東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第45話 魔樹を破壊せよ①

 ◆

 

 着弾の爆音が響き渡り、一瞬で濃密な衝撃波がまわりの空気を震わせる。

 

 三崎たちは思わず身を屈め、耳を塞ぐ。

 

 しかし、その圧倒的な火力をもってしても、結界に生じたのはほんのかすかな波紋めいた歪みだけだった。

 

 砲弾はやはり何かに呑み込まれるようにして消え、目に見える破壊の痕跡はない。

 

「……駄目か。戦車砲ですら通じないとなると、我々に打てる手はほぼ尽きたことになる」

 

 松浦は苦虫を噛み潰したような表情で呟く。

 

 戦車の砲撃を二発、三発と続けても結果は同じだった。

 

 強固というよりも、“そもそも干渉不可能”な壁。

 

 その正体は一体何なのか。

 

 ──ゴブリン・ジェネラルを出すべきかな? でも……

 

 三崎は思案するがやはり壁をどうこうするというのは無理そうに思える。

 

「一度退いて、別の手を考えるしかないか……」

 

 松浦が渋い顔でそんな事をいうと──

 

「指揮官!」

 

 ふいに隊員の声が上がり、松浦が振り返ると、周囲の霧が急激に濃くなってきているのが分かった。

 

 まるで壁に対しての攻撃に反応しているかの様に、灰色の霧がじわじわと広がり始める。

 

 視界がみるみる悪化し、建物の影がかすんで見えなくなっていくほどだ。

 

「さっきまで比較的晴れていたはずなのに……」

 

「これ以上ここで粘っても、モンスターに襲われるリスクが高まるだけだ。君たちはトラックの所まで戻れ!」

 

 松浦が的確に指示を下し、兵士たちも撤退準備を始める。

 

 そんな中、トラックから降りていた自衛隊員の一人が慌てた顔で報告に走ってくる。

 

「指揮官、結界の近くにある公園に奇妙な植物らしきものを発見しました。赤黒い樹皮をした、どうにも不気味な代物なのですが──」

 

「まさか『魔樹』か?」

 

 松浦は三崎たちの方を見やる。

 

 三崎は先ほどの会話で山本の家にあった不可解な樹木について説明していた。

 

 あれと同種かもしれない植物が、区境付近の公園で見つかったというのだ。

 

「よし、だったら次はそちらを──」

 

 松浦が指示を飛ばそうとした次の瞬間、傍らに立つ部下から緊急の連絡が入る。

 

「周辺ルートでモンスターが目撃されたとのこと。こっちへ押し寄せる形跡があります。数は不明ですが、これまでになく大規模だという報告が……」

 

 まさに「悪い報せは重なる」とはこのことだ。

 

 モンスターが押し寄せれば、今以上に混乱は避けられない。

 

 結界の突破を試みるどころではなくなるだろう。

 

「総員、警戒態勢を維持! 攻撃隊は後退をしつつ、 "魔樹" らしきものが発見された公園へと向かう! 戦車隊はこのまま後ろに下がりながら、可能な限り火力支援をしろ!」

 

 一気に周囲が騒がしくなる。

 

 エンジンの唸る音、隊員同士の怒号。

 

 そして濃くなっていく霧の向こうに見える──多数の異形の影。

 

 ◆

 

「来るぞ──撃てっ!」

 

 松浦の指示とともに、自衛隊が一斉射撃を開始する。

 

 アサルトライフルの連射音と装甲車の機関砲がすさまじい轟音を撒き散らし、濃い霧の中へと火線を穿つ。

 

 視界は最悪だが、火器管制システムや兵士の訓練された勘で、モンスターの影を的確に捉えていく。

 

「ギャッ……!」

 

 凄まじい銃撃により、複数のゾンビや獣型モンスターが次々と倒れ込む。

 

 頭部を撃ち抜かれた個体はそのまま地面へ崩れ落ち、かすかな呻き声を漏らす個体もいたが、やがて光の粒子となって霧散する。

 

 モンスターは死ねば魔石を残し、塵と化すのだ。

 

──ゴブリン・キャスター!

 

 三崎が思念を送ると、それを受け取った老ゴブリンは次から次へと周囲に黒い粉を振りまき、手に持つ杖で狙うべき場所を指定していく。

 

 黒い粉は生きもののように宙空を流れ、そして狙った場所で着火、爆裂する。

 

しかしゾンビ程度なら容易に屠れるが、中には硬い外殻を持った甲虫めいたクリーチャーも混ざっているようだ。

 

とはいえそういった相手には──

 

「くまっち! 少し左に回り込んで! 後ろから来る奴らを押さえて!」

 

 麗奈が素早く指示を飛ばす。

 

 アーマード・ベアは巨体を揺らしながら、後方から回り込むモンスターを力任せに薙ぎ払う。

 

 鋭い鉤爪が一閃し、獣型モンスターの頭部を一撃で粉砕。

 

 血飛沫が霧に溶け、濃厚な肉の臭いが鼻を突く。

 

「すごいな……圧倒的じゃないか」

 

 隊員の一人が思わず驚嘆の声をあげる。

 

 自衛隊の火力と覚醒者のモンスターが協力すれば、雑多なモンスターの群れなど容易に制圧できる。

 

 だが──問題は、この攻防がどこまで続くかだ。

 

 霧の奥からはまだまだ気配が絶えない。

 

 際限なく湧き出てくるように見えるモンスターに、何度も迎撃を繰り返す体力と弾薬があるだろうか。

 

「指揮官、弾薬の消費が激しいです。このままでは予備が尽きる恐れがあります」

 

「分かっている! 後退しつつ例の "魔樹" の元へ迎え! 」

 

 松浦は歯噛みするように叫んだ。

 

 予想以上のモンスター数に加え、霧も時間を追うごとに濃くなるばかりだった。

 

 結界の破壊も難しく、かといってモンスターの殲滅もできない。

 

 残る希望は魔樹の破壊のみである。

 

 

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