東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第46話 魔樹を破壊せよ②

 ◆

 

 三崎と麗奈、そして松浦をはじめとする自衛隊の面々は、退路を確保しながら魔樹のある公園へ向かっていた。

 

 銃声と爆音が響き渡るたび、霧の色が濃淡を変えながらうねるように揺れる。

 

 周囲にはいまだ無数のモンスターが徘徊していたが、自衛隊が隊列を組んで銃撃を加え、アーマード・ベアやゴブリンたちが最前線で暴れ回ることで、なんとか進路だけは切り開けている状態だった。

 

 とはいえ、交戦が長引くほど物資の消耗も大きく、松浦の部下たちが口々に「もう弾が尽きそうだ」「こっちの装甲車も損傷が激しい」と訴え始める。

 

 松浦は唇を噛み、何度も周囲を見回しながら、部下たちに後方支援の車両を急がせるよう指示を出していた。

 

 その道中。

 

 モンスターの突然の乱入で、若い隊員が噛みつかれて倒れ込み──

 

「だめだ……もう間に合わない!」

 

 横にいた仲間が必死に引っ張ろうとするが、噛みついたモンスターの顎は鋭い牙で食い込み、血が砂利の上へと滴り落ちていく。

 

 止めを刺すように別の隊員が発砲し、モンスターの頭部を吹き飛ばすが、若い隊員は既に事切れていた。

 

「くっ……!」

 

 松浦は悔しげに拳を握りしめる。

 

 それでも前進を止めるわけにはいかない。

 

 倒壊したビルの隙間を縫うように、ゾンビや獣の混成チームが突進してくる。

 

 若い隊員が声を張り上げる。

 

「撃て! 距離を詰めさせるな!」

 

 自衛隊が一斉に射撃を開始して猛撃を加えた結果、敵の勢いはそがれたが、その分こちらの弾薬もすり減っていく。

 

 それでもなんとか押し返しながら進むうち、遠方に高くそびえる木々の群れが視界に入ってきた。

 

 赤黒い蔦や枝が絡み合い、不気味な赤光がそこかしこで脈動している。

 

「……あそこだ」

 

 松浦が短く告げた。

 

「例の魔樹とやらが公園の中央にあるらしい。周辺には植物が変異したようなモノがごろごろ生えているそうだが……ひとまず急ぐぞ!」

 

 やがて公園の外周に達すると、地面が濡れたように湿り、奇妙な腐臭が鼻腔をついた。

 

 足元を見れば、薄茶色に変色した芝生のようなものがじゅくじゅくと液を垂らしている。

 

 隊員の一人が呟く。

 

「ここ……人の骨みたいなのが混じってます。植物が取り込んだのかもしれません」

 

 ぞっとするようなその言葉に、周囲は一瞬静まり返る。

 

「先へ進む」

 

 松浦は感情を抑えるような声で言い放ち、拳を突き出して全隊の続行を示した。

 

 奥へと足を踏み入れるたび、霧が濃くなっていくのを肌で感じる。

 

 公園内部は一種の沼地のように変貌していた。

 

 倒れた樹木の根も幹も赤茶けて溶けかかり、それらがまるでひとつの塊のように絡み合う。

 

 そして中央あたりで、いちだんと強烈な瘴気を放ちながらそびえ立っているのが──魔樹、と呼ばれる存在だ。

 

 その幹は尋常ではない太さで、皮がめくれ上がったように裂け目だらけ。

 

 そして裂け目からはまるで血液のような赤い液体が垂れ、こぼれ落ちた液体が地面をじゅうじゅうと焦がしている。

 

 枝の先端真っ赤な実がいくつも成っており、それらが風にゆられる様はどこか人の頭の様にも見える。

 

 ──山本の家の庭で見たものとはどこか違うみたいだけど……

 

 三崎はごくりと喉を鳴らす。

 

 麗奈も言葉を失っていた。

 

 近づくだけで生理的嫌悪感がこみ上げてくる、そんな異様だった。

 

「攻撃を開始する。弾薬は惜しむな! 一気に仕留めるぞ!」

 

 松浦がそう声を上げると、隊員たちは迫撃砲やロケットランチャーを準備し始めた。

 

 戦車の砲塔もゆっくりと魔樹へ向き、その鋼鉄の筒口を突きつけ──攻撃が始まった。

 

 轟音が公園を揺らし、大口径の砲弾が魔樹の幹に叩き込まれる。

 

 しかし──魔樹はびくともしない。

 

 第二波、第三波の砲弾も続けざまに命中するが、爆炎は魔樹の表面すら焼くことができなかった。

 

「畜生……どうなってるんだ……!」

 

 松浦が焦燥感を露わにする。

 

 火炎放射器をもった隊員が周囲から一斉に焼き払うが、焼かれた部分はまるで堪えた様子もない。

 

「くそ……効いてないのか……?」

 

 誰かが叫んだ瞬間、魔樹の幹がぶるりと大きく震えた。

 

 枝がまるで生物の様に蠢き、そして振るわれ──近くにいた隊員をしたたかに弾き飛ばした。

 

 隊員は甲高い悲鳴をあげ、背中から地面に落ち、悶絶する。

 

「離れろ! 魔樹に近づきすぎるな!」

 

 松浦が怒鳴るが、次の瞬間には別の隊員が吹き飛ばされ、そのまま赤黒い液の池に突っ込んでしまう。

 

 この池も本来ならば何の変哲もない池だというのに、魔樹が現れてから変容してしまったものだ。

 

 池の水には恐ろしいほどの腐食性があるらしく、突っ込んだ隊員の肌が泡立つように溶け始めていた。

 

「わああああっ!」

 

 その断末魔の声が、濃い霧のなかをむなしく掻き消えていく。

 

「後退しろ……だが攻撃はやめるな!」

 

 松浦は血走った目で指示を飛ばし、なんとか陣形を立て直そうとする。

 

 だが、状況は芳しくない。

 

 長くは保たない弾薬、負傷者の増大、そして魔樹は健在のままだ。

 

 そのときだった。

 

 ひときわ大きな影が、濁った空を切り裂くように現れたのだ。

 

 黒い翼、鋭い嘴、鷲か鷹かと思える猛禽類──しかし、どう見ても普通の鳥ではない。

 

 ロック鳥という架空の巨鳥を思わせる体躯、その全身に黒い霧が煙(けぶ)り、双眸は赤い火種のように光っている。

 

 三崎と麗奈の視界に、不意に淡い文字が浮かぶ。

 

 ──『レア度5/霧啼く黒鳥シムルグ/レベル2』

 

「レア度5……!」

 

 麗奈が息を呑む。

 

「相当強力なモンスターだ……」

 

 三崎はそう呟きながら歯を食いしばる。

 

 これ以上の強敵が加わるなど想像したくもなかったが、現実は待ってくれない。

 

 シムルグは公園の上空を旋回していたが、自衛隊が照準を合わせると察知したように急降下と上昇を繰り返し、その狙いをことごとく狂わせていく。

 

「撃て! 逃がすな!」

 

 重機関銃やライフルが火を噴くが、シムルグの姿を捉える事はできない。

 

「一発も当たらないなんてことがあるかよ……!」

 

 苛立ちと焦燥が隊員たちの間を駆け巡る。

 

 やがてシムルグは大きく旋回し、そのまま魔樹の上部へと滑り込むように降り立った。

 

 魔樹の枝からぶら下がる赤黒い実──その一つを、シムルグは鋭い嘴で突き刺し、ぐちゅりと肉を抉るように食いちぎった。

 

 鳥の怪物は一気に実を飲み込み、そして。

 

 ────ッ!!! 

 

 耳を劈くほどのけたたましい鳴き声がその場に響いた。

 

 三崎は目を見開く。

 

「レベルが……上がってる!?」

 

 ──『レア度5/霧啼く黒鳥シムルグ/レベル4』

 

 

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