東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第32話 打蛇打七寸

 

 ◆

 

「お兄ちゃん、私も行く」

 

 麗奈の声には迷いがなかった。

 

 反対に、三崎は少し迷う。

 

 麗奈のアーマード・ベアは確かに強力な戦力だ。

 

 普通ならここで断る手はない。

 

 だが、それでも家族の事となると素直には頷けなかった。

 

 三崎はちらっと山本を見る。

 

 山本は友人だ。親友と言えるほど親しくはないが、それでも共に死地を逃れるために共闘した分親近感がある。

 

「ねえ、山本」

 

「……なんだ?」

 

 三崎の声にはまるで緊張感がない。

 

 ちょっとした呼びかけ──そんな風情であったが、山本は直感で三崎が何かとても深刻な事を言おうとしていると察した。

 

 手を抜くつもりはないよ、と三崎は言う。

 

「何とかして山本の家族を助けられるように努力する。少しくらいの怪我も覚悟してるよ。でも、いざとなったら僕は麗奈を連れて逃げるけど良いかな? 山本は友達だけど、麗奈は家族なんだ」

 

 だからもし駄目だったとしても、恨まないで欲しいな──そう三崎は山本に告げた。

 

「……分かってる。当たり前の、事だと思う。っていうかお前本当になんていうか、変わった奴だよなあ。いや、良い意味でさ。うん、分かった。お前が努力してくれるっていうなら、本当に努力してくれるんだろうし」

 

 山本は改めて三崎の事をまじまじと見た。

 

 日常が "こう" なってしまう前は、三崎は極々普通の生徒にしか見えなかった。

 

 何に優れたわけでもなければ、劣っているわけでもない──普通を地で行く地味な同級生だった。

 

 ──人ってよく分からないものだなぁ

 

 山本はそんな事を思いながら、自転車に跨る。

 

 そして山本の自転車の後部座席に三崎が跨がると、麗奈はアーマード・ベアを見て一瞬視線を合わせた。

 

 するとこの装甲に覆われた巨大な熊は、まるで幼い主を守護する騎士のように跪き、麗奈をその背に乗せる。

 

「おお……なんか、様になっているというか」

 

「何でも言う事聞いてくれるいい子なんです」

 

 山本の言葉に、麗奈は得意そうに返す。

 

 ◆

 

 そうして一行は先を急いだ。

 

 ただし、街を跋扈しているであろうモンスター達を刺激しないようになるべく静かに。

 

 やがて山本の家が見えてきた時、三崎の呼吸が止まった。

 

 ──なんて、大きさだ

 

 優に全長15メートルはある巨蛇が、まるでおもちゃを握りしめるように家を取り囲んでいた。

 

 15メートルという高さはマンションの5階程度に相当する。

 

 鱗は朝日を反射して金属のように輝き、頭部にはどことなくコブラを思わせるヒレのようなものが見える。

 

「全然動かないね……」

 

 まさか死んでいるわけもないだろうけど、と三崎は目を凝らして観察してみる。

 

「寝ている、のかな?」

 

 一見微動だにしていないように見えるが、よくよく見れば胴体が僅かに動いている。

 

 三崎は家の手前で一同を止めた。

 

 ゴブリンたちを召喚し、作戦を練るが──

 

「作戦といっても正直、寝込みを襲うくらいしか思いつかないなぁ……」

 

「だよな……」

 

 三崎と山本が難しい表情を浮かべる。

 

「レア度と名前、そしてレベルしかわからないからねぇ。ゲームとかだと弱点も分かったりするんだろうけど」

 

 あいにくこれは現実だ。弱点は分からないが、いくら相手が眠り込んでいるとはいえ、無策で襲い掛かるのは上策には思えない。

 

 だが救いの手は意外な所から差し伸べられた。

 

「打蛇打七寸(ダァー・シァー・ダァー・チィー・ツウェン)。中国のことわざで、物事を成すには要点を掴めっていう意味なんだけど、これをそのまま読むと、頭から七寸の場所に心臓があるって書いてあるんだよね。心臓って弱点なんじゃないの?」

 

 麗奈がドヤ顔で人差し指をたてて宣(のたま)った。

 

「え、麗奈なんでそんな事知ってるの?」

 

 三崎が驚いて尋ねると、麗奈は「漢文の授業で習ったよ」などと澄ました顔で言う。

 

「学校の勉強も役にたつもんだなぁ」

 

 山本の言葉に、三崎も馬鹿みたいに頷いた。

 

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