東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第62話 A公園へ

 ◆ 

 

 A公園へ向かう道は、決して平坦ではなかった。

 

 崩れ落ちた建物の残骸や、ひしゃげた車両が道を塞ぎ、迂回を余儀なくされる場面が何度もあった。

 

 それ以上に厄介だったのは、やはりモンスターだ。

 

 進むにつれ、うっすらと漂っていた霧が再び濃くなってきている。

 

 ときおり霧の向こうから轟音が聞こえるたびに、全員が緊張で体を強張らせた。

 

「何かいる……」

 

 三崎が低い声で警告する。

 

 霧の中に人影のようなものが見え隠れしていた。

 

 麗奈はアーマード・ベアをようやく呼び戻すことができ、その大きな体を前に立たせている。

 

 アーマード・ベアは鼻を鳴らし、警戒の姿勢を崩さない。

 

「ゾンビが三体……虫が二体」

 

 三崎の声に、吉村が頷く。

 

 霧越しでも輪郭さえ分かればなんとなくモンスターの種類がわかるというのは自衛隊にはない能力だ。

 

 しかしなんでもすべてわかるわけではなく、完全に初見のモンスターに関してははっきりと視認しなくては完全な情報は得られない。

 

 まあ今回は幸いにも、以前見たモンスターなので三崎にはその詳細が分かるが。

 

「こちらは少し疲弊してるから、できれば戦闘は避けたいところだが……」

 

 増幅の効果はすでに切れており、隊員たちも普通の人間の身体に戻っていた。

 

 ならばもう一度使えばよいのかもしれないが、“反動”を考えると軽々には使えなかった。

 

 最初に増幅が切れたとき、普段から鍛えているはずの自衛隊員たちが次々と倒れ、立ち上がるのも一苦労したほどだった。

 

 限界を超えた身体能力を得るには代償があるということだ。

 

 しかし霧の向こうからはすでに彼らを察知したのか、低いうめき声が近づいてくる。

 

「来るぞ……!」

 

 誰かが叫ぶと、同時に霧を切り裂くように人型の影が飛び出してきた。

 

 ゾンビだ。

 

 ──『レア度1/血肉侵されしレッサー・ゾンビ/レベル1』

 

 以前にも交戦した事がある。

 

 強くはないが、精神的な負担が大きいモンスターだ。

 

 顔の半分が溶けたように欠損し、皮膚は黒ずんで腐敗臭を放っている。

 

 アーマード・ベアが即座に反応し、前脚を振るって迎撃した。

 

 鋭い爪でゾンビの上半身と下半身を物別れにする。

 

 だが一匹倒しても、また新たな影が現れる。

 

 三、五、十と、次々とゾンビの群れが姿を現した。

 

「数が多いな……!」

 

 三崎はゴブリン・キャスターに思念を送る。

 

 “火花”が炸裂しゾンビが複数、まとめて弾け飛ぶ。

 

 アーマード・ベアとゴブリン・キャスターが前線で奮闘しているが、敵の数が多すぎる。

 

 自衛隊員も応戦しているが、弾薬は限られている。

 

 特に甲虫型の二体が厄介だった。

 

 先ほどの巨大甲虫ほどではないにせよ、硬い外殻を持ち、普通の銃弾では傷つかない。

 

「キャスター、あれをなんとかして!」

 

 三崎の命令に、キャスターは杖を振りかざして黒い粉を放つ。

 

 それが甲虫に降りかかると、爆発を起こし外殻にひびを入れた。

 

 しかし完全に倒すには至らない。

 

「こちらの弾が尽きる前に、なんとかしないと……」

 

 吉村の声に焦りが混じる。

 

 ゾンビの数も増えるばかりで、円陣を組んで応戦する自衛隊員の周囲は次第に狭まっていた。

 

 ◆

 

 そのとき、霧の向こうから別の音が聞こえてきた。

 

 エンジン音だ。

 

 だが通常の車とは違う、重く低いうなりを持っている。

 

「装甲車……?」

 

 吉村が耳を澄ます。

 

 確かに装甲車らしき轟音が近づいている。

 

 するとほどなくして、霧を切り裂いて三台の装甲車が姿を現した。

 

 自衛隊のものだ。

 

 車体の上部には機関砲が搭載されており、ゾンビの群れに向けて放たれた弾丸が、次々と敵を薙ぎ倒していく。

 

「援軍だ!」

 

 疲れ切った隊員たちの顔に、わずかな希望が灯る。

 

 装甲車の銃手は実に的確に敵を狙い撃ち、硬い外殻を持つ甲虫型も次々と屍を晒し、光の粒子へと変わっていく。

 

 次々と撃ち抜かれ、光の粒子となって消えていく。

 

 ほどなくして、戦闘は収束に向かった。

 

 装甲車の側面からは指揮官らしき人物が顔を出している。

 

「吉村分隊か? 無事でよかった」

 

 中年の男性で、階級章は星一つに三本線。

 

 ──吉村さんより上の階級の人なのかな? 

 

 吉村も星一つに三本線なのだが、吉村の線は「くの字」を寝かせたような形の線が三本である。

 

「大森さん!」

 

 吉村が敬語を使うあたり、吉村より階級が大分上らしい。

 

 ◆

 

 装甲車の護衛を受けながら、一行は霧の中を進んでいく。

 

 しばらく行くと霧が薄くなり始め、視界が開けてきた。

 

 遠くに、何かの建物らしき輪郭がぼんやりと見えてくる。

 

「あれが臨時集結地点だ」

 

 大森が説明する。

 

 かつて公園の管理施設だったのだろう、平屋建ての広い建物とその周囲に展開された自衛隊の車両や装備が目に入る。

 

 テントがいくつも立ち並び、多くの隊員が行き来している。

 

 さらに特徴的なのは、その中にまざっている少年少女たちの姿だ。

 

 十代と思われる若者が何人も集まっており、中にはモンスターを従えている者もいる。

 

「あれが……他の覚醒者?」

 

 三崎はそう呟くと、麗奈と顔を見合わせた。

 

「すごい、結構いるね……」

 

 麗奈の声にも驚きが混じる。

 

 ここまで大規模な"覚醒者"の集まりは学校脱出の時以来である。

 

 様々なタイプのモンスターが建物の周囲で待機していた。

 

 獣型、人型、虫型、中には完全な姿を捉えにくい不定形のものまで──多種多様だ。

 

「もうすぐ作戦会議が始まる。君たちにも参加してもらうよ」

 

 大森はそう言って、三崎らを建物の入り口へと案内した。

 

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