東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第68話 北ルート②

 ◆

 

 イノシシの頭を持つ獣人たちが轟々と咆哮を上げながら、霧の中から突進してきた。

 

 先頭には『ボア・ファイター』が走り、その後ろには『ボア・ナイト』がやや大きな身体で続いている。

 

 金属と皮革が混ざった装備を身につけ、手には斧や槍を握っていた。

 

「頼む!」

 

 前田が叫ぶ。

 

 するとナイト・バルワーを一歩ずいと前に出た。

 

 別に前田がそうしろと指示したわけではないのだが、戦闘時にはこうして適切な行動を取るのだ。

 

 そうして両手に巨大な盾を掲げ、突進してくるボア・ファイターの一撃を受け止めた。

 

 鈍い音が響き、バルワーがわずかに後退する。

 

 しかし盾はびくともせず、ボア・ファイターの方が勢いを殺がれていた。

 

 高槻の魔剣・ラスティソードは蒼い残光を引きながら最前列を突破し、モンスターたちの間を縫うように飛び回る。

 

「行け、行けっ!」

 

 高槻が叫ぶが、もはや制御できるわけでもなく、ただ魔剣の動きを見守るだけだった。

 

 高槻も前田と同様に、この魔剣と意思疎通なりを交せているわけではない。

 

 話でもできれば、と思わないでもないが、「剣と話すなんて」という諦めのほうが大きい。

 

 ただそれでも高いレア度の魔剣は強力だし、召喚者を守ろうという意思もあるようで、高槻の危機を1度2度と救ってきた。

 

 ラスティソードは鋭い金属音を立てながら、ボア・ファイターの首筋を薙ぎ払う。

 

 猪頭の戦士の首元から血が噴き出し、光の粒子となる。

 

 これを機と見たか、自衛隊員たちも一斉射撃を開始した。

 

「射撃開始!」

 

 合図とともに銃撃の嵐がボア・ナイトを激しく打ち付ける。

 

 鎧で覆われた部分は弾かれるものの、隙間に命中した弾丸が効果を発揮し、動きが鈍くなっていく。

 

 筧のリトル・ジンはパチンパチンと次々指を鳴らす──するとどうだ、ヒュンヒュンと見えない何かがモンスターたちの皮膚を切り裂いていくではないか。

 

 カマイタチだ。

 

 リトル・ジンは魔法のような何かを使う。

 

 火の玉を出したりカマイタチを発生させたり、小さな氷柱を飛ばしたりも出来る。

 

 多芸ではあるが、決定力に欠けているというのが弱みだろうか。

 

 が、一人ならともかくチームでならリトル・ジンの力は十全に発揮できる。

 

 決定力が足りないならば他から補えばよいのだ。

 

 ボア・ファイターが混乱し無防備になったところへ、森川のヴォーパル・ドッグが矢のように飛びかかった。

 

 頭部が刃になったモンスターは、鋭利な一撃でボア・ファイターの脇腹を深く切り裂いた。

 

 突進し、切り裂く──それだけしか出来ないこの犬ではあるが、唯一の攻撃手段である突撃の威力は高い。

 

 レア度が同等の相手を一撃でしとめるというのは大した攻撃力である。

 

「押せ押せ!」

 

 そう叫んだのは、『海王配下のサハギン・ランサー』の召喚者である中谷だった。

 

 サハギン・ランサーは三又槍のような武器を巧みに操り、ボア・ナイトの防御を崩していく。

 

 魚人の素早い動きと鋭い突きは、重装のボア・ナイトにとって対処しづらいようだった。

 

 バルワーとサハギン・ランサーが盾と槍で敵を押さえ込み、ラスティソードとヴォーパル・ドッグが切り裂き、リトル・ジンが混乱を誘発する。

 

 自衛隊の火力がそれを支援する連携は、予想以上に効果的だった。

 

 ボア・ファイターはあっという間に数を減らし、ボア・ナイトも既に満身創痍だ。

 

「フッ、思ったほど強くなかったな」

 

 高槻が鼻で笑う。

 

 そうしているうちにボア・ナイトがサハギン・ランサーの槍に貫かれ、光の粒子となって消えていく。

 

「もっと厳しい戦いになると思ったが……」

 

 前田が周囲を見回す。

 

 道は確保され、モンスターの気配も途絶えた。

 

 自衛隊員たちも弾薬を確認しながら安堵の表情を浮かべていた。

 

「これなら、魔樹まで行けるかもしれないな」

 

 筧がそう呟いたとき、リトル・ジンの表情が急に変わった。

 

 ランプの小魔精は煙をたなびかせながら身体を縮め、明らかに警戒の姿勢を示している。

 

「何だ? また来るのか?」

 

 森川が不安そうに周囲を見回す。

 

 リトル・ジンの様子に気づいた前田たちは、一瞬足を止める。

 

 盾を構えたバルワーも、騎士然としたかすかに揺らしながら警戒の色を示した。

 

 そのタイミングを見計らったかのように、霧の奥から濃密な殺気が漂ってくる。

 

 先ほどのボア・ファイターとは比べ物にならない重厚な気配。

 

 三メートルほどの猪頭を持つ巨漢の騎士が姿を現した。

 

 ──『レア度4/獣王精鋭のボア・ジェネラル/レベル3』

 

 全身を黒ずんだ鋲付きの鎧で覆い、刃こぼれのない大剣を悠然と構えている猪頭の騎士だ。

 

 その両目は爛と赤く輝き、覚醒者たちを睥睨している。

 

『ヴルフォ……ガラセッ……!』

 

 ボア・ジェネラルは低く太い声で何事かを喚き散らした。

 

 その言葉はまるで獣のような唸りと人語の中間のようで、まったく意味が通じない。

 

 しかし、その圧倒的な威圧感は誰の目にも明らかだった。

 

「なんだ、こいつ……!」

 

 高槻が声を震わせる。

 

 先ほどまでのボア・ファイターとは比較にならない武威をまとっている。

 

 鼻面を盛大に鳴らすと、ボア・ジェネラルは大剣を振りかぶった。

 

 そして、唸りをあげながら一気に地面を蹴り、突進する。

 

「ランサー!気をつけろ!」

 

 森川が叫ぶが、間に合わない。

 

 最前列にいたサハギン・ランサーが、とっさに槍を構えて防御態勢を取る。

 

 だが、大剣は凄まじい衝撃と共にサハギン・ランサーの槍ごと胴体を真っ二つに叩き斬った。

 

 甲高い金属音と共に魚人の肉体が断裂し、黒い体液があたりに飛び散る。

 

 サハギン・ランサーは断末魔をあげる間もなく、光の粒子へ変わって消えた。

 

「嘘だろ……一撃……?」

 

 筧の声はかすれていた。

 

 凄惨な光景に、全員の呼吸が乱れる。

 

 『ヴォッ……ヴォッ……!!』

 

 ボア・ジェネラルはそうとはっきり分かる様に嗤った。

 

 その瞬間、サハギン・ランサーの召喚者である中谷は後先も考えずに飛び出してしまった。

 

 ◆◆◆

 

 この野郎、と思ったらもう足が止まらなかった。

 

 まるで馬鹿みたいだ、武器もなければ俺を守ってくれるアイツもいないのに。

 

 でもあの豚野郎はアイツを殺しただけじゃなく、鼻で嗤いやがった。

 

 あの豚が何を言っているのかは分からないが、雰囲気ではっきりと分かるんだ。

 

 アイツはモンスターなんかじゃない、俺の友達なんだ。

 

 友達を殺したあの豚を、俺は絶対に許さない。

 

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