

 

 ゴブリンは群れを成し、瓦礫の山の中を掘り返して何かを探している。犬頭の二足歩行の怪物──コボルトはガラスの破片を踏みしめる音を響かせ、 "餌" を探し回っていた。角を持つ大鬼──オーガたちは重い足音を立てながら通りを横切り、車の残骸を軽々と蹴飛ばしていく。

 

 人々はどこかに隠れているのか、それともこれらの怪物たちに捕まり、その犠牲となったのか。

 

 答えは両方だ。

 

 少数ながら"覚醒"した者たちは、徒党を組むなりして怪物たちに対抗してはいるが、それでも魔都と化した銀座では少しずつその数を減らしていった。

 

 だが──

 

 東京銀座の中央大通りに、突如として "それ"は落ちてきた。

 

 隕石と見紛うような巨大な石碑(モノリス)だ。

 

 百メートルにも及ぶ巨大な石碑が、天から落ちてきて轟音と共に地面に深く突き刺さる。

 

 その衝撃は地震にも似た揺れを生じさせ、周囲のビルのガラスを次々と粉々に砕き散らした。

 

 破片は鋭い雨となって降り注ぎ、瓦礫に紛れていた小型のゴブリンやコボルトたちを容赦なく刺し貫く。

 

 ・

 ・

 ・

 

「おい! 伏せろ!」

 

 狭いビルのロビーに潜んでいた一人の男が叫んだ。

 

 乱れたスーツ姿で、額には血が滲んでいる。

 

 近くには若い女と、年配の男の姿もあった。

 

 女は泣きそうな声を上げながら、瓦礫の影に身を縮めていた。

 

「わ、私、たべられちゃうんだ……」

 

 若い女はぼろぼろと涙を零している。

 

 男は歯を食いしばりながら、窓の外を覗き見た。

 

 コボルトが数体、鼻を鳴らしながら崩れかけた車の中を漁っている。

 

 それを目撃して怯えた年配の男性が、震える手で口を覆った。

 

 彼らは皆 "覚醒" をしていない……というより、覚醒が何なのかも知らないのだ。

 

 このままでは彼らは哀れモンスターたちの餌となる事は必定だった。

 

 しかし──

 

 謎の石碑が空から現れ、衝突した。

 

 人も人ならざる者たちも、この時ばかりは想いを一つにしていた。

 

 すなわち、『あれはなんだ?』という疑問だ。

 

 通常これほどの質量の物体が地表へ衝突したならば、被害は銀座一つを消し飛ばすだけでは済まない。

 

 関東地方一円が壊滅的な被害を受け、数百万人の犠牲者が出る事は必至──日本は首都機能を失い、復興には数十年の年月が必要となるだろう。

 

 しかし実際にはこの程度の被害で済んだ。

 

 つまりそれは、この石碑には "目的" があると言う事になる。

 

 誰かが何らかの目的の為に送り込んだのだ。

 

 でなければこの程度の被害では到底済まない。

 

 それを人も怪物たちも、理屈、あるいは本能で理解していた。

 

 だからこそ、恐怖より疑問が先立つ。

 

 銀座中の視線が注がれている中、突如、石碑が眩しい光を放ち始めた。

 

 最初は石碑の表面に浮かび上がるかすかな模様のようだった。

 

 だがその光は次第に強さを増し、周囲を埋め尽くすような白い輝きへと変わっていく。

 

「お、おいおい……!」

 

 瓦礫の影に身を潜めていたスーツの男が、思わず目を覆う。

 

 それでも輝きの強さは瞼越しにも伝わり、男の背中を冷たい汗が流れた。

 

 年配の男性は震える手で顔を隠しながら蹲ってしまう。

 

 若い女は恐怖のあまり泣き叫ぼうとしたが、その声すら光の圧迫感に押し潰されたように消えていった。

 

 しかし光を放った石碑はその後、一切の動きを見せなかった。

 

 重々しく、そして不気味に、ただただそこに存在しているだけだ。

 

「な、何だったの?」

 

 若い女が言う。

 

「……隕石、じゃないよな。こんな形のものが自然に落ちてくるわけがない……」

 

 スーツ姿の男が震える声で呟いた。

 

 当然答えはない。

 

 ふと老人が外に目を遣る。

 

 風が吹き始めていた。

 

 冷たく、強い風だ。

 

 まるで神の見えざる手が、この場所で新しい何かを始める為に掃き清めているかのようだった。

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