東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第55話 A公園へ

 ◆

 

 三崎たちはビル内での短い休息を終えたあと、すぐに移動の準備に取りかかった。

 

 荒廃した街のあちこちには血の跡や砕けたコンクリートの破片が散乱している。

 

 周囲を警戒しながらも、いつまたモンスターの大群が押し寄せるか分からない状況ではここに長居はできない。

 

 自衛隊の生存者たちも同意見だった。

 

 彼らはすでに多くの仲間を失い、残された弾薬や医療品も限られている。

 

「A公園を目指そう」

 

 年配の自衛隊員が言うと、若い自衛隊員が深い息をついて頷いた。

 

「上からの連絡でもそこに覚醒者が集まり始めているって話でしたし……僕らだけで踏破するには危険が大きすぎますが、合流できればまだ道はあるかもしれません」

 

 麗奈は少し疲れた顔をしながら、その場に腰を下ろしている。

 

 先の激戦や逃走の連続で、体力だけでなく精神的にも疲弊しているのだ。

 

 ちなみに、麗奈のアーマード・ベアはクールダウン中で呼び出せない。

 

 うつらうつらとする麗奈を、三崎は肩を掴んで抱き寄せて自身の脚を枕にして寝かせた。

 

「……ちょっとでも休んどきな」

 

 三崎が声をかけると、麗奈は小さく頷いた。

 

「うん……」

 

 小さく返事をするなりすぐに寝入る麗奈を見ると、三崎としても申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 

 あるいは自宅で籠城していた方がよかったのかという想いもあるが、すぐにそれを否定した。

 

 それはこの状況を作り出した者が誰であれ、安全な場所へ引きこもっている事を良しとするかと考えたからだ。

 

 答えは否だった。

 

 結界を張り巡らせ、 "挑戦し続けること" を強制してきている。

 

 それはつまり──

 

 ──あのまま家に残っていれば、きっと僕らは詰んだと思う

 

 何かしらの妨害があったはずだ。

 

 例えば分かりやすく言えば膨大な数のモンスターがあらわれ、家々を荒らし回るだとか。

 

 霧が家の中に入り込み、そこからモンスターが生まれるだとか。

 

 そんな確信が三崎にはあった。

 

 ◆

 

 暫く休憩をした後、自衛隊員の一人が、外の様子をうかがうように窓から顔を出す。

 

 割れたガラス越しに覗く街並みには、まだ霧が漂っていた。

 

 先ほどまでの戦闘によって一時的に落ち着いているようだが、遠くから不気味な呻き声が聞こえる時もある。

 

「いつまた湧くかわからない。急ぎましょう」

 

 ・

 ・

 ・

 

 全員でビルを出発し、三崎と自衛隊員たちは山手通り方面を東へ進む。

 

 半壊した建物や車両が路肩に折り重なるように放置され、悪臭が風に乗って鼻をつく。

 

 麗奈は負傷兵らと一緒に列の中央に入り、警戒の目を周囲へ巡らせる。

 

「……霧、ちょっと薄い気もするね」

 

 そう呟いた麗奈の声はどこか心細げだったが、確かに視界は先ほどよりは開けているようだった。

 

 歩きやすさは増しているが、敵からも見えやすくなるということでもある。

 

「弾薬が少ないんだ。大規模な戦闘は避けたい」

 

 先頭を行く自衛隊員が、後方へ向けて声を張り上げる。

 

 きりりと引き締まった表情の彼だが、迷彩服のあちこちには血や埃がこびりつき、色濃い疲労の色も滲んでいた。

 

「少しでも複数の敵の気配があったら、迂回しましょう」

 

 無理な戦闘はしない──それがその場の者たちの共通認識だった。

 

 ほどなくして、何かの音が聴こえてくる。

 

 連続する乾いた音と、低く唸るような声。

 

「モンスターかな……」

 

 麗奈が表情を強張らせ、嫌そうに息を飲む。

 

「君たちは何か見えるか?」

 

 自衛隊員が三崎を見た。

 

 "覚醒者" がモンスターの情報を視る事が出来るのは自衛隊員らも知っている。

 

「……もう少し近づいてみないとわかりません──」

 

 三崎がそういった矢先だ。

 

「ん、えっと……『ルー・ガル―』? っていうモンスターと、あとはなんか色々いるみたいだけど……」

 

 と麗奈が言う。

 

「え、見えるの?」

 

 三崎が問うと、麗奈は得意そうに頷く。

 

「はっきりとは見えないけれどね。あれ、お兄ちゃんは見えないの?」

 

 三崎は答えず、麗奈のおでこをつついた。

 

 ・

 ・

 ・

 

「誰かが戦っているなら、放っておけない。モンスター同士の争いかもしれないけど、覚醒者や生存者がいる可能性が高い」

 

 自衛隊員の一人がそういった。

 

 すでに松浦をはじめ、多くの仲間を喪ってきた。

 

 それでもなお、見過ごすことで助けられる命を捨てることはできない。

 

「……どうするの? お兄ちゃん」

 

 麗奈の問いに、三崎は頷いて答える。

 

「もちろん行くよ。ただ、麗奈はだめだ」

 

「え、なんで!?」

 

「アーマード・ベア……あー、くまっちのクールダウンが終わっていないからね。どこかに隠れて貰う感じになるとおもう」

 

 麗奈はぐぬぬという言葉が似合う表情を浮かべるがしかし、素の自分に何が出来るのかという話でもある。

 

 魔石を使ってクールタイムを完全に消化という手もないではないが、アーマード・ベアという強力なモンスターが対象だからか、要求量が非常に多いのだ。

 

 魔石から得られるエネルギー……魔力を数字とした場合、例えば三崎のゴブリンであるなら1のエネルギーで済むところが、アーマード・ベアの場合は100を優に超えてくる。

 

 この状況下で魔石は文字通り命綱だ。

 

 なるべく節約をするという選択肢は間違ってはいないと三崎は考えていた。

 

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