東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第30話 兄妹

 ◆

 

 夕暮れ時、三崎と麗奈はそれぞれの一日について話し合っていた。

 

 部屋は薄暗いが、オイルランタンなど光源はある。

 

 それだけではなく、いずれ来るという震災に備えて三崎の家には様々な避難用品が用意されている、当然食料も。

 

「学校に向かってる途中でね」

 

 麗奈がソファに腰掛けながら言う。

 

「急に灰色の霧が、まるで津波みたいにこっちに向かってくるのが見えて……」

 

 麗奈は兄の隣にぴたりと寄り添って、その時の恐怖を思い出すように身を寄せる。

 

「覚えてる? この前見た『フォッグ』」

 

「ああ」

 

 三崎は頷いた。

 

『フォッグ』とは霧に閉ざされた町で、住民たちが次々と姿を消していくホラー映画だ。

 

「あの映画に似てるなぁっておもった。『フォッグ』も霧の中から怪物が沢山でてきて──」

 

 麗奈は当時、怖がって三崎の腰にしがみついて映画を観ていた。

 

 今日もきっと、同じような恐怖を感じたのだろう。

 

「よく家まで逃げ帰ったね」

 

 三崎が麗奈の頭を撫でると、麗奈は猫のように目を細めて兄の手のひらに頬を擦りつけてきた。

 

「うん。だって私に何かあったら、お兄ちゃんは悲しんじゃうでしょ?」

 

「まあ、そうだけどさ」

 

 三崎は苦笑をしながらぼんやりとテーブルに置いてあるラジオを見る。

 

 ラジオもまた避難用品の一つだ。

 

 周波数は震災用のそれに合わせてある。

 

「お兄ちゃん、ちょっとお腹すいたね」

 

 麗奈は三崎の腕にしがみつきながら言った。

 

 周囲の者たちからはクールだのなんだのと綺麗だけど冷たい子などと言われている妹だが、家の中では甘えん坊に戻る。

 

 というより、三崎の前でだけその素顔を見せるのだ。

 

「少しお腹に入れておこうか」

 

 そういって三崎は台所の奥に向かい、床の備蓄庫を開けた。

 

 震災に備えて常備していた保存食だ。

 

 レトルトカレーに、缶詰め、カンパンや長期保存できる水など──電気もガスも水道も止まった状況でも食べられるものばかりだった。

 

「これでいいか」

 

 三崎はカンパンとジャムの瓶を持ってリビングに戻る。

 

 それを見た麗奈は露骨にゲンナリしながらも、三崎から缶を受け取った。

 

「そんな顔するなよ、まあ気持ちは分かるけど」

 

「お口の中モソモソするんだもん……」

 

 文句を言いながらも、麗奈はカンパンをぱくぱくと口に運ぶ。

 

 アーマード・ベアを召喚している麗奈は、普段以上に食欲があるようだった。

 

 モンスターの維持にはマナだけじゃなく体力も必要なのかもしれない。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。アーマード・ベアの名前どうしようかなって」

 

 食事をしながら麗奈が言う。

 

 名前? と一瞬三崎は困惑するが、確かに自分もゴブリンたちに名前を名づけをしようと考えている。

 

「そうだな。熊だからクマ太郎で──ああ、わかったって、嫌なんだろ?」

 

「うん、もっとかっこいい名前がいい」

 

 麗奈は兄の隣で、時折体を寄せながら食事を続けた。

 

 二人は他愛もない会話を交わしながら、カンパンを食べ続けた。

 

 完全に日が落ちると、街灯の消えた外は暗闇に包まれていた。

 

 しかしこの暗闇の中でもモンスターは活動しているのだろう、時折、何かを引き摺るような音がする。

 

 そういった状況では気も休まらず、三崎は無意識にピリついた雰囲気を出していた。

 

 だが警戒するばかりではなく、休めるときに休むというのも大切な事だ。

 

「お兄ちゃん、そろそろ休もう?」

 

 見かねた麗奈の声が、ろうそくの明かりに揺らめく。

 

「うん、そうだね」

 

 そういって三崎はふぅ、と短い溜息をつく。

 

 ──随分長い一日だったなぁ

 

 メンタルのタフさでは人後に落ちない三崎ではあるが、朝からの連戦連闘は三崎の神経と体力を大いに削っている。

 

「私、お兄ちゃんと一緒に寝たい」

 

 麗奈がそんなことを言った。

 

 三崎は「だめだよ」と言おうとした。当たり前だ、もう二人でベッドを共にする年齢ではない。

 

 しかし──

 

 この異常事態の中で、いつ何が襲ってくるか分からない。

 

「そうだな。今日は特別だ」

 

 二人はラジオを持って三崎の部屋へ向かった。

 

 狭いベッドの中で、麗奈は兄の胸元に密着するように身を寄せる。

 

 甘えているのか、単に怖がっているのか、それともその両方か。

 

 三崎は軽くため息をつきながら腕を回し、麗奈を抱きしめた。

 

 ──まだまだ子どもだなあ、妙にあったかいや

 

 子どもの体温は高いというのをどこかで聞きかじった三崎がそんな事を考えていると──

 

 麗奈はまるで子ども扱いするなと抗議でもするように強く三崎を抱きしめ返す。

 

 それから暫く経ち、寝室には二つの寝息が静かに響いた。

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