カルテン王国での騒動から1年ほど経った。あれから
ユリウスは
「ユリウス様、ここらで休まれては?」
キューザックはユリウスに休むように促す。模擬戦を始めてからすでに半日ほど経っており、もはや模擬戦の規模を超えていた。
「もう、バテたのか?」
「いいえ、私が言っているのはユリウス様の方です。いくら精神生命体で食事も睡眠も不要とはいえ、ユリウス様は人間です。精神の方に影響が出かねません」
「最初はそうでも、いずれこっちの方に慣れるだろ」
ユリウスから当然だろ? とでも言うような発言に、キューザックは頭を抱える。
「まぁまぁ、ユリウス坊っちゃんが良いと言うのだから従うのが従者というものだろう?」
ユリウスを擁護する声がキューザックの後ろから聞こえてくる。チャンドラーだ。
「それは貴様がユリウス様と一緒にいたいだけだろう」
どうやらチャンドラーの思惑は御見通しのようで、チャンドラーの意見は聞き入れられることはなかった。
「チャンドラー、今はリーゼといるんじゃなかったのか?」
ユリウスの記憶では、チャンドラーはリーゼと一緒にいたはずだ。護衛も兼ねているので、勝手に行動するはずがないのだが…………
「そのとおりです坊っちゃん! お嬢様と一緒の時間を楽しく過ごしている時に、なにやら忌々しい気配が銀架城内にいることをで感じて、その敵をボコボコにして参りました!」
やってやったという様子で語るチャンドラーだが、詳しい説明がなさすぎて、まるで状況が伝わってこない。
「結局、何をしに来たんだ?」
興奮した様子のチャンドラーに見兼ねたキューザックが代わりに質問する。
「あぁ、そうそう。ソイツがユリウス様に用があるとかいって、この手紙を渡そうとしてたので、その報告に来ました。坊っちゃん」
そう言って、チャンドラーが取り出したのは黒い手紙だ。しかもギィからの手紙だった。内容は…………
「どうされましたか?」
ユリウスの様子がおかしいことに気づいたキューザックが、様子を伺うがユリウスは手紙の内容に釘付けになっていた。
その内容は、ミリムがユリウスに会いたがっているとのことだ。書いている内容にどのような理由で会いたいのかは、書かれていなかった。他には明後日の夜に迎えを寄越すとだけあるシンプルな内容だ。
「チャンドラー、次からは追い返さなくていい」
勝手に城に入る方にも問題があるが、それを注意してもギィが素直に聞くとは思えないしこっちが慣れるしかないだろう。
「それで、手紙にはなんと?」
ユリウスに褒められるどころか、注意されたチャンドラーがどんよりとした雰囲気を発しているが、それを無視してキューザックが手紙の内容を聞く。
「ギィからの食事の誘いだ。元々会う理由もあったし、ちょうどいいだろう」
「ギィ・クリムゾン……
キューザックは俺とギィの関係を知らないので、その懸念は当然だ。まぁ、何故ギィから手紙が来るのか聞かない辺り、気を遣っているのかもしれない。
「必要なことだ。お前たちも護衛として連れて行く」
「なるほど。何処かのボケ老人が事態をややこしくしてしまったようで」
わざと護衛と濁したんだが、キューザックは容赦なくチャンドラーが責め立てるつもりのようで、ユリウスの視界の端でチャンドラーは泣きながらキューザックに弁解していた。
「(ミリムが俺に会いたがっている…………。いずれ相対するととわかってはいたが、思ったよりも早かったな……)」
ユリウスは1人、覚悟を決めた。かつて故郷を滅ぼした元凶たる魔王に会うことに。
風が強くなる晴天の夜、ユリウスは城の裏門にチャンドラーとキューザックと共にいた。周囲に人影はなく手紙の時間まで、もうすぐとなった。
「ユリウス様、その服装で大丈夫なのですか?」
キューザックが気遣うように聞いてくる。ユリウスの格好は軍服のような白の服に、漆黒のように黒いマント纏った服装をしている。これはユリウスが皇帝としての姿をする時の霊装であり、一見ただの服のようでありながら、並の鎧よりも遥かに強固な物だ。
キューザックは皇帝として会うのか? と言いたいのだろう。しかし、ユリウスには要らぬ気遣いでもあった。
「今日は
ユリウスとキューザックが話していると、ユリウス達の前に巨大な門が現れる。門がゆっくりと開くとその中からミザリーが出てくる。ユリウスを見て微笑むが、後ろのキューザックとチャンドラーを見ると、警戒する様子を見せる。
やはり追い返したのが原因なのか、かなり警戒されている様子だ。
「お久しぶりでございます。ユリウス様、それともユーハバッハ様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
「今日は俺を知っている奴しかいないからユリウスでいい。他の時はユーハバッハと呼んでくれ」
「畏まりました。それではご案内致します」
ミザリーはそう言って門へと向かい潜っていく。ユリウス達も同じように門を潜ると次の瞬間には、まったく別の場所にへと変わっていた。
そこは室内でありながら美しい星空の広がる天井に、中央には大理石の円卓と椅子がある。一番奥の椅子にはギィが座っていて、こちらを見ながら好戦的な笑みを浮かべている。
「よう、久しぶりだな。前よりもらしくなったな」
「そういうお前は変わらないな。前と同じままだ」
ギィとユリウスは16年前と同じように応酬を始める。見る人から見ればハラハラするような会話だが、これがユリウスとギィの距離感だった。
ユリウスはギィの座る上座の真正面の席に座った。それと同じようにレインとミザリーはギィの後ろに控え、ユリウスの後ろにはチャンドラーとキューザックが控えた。
「今日の呼んだのは手紙の通りだが、まだミリムは来てなくてな。それまで俺との会話を楽しもうぜ?」
「世間話をするような仲でもないだろう? 他に話があるのなら早く言え」
「つれねぇな……お前らしいと言えば、らしいけどな」
ギィはやれやれといった様子で呆れた様子を見せるがユリウスは反応する様子を見せない。ギィはユリウスの反応の無さにつまらなさそうな顔をしながら、本題に入った。
「その後ろ魔人、ソイツらは原初の魔人だろ? どうしてソイツらが、お前の配下になってるんだ?」
「誰を配下にしようとも、俺の自由だ。どうしてそんなことを聞く?」
ギィが原初の魔人を知っているのは、過去の閲覧で把握済みだ。しかし、配下にしたことをわざわざ聞いてくるとは思っていなかったユリウスは、一度答えを濁すことにする。
「アレは本来であれば、封印されていたはずだ。そんな奴がここにいたら驚くだろ?」
ギィが言う事は最もな疑問ではあるが、本当にそれだけだろうか?
違和感があったユリウスだが、隠しても仕方ないことなので正直に答える。
「封印も何も、超魔導大国の迷宮で襲われただけで何かした覚えは何もない」
ユリウスの答えにギィは深く考え込み始める。隠しているのはおそらくはヴェルダナーヴァのことだろう。
ユリウスのスキル『
ギィはそれを知っているのだろうか…………。気になりはするがこちらに言わないあたり、聞いても答えてはくれなさそうだ。
「封印についてはわかった。それでソイツらを制御出来るのか? 手紙を寄越した時もミザリーがやられて帰ってきたぞ?」
「許可もなく、城に立ち入るからだろ。それに関してはチャンドラーに責はない」
ギィの言っていることは、ほとんど言い掛かりだ。あくまで誤魔化すための質問だろうが、本気で「それくらいいいじゃねぇか」とか言いそうだから、ここでしっかりと否定しておく。
「いいだろ? 別に、俺達の仲なんだ」
「良い訳ないだろ。次はちゃんとした手順で伝えろ」
「…………わかった。面倒だからコレをやるよ」
ギィがユリウスに軽く小さな物を投げる。それをキャッチし、なにか確認すると、それは禍々しい指輪だった。とてもつけていたいとは、思わないようなデザインだ。
「それは相手に自分の意思を伝える事が出来てな。なにかある時は手紙じゃなく、それに連絡するからつけとけ」
「もっとマシなデザインはないのか…………?」
「ない。指に嵌めなくとも、持っているだけでわかるから我慢しろ」
「………………」
嵌める必要がないだけマシと思い、ユリウスは渋々指輪を受け取ることにした。
「もう一つ、聞きたいことがあったんだったな」
ギィはわざとらしい様子で、まるで今思い出したような演技をしている。しかし、突如真剣な顔でユリウスを試すように問いかける。
「ユリウス、どうして国を築いた? 人類の進歩に自分の国は必要ないんだろ?」
確かに似たようなことは言った。だが、ギィは勘違いしている。
「俺は、光の帝国を人類の進歩の対象として含めていない。光の帝国は人類が進むための礎で、人類の滅亡を防ぐ防波堤でもあり、生贄だ」
光の帝国の目的は主に二つだ。一つ目は、人類または世界に危険が迫った時にそれを防ぐ戦力として、二つ目はユリウス自身の力を強化するためだ。
ユリウスの血や魂を与えた者が死んだ際には、その者の力は全てユリウスに統合される。そのためにユリウスは光の帝国を完全に支配する。都合の悪い意見などは認めず、進歩することもなく、ただ一定の安寧と幸福という甘い毒を与え続ける。
「まさに、
「なるほどな…………理想郷に見せかけた反理想郷か。とんだ皮肉だな」
ギィはユリウスの説明に納得がいったようだが、同時に複雑な顔をしている。
確かに、人類の進歩のために支配を否定したユリウスが、進歩のために支配が必要になるとは、酷い皮肉だろう。
「納得いったか?」
「あぁ……。元々、建国の理由が知りたかっただけで方針にまで口出しする気はねぇよ」
どうやら、ギィは確認したかっただけのようだ。
「ギィ、今日ここに来たのは、原初の赤であるお前に聞きたいことがあるからだ」
ギィは、肘掛けに腕を立て頬杖をつきながら訝しげにユリウスを見ている。
「なんだ。改まって」
「原初の…………」
ユリウスがそう言いかけた時、いつの間にかギィの後ろにいたレインが、慌てた様子でギィの近づき、耳元に小声で話している。
レインの話を聞いたギィは、一層真剣な表情で俺へと告げた。
「ミリムが着いたぜ」
その言葉に部屋は不思議と、今までよりも静かになる。
その静かな空気はギィの後ろの大扉が開くと同時に破られた。開いた扉に立っているのは、ヴェルザードとその後ろに隠れるようにいる、プラチナピンクの髪をツインテールに纏め、黒いワンピースを着た可憐な少女だ。
ユリウスはそれが誰かを知っている。たとえ姿が多少変わっていたとしても、忘れるわけがない相手だった。
「ほら、ミリムが会いたいと言ったのだから、ちゃんと話さないとね?」
ヴェルザードが優しく後ろの少女に諭す。少女はおどおどした様子でユリウスを見つめながらゆっくりと近づいてくる。
その様子を見たユリウスは椅子から立ち上がり、ゆっくりと少女の方へと近づいた。
「こうして会うのは、はじめましてと言ったほうがいいのか。ミリム・ナーヴァ」
「そうだな、はじめましてなのだ。ユリウス…………」
こうして、16年の時を経て、かつての皇子と竜皇女が言葉を交わし合う。片や忘れることのない悲しみを抱え、片や拭いきれぬ罪悪感を抱えながら、2人は出会った。
一応、ミリムは登場しましたが、本格的な話は次回です。
転スラとBLEACHについてどれくらい知っていますか? 転スラ書籍版を1、BLEACHを2と表記します
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