東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第70話「痛い目」

 

 ◆

 

 三崎たちは公園の外縁部から先へ進んでいた。

 

 荒れ果てた街の区画から公園内部へと入るにつれ、赤黒いツタや不気味な植物の変容がいよいよ目立ち始める。

 

 車両の残骸やひしゃげた鉄柵が変容した植物に取り込まれ、植物と金属の融合体の様なサマを見せていた。

 

 生命に対する冒涜のような姿に、三崎らは顔を顰める。

 

「私、この前読んだホラーで似たような話を見たことあるんだよね」

 

 何とはなしに麗奈がそんなことを言うと、三崎もそれに応じた。

 

「ああ、山田 洋二の新作?」

 

「うんうん」

 

「あれってホラーっていうよりはSFだよね」

 

 細胞レベルで金属と植物を“完全に融合”させるのは現状の科学技術ではほぼ不可能に近い。

 

 それを可能にした──というのが、三崎と麗奈の話している本の内容である。

 

「なんだか何が現実で何が空想なのかよくわからなくなってくるよ」

 

 三崎はそう答えながら、ゴブリン・キャスターを呼び出して周囲の警戒を続けた。

 

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「いやあ、ほとんど抵抗がないな」

 

 城田も警戒に当たってはいるのだが、気楽な口調で言う。

 

 普段ならモンスターが飛び出してきそうな場所だが、霧の加減か、あるいは北ルートへモンスターが集まりすぎているのか、南ルートの進行は思ったより順調だ。

 

「このまま行けちゃうんじゃないか?」

 

 そう答えるのは坂上という若い覚醒者の青年だ。

 

『レア度2/葉隠れのキバザル/レベル1』という、細身の猿の召喚者である。

 

「油断はしない方がいいよ」

 

 緩みを見せる城田と坂上に、英子が注意を促した。

 

「分かってるって」

 

「モンスターが出てきたらちゃんと対応しますよ」

 

 城田と坂上が揃って言う。

 

 英子は「だといいけどね」と懸念を隠そうともせずに答える。

 

 やがて、一行は公園のフェンスが大きく湾曲した場所へ出る。

 

 その先に広がる敷地内は、既に赤黒い植物が支配していた。

 

 幹がひび割れ、そこから赤い液のようなものが滲んでいる樹もある。

 

「魔樹そのものじゃないと思うけど──……」

 

 麗奈が息を飲む。

 

 横に立った吉村が言う。

 

「放置して良いものじゃないな。変容した植物はある意味でモンスターより脅威だ。我々の調べでは、モンスターを呼び寄せるある種のフェロモンを発している可能性もある。だから少なくとも進行ルート上の“これ”は排除していかなくてはならない。モンスターが現れる可能性もある。しっかりと緊張を保ってくれ」

 

 吉村の言葉に、三崎たちは頷く。

 

 ただ、その反応はそれぞれ異なっていた。

 

 ◆

 

 城田と坂上は吉村の言葉を聞いても、その表情にはどこか気楽さが残っていた。

 

 一方、三崎や麗奈、沙理らの目には緊張の色が宿る。

 

「どうせ今まで倒したモンスターと同じようなもんでしょ。俺のドールが返り討ちにしてやるよ」

 

 城田の言葉に坂上も同調するように頷いた。

 

「そうそう、キバザルだってあんなゾンビとか虫とかには負けないぜ」

 

 そんな二人に三崎は危ういものを感じる。

 

 三崎はこれまで、死と隣り合わせの戦いをくぐり抜けてきた。

 

 シムルグ、ブレイズ・ビートルとの激闘。

 

 松浦隊長の死、山本の犠牲。

 

 それらを目の当たりにしてきた者と、そうでない者との間には埋めがたい溝があった。

 

「あんたらは……これまでどんなモンスターと戦ってきたの?」

 

 見かねたように英子が問うと、城田は得意げに胸を張る。

 

「いや、結構やったぜ。コウモリみたいなのとか、デカい蟻とか、まあ色々」

 

「俺もね」

 

 坂上も続けて自慢げに話す。

 

 だがその言葉の端々に、三崎は何かが欠けているのを感じた。

 

 本当の恐怖を知らない者特有の、軽さだった。

 

 沙理が三崎と目を合わせ、小さく首を振る。

 

 彼女もまた、似たようなことを考えているのだろう。

 

 ◆

 

 赤黒い木々の根を慎重にかき分けながら、一行は公園の奥へ分け入っていった。

 

 枝葉からは腐敗臭とも薬品臭ともつかない嫌な空気が漏れ、折れ曲がった枝が触手のようにうねる。

 

 その一角で、一際大きく変容した樹を見つける。

 

「見た目はさっきのよりやばそうだね」

 

 英子が顔をしかめる。

 

 彼女のブレイカー・ロックが大きく拳を振り上げ、幹を思い切り叩くと、重々しい音を立てて樹皮が裂けた。

 

 しかしその樹皮の先がまるで刃物の様にブレイカー・ロックの腕へと食い込む。

 

 変容した植物には自衛能力のようなものもあるため、召喚モンスターといえど無傷では居られない。

 

 そこを現代兵器で──と出来れば楽なのだが、どういう理屈かは誰にも分らないが、変容した植物を火器のみで破壊するというのは困難なのだ。

 

 だが一切傷つけられないわけではない。

 

 露出した内部へ自衛隊員が爆薬を仕込んでいき──起爆。

 

「……おおっ」

 

 自衛隊員の一人が声をあげる。

 

 変容した樹木は半ばからへし折られ、光の粒子へと変わっていく。

 

 後には白い石──魔石が遺された。

 

 ──魔石に変わるっていうことは、モンスターとして判定されているってことなのかな? 

 

 三崎はそんなことを思う。

 

 ただの気味の悪い植物ではなくモンスターだということなら、これは脅威度が数段上がる。

 

 が、脅威とは捉えない者たちもいた。

 

 ◆

 

「おい、魔石だ! 収穫だな!」

 

 城田は目を輝かせながら、変容した樹木が崩れ落ちた場所へと駆け寄った。

 

「おーい、勝手に動くな!」

 

 吉村の声が響いたが、城田は聞く耳を持たない。

 

 彼は白く光る魔石を手に取り、嬉しそうに掲げた。

 

「見ろよ、けっこう大きいぞ!」

 

 その声に呼応するように、坂上も興奮した様子で前に出る。

 

「俺も欲しいな。この先もっとあるんじゃね?」

 

 吉村は厳しい表情で二人を睨みつけた。

 

「おい、命令は集団行動だろう! 勝手に動くな、危険だ!」

 

 しかし二人はその警告を真剣に受け止めていない。

 

 城田は肩をすくめて、ヘイト・ドールを手招きした。

 

「大丈夫だって! こいつがいれば何とかなるよ」

 

 坂上も同調する。

 

「そうそう。ここまで来て何の抵抗もないんだから、きっとこの先も余裕でしょ」

 

 そう言いながら、二人は周囲を見回すこともなく、次の生い茂った植物の方へ足を向けた。

 

「待て! 連携を崩すな!」

 

 吉村の声が再び響くが、既に二人は公園の奥へ姿を消してしまった。

 

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 ・

 

「……強引にでも止めたほうがよかったかな?」

 

 三崎が麗奈にたずねると──

 

「どうだろうね、ああいうのって痛い目に遭わないと分からないと思うよ。それにあっちだって覚醒者なんだから、変に険悪になって同士討ちなんて事になる可能性も……」

 

 麗奈の言葉に三崎を始め、他の者たちも同意を示す。

 

「覚醒者ってのもいいやつばかりじゃないからねぇ……力が手に入ったからっていって暴れる奴もいるし」

 

 英子が実体験を思い出すかのように言うと、吉村も苦り切った表情を浮かべる。

 

「確かに……そういう覚醒者も少数ながらいる、というのは本部から聞いている……」

 

 そうなのだ、覚醒者同士で仲たがいというのが一番不味い。

 

 ましてやこの状況ならなおさらである。

 

「少し痛い目に遭って、少し怖い思いをして。それで心を入れ替えてくれるなら良いんですけど」

 

 沙理が、“決してはそうはならないだろう”という様な声色でぽつりと言った。

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