東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第21話 空の襲撃者

 

「俺のアングリー・オーガを先頭に立てるか」

 

 陣内が三崎に言う。

 

『剛腕をかざすアングリー・オーガ』のレア度は5。

 

 見た通りの優れた膂力と耐久力を誇る強力なモンスターだ。

 

 先頭で敵の目を惹きつけるにはうってつけと言える。

 

「それじゃあ瀬戸はサキュバスで援護してくれるかな? サキュバスって敵を誘惑したりとか、そういう事が出来るとおもうんだよね。ゲームや漫画だと大体そんな感じだし、これまで見てきたモンスターも僕らの想像を大きくは外さなかったし」

 

 三崎が言うと、絵里香は少し厭そうな目で陣内を見る。

 

 絵里香の中にはまだ少し、陣内に対するわだかまりがあった。

 

「……えっと、どうかした?」

 

「ううん、なんでもないよ、分かった。そうするね」

 

 しかし三崎がそう尋ねると、絵里香は取り繕った様な笑顔を見せ了承した。

 

 その態度に気になるものがないと言えば嘘になるが、三崎は敢えて追及しない。

 

 問題の先送りともいえるが、顕在化させてしまえば関係がより悪化する事も往々にしてあるからだ。

 

「誘惑とか、そういうのは出来るかわからないけど……」

 

 絵里香がそう言ってサキュバスの事を考える。

 

 ──『レア度4/女魔サキュバス/レベル1』

 

 絵里香が知るサキュバスの力は、正直言って強力なものとは思えなかった。

 

 先だっての教室襲撃の際には、襲撃してきたモンスターたちに対しては鋭い爪で以て応戦をしていた。

 

 それは例えるなら刃物を振り回すようなもので、絵里香にはどうにも心細く思えてしまう。

 

 ──もっとこう、魔法とか……

 

 そんな事を思う絵里香だが、三崎に頼りない姿を見せたくないという思いもある。

 

「色々と、モンスターと触れあってみるのもいいのかも」

 

 三崎が不意にそんな事を言い出した。

 

 いつの間にか、その場の者たちは皆三崎に注目している。

 

「触れあう?」

 

 絵里香が尋ねると三崎は頷いた。

 

「 なんていうかさ、"この力" って何なのかなって。なんかゲーム染みてていまいち実感がわかなかったんだけど、あのオーク・ロードと戦った時に何となくゴブリンの思いというか、気持ちみたいなものが分かったんだよね 」

 

 三崎はその時感じた事を話した。

 

「あの時僕は、ゴブリン・ジェネラルがどんな人……人? うーん……存在なのかが何となくわかったような気がしたんだ。どこから来て、それまでどんな生活を送っていたのかとか、僕に何を望んでいるのかとか。つまりね、ゲームの駒とかではなくてさ、人間じゃないっていうだけで彼らもちゃんと生きていると僕は思う。だから、命令すれば何でもやってくれる便利な存在とかじゃなくて、ちゃんと面と向かって接して……うーん、ごめん、なんかとっちらかっちゃったね」

 

 三崎は口をひんまげて首をかしげる。

 

 考えている事を上手く口に出せないようだ。

 

 だが、絵里香をはじめ、その場の者たちには何となく三崎が言いたい事が分かったような気がした。

 

「そういえば、召喚したモンスターって召喚した人に似てない?」

 

 山本がそんな事を言い出す。

 

 三崎は確かに、と陣内を見た。

 

 だが山本の発言には少々問題もある。

 

 なぜならば──

 

「じゃあ山本君は私がサキュバスみたいな女だと思ってるってこと?」

 

 絵里香がそんな事を言い……

 

 メデューサを召喚した女教師、九条 誠子もじっとりとした目で山本を見ていた。

 

「い、いや、そうとは言っていなくて……」

 

 山本はしどろもどろだ。

 

 助けを求めるように三崎を見るがしかし、三崎も複雑そうに山本を見返していた。

 

「僕って、ゴブリンに似てる?」

 

 別にゴブリンを見下しているわけじゃないけど、と三崎は思うが、どうにも複雑な思いは拭えない。

 

 なにせゴブリンときたらお世辞にもかっこいいとかかわいいとか、そういうビジュアルではないためである。

 

「タイガー・ゴブリンとかゴブリン・ジェネラルは恰好いいけど、あれはあれで何か違う気がする……」

 

 勇壮過ぎてどうにも自分っぽくない、と思う三崎であった。

 

 そうして一同はそんな話をしながらも、ある程度の段取りを組んでいき──

 

 ・

 ・

 ・

 

「それじゃあ準備はいいな?」

 

 陣内が言った。

 

 いよいよ脱出だ。

 

 三崎はもちろん陣内、山本、絵里香、早紀、カンナ、杏子らにも家族は居り、いつまでもこんなモンスターが跋扈する場所には居られなかった。

 

 皆1秒でも早く学校を脱出したい、そう思っている──ただ一人、九条 誠子以外は。

 

 ◆

 

 ところ変わってここは屋上。

 

 数十人の生徒たちがここに立て籠もっている。

 

 校内に侵入した何十何百というモンスター達に追い立てられたのだ。

 

 中には "覚醒" に至った者もいるが、それにしたところで数人程度では状況を打破する事は出来ない。

 

 頼りの覚醒者も、階下からやってくるモンスターとの戦闘で消耗が激しい。

 

 屋上の一角には負傷者が何人も横たわり、周囲はさながら野戦病院然としている。

 

 そういった様相、それに加えふわりと鼻孔に届く錆びにも似た香りや、大半の者たちが浮かべている切羽詰まったような表情が空気を更に悪いものにしていた。

 

 そんな中──

 

 ◆

 

「お、おい! あれ!!」

 

 室井 茂人の叫びが、屋上の張り詰めた空気を切り裂いた。

 

 室井はフェンスから身を乗り出し、指を伸ばして体育館の方角を指している。

 

 複数の人影──三崎たちだ。

 

「誰かいるぞ……! あれって……三崎たちだ!!」

 

 室井の叫びに反応し、他の生徒たちも次々にフェンス際へと押し寄せる。

 

 そこには確かに数人の人影が、体育館の裏口から外へと出ようとしているのが見えた。

 

「おーい! こっちだーっ! 助けてくれー!」

 

 大声で助けを求める室井。

 

 続いて他の生徒たちも次々に叫び始めた。

 

 その声に応じるように、フェンス際に群がる人々の数が増えていく。

 

 三崎達の姿だけならそこまでの声はあがらなかったかもしれない、しかし三崎達は召喚したモンスターたちとも一緒だった。

 

 "覚醒" については室井達も屋上の覚醒者から聞いて、ある程度の知識はある。

 

 レア度やレベルといった概念も理解している。

 

 問題は、屋上の覚醒者たちが召喚したモンスターが脱出の直接的戦力となるほど強力ではないということだった。

 

 しかし三崎達はどうやら強力なモンスターを召喚できているらしい──と、室井達にはそう見えた。

 

「……ほんとだ。あれ、三崎だ……!」

 

「助けてくれるのか!?」

 

 誰もが希望を抱き、渇望するように声を張り上げる。だが、その熱狂の中に紛れるように、一人がふと呟いた。

 

「なあ……あれ、なんだ?」

 

 生徒の一人が何かに気付き、空の方を指差した。

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