東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第56話 月に吠えるルー・ガルー

 ◆

 

 曲がり角を抜けた先には、四、五階建てのビルが密集する小さな区画があった。

 

 その一角にある低い集合住宅のような建物前に、複数のモンスターが押し寄せているのが目に入る。

 

 ゾンビや獣型、さらには甲虫のような個体まで混じっているようだ。

 

 その中心で、縦横無尽に群れを切り裂く影があった。

 

「……わぁっ……映画とかで見た事あるよ」

 

 麗奈が驚愕の声を上げる。

 

 狼の頭部に逞しい獣の四肢──全身は黒い毛並みで覆われ、二足歩行で立っている。

 

 前傾姿勢を見せたかと思えば、風の様な素早さでモンスターたちを引き裂いていく。

 

 しかし、敵の数があまりにも多い。

 

 一体一体はあっさりと倒せていても、次々と周囲から押し寄せるため、彼……いや、その狼男の動きの鋭さにも陰りが見え始めていた。

 

「何か文字が見える……“月に吠えるルー・ガルー”……って出てる」

 

 麗奈が小さい声で言う。

 

 レア度表示は4、レベル2。

 

 比較的高いレア度のモンスターだが、今は数に圧されている様子だった。

 

「モンスターのはずだけど……他のモンスターと戦ってるね」

 

 三崎が唸るように言う。

 

 しかし、どんな経緯でそうなっているのかは不明だ。

 

 ルー・ガルーが敵なのか味方なのか判断できないまま、ただ状況だけが視界に飛び込んでいる。

 

「あの個体は建物を守るようにして戦っていますね。もしかしたら覚醒者がいて、それを守るために召喚されているのかもしれません」

 

 自衛隊員の一人がそんな事をいった。

 

 三崎としてもそんな気がする。

 

 ──予断は禁物だけれど……確かにもっと、こう、あれだけ素早いなら戦い方もあるはずだろうし

 

 内側から外へと向かうような戦い方ではなく、外側から内側へじわじわと削るような戦い方をすれば、あれだけの機動力ならばもっと余裕をもって戦えるだろう。

 

 ルー・ガル―の戦い方はなんというか歪であった。

 

「どうしますか?」

 

 三崎が自衛隊員に尋ねると、隊員は悩む様子を見せる。

 

「合流できれば良いが……あるいは共倒れかもしれません。しかし無事助ける事ができれば、あるいはあの強力な個体が力になってくれるかもしれません」

 

 ルー・ガル―が覚醒者に使役されているとすれば、助ければ恩に感じてこちらへ力を貸してくれるかもしれない。

 

 三崎としては、魔樹を破壊するという目的を考えると、助けるという選択はアリの様に思える。

 

「麗奈はどう思う?」

 

 三崎が振り返ると、麗奈は「助けた方がいいんじゃないかな」と即答。

 

 理由を聞こうとすると、「勿論理由はあるけど内緒」との事。

 

 ややあって、三崎が「僕らは……助けたいとおもってます」と言うと、自衛隊員たちも頷いた。

 

 ◆

 

 三崎と数名の自衛隊隊員がビルの壁沿いを回り込みながら接近する。

 

 麗奈は近くの建物に避難だ。

 

「距離、あと二十メートル」

 

 先頭の隊員が低く声を落として報告する。

 

 空き地の中央では、ルー・ガルーが唸り声を上げつつモンスターの群れと交戦している。

 

 だが疲労は色濃い。

 

 毛並みはあちこち血に染まり、動きにも精彩がなくなりつつあるようだ。

 

「あのままじゃあぶないな……」

 

 クールダウンは終わっている。

 

 ためらっている余裕はない。

 

「キャスター、頼む!」

 

 そう叫んだ瞬間、三崎の手のひらから翆光が舞い散り、光の粒子は薄汚れたローブを纏った老ゴブリンの姿を取った。

 

 ゴブリン・キャスターは自身のやるべき事を既に把握しているのか、杖を横一閃に振り──

 

「ヒッヒッヒ!」

 

 風に乗った黒い粉が次々爆裂していく。

 

 小型のモンスターなどはこの威力に耐えられない様で、体液を撒き散らして一撃で死ぬ個体もあった。

 

「すごい……」

 

 後方の自衛隊員が息を呑む。

 

 だが、相手の数は決して少なくはない。

 

 再び列を組んで押し寄せるモンスターを見て、三崎は苦い顔をした。

 

「強力なモンスターが一体とかのほうがやりやすいな……」

 

 魔石の消費という観点から、ゴブリン・ジェネラルという切り札はなるべく取っておきたいところだった。

 

 だがこの場では三崎だけが戦っているわけではない。

 

 二人の隊員が火器を構え、連続射撃でゾンビの列を崩す。

 

 銃弾を受けたモンスターがのたうち回り、あるいは光の粒子となって消えていく。

 

 やっぱり銃って凄いな、と三崎が思った矢先であった。

 

 一人の隊員が甲虫型モンスターの鋭い角に突き刺され、「ぐあっ!」と短い絶叫を上げて倒れた。

 

 ──『レア度2/啜り血のランサー・ビートル/レベル1』

 

 血が地面に飛び散り、その隊員はびくんびくんと数度痙攣したきり動かない。

 

「くそっ……! まさか毒か!?」

 

 別の隊員が角を持つ甲虫型モンスターを撃ち抜き、悲しげに顔を歪める。

 

 犠牲者がもう一人増えてしまった。

 

「下がれ、下がれ! 虫は毒を持ってる可能性がある! 遠間から撃て!」

 

 リーダー格の隊員が指示を飛ばし、一時的に距離を取ろうとするがすでに囲みが狭まっている。

 

 一方空き地の中央では、ルー・ガルーが獣型モンスターの爪に深い傷を負わされながらも、なお必死で抵抗を続けていた。

 

 何か手はないか、他に出来る事は──そんな風に三崎が考えていると……

 

 ふと、抜けたような感覚がした。

 

 例えて言うならば知恵の輪が外れたような、そんな感覚。

 

 とても分厚い辞書の中から、目当ての単語を見つけたような感覚。

 

 "まるでゲームの様に" 今自分に何が出来るかが頭の中にリストアップされていた。

 

 これまでもそういう感覚はあった──例えば2体のゴブリンをタイガー・ゴブリンへと合成した時、例えばそのタイガー・ゴブリンをゴブリン・ジェネラルへと進化させた時。

 

 三崎はためらわず、これだと思う選択肢を取る。

 

 それは──

 

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