全体的にエルメシア視点で進んでいきます。
「んっ…………」
冷たい風が肌を吹き抜け、エルメシアはゆっくりと目を覚ました。
「私……今まで何をしていたのかしら……?」
エルメシアは曖昧な記憶から最後に何をしていたのかを思い出そうとする。
「確か……原初の魔人とか言うのが出てきて、ユーリが戦って、それから…………そうだわ…………ユーリに怒鳴っちゃたんだわ…………」
エルメシアは意識が朦朧の中で聞いたユーリの言葉に怒りを覚え、守ってくれているはずのユーリに八つ当たりしたことを後悔していた。そもそも足手まといの自分が悪いはずなのにカッとなってしまって、自分の不満を吐き出してしまったのだ。
その時のことを思い出し、エルメシアは羞恥と後悔の気持ちでいっぱいだった。
「はぁ、大怪我を負ったとはいえ周りが見えてなさすぎよ。私…………」
赤くなった顔を両手で思わず覆ってしまうが、そこでエルメシアは違和感に気づいた。
「どうして火傷がなくなっているの?」
エルメシアは原初の魔人の獄炎で全身に大火傷を負ったはずだ。だが両手どころか腕も足も何もかもが綺麗さっぱりに治っていた。
「そもそもここはどこ? 迷宮の中ではないようだし…………」
エルメシアが眠っていたのは、どう見ても高級品だとわかるようなベッドだ。自分がいる部屋もかなり広く、全体的に青と白のデザインの家具で統一された部屋だ。どう見ても一般家庭にあるようなものはない。これではまるで…………
「目覚めたようですね」
ベッドの右手にあるドアから1人女性が入って来る。かなり身なりのいい女性で何処かの国の女王だと言われても信じてしまうほどの気品のある女性だった。
「貴方は?」
困惑するようにエルメシアが部屋に入ってきた女性に問う。
「私はエレナ・ハッシュヴァルト。ここは
「光の帝国……」
「目覚めたようでなりよりです。何せもう1週間も貴方は眠っていましたから……」
「私はどうして光の帝国の城にいるのかしら?」
「貴方はそれをわかっているのでは?」
「ユーリは城に入れるだけの立場だということ…………?」
「その通りです。この国はユーハバッハ陛下…………いえ、ユリウス様の所有物であり、大怪我をした貴方をユリウス様は運び込まれた」
エルメシアはユリウスの一般常識のなさから貴族、少なくとも金と食料には困らない生活を送っていることは予想がついていた。
「(まさか、皇帝だとは思わなかったけど…………というより、皇帝にしては若過ぎるし、何で皇帝が冒険者何てやろうとするのよ!)」
エルメシアは内心で激しく愚痴りながら、表情に出さないように取り繕う。皇帝だとしたら城に運ばれるのも納得だが、問題は別にある。
「(ユーリか侍女が来るのであれば違和感はないけど、どうしてこの人が部屋に来るの? 名前と服装からして侍女の線はない。それに……なんでしょうねこの感覚、どういうわけかこの人を警戒してしまう)」
杞憂かもしれないが、この部屋に来るはずのない人間がここにいることにエルメシアは警戒していた。
「そう警戒しなくても構いませんよ。貴方を害するつもりがあれば、とっくにそうしています。貴方のことを聞いて、一度顔を出そうとしただけです。なかなか時間が取れなかったので」
「ハッシュヴァルトさん。貴方はそれ相応の立場なのでしょう? どうして、態々顔を出そうとするのかしら?」
「陛下が貴方を力を使ってでも助けたことを聞きましてね。そこまでする人がどんな人なのか一度顔くらい見てみようと」
陛下が力を使ってでも。その言葉を聞いてエルメシアは思わず身構える。ユリウスが力を隠していたのは明白だ。それを見てしまった自分の立場はマズイことを察してしまった。
身構えるエルメシアを見て、エレナは諭すように言った。
「言ったでしょう? 害するのであればすでにそうしていると。ユリウス様は貴方を殺さないと決定しました。なので我々が貴方を害する事はありません」
「なら、本当にただ顔を見たかっただけってことかしら?」
「えぇ、それだけです。貴方が目覚めていないと思っていましたしね。目覚めたのであれば、ユリウス様も安心するでしょう。侍女を用意しているので、しばらく楽にして構いませんよ」
エレナはそう言って部屋を出た。エルメシアはその姿を見届けて思わずため息を吐いてしまう。
「なんで起きてすぐにこんなに緊張しないと行けないのかしら…………」
「あれがユリウス様の言っていた人ですか…………」
エレナは執務室にて自分の椅子に深く座って寄りかかりながら、先ほど会ったエルメシアについて考えていた。
「不愉快ですね」
エレナはエルメシアのことがすでに嫌いだった。それこそ殺してもいいとユリウスに言われればすぐにでも殺すくらいには嫌っている。
「(光の帝国に帰還したユリウス様の顔は酷かった。表面上は取り繕っていたが、私に陛下として接する事も忘れるくらいには疲弊している様子だった)」
エレナはユリウスの異変に気づいていた。ユリウスはエレナに旅で起きた事情を説明したあとにエルメシアを殺さない事を厳命し、治療の後に自分から口留めすると言い残して、自分の部屋へと早々に去ってしまった。
「(その原因はエルメシアにある。どんな事情であれ、ユリウス様にあれほど負担を負わせたあの女を許すことは出来ない。しかし、何も出来ない状況でなにかしても良いことはない……)」
「(わかってる…………。自分がこんなに怒っているのはユリウス様を取られた気がするからだ)」
「馬鹿みたい。自分のものでもないのに、嫉妬するなんて……」
エレナが自嘲していると、執務室の外からカッカッと規則正しい足音が聞こえてくる。
「(この規則正しい足音は、ザイドリッツですね……要件は想像がつきますが、彼も真面目ですね。軍の方にはまだ情報は出回り始めたばかりだと言うのに)」
エレナが思案していると執務室の外からノックと同時にザイドリッツの声が聞こえてくる。
「ザイドリッツです。緊急の要件があるのですがよろしいでしょうか」
「入りなさい」
エレナの許可に難しい顔をしたザイドリッツが執務室に入室する。
「急な訪問、申し訳ありません」
「構いません。元々貴方を呼ぶつもりでしたし、わざわざ来るくらいですから必要な要件なのでしょう?」
本来、ザイドリッツがエレナに会うには、ザイドリッツが事前に予定を伝え、エレナがいつ会うのかを決める。しかし、ザイドリッツはその過程を無視しエレナに訪問した。
問題行動だが、エレナはこれを咎めるつもりはなかった。
「エレナ様はあのエルフの娘の件はどうなさるつもりですか…………?」
「(やはりその件ですか……)」
「どうもなにも、陛下の命に従うまでです」
「殺さずとも口外しないようにする方法はあるでしょう」
「陛下が許すとでも?」
「たとえ陛下が私を粛清しようとも、陛下の安全にはかえられない!」
ザイドリッツが声を大きく張り上げ語る。ザイドリッツの言う事はもっともだろう。ユリウス様の安全を考えるのであれば、あの女は殺すべきだ。
「何故……私に言う必要があるのですか? わざわざ言わずとも一人で実行することも出来るでしょう?」
「貴方様であれば同じ考えを持っていると思ったまでです。宰相閣下」
「…………貴方の気持ちはわかります。ですがそれを認めるわけにはいきません。彼女を害することは陛下の安全に繋がっても陛下の心に傷を残しかねません」
「陛下はあの女にそこまで入れ込んでいるのですか?」
ザイドリッツが苦い顔で聞いてくる。ザイドリッツは忠誠心が高く信用が置けるものの、陛下の力の詳細を知っているわけではない。かつての帝国が一夜にして滅んだトラウマの影響もあるだろうが、陛下の安全を第一に考える傾向にある。
悪い考えではないものの、今回は悪い方向に傾きかねない。
「入れ込んでいるというのはあっているようで少し違います。ただ、陛下は御自分で問題を解決すると仰った。であれば良い結果を待つだけです」
「陛下とて、完璧ではないでしょう……慈悲をかけるのは今後を考えれば問題になりかねない」
ザイドリッツはなかなか引こうとしない。陛下の様子を見てこの男にも思うことがあったのだろうか……理由は不明だが了承するわけにはいない。
「……まだ言うつもりはありませんでしたが、陛下のことはアンネリーゼ様に頼んでいます」
「アンネリーゼ様にですか……」
ザイドリッツは妙な反応を見せる。その顔を見たエレナは不満そうなザイドリッツに聞く。
「不満ですか?」
「言うべきではないことは承知していますが…………今の陛下にアンネリーゼ様を会わせるのは、陛下に悪影響では?」
「貴方の懸念もわかりますがアンネリーゼ様は陛下を大事に思っていますし、他に適任はいないでしょう」
「私はエレナ様が適任かと思っています。貴方様は婚約者なのですから」
「婚約者だったのは昔の帝国の話です。今は陛下と宰相であって、それ以上でも、以下でもありません」
「………………了解致しました。申し訳ありません。失礼な真似を」
「構いません…………」
あまりこの話をしたくないエレナは急いで話題を変える。
「それで今回の噂を広めた侍女の件ですが」
「すでに処分済みです。ですがこのままでは根本的な解決とはいかないでしょう」
「解決法はすでに考えてあります。今回の件が片付き次第、取り掛かる事になるでしょう」
「次の件ですが…………」
エレナ・ハッシュヴァルトは変わらない。これからもユリウスだけに仕え続ける。
エレナとの会合から数日経った夜、エルメシアは療養を受け部屋で安静にしていた。
とはいえ、傷はすでに綺麗さっぱりなくなっているため念の為の措置でしかない。
ユリウスとは未だに会えていなかった。エルメシアはそのことに不安を覚えていた。
「(ユーリは何を考えているのかしら…………)」
エルメシアはユリウスが未だに顔を見せない事を不安に感じていた。あの後一体どうなったのだろうか? ユーリは怒っているだろうか? と疑問が沸いては消えを繰り返す。
すると、部屋のドアがノックもなしに開く。入ってきたのはラフな格好のユリウスだ。
「女性の部屋に入るのにノックしないなんて常識を疑うわね?」
責めるように言うエルメシアだが、内心は冷たく返されるのではないかと不安でいっぱいだった。
「自分の城の部屋にノックして入る皇帝がどこにいるんだ?」
「(とりあえず、普通に会話しても大丈夫そうね…………怒ってる感じはしないし、いつもの感じで喋れば問題ないはず……)」
「そうそれよ。皇帝だったのもそうだけど色々気になる事が多いのに、全然会いに来ないから忘れられたかと思ったわよ」
エルメシアの言葉にユリウスは気まずそうな顔をしながら、弁明を始める。
「目が覚めたらすぐに会いに行こうとは思ってたけど、色々やることがあって遅れたんだよ」
「まぁそこまで気にしてるわけじゃないからいいけど……とりあえず色々説明してくれるのよね?」
「その前に少し場所を変えよう。ここは……アレだしな」
「…………?」
ユリウスの言葉に少し引っかかったものの、エルメシアは素直にユリウスについて行くことにする。エルメシアのいた部屋からそこそこの距離を2人は城の上へと歩いていく。
ユリウスは最上階の部屋の一室に入り、天井に隠されている折り畳まれた梯子を下ろし上に登っていく。ユリウスに続いてエルメシアが梯子を登るとそこには数人が寝転べるほどのスペースがある部屋にたどり着く。部屋には天井まで広がる大きな窓が1つついており、そこからは空と城下町を一望することが出来る。
エルメシアとユリウスは窓の前にある椅子に向かいあって座る。
「ここはな、俺と数人しか知らない隠し部屋なんだ。ここなら2人で話せる。それに今日は快晴だから綺麗な星空が一望出来る」
「星、好きなの?」
少し言い淀んだユリウスだが複雑な顔でゆっくりと語り始めた。
「昔から星を見ているのが好きだった。15年前、今と同じように星を眺めていた。俺はな、15年前まで光の帝国が建国される前にここにあった帝国の皇子だったんだ」
ユリウスは窓から見える星空を見ながら語る。月光に照らされながら語るユリウスの姿はどこか哀愁があった。
「だがある日、帝国は一晩で瓦礫の山と化した」
「それって…………」
エルメシアは聞いたことがある出来事だった。かつて災厄が西側諸国を一晩で滅ぼし、西側の大陸を命の住めない土地に変えたという話。ユリウスが語っているのはまさにその当時の出来事なのだとエルメシアは察した。
「あぁ、エルメシアは見てないからわからないだろうけど、あれば酷かった。かつてあった人も町も城も何もかもが一瞬でなくなった。生き残ったのはほんの僅か、かつてあった帝国は抵抗する間もなく消えた」
「俺はすぐに滅ぼした元凶を追ったよ。危険だとしても生き残った者達が元凶にいつ殺されるかわからなかった。俺がその場にいても自分以外が無事でいられる保証はなかった」
「追ってどうなったの?」
エルメシアは恐る恐るユリウスに質問する。これ以上聞くのは怖かったが、聞かないといけない気がエルメシアの口を動かした。
「元凶は一人の少女だったんだ。少女は自分の友達のドラゴンがとある国の王の策略によって他の国を騙し、邪悪なドラゴンの討伐という名目で殺された。少女はその怒りで暴走し全てを滅ぼす災厄と化した」
「その国って…………」
「策略は超魔導大国の王が企み、帝国は討伐隊に参加していた。ある意味では少女の行動は正当な復讐だったんだ。それを知ったのは後のことだけど、仮に知っても俺はきっと少女を殺そうとした」
「ユーリは、その少女を殺したの?」
「いいや、途中で魔王の邪魔が入ったんだ。魔王ごと殺すつもりが返り討ちにあって、逆に死にかけた」
「魔王は暴走した少女を助けようとしてたんだ。そのことを知った時、まるで自分が物語の悪役になった気分だった」
ユリウスは自嘲するように言う。確かに友達が殺され暴走する少女を止める魔王と殺そうとする人間。一見、人間が悪いように見えてしまう。
「でも…………、ユーリの行動は正当性があるでしょう?」
「そうだな…………。それはわかってたけど、一度考えると自分の行動がこれで良いのか迷ったんだ。結局、魔王と暴走する少女を同時に相手するのは無理だと判断した俺は魔王と取引し、少女の暴走を止めるのを協力した。
悪く言えば、妥協したんだ…………。出来ない理由を探して自分を曲げた」
ユリウスのその独白はとても重かった。実際エルメシアの肩に重りがのしかかっているのかと錯覚してしまう程に重い言葉だった。
部屋が重い空気に包まれる中、ユリウスはもう一度ゆっくりと口を開く。
「あの惨劇から人類がどれほど脆いのかが良くわかった…………。だから夢があるんだ…………。弱小種族の人類が進歩し、完全に自立してほしい」
ユーリの言葉には希望があった。そうしたいという強い意志が言葉から溢れ出すように私に伝わる。
「どうして…………、それを私に話したの?」
「本来であれば、俺の力を見たお前は殺すべきだ。でも、生まれて初めてなんだ。立場や大した理由もなく、自分の眼だけで判断して誰かを信じようとしたことが…………」
「そんな……ことで……?」
「そんなことでも俺にとっては初めてで、大事なことなんだ」
ユリウスの真っ直ぐな言葉を聞いて、エルメシアは呆れたように大きなため息を吐いた。
「はぁぁ、これじゃあ色々考えて謝ろうとした私がバカみたいじゃない」
「別に…………」
「…………謝らなくていい。でしょう?」
ユリウスの言葉に被せるようにエルメシアがユリウスが言おうとしていた言葉を続ける。自分の言おうとしていたことを当てられたユリウスは微妙な顔で頷いた。
「ホントにバカみたい。なんでユーリの重い過去話なんて聞かないといけないのかしらぁ?」
エルメシアはやってらんないと言わんばかりにユリウスを煽る。
「なに話せばいいのかわからなかったんだよ…………」
「だからってなんで過去話になるのよ! これじゃあ私だけなにか隠してるみたいじゃない!?」
「じゃあなんかないのかよ。エルメシアの夢」
ユリウスが聞くとエルメシアは途端に黙り、考え込んでしまう。しばらく黙っているとエルメシアが口を開いた。
「………………ユーリからすると嫌でしょうけど、超魔導大国が滅んでエルフの生き残りは世界各地に散らばったの。私はエルフを統一し新たな国を建国したいと思ってるわ」
エルメシアは真剣な表情でユリウスに告げた。人類の進歩を望むユリウスとバラバラになったエルフを統一したいと望むエルメシアは違うところはあれど、2人の夢はどこか似ている夢だった。
「良いんじゃないか」
「嫌じゃないの?」
「別にエルフ全体が悪いわけじゃあないだろう? 問題なのは王一人だよ」
「じゃあ約束しましょう?」
「約束?」
「えぇ、いずれ自分の夢を叶えましょう。自分の力で」
「そうだな。じゃあ……ほらっ」
そう言って小指をさし出すユリウス。エルメシアはその様子を見て首を傾げた。
「なに……それ?」
「あぁー、ジンクスみたいなものだよ。約束する時に小指を結ぶんだ」
「ジンクスねぇ」
エルメシアは訝しげにするが、ユリウスの小指に自分の小指を絡めた。
「約束よユーリ、夢を諦めないで正しさは自分で決めるものよ」
「あぁ、約束なんだ。もう迷わない」
その日、いずれ天帝と呼ばれる
この約束が世界に知られることはない。永遠の秘密として、2人の中に残り続けることになる。
今回の章タイトルを『迷宮探索』にするか『約束』にするか迷った結果、約束だとネタバレになるため仕方なく迷宮探索にしました。
ユリウスにとってアンネリーゼは妹だしエレナはあくまで婚約者という立場から始まったため距離が詰めやすかったですが、エルメシアは立場とかなんの関係もなく関わった初めての相手のためユリウスは色々警戒していましたが、最終的には信じようと決めました。
なので、エルメシアはユリウスにとってエレナとは違う関係になりました。どっちも大事ではありますよ?だからエレナが負けヒロインみたいなことしてても問題はない!
ユリウスの内面がゴチャゴチャしていてわかりずらかったかもしれないですが、それくらいユリウスが迷ってるってことです。そういうことにしてください。
転スラとBLEACHについてどれくらい知っていますか? 転スラ書籍版を1、BLEACHを2と表記します
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1は知らないが2は知っている
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1は知っているが2は知らない
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1も知らないし2も知らない