東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第25話 ノー・プラン

 ◆

 

 マ・ヌたちの群れの中から飛び出した数体の個体が、一際目立つ陣内のアングリー・オーガに猛然と襲い掛かる。

 

 オーガは腕を振り回して応戦するものの、防戦一方の状況は覆らない。

 

 鋭い爪や嘴を持つ敵の猛攻に、徐々に押されていく巨体。

 

 絵里香のサキュバスもその背後から援護を試みるが、その攻撃は決定打には程遠く、無力さを露呈していた。

 

 絵里香の胸には焦燥と疑念が渦巻いていた。

 

 サキュバスはレア度こそ高いが、その真価を彼女自身が掴めずにいたのだ。

 

 鋭い爪を振るい敵を切り裂く──それだけがサキュバスの力の全てであるとは到底思えなかった。

 

 男を魅了し、惑わす魔性の象徴──それがサキュバスだ。

 

 サブカルに疎い絵里香もそれくらいは知っている。

 

 しかし、これまでの戦闘でその能力は一切発揮されていない。

 

 絵里香はどうすればその力を引き出せるのか、答えを持たぬまま見守るしかなかった。

 

 マ・ヌたちの猛攻はさらに苛烈さを増すが、その時。

 

 一体のマ・ヌがその場に倒れ、痙攣をし始めた。

 

 死んだわけではなさそうだが、明らかに異常をきたしている。

 

 見れば、山本のイエロー・パイソンが木立の陰から忍び寄り、アングリー・オーガに気を取られていたマ・ヌの脚に麻痺毒の牙を食い込ませたのだ。

 

 続けて、何かとても速いモノがマ・ヌの頭部に衝突し、その頭部を勢いよく跳ね上げる。

 

 まるで狙撃手に見事なヘッドショットを決められたかの様な様子に、周囲のマ・ヌたちの動きが暫時凍りついた。

 

 これは鷹野 早紀の召喚モンスター『貫き喚くランサー・クロウ』の仕業だ。

 

 この鋭い嘴を持つ怪鳥は隼に倍する速度で飛び回り、疾駆の勢いそのままに自身の嘴を獲物の頭部へ突き立てる。

 

 直線的な動きであるため、備えられているとまず当たるモノでもないが、油断をしていれば話は別だ。

 

 こうして次々とピクシーの雷撃が、ノッカーのパワフルな大槌の一撃がマ・ヌたちに襲いかかった。

 

 ──作戦というほど大層なもんじゃねえけどな

 

 陳内はそんな事を思いながら、アングリー・オーガを見守る。

 

 陣内の作戦はシンプルだ。

 

 奇襲のリスクがあるとはいえ、それはあちらにとっても同じ事。むしろ伏兵を仕込む時間がある分こちらが有利──だったらやらせてもらおう、くらいのものだった。

 

 サイズが小さい召喚モンスターをそこかしこに忍ばせておき、そしてマ・ヌたちの襲撃に合わせて奇襲させるだけだ。

 

 ──まあこれでどうにかなる程甘くはねえんだろうけどな

 

 意表はつけたがそれだけだ。

 

 戦況はすぐにマ・ヌ有利へと傾くだろう、いかんせん戦力差が大きすぎる。

 

 ◆

 

 陣内の予想は当たった。

 

「ぱ、パピー!」

 

 山本が叫んだ。声には悲壮感がこれ以上ないほど滲んでいる。

 

 パピーとは『痺れ牙のイエロー・パイソン』の愛称だ。

 

 そのパピーが胴の半ば、その二か所を掴まれ、力任せに引き延ばされている。

 

 マ・ヌはパピーを引きちぎろうとしているのだ──そして。

 

 ばつんと厭な音を立てて、イエロー・パイソンことパピーが体液をまき散らしながら千切れ果ててしまった。

 

 山本が悲鳴を上げるのも無理からぬ事だが、犠牲になったのはパピーだけではない。

 

 ピクシーやノッカー、ランサー・クロウといったモンスターもマ・ヌに数回啄まれただけで命を落としてしまう。

 

 まあ死んだといってもモンスターたちにとってこの世界の死は本当の死ではない。

 

 マナの粒子に還っただけで、クールタイム時間が過ぎれば再び召喚出来るようにはなる。

 

 ただ、問題は──

 

「や、やばい……」

 

 山本が慄きながら後退った。

 

 身を護る召喚モンスターがいなくなったことで、マ・ヌらがダイレクトに召喚者を狙う事が出来るようになったのだ。

 

 勿論召喚モンスターが生きている状況でも召喚主を狙う事は出来るのだが、マ・ヌらがそれをしない理由はちゃんとある。

 

 ともあれ、山本は元より召喚モンスターを喪ってしまった他の者たちも絶対絶命だった。

 

 陣内のアングリー・オーガと絵里香のサキュバスはまだやられてはいないが、やはり防戦一方のまま山本たちを援護できそうにもない。

 

 無防備な山本たちを見るマ・ヌの目が嗜虐的な光を帯び、嘴をカチカチと慣らした──まるで "美味い肉" を前に舌なめずりする美食家の様だ。

 

 そのままでは哀れ皆殺しの憂き目に遭う所だったが──

 

 マ・ヌたちが狂喜の舞を踊るように襲い掛かるその刹那、閃光の如き雷撃が空間を貫いた。

 

 その光の中心に現れたのは、一体の雄々しいモンスター。

 

 全身に雷の紋様を刻みつけたかのような、神々しいまでの威圧感を放つ──レア度5、レベルは3、獣心のゴブリン・ジェネラル。

 

 ◆

 

 自身の鼓動のリズムが手斧の柄へと伝わり、それに合わせて刃に纏う雷光が律動する。

 

 "元の世界" の荒野で毎日のように鳴り響く雷鳴が、ゴブリン・ジェネラルを昂らせた。

 

 歴戦の勇士はマ・ヌの群れを見て、口元に太々しい笑みを浮かべる。

 

 かつてならば鎧袖一触、しかし()()()()ならば苦戦は免れないだろう。

 

 しかし、苦戦はゴブリン・ジェネラルにとって苦水ではなく甘露だった。

 

 そもそも "この世界" への招きを受け入れたのも、さらなる苦戦、さらなる苦境を求めての事なのだ。

 

「グルルァァァ!!」

 

 バトル・クライを高鳴らせ、ゴブリン・ジェネラルは駆けだした。

 

 ・

 ・

 ・

 

 三崎としてはもったいぶったつもりはなかった。

 

 しかしゴブリン・ジェネラルを召喚するためには、ノーコストでポンと出来るわけではない。

 

 卑しき尖兵ゴブリン2体を勇爪構えるタイガー・ゴブリンへ "合成" 、そしてタイガー・ゴブリンを "進化"させる必要があるのだ。

 

 ──くそ、皆に合わせたかったけど……

 

 三崎は内心舌打ちする。

 

 ──まあでも、これでもう少しだけ時間を稼げそう、かな? 

 

 そんな事を思う三崎だが、時間を稼いでどうするのかは三崎本人にも定かではない。

 

 腹案らしきものがないわけではないが、それにしたところで作戦云々などと言えるほど大層なものではなく、どちらかといえばヤケクソめいたものなのだ。

 

 ──流石にこんな事、皆には言えないよなぁ

 

 三崎は内心で溜息をつき、ゴブリン・ジェネラルの戦いを見守った。

 

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