東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第37話 渋谷へ② 

 ◆

 

 渋谷へ向かって歩き出して暫く。

 

 三崎たちは奇妙な光景を見た。

 

「見て、お兄ちゃん。……あれってなんだとおもう?」

 

 麗奈がS公園の方を指さして言った。

 

 近所にある何の変哲もない公園である。

 

 遊具は滑り台だけ。

 

 広さも大したことはない。

 

 ベンチすらないため、休日でも余り人はいない。

 

 普段ならば視界にとどめる事すらないのだが、この時ばかりは違っていた。

 

 公園を囲う様に植えられた植物が、どれもこれも奇妙に変異しているのだ。

 

 樹皮が赤黒く変色し、葉も赤茶けている。

 

 全体からは樹液のようなものが染みだし、そんな植物同士がそれぞれ絡み合っている。

 

 三崎の脳裏には全身の皮膚を剥かれた人間同士が抱きしめ合うような、そんな生理的嫌悪感を伴う不気味な光景が浮かんでいた。

 

「……何なんだろうね」

 

 麗奈の問いに、三崎は低い声で答えた。

 

 いままでこんな気持ち悪いものは見た事がない。

 

 そして、そんな気色の悪い植物群なのだが──薄っすらと赤く光っているのだ。

 

 光は一定の光量というわけではなく、脈動するように明滅している。

 

 さらに、光は一定周期で "光の泡" のようなものを上空へぽこりぽこりと吐き出していた。

 

 やわらかく泡のように膨らんだ光の泡は、ふわふわと漂いながら霧に溶け込むように上昇していく。

 

「なんだかアクアリウムっぽくない? それもとびっきり悪趣味な……」

 

 麗奈が冗談めかして言うが、残念ながら重苦しい空気を払拭出来たとは言えなかった。

 

 実際にはどこか生理的な不快感を伴う不気味さがある。

 

 肌にまとわりつくような濃い霧と、得体の知れない赤い光の動きが相まって、この公園の空気ごとすべてが厄を孕んでいるようにも思える。

 

「……ここから離れたほうがいいかも」

 

 三崎は言った。

 

 なんとなくこれらの植物から "見られて" いる様な気がするのだ。

 

「もしかしたら、もんすたあ? になっちゃうかもしれないもんね」

 

 麗奈がわざとらしくぶるっと震えて答える。

 

 そう、 "モンスター" だ。

 

 政府はこの騒動が起きてすぐ、全国にラジオ放送を通じて緊急の通達を行った。

 

 突如として出現した怪物たちを「モンスター」と呼称することにしたのだ。

 

 聞く限りでは、政府の発表はいずれも要領を得ないものばかりだった。モンスターの正体は不明。どこから現れたのかも分からない。対処法を模索中だとか。

 

 結局のところ、分かっていることと言えばこの怪物たちが人間にとって明確な脅威であるということだけだ。

 

 おそらく政府も混乱の渦中にあるのだろう。

 

 人智を超えた存在が突如として出現し、しかもその数が刻一刻と増えているという状況で適切な対応など打てるはずもない。

 

 指針がないまま、人々は恐怖の中で右往左往することを余儀なくされていた。

 

 モンスターへの対処法が確立されていない以上、 "覚醒" に至っていない一般市民にできることは逃げるか隠れるかしかない。

 

 それすらも、この霧に覆われた世界では簡単なことではないのだが。

 

 ◆

 

「とりあえず駅に向かおう」

 

 三崎が提案すると、麗奈は首を傾げた。

 

「電車動いていないとおもうよ……ああ、そっか、線路沿いをいくってこと?」

 

「そうそう。そのほうが近いとおもうから」

 

 濃密な霧の中を進んでいく二人。

 

 警戒のために先行させていたゴブリンたちが突如、けたたましい声を上げ始めた。

 

 ギャッギャッという甲高い警戒音が霧に吸い込まれていく。

 

 三崎の背筋が凍る。

 

 ゴブリンたちの警戒音は、つまりモンスターと遭遇したということを意味していた。

 

 アーマード・ベアが素早い動きで麗奈を肩から下ろして喉の奥から低い唸り声をあげる。

 

 三崎が即座に周囲を見渡すと、霧の向こうに黒い影。

 

 一つではない──複数の異形が蠢いているのが見て取れる。

 

 霧の中で影がさらに大きくなっていく。

 

 戦闘は、もう避けられそうになかった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ──『レア度1/血肉侵されしレッサー・ゾンビ/レベル1』

 

 ──『レア度2/嘆きの淑女レッサー・バンシィ/レベル1』

 

 ──『レア度1/…………』

 

 ──『レア度………………』

 

 次々と沸いてくるモンスターを、三崎と麗奈は懸命に迎撃していた。

 

 それにあたって、三崎は急ごしらえの戦術を立てている。

 

 といってもゴブリン二匹が敵を誘導し、アーマード・ベアが囲まれないように立ち回るという簡単なものだ。

 

 もしゴブリンがやられてもクールタイムはごく短いので、すぐに次のゴブリンを召喚できる。

 

 一番まずいのはアーマード・ベアが敵を追いかけるうちに、いつの間にか三崎と麗奈のそばを離れてしまうことだ。

 

 だからアーマード・ベアは基本的に迎え撃つというスタンスを崩したくはなかった。

 

 そんな中麗奈がぶつぶつと何かを呟いている様子が見えて、三崎は思わず声をかける。

 

「麗奈、大丈夫?」

 

 すると麗奈は、どうやらアーマード・ベアにあれこれ指示を送っているのだという。

 

 集中すると頭の中で考えていることが声になって漏れてしまう、と麗奈は言った。

 

「それにね、くまっちにああしてこうしてってお願いするとね、くまっちも喜んでくれるんだよ。普段より力が出るんだって。……あ! 目の前から来るあのキモいのをやっちゃって!」

 

 するとそれを聞いたアーマード・ベアは唸るような低い声を漏らしたかと思うと、目の前に迫り来るレッサー・ゾンビを鋭い鉤爪で一気に薙ぎ払う。

 

 レア度もレベルも低いモンスターとはいえ、圧巻の迫力だった。

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