東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第67話 北ルート①

 ◆

 

 一方そのころ、北ルートも南ルートと同じようにA公園へ向かっていた。

 

 ビルが密集した狭い通りを抜け、倒壊した建物の残骸を撤去しながら進む必要があるため、まずは工兵部隊と自衛隊の火力が前に出て道を作る。

 

 その背後を、五名の覚醒者が固まって歩く。

 

 一人は苛立ちを隠せない様子の高槻だ。

 

 彼の傍らには薄く青白い光に包まれた剣が宙に浮いている。

 

 ──『レア度4/舞い斬る蒼剣ラスティソード/レベル1』

 

 自立して動く魔剣である。

 

「……前田、そっちは任せた。アイツらの増援が来る前に進むぞ」

 

 高槻が前方を見やりながら低い声で言う。

 

 返事をしたのは、やや背が高くがっしりとした前田だ。

 

 彼のモンスターは全身鎧のいかにも屈強なモンスターで、両手に巨大な盾を構えている。

 

 ──『レア度4/不落の双盾ナイト・バルワー/レベル1』

 

 この二体が北ルートの覚醒者たちの主力ともいえるモンスターだった。

 

 ◆

 

 高槻が浮遊する魔剣をちらりと見ながら、ぼやくように口を開いた。

 

「……こいつ、勝手に飛び回るのはいいが、まったく言うことを聞かないんだよな」

 

 すると前田が苦笑いしながら頷く。

 

「ああ、うちも似たようなもんだ。俺が突撃したいときに限って、勝手に防御体勢をとりやがる」

 

 前田がため息まじりに振り返ると、『不落の双盾ナイト・バルワー』は微動だにせず、その威圧的な鎧姿のまま、ただ黙々と前進していた。

 

「モンスターって、やっぱり意思疎通できないもんなのか?」

 

 高槻が眉をひそめて訊くと、前田は肩をすくめる。

 

「こいつの場合、俺が声をかけても無反応だ。だが、俺のピンチには自然に割り込んでくる。まあ頼りになるんだが、少しは相談くらいしたいぜ」

 

「はっ、贅沢言うなよ。俺なんか剣が勝手に敵を斬って、こっちが慌てて追いかける羽目になるんだぞ」

 

 高槻の自嘲気味の言葉に、前田が思わず笑い出す。

 

「それは大変だな。お互い苦労が絶えない」

 

 不意に浮遊するラスティソードがくるりと回転した。

 

 その動きに二人は顔を見合わせ、揃ってため息をついた。

 

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 ・

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 意思疎通ができないのはもどかしい話だが、それでもモンスターは攻撃や防御の基本行動を反射的に行ってくれるらしい。

 

「行くぞ、ミスったら容赦なく置いてくからな」

 

 高槻は鋭い口調で言う。

 

 一時は指揮権を巡って前田と衝突していたが、今は魔樹を目指すという共通目的のためかひとまず対立は鎮まっている。

 

 二人の後方には、小柄な青年──森川が控える。

 

 その足元に寄り添うのは、異形の獣だった。

 

 ──『レア度2/四足の刃獣ヴォーパル・ドッグ/レベル1』

 

 サイズ的には大型犬くらいなのだが、こともあろうに頭部が大きなナイフの様な形状になっている。

 

 四人目は、ふわりと淡い煙をまとった小さな精霊──レア度3、ランプの小魔精リトル・ジンを操る筧だった。

 

 リトル・ジンは何を考えているのか、小さなランプから半身を出したまま宙を漂い、時折くすくすと笑っているかのように見える。

 

 筧もランプの表面をさすったり、手を振ってみたりといった仕草をしているものの、リトル・ジンと意思疎通はできているとはいえないようだ。

 

 それでもジンは忠実に筧を守り、危険を察知すれば煙となってすり抜け、対象を翻弄する。

 

 そして最後の一人が中谷。

 

 魚人の姿をしたモンスター──『レア度3/海王配下のサハギン・ランサー/レベル1』を従えている。

 

 攻撃と防御のバランスに優れているモンスターだ。

 

 ◆

 

 しばらく歩くうちに、中谷の様子がやや奇妙なことに気づいた者がいた。

 

 彼はサハギン・ランサーに向かって、声を落としながら何やら話しかけている。

 

「……なあ、海王配下ってあるけどさ、海王ってどんな人なの?」

 

 中谷はモンスターの反応を待つように一瞬間を置く。

 

 サハギン・ランサーは黙って中谷を見つめるだけで、特段の反応を示さない。

 

 その光景を見た森川が首を傾げた。

 

「中谷さん、サハギン・ランサーと話せるの?」

 

 質問を投げかけられた中谷は少し照れたように頭を掻く。

 

「いや、そういうわけじゃないんだ。返事が返ってくるわけじゃないけどさ……」

 

 前田も振り返って興味深そうに尋ねる。

 

「コミュニケーション取れるの? それってすごいことじゃないか?」

 

「いや、そこまでは……」

 

 中谷は言葉を濁す。

 

「ただ、最近は少し何を考えているかわかるような気がするんだよ。オレの中の直感みたいなものかもしれないけど」

 

 高槻が鼻で笑う。

 

「へえ、一方的な妄想じゃねーのか?」

 

「そう言うなよ」

 

 中谷は自分のサハギン・ランサーをじっと見つめる。

 

「ほら、よく見ると愛嬌があるだろ? この目のあたりとか、なんていうか表情らしきものが浮かんでいるように見えるんだ」

 

 一同はサハギン・ランサーの顔を眺めたが、そこにあるのは魚のような冷たい瞳と無表情な顔だけだった。

 

 筧は思わず苦笑して肩をすくめる。

 

「俺には……ただの魚の顔にしか見えないけどな」

 

「それはお前の観察眼が足りないんだよ」

 

 中谷は真剣な表情で言い返す。

 

「こっちが気持ちを込めて接すれば、相手もそれなりに応えてくれる。多分だけど、コミュニケーションの基本は気持ちだと思うんだ」

 

 その言葉を聞いていた高槻はラスティソードを見上げた。

 

「そうかよ。じゃあ試してみるか」

 

 高槻はラスティソードに向かって、やや大げさに宣言する。

 

「おい、俺の言ってる事が分かるんだったら一回転してみろよ」

 

 一同の視線がラスティソードへ集まる。

 

 青白い光を纏った魔剣は宙に浮いたままだが、特に動く様子はない。

 

 中谷は高槻に冷ややかな視線を送りながら言った。

 

「それ、コミュニケーションって言わないから!」

 

「はあ?」

 

「モンスターの考えていることは完全にはわからなくても、なんとなく通じ合ってる気がするってのはあるよな」

 

 彼はナイト・バルワーを見上げる。

 

「こいつも時々、自分の考えてることに先回りして動いてくれるし……」

 

 森川だけは少し憮然とした表情でヴォーパル・ドッグを見ていた。

 

「俺のこいつは……全然わかんないけどな。頭がナイフだし」

 

 その言葉に、皆が少し笑った。

 

 ◆

 

「よし、道は確保できた。工兵は次の交差点で爆破を仕掛けるぞ」

 

 最前線を見守っていた自衛隊の指揮官が声を張り上げる。

 

 ビルの瓦礫を取り除き、一時的に仮設のルートを通しやすくするため、爆薬で障害物を崩落させる算段だ。

 

「みんな耳を塞いで伏せろ。……三、二、一……爆破!」

 

 ドォンという衝撃音が響き渡り、ビルの一部がずしりと崩落する。

 

 濛々とした砂埃が舞い、視界を覆い尽くした。

 

 高槻や前田は瓦礫の崩れ落ちる音を聞きながら、陣形を乱さないよう周囲を警戒する。

 

「粉塵が邪魔だな……」

 

 筧が目を細めながら言うと、リトル・ジンは二ヤッと笑って小さく指先を弾く。

 

 すると空気の流れが微妙に変わり、砂埃が薄れていく。

 

「おお、便利なもんだ。……今のうちに進むぞ! ──って、おい!」

 

 高槻が言うやいなや、ラスティソードがキィンと音を立てて前方へ飛んでいった。

 

 別に先陣を切れと言ったわけではないが、この魔剣は高槻の言う事に100%従うわけではないのだ。

 

 剣は斬るものを探すようにしばし索敵らしき行動をとっていたが、何もないと分かると結局高槻の傍へと戻ってきた。

 

 ◆

 

 崩落した交差点を抜けてしばらく進むと、ビルの隙間に妖しげな蔓が絡まっているのが見えた。

 

 赤黒い蔓は南ルートにもあったが、こちらでも同様に街路を覆い尽くす勢いで伸び放題になっている。

 

「報告では魔樹に近づくにしたがって変異した植物がバリケードの様に道をふさいでいるとのことだ」

 

 指揮官が低く警戒を促す。

 

 北ルートは遮蔽物が多い分、モンスターも隠れている可能性が高い。

 

 工兵隊が慎重に道を切り開き、自衛隊の火器がそれを支援する。

 

 その後ろで覚醒者たちが周囲を睨み、いつでもモンスターと交戦できる準備を整えていた。

 

「……ん?」

 

 前田がバルワーの動きに目を止めた。

 

 盾を構えた鎧が、わずかに頭部を動かすようにして左側を向いている。

 

「モンスターか?」

 

 高槻の言葉に応じるように、ラスティソードからキィンという金属音が一瞬鋭く響いた。

 

 そこに姿を現したモンスターは単独ではなかった。

 

 ──『レア度2/獣頭の卑兵ボア・ファイター/レベル1』

 

 ──『レア度3/獣王精鋭ボア・ナイト/レベル2』

 

 イノシシ頭の屈強な獣人系モンスターが複数、霧の中から現れる。

 

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