東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第74話「中央部へ向けて②」

 ◆

 

「北ルートとの合流地点は、もう少し先のはずだ。急ごう」

 

 吉村が部下を振り返りながら言った。

 

「はい。ですが、このあたりからモンスターの数も増えています。油断はできません」

 

 自衛隊員の一人が息を整えつつ応じる。

 

 南ルートの一行は、公園の奥深くへ足を踏み入れていた。

 

 陣内の合流で戦力は増したが、負傷者の搬送や小競り合いの連続で進軍ペースは遅れている。

 

 魔樹のある中心部を目指すには、まだ時間がかかりそうだった。

 

「うわ……また、不気味な植物だね」

 

 麗奈が顔をしかめる。

 

 そびえ立つ奇妙な樹木は、樹皮に赤黒い筋が走っており、絡みつく蔦が金属の破片を巻き込んでいる。

 

 英子はブレイカー・ロックを前に立たせて、慎重に根元を崩していった。

 

「こいつを壊さないと先へは進めないけど、そのたびモンスターが寄ってくる。まったく厄介だね」

 

 強気な英子だが、この時ばかりはやや不安そうにしている。

 

 陣内は腕を組んで周囲を睨んでいた。

 

 何かを感じ取っているのだろうか──アングリー・オーガも低く鼻を鳴らし、周囲を威圧するように肩を揺らしている。

 

「これだけ騒いでるのに、まだ大物は出てこねえのか?」

 

 陣内が言うと、吉村が苦い表情で頷く。

 

「モンスターもただ襲い掛かってくるだけじゃない。作戦めいた事をしてくる個体もいる」

 

「……確かにそうですね」

 

 三崎が少し声を落として応じた。

 

「モンスターたちは中心部を固め始めているように見える。つまり、魔樹の近くで本格的な防御態勢を取ろうとしているってことだと思う」

 

「ふん、だったらこっちも早いとこ片を付けてやろうぜ」

 

 陣内はアングリー・オーガの腕を叩き、地を蹴って先へ進む。

 

 周囲を包む霧はまだ濃い。

 

 だが、かすかに開けた道の先に公園の中央広場らしき空間が見えていた。

 

「北ルート組も、たぶんあのあたりを目指してるはずです。中央部で合流だと会議の時に話し合いましたから」

 

 沙理がルミナス・ソウルを手のひらで転がしながら言う。

 

 光球のかすかな灯りが、植物の影を揺らしていた。

 

「合流できれば、大規模な攻勢を仕掛けられる。僕たちも急ぎましょう」

 

 三崎の言葉に、麗奈はアーマード・ベアの首を優しく叩く。

 

「うん。私たちも、もうひと頑張りだね」

 

 ◆

 

 荒れた小道を抜けると、中央広場と呼ぶには見る影もないほど異形化した空間が視界に広がった。

 

 かつての光景はもうどこにもない。

 

 所々に破壊された車両の残骸が転がり、腐食した街灯やベンチまでもが赤黒い樹木に呑まれている。

 

 舗装されていたはずの地面も、ひび割れと盛り上がりを繰り返し、まるで巨大な根が街を飲み込もうとしているかのようだ。

 

「ひどいね……」

 

 麗奈が呟く。

 

「ここまで変わるなんて」

 

 英子はブレイカー・ロックの傷を気にしながら辺りを見回した。

 

「まだ敵の気配ははっきりしないね。けど、すぐにでも来そうだ」

 

 その言葉に陣内は鼻を鳴らす。

 

「来るならさっさと来いってんだ。こっちは準備できてるんだからよ」

 

 アングリー・オーガも戦闘態勢は万端の様で、獰猛な唸り声を漏らしている。

 

 すると、それに呼応するように広場の向こう側から甲高い咆哮が響いた。

 

「やっぱり来たね……」

 

 三崎がゴブリン・キャスターを呼び寄せる。

 

 視界に浮かぶステータスウィンドウには、レア度2や3の獣型・虫型モンスターが並び始めている。

 

 だが、明らかに普段の雑魚とは様子が違う。

 

「……乱雑に襲ってくるんじゃなくて、隊列を組み始めてる?」

 

 吉村が双眼鏡を覗きながら唸る。

 

 凶暴そうな獣の群れが中央に整列し、背後には虫型の個体が並ぶ。

 

 頭数は少なくとも二十を超えている。

 

「いいじゃねえか。まとめて来てくれた方が火力を集中しやすい」

 

 陣内が意気軒昂に言い放つと、吉村は息をつきながら警戒を緩めない。

 

「数だけじゃなく、行動にまとまりが見えるんだ。何かの指揮を受けてる可能性が高い」

 

 その言葉に、三崎は魔樹の方向へ視線を動かす。

 

「魔樹がモンスターを操っている? いや、直接的にそういう指示を出してるわけじゃないだろうけど……」

 

「何にせよ、来るなら迎え撃つしかないだろ」

 

 陣内がアングリー・オーガの肩をぐっと押す。

 

 すると鬼のようなモンスターは短く唸り声を上げて、大きく腕を振りかぶった。

 

 ◆

 

 獣型モンスターたちが一斉に吠え、突撃を開始する。

 

 大地が揺れるような振動とともに、牙と爪がこちらへ迫ってきた。

 

「迎撃!」

 

 吉村が指を振り下ろす。

 

 隊員たちは散開しつつ、一斉射撃を行う。

 

 獣型の先頭集団が被弾し、その一部が倒れる。

 

 だが、すぐ後ろから虫型モンスターが盾のように外殻を構えながら割り込んでくる。

 

「こっちは増幅なしでもいけると思う。キャスター、火花を頼む」

 

 三崎の合図に、ゴブリン・キャスターが低く笑いながら杖を振る。

 

 黒い粉が空間を踊り、爆発が幾つも連鎖して獣型モンスターの列を崩した。

 

「おおっ、いいね」

 

 英子がブレイカー・ロックを突撃させる。

 

 ゴツンという低い音が響き、突進してきた獣の顎を強烈な拳で砕き、外殻を持つ虫型モンスターも弾き飛ばした。

 

「ここを突破すりゃ北組と合流できるんだ。遠慮はいらねえ」

 

 陣内はアングリー・オーガを先頭に立たせたまま、さらに間合いを詰めようとする。

 

 そのとき、アーマード・ベアが鋭く吼えた。

 

「え……なに?」

 

 麗奈が目を見開く。

 

 アーマード・ベアが空を睨んでいるのだ。

 

「空……?」

 

 見上げると、いくつもの小さな影が旋回していた。

 

 まるでコウモリや鳥のようなフォルムだが、羽の先が鎌のように鋭く、腹部から黒い煙を吐いている。

 

「飛行モンスターか……!」

 

 吉村が歯噛みしながら自衛隊員に手振りで指示を出す。

 

 すると何名かが対空射撃の態勢を取り、飛行モンスターを狙い撃ちし始めた。

 

 パン、パン、と銃声が轟き、上空の影が弾けるように光の粒子を散らして消える。

 

 だが、その合間を縫って、数体の飛行モンスターが降下してきた。

 

「うわあっ……!」

 

 一人の隊員が悲鳴をあげる。

 

 羽先が鋭い刃のように隊員の肩を斬り裂いたのだ。

 

「くそっ、下がれ!」

 

 吉村が駆け寄り、負傷者をかばうように身を低くする。

 

「キャスター、飛んでる奴を狙えるか?」

 

 三崎が思念を送ると、ゴブリン・キャスターは無表情で首を振った。

 

 空を飛ぶ敵への直撃は、あの爆発魔法では難しい。

 

 更に追い打ちをかける様に鋭い衝撃が走った。

 

「陣内さん!」

 

 沙理が警告の声をあげる。

 

 陣内の背後で火の玉のようなものが地面に着弾していた。

 

 飛行モンスターではなく、別の個体がいるのかもしれない。

 

「あ? どこからだ?」

 

 陣内が振り向いた瞬間、木立の奥からもう一発の火球が飛んできた。

 

 アングリー・オーガの胸板に当たり、爆風が巻き起こる。

 

 鬼は後退しながら小さく呻くが、ほどなくして体勢を立て直した。

 

「遠隔攻撃まであんのかよ……くそっ、厄介だな」

 

 陣内はイラついた口調で周囲を睨んだ。

 

 英子が唇を噛む。

 

「もしかして、こっちが魔樹に近づくのを阻止しようとしてるのかも」

 

「だとすりゃあ、さらにモンスターが出てくるな」

 

 陣内がアングリー・オーガの腕を確認すると、かすかに皮膚が焦げていた。

 

 鬼は怒りを込めた唸り声を上げ、拳を振り回す。

 

 ◆

 

「みんな聞いてくれ! 北ルート組も同じように苦戦しているはずだ。ここで足止めを食えば合流が遅れる」

 

 吉村が声を張り上げ、全員の注意を引く。

 

 隊員たちが頷き、散開した陣形を修整する。

 

「北ルートの方を助けるには、まず俺たちが中央へ進まないとだめだね」

 

 三崎はゴブリン・キャスターを指差しながら、陣内に視線を向ける。

 

「ジェネラルを呼ぶかどうか迷ってる。消費は大きいけど、今以上に強いモンスターが出てきたら……」

 

「ふん、やりたいようにしろよ。でもこっちはアングリー・オーガを先行させる。そっちのゴブリンも合わせて突っ込めば、いまの敵は突破できるかもしれない。温存しておくのも手だぜ」

 

 陣内の言葉に三崎はやや思案し、ここは温存しておく事に決めた。

 

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