東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第77話「中央部へ向けて⑤」

 ◆

 

 南北の指揮官や覚醒者たちは、崩れた噴水跡の近くに集まって作戦を打ち合わせていた。

 

 公園の内部は瓦礫や倒壊した建物の破片が散乱しており、とてもテントなど張って落ち着ける状況ではない。

 

 それでも小休止を取れるだけのスペースを確保し、互いに顔を合わせて情報を共有する必要があった。

 

「で、具体的にボスモンスターをどう探すんだ? まさか声をかけりゃ出てくるわけじゃねえだろう」

 

 陣内が言うと、吉村が低い声で答える。

 

「そこは我々自衛隊にいる数少ない覚醒者の力を借りる。実は今回の作戦に参加している隊員の一人が、偵察に特化した小型モンスターを扱えるんだ」

 

「へえ。そんな便利なのがいたとはね」

 

「正直、自衛隊内で覚醒した者はごくわずかなんだ。詳しい理由は分からないが──」

 

 吉村は少しだけ顔を曇らせる。

 

 だが今は、その理由を考察している暇はない。

 

「先ほど、そのモンスターが公園の奥深くを偵察して戻ってきた。どうやら中心部、つまり干上がった池の跡地付近に巨大な個体がいるとのことだ。あまりに危険だったのか、詳しいレア度までは分からなかったらしいが……」

 

「でも、そいつをボスモンスターと見なしてよさそうですね」

 

 三崎の言葉に吉村が頷く。

 

「そうだ。周囲には強力な個体が集結しているようだ」

 

 吉村は地図を開いて周囲を示すが、線路や道路の入り口などが崩れていて正確な経路を確保しづらい。

 

「ここ数日の戦闘で、公園内の景観もかなり崩れちまってるからな」

 

 高槻が腕を組んで苦い表情をする。

 

「つまり正面から突っ込んでも消耗が激しいってことだ。回り込むしかないな」

 

「まずはこの強力な個体を打倒する必要がある──が、自衛隊の火器を活かすには、ある程度のスペースが欲しい。そこで覚醒者がモンスターを引きつけて、火力の通るところまで誘導する作戦を考えている」

 

「囮ってことかよ」

 

 陣内が不満そうに言うが、反対はしない。

 

 召喚モンスターだけで強力なモンスターの群れをどうこう出来るとはこの男も思っていなかった。

 

 ◆

 

 簡単な作戦打ち合わせのあと、チームは二つに分かれて動き出す。

 

 一つは高槻と前田、そして数名の覚醒者による別働隊。

 

 もう一つが、陣内や三崎、麗奈、英子、沙理、そして吉村ら自衛隊員による本隊だ。

 

 自衛隊の小型偵察モンスターは、再び公園の奥へ潜り込み、ボスモンスターを含む主要な配置を探る。

 

「少人数で深追いするのは危険だし、向こうも待ち構えている可能性がある。

 まずは散らばった連中を掃討しながら、火器を運んでいく形になるな」

 

 吉村が言葉を切って、仲間の隊員を振り返る。

 

 敵が強力なうえ、変容した植物地帯では視界が悪い。

 

 それでも、偵察モンスターと覚醒者の索敵能力をうまく使えば活路はあるはずだ。

 

「行こう。……あんまり時間もないしね」

 

 三崎が小さく息をつく。

 

 英子や沙理、麗奈、陣内も続いてうなずく。

 

 こうして一行はまず、公園の外縁から内側へ向けて“掃討戦”を開始した。

 

 ◆

 

 変容した蔦や樹木は、明らかに常軌を逸した生態を見せていた。

 

 触れると棘が噛みつくように伸び、深緑の体液を飛ばしてくる。

 

 アーマード・ベアやブレイカー・ロックが先頭でそれを物理的に叩き壊し、ゴブリン・キャスターが遠距離支援で焼き払っていく。

 

 ときおり獣人や虫型のモンスターが襲いかかってきたが、自衛隊の射撃や、陣内オーガの圧力によって撃退する。

 

 しかし、相手も黙ってはいなかった。

 

 茂みの奥からゾンビの群れが出てきたり、甲虫の一団が空から落下してきたりと、局所的な激戦が頻発する。

 

 三崎たちはゴブリン・キャスターに回復魔法はないかと期待したが、残念ながらそんなスキルは持たない。

 

「くそっ、ちまちま削られてる……」

 

 陣内がオーガを引きながら低く唸る。

 

 オーガには細かい傷が増え、体力が削られている。

 

 英子や沙理、そして麗奈のモンスターも疲弊が見え始めていた。

 

 そこで吉村が、合流した自衛隊覚醒者の一人に声をかける。

 

「もう一度、偵察をお願いできるか。

 今の状況を少しでも正確に把握しないと、ボスモンスターの近くで詰むかもしれない」

 

「了解です」

 

 そう応じたのは、鋭い眼光をした二等陸士らしき若い男。

 

 彼は鷹のような姿をした小さなモンスターを召喚していた。

 

 “ウォッチャー”という名のそのモンスターは、目が一つしかない。

 

 姿は異様──カラスの様な外観に、大きな目がついている。

 

 一つ目の怪鳥である。

 

「ウォッチャー……頼むぞ」

 

 若い男の一声で、ウォッチャーは霧に溶け込むようにして飛び去っていく。

 

 この鳥は視たものを召喚者にイメージとして伝える能力があるのだ。

 

 数分後、ウォッチャーは戻ってきた。

 

 そして若い男は何度か頷き、困惑の声を上げた。

 

「……ボスモンスターらしき巨大モンスターが、この先の池跡にいることは確かです。ただ、その周囲に特別強そうな個体が複数固まっていて……防衛線を構築してるような気配があると」

 

「そいつらをまずどうにかしなきゃ、ボスモンスターには辿り着けないってことか」

 

 陣内が面倒くさそうに呟く。

 

「だが、ここで時間をかけすぎれば、あっちも連携を強めてくる。……一気に叩くしかない」

 

 三崎はそう言ってゴブリン・キャスターを見やる。

 

 さらに吉村が重火器部隊の状況を確認し、隊員へ指示を伝える。

 

「ある程度広いエリアを確保しないと、まともに撃てないからな。敵を中央部へ釣り出すか、もしくは我々が外周から回り込んで射程を確保するか……。どちらも大変だ。しかしやるしかない」

 

 ◆

 

 こうして、南北の部隊は再度二手に分かれた。

 

 高槻たち別働隊が池の北東方向から回り込み、周囲のモンスターを攪乱。

 

 一方で、陣内や三崎らが中央突破を狙う。

 

 もちろん、いきなりボスモンスターを狙うのではない。

 

 まずはその取り巻きを出来るだけ削るのだ。

 

 とはいえ公園の中央に近づくにつれ、魔樹の根らしき巨大な植物が道を塞いでおり、さらにモンスターの出現頻度も上がっていた。

 

 ──『レア度2/血吸い花ブラッディ・ローズ/レベル1』

 

 ──『レア度1/下級蟻兵ワーカー・アント/レベル1』

 

「雑魚だけどよ……やたら数が多いな」

 

 陣内が辟易した様子で言う

 

 アリだの花だの、犬やら猫やらと。

 

 とにかく多様なモンスターが襲い掛かってくる。

 

 もちろん戦闘経験を積んだ覚醒者や自衛隊員にとっては何てことのない相手ではある。

 

 ちなみに、覚醒者はただモンスターを召喚するだけの存在ではない。

 

 マナを吸収することで出来る事が増えてくる。

 

 新たなスキルの発現や、モンスターの肉体強度の増強、意思を疎通させてより効率的な動きを指示出来たりもする。

 

 つまり基本的に召喚モンスターは、本来のそれよりも能力が向上した状態で召喚されるということだ。

 

 しかし、進行は遅かった。

 

 数は力ともいう、雑魚とはいえ数が多ければ消耗も増える

 

 そうしてやがて隊の動きにも疲労が見え始めてきた時──

 

「……こんなに手間取ってたら、本命に辿り着く前に消耗しきっちゃう」

 

 麗奈が息を切らして言った。

 

「麗奈、随分疲れてるみたいだけど大丈夫?」

 

 三崎が気づかわしそうな様子で言う。

 

 明らかに疲労している様子だ。

 

 麗奈自身が戦闘したわけではないがしかし、アーマード・ベアを召喚し続けている事で疲労がたまっているのだ。

 

 召喚モンスターは覚醒者の“意思”──マナによって現世に召喚される。

 

 ──ここまでは“説明”を読めばわかる

 

 三崎は内心で顔をしかめた。

 

 でも、と三崎は思う。

 

 ではこの“意思”とは具体的には何なのか、と。

 

 ──何かをしようとする考え、思い。それが意思。心の体力みたいなものなのかな

 

 少なくとも、ノーコストでリスクもなく召喚できるわけではない──それが三崎の出した結論であった。

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