東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした   作:埴輪庭

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第92話「襲撃」

 ◆

 

 物流センターを改造した臨時避難所の一角。

 

 屋上へと続く外階段の踊り場で若い自衛隊員──相沢が一人、双眼鏡を覗き込んで周囲の警戒に当たっていた。

 

 視界によぎる小さい影は鳥だろうか。いや。

 

 ──鳥型のモンスター。近づいてくる様子は……ないな

 

 変わり果てた灰色の街並みをゆっくりと目で追う。

 

 ここ数日、モンスターの襲撃はなく、避難所内にはわずかながらも安堵の空気が漂い始めている。

 

 が。

 

「……ん?」

 

 ふと遠方のビル群の間に、何かが陽光を反射してきらめいたように見えた。

 

 気のせいかと思い、一度双眼鏡から目を離し再びレンズを覗き込む。

 

 その瞬間、相沢の背筋を冷たいものが走った。

 

 ──なんだ、あれは……

 

 最初は瓦礫の山か、あるいは倒壊したクレーンか何かかと思った。

 

 だがそれはゆっくりと、しかし確実にこちらへ向かって動いている。

 

 焦点を合わせ、レンズの倍率を上げる。

 

 そしてその正体がおぼろげながらも見えた時、相沢は息を呑んだ。

 

 蛇だ。

 

 それも、尋常ではない大きさの。

 

 ──大型トレーラーくらいか? それにしてもあの姿は……

 

 その首は一本ではなかった。

 

 鎌首をもたげた複数の首が、まるで意思を持った触手のように蠢いているのが双眼鏡越しにもはっきりと見て取れた。

 

 そのうちの一つの首が、こちらを向いたような気がした。

 

 気のせいではない。

 

 明らかにこちらを認識している。

 

「やばい……!」

 

 全身の血の気が引いていくのを感じる。

 

 震える手で双眼鏡を握りしめ、もう一度確認する。

 

 鱗から鈍い金属光沢を放つ、ぬらりとした巨体が瓦礫を押しつぶしながら進んでくる。

 

 相沢は我に返ると、転がるように階段を駆け下りた。

 

「て、敵襲! 敵襲です!」

 

 踊り場から地上へと続く階段を数段飛ばしで駆け下りながら、声を張り上げる。

 

「大型モンスター接近! 見たこともないような、でかい蛇です!」

 

 避難所の入口付近で警備にあたっていた上官──初老の曹長が、相沢のただならぬ様子に気づき、険しい表情で駆け寄ってきた。

 

「落ち着け、相沢! 正確に報告しろ!」

 

「は、はい! 北北東の方角、距離およそ5キロ! 巨大な、首が何本もある蛇です! 大きさは少なくとも全20mはあります! 間違いなく、こちらへ向かってきています!」

 

 曹長の顔色が変わった。

 

 彼は即座にインカムに手をやり、司令部へと連絡を入れる。

 

「北北東より蛇型の大型モンスター接近中! 至急、対応を!」

 

 ・

 ・ 

 ・

 

 数分もたたないうちに、避難所内に設置されたスピーカーからけたたましいサイレンと共に避難指示が流れ始めた。

 

 穏やかだったはずの避難所の空気は一変し、住民たちの悲鳴と怒声が響く。

 

 ◆

 

 けたたましいサイレンの音が、避難所となっていた物流センターの隅々まで響き渡った。

 

 何事かと顔を上げた麗奈の耳に割れたような声が飛び込んでくる。

 

『緊急警報、緊急警報! 北北東より大型モンスター接近中! 住民の皆様は落ち着いて指示に従ってください!』

 

 幼い子供の泣き叫ぶ声や住民たちの怒鳴り声。

 

 麗奈の心臓が早鐘を打つ。

 

 ──お兄ちゃんがいないのに、こんな時に……! 

 

 一瞬、兄の不在が心細さを増幅させる。

 

 しかし、すぐに頭を振った。

 

 麗奈の表情が目まぐるしく変わっていく。

 

 最初は焦燥、次に不安。

 

 そして今は──兄である三崎と同じような表情を浮かべている。

 

 恐らく“これ”は分水嶺である、と思ったからだ。

 

 ──私は多分、この避難所の覚醒者の中なら戦力は上の方、だと思う。一穂から紹介された人たちのモンスターは、みんな戦いには向いていない。だから、良い

 

 ちろり、と無意識のうちに口内の犬歯を舌でなぞる。

 

 ──命の懸け甲斐があるかも。ここで目立てば、きっとこの避難所の覚醒者を取り込める。お兄ちゃんは情報収集をしろとか繫がりを作れとかいっていたけれど、もっと“良い関係”を作れるかも

 

 今の麗奈は肉食獣が獲物を見つけた時の様な飢えた目を浮かべている。

 

 そう、狡猾さと獰猛さを併せ持つ──まるで熊の様な目だ。

 

「麗奈ちゃん!」

 

 だがその目は、一穂が慌てた様子で声をかけてきた瞬間に消えた。

 

「一穂。このサイレンってもしかしてモンスターが?」

 

 麗奈の質問に一穂は頷く。

 

「うん……覚醒者は多分呼び出されるとおもう。こういう時は基本的に自衛隊員さんだけじゃなくって、私たちも力を貸す事になってるから」

 

「特別扱いの対価ってことだよね。うん、分かってる。でもこの後はどうするの? 誰かが呼びに来るのかな」

 

 麗奈がそう言った所で、まさに自衛隊員が慌てた様子で駆けこんできた。

 

 

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