東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第5話 脱出へ

 ◆

 

 三崎はタイガー・ゴブリンを先頭に、教室からの脱出を試みることを決意した。

 

 教室に入り込んできた怪物たちは、他にも覚醒した者たちの力もあって倒す事が出来たものの、被害がゼロとは言えない。

 

「は、遥ぁ……うう……」

 

 座り込んで泣きじゃくる女子生徒がいる。

 

 彼女の足元には、首を引き裂かれて事切れている女子生徒が斃れていた。

 

「カンナ……」

 

 絵里香が痛ましい表情を浮かべながらカンナと呼ばれた女子生徒の背中を撫でていた。

 

 三崎は教室の惨状を見てやるせない溜息をついた。

 

 一時の急場を凌ぐ事は出来たが、だからなんだという話だからだ。

 

 外には怪物が群れを成し、いつまた増援が来るかもわからない。

 

 廊下には倒れた生徒や血痕が散乱している。

 

 教室の外に出ていくのも、教室に残るのも安全とは言い切れない。

 

「おい、三崎。どうするつもりだ」

 

 陣内が低い声で三崎に尋ねた。

 

 文句をつけるといった感じではなさそうだ。

 

「正直、参ってるよ……。でもここにずっといるっていうのはナシかなって思ってる」

 

「まあ、な。下の方にはまだ奴らがいやがる。俺達もまあ、ゲームみてぇな力があるけどよ、それでもやべえ状況には変わりはない。っていうかクールタイムってなんだよ、鬱陶しいせ」

 

「陣内の、なんだろう、モンスター? は強そうだったからね」

 

「死んじまったけどな」

 

「多分、レベルっていうのが関係あるんだと思う。陣内のオーガは1だった。侵入してきたモンスターは3とか2とか……」

 

「レア度ってのが高くても、レベルをあげねえとどうにもならねえってわけか……」

 

 陣内は自身でゲームをしない事もなく、理解が早い。

 

「それにしてもお前のタイガー・ゴブリンってのはすげえな。レア度は3でオーガより低いけどよ、レベルが違うとそこまで変わるもんか」

 

 タイガー・ゴブリンはじろりと陣内を睨む。

 

「合成っていうのが使えるみたいなんだ。僕が呼べるのはゴブリンだけだからね……救済措置? なのかも。でももしかしたら、皆にも使える力なのかもしれない。今は分からない事が多すぎるよ」

 

 とにかくここを脱出しなくちゃね、と締めくくる三崎に、 陣内は「そう、だな」と疲れたように答え、先ほどの三崎と同様に教室に散乱する死体の山を見て溜息をついた。

 

 ◆

 

「みんな、ずっとここに居ても危ないと思うんだ。だから脱出したい、と思ってる。幸い、怪物というか、モンスターを出せるようになった人も何人かいるし、余力があるうちに脱出したいとおもうんだけどどう思う?」

 

 普段目立たない三崎がリーダーシップを取る事にその場の誰もが……とは言わないが、ほとんどが文句を言わないのは無理からぬ事だろう。

 

 タイガー・ゴブリンがドスを聞かせる様に周囲を見渡すと、不満そうにしていた者たちも顔を俯かせた。

 

「決まりだな」と陣内が受けて、話は決まる。

 

 しかし、さあ教室から出ようとしたその時だった。

 

「窓から離れろ! 何か来る!」

 

 同級生の山本が叫ぶと、数人の生徒が窓から慌てて離れていく。

 

 間を置かず、窓を破って入ってきたのは石翼を広げた鳥の悪魔の様なモンスターと、金属と思しき肌質の蝙蝠だった。

 

「ひっ……」

 

 肩にピクシーを乗せている杏子が、震える声で慄くのも当然だ。

 

 ──『レア度2/石肌のガーゴイル/レベル2』

 

 ──『レア度2/銅色のブロンズバット/レベル2』

 

 レア度とレベルから相手の強さを知る能力は、一見有用だが時には鎖となりうる。

 

 しかし戦う前から怯えていては、ただでさえ低い勝率がより低くなるだけだ。

 

「タイガー・ゴブリン、頼む!」

 

 三崎はそれを直感的に理解し、指示を飛ばした。

 

 タイガー・ゴブリンは即座にガーゴイルに飛びかかり、激しい戦闘が始まる。

 

 ──レア度とレベルをみても、すぐにやられる事はないはずだっ……

 

 三崎はそう考えるが、しかし敵はもう一体いる。

 

「ブロンズバットが来るよ!」

 

 絵里香が警告した。

 

「パイソン!」

 

 山本が腕に巻きつくパイソンをけしかけると、蛇は素早くブロンズバットに接近し、牙を立てる。

 

 しかし、金属質の皮膚は簡単には牙を通さない。

 

 逆に、ブロンズバットの鋭い牙で噛みつかれてしまう始末だ。

 

「パイソン……!」

 

 山本の目に焦りが滲む。

 

「ピクシー、何か出来ない!?」

 

 杏子が叫ぶ。

 

 するとピクシーは小さい羽を羽ばたかせ、人差し指をブロンズバットに向けた。

 

 ──※※※※※

 

 甲高く、聴き取りづらい声だが何かを言ったらしい。

 

「え!?」

 

 杏子が驚きの声をあげた。

 

 ピクシーの指から一条の光が走り、ブロンズバットを打ち据えたのだ。

 

 バチン、と音がしてブロンズバットはその場に落下する。

 

 生きているが、もがき苦しんでいる様子を見せるブロンズバット。

 

「パイソン! やっちまえ!」

 

 山本が声をかけると、今度は噛みつこうとはせずにその蛇体を巻き付け、ぎゅうぎゅうと締め付け始めた。

 

「そうだ! やれ! いけいけ!」

 

 やがてブロンズバットの茶けた体色は黒ずんでいき、光の粒子へと変わっていく。

 

「山本! やったぁ!」

 

 杏子が笑顔で駆け寄ろうとするが──

 

「あれ?」

 

 ピクシーの様子がおかしい。

 

 へろへろと宙を飛び、杏子の肩にとまるなりぺたりとヘタれてしまった。

 

「疲れちゃったのかぁ……」

 

 見るからに疲労しており、白い顔が更に青白くなっているのを見て、山本が言った。

 

「強いけど、あの技は使い所を選ばないとダメって事か。それにしてもなんだかちょっと……こう……」

 

 山本が口ごもる。

 

「何よ?」

 

「いや、なんかほら、エロいなって……」

 

 ピクシーはその小さい体を汗ばませ、息を荒らげ杏子の肩にしがみついている。

 

 山本が言う様に、 "エロい" かと言われればそうかもしれない。

 

 だがそんな事を言っている状況ではなく、いまもまだ三崎がタイガー・ゴブリンと共にガーゴイルと戦っているのだ。

 

「はあ!? あんたばっかじゃないの!? ちょっと! 近寄らないで! 変態!」

 

 杏子は声を荒らげて山本を罵った。

 

「いや、そういう積もりじゃなくてさ! あ、そ、そうだ、三崎のやつがまだ戦ってるからッ……!」

 

 山本は誤魔化す様に言うが、三崎まだ戦闘中であるのは間違いない。

 

 早速援護しようとした山本と杏子だが──

 

「お、俺のパイソンでどう援護したらいいんだ? 杏子のピクシーも大分疲れちまってるし……」

 

 明らかな戦力差が一目で見てとれ、援護しようにもできないという有様であった。

 

 ◆

 

 ──糞、強いな……

 

 三崎は歯噛みする。

 

 タイガー・ゴブリンとガーゴイルの力は拮抗しており、どちらも決め手が無い。

 

 前者は鋭い動きと牙や爪での攻撃、後者は動きは鈍いものの攻撃は重い。

 

 これは三崎の目論見が外れた形になる。レベル差やレア度以上に、個体それぞれの相性も重要になってくるのかもしれないという考えに、三崎はそのとき初めて思い至った。

 

 ともあれ、殺し合いというのは基本的にダラダラと長引いたりはしないものだ。

 

 タイガー・ゴブリンは多少攻撃を受けても構わないとばかりに、ガーゴイルの硬質な体のある一点を集中攻撃し、ガーゴイルも攻撃を受けつつタイガー・ゴブリンを石のかぎ爪で抉ろうと試みた。

 

 そして、互いの意図がそれそれ叶い──

 

 ・

 ・

 

「タイガー・ゴブリンが……」三崎は悄然とした声で呟いた。

 

 三崎の視界に広がっていたのは、タイガー・ゴブリンとガーゴイルが相打った光景である。

 

 同一箇所を集中攻撃されて首をへし折られたガーゴイル、かぎ爪で腹を抉られたタイガー・ゴブリン。

 

 双方が光の粒子となって消えていった。

 

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