転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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ミリム回ですが長くなるとグダるので、説明部分は結構省略しました。一度読んでからもう一度読み直すと、ユリウスの独白の意味がわかりやすいかもしれません。


哀れみと憎悪

「とりあえず座れよ。話はそれからだ」

 

 向き合うユリウスとミリムにギィが宥める。ユリウスは無表情でミリムはユリウスに目を合わせようとしない。そんな状況をどうにかしようとギィが話を進めるつもりのようだ。

 

 ギィに促され、ミリムはギィの左隣の席に座った。そしていつの間にかヴェルザードがギィの席の肘掛けに座っている。まるで自分がそこにいるのが当然と言わんばかりだ。

 

「ちょっとちょっと! 何よこの空気!」

 

 どこからか少女の声が聞こえる。その声の正体は、ヴェルザードの服の中にいた羽の生えた金髪の妖精だ。ユリウスはその姿に見覚えがあった気がしたが、思い出せずにいた。

 

「ラミリス……少しは空気を読め」

 

 傲慢の名が相応しいギィから思いがけない言葉が出てくるが、言うことは最もだ。もう少し空気を読んで欲しい。しかし、見逃せない名前がギィから出てきた。

 

「ラミリス? それは俺の知っているラミリスの同姓同名の別人か?」

 

 ユリウスの視た精霊女王ラミリスは、もっと大人の女性だった。確かに、精霊女王を子供にすれば似たような見た目になりそうだが、ユリウスとしては信じられない気持ちだった。

 

「残念ながら、同一人物だ。残念ながらな」

 

「ちょっとアンタら! 何よ!? まるでアタシが超絶美女で完璧で偉大な精霊女王に見えないってわけ!?」

 

 ギィが2度も言うのもわかるくらいに酷い…………。ユリウスは思わず、ギィに同情し共感した。今までで一番ギィと心を通わせているかもしれない……。

 

「とりあえず、ラミリス……お前はしばらく黙っててくれ、話がややこしくなる」

 

「なんでさ! ミリムの顔が晴れないのは、アンタがアイツの事を話したからでしょ!」

 

 ラミリスがユリウスに指を指し、ギィに抗議する。

 

「(にしても意外だ…………。誰がミリムに俺のことを話していたのか気になったが、まさかギィが話したのか)」

 

 ミリムがユリウスのことを知れば何らかの傷を心に負う可能性があったはずだ。ただ暴走してあらゆる物を壊したという認識と自分のせいで自分と同じように、何かを失った被害者が明確にいるという認識の差は、非常に大きい。

 

 ユリウスの存在を伝える事で、ミリムは友達を失った悲しみとその悲しみを作った元凶と同じ事を、ミリムがユリウスにしたという罪悪感が生まれかねない。

 

 ミリムは見た目相応に心が幼いことは、ユリウスはすでに知っている。ユリウスが知っていてギィが知らないということはないだろう。

 

「ミリムには必要なことだ。遅かれ早かれ、ユリウスの事をいずれ知ることになる。後回しにして面倒事になるくらいなら、オレの前でやらせたほうがいいだろ? そもそも、ミリムが会うことを決めたんだ。他者が立ち入る問題でもねぇよ」

 

「それは……そうかもだけど…………」

 

 ギィからしたら、またミリムを殺そうとしかねないユリウスを放置するよりも、さっさと会わせて、ハッキリとさせたいのだろう。

 なにかあっても、自分がいれば止められると思っているあたりが傲慢だ。

 

「ラミリス……ありがとうなのだ。けど大丈夫なのだ」

 

「…………わかったわよ! 口を出さなければいいんでしょう!」

 

 ラミリスは不貞腐れたようにギィの右隣の席に座る。理解はしたようだが、完全に納得したわけではないらしい。まるで子を心配する母親のようだ。ユリウスはまるで似ていない2人にそんな感想を抱く。 

 

「話が脱線したな。ミリム、好きに話せ。オレが誰にも口を挟ませねぇよ」

 

 ギィの言葉にミリムは頷き、深呼吸をするように息を整えた後、ユリウスに顔を向ける。そこでようやく、ミリムとユリウスの目が合った。

 

 ミリムの水晶のような青い瞳とユリウスの血のように赤い瞳の視線が交わし合う。まるで2人しかいないと錯覚してしまう程に周囲は静まりかえり、時間が引き延ばされたかと思うほどに一瞬の時間が終わらない。

 

 ミリムはゆっくりと口を開く。

 

「ユリウスは……やっぱり、ワタシを恨んでいるのか…………?」

 

 ゆっくりと放たれた言葉は、確認だった。ミリムはおそらく、暴走した時の事を覚えていない。あくまで又聞きの話だけのはずだ。だからこそ、ユリウスの口から聞きたいのだろう。

 

 それにしても、恨みか…………ユリウスにその感情はない。しかし、それは決してミリムを許したわけではない。ギィの勝算やミリムに対する憐れみ、世界の影響、互いに奪い合った感情。様々な原因があって、最終的にユリウスとユーハバッハは、あの時にミリムを殺す事を諦めた。

 

 それは、あくまで合理的な判断で決めたことだ。

 

 

 では感情は? 

 

 

 あの時、もし自分が感情のみで行動していたらどうしただろうか…………。

 

 

 怒りで殺そうとした? 

 

 

 それとも同じ被害者だからと許した? 

 

 

 わからない。どちらの気持ちもある。ミリムを恨んでいるか…………総合的に自分はどちらに立っているのか。ハッキリ決めたわけではない。

 

 

 違う。考えようとしていないだけで、すでに立ち場を決めていた。

 

 

 俺はただ、目を逸らしている。恨みとは何かと意味のない考えを巡らせて、自分の立ち場を明確にしようとしないだけ。もうやめよう。とっくに立ち場を決めてその道に進んでいる者もいるのに、自分だけ迷うわけにはいかない。

 

「俺はお前を恨んでいない。怒りがないと言えば嘘になる。憐れみがないと言えば、それも嘘になる。あの時死んだ者達を代表する気はない。ただ、俺はお前を許してる。怒りをぶつけるつもりはない」

 

「ワタシは…………ユリウスの大事な物を壊してしまったのだろう? どうして、許せるのだ……? ワタシは、とても……許せなかった」 

 

「どうしてって言われても、俺も言語化できない。複雑ではあるし、思うところもある。けど、俺は許すと決めた。それで充分だ」

 

 もうユリウスは皇子ではなく、皇帝だ。怒りに任せて暴れてはならない。それに、怒りはユリウスが抱く必要もない。

 

 ユリウスの言葉に、ミリムは青い瞳から涙を浮かべる。

 

 ミリムは今、どんな感情を抱いているのだろうか……

 

 悲しみや罪悪感があるのは感じる。だが自身の行動に後悔はしているのか? 泣いているのは何故だろうか? ユリウスには、ミリムの気持ちを理解出来ない。否、考えたくもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が深くなり星が最も輝く頃、ユリウスは以前エルメシアと約束した展望室で1人、星を眺めていた。

 

 あの後ミリムが泣きながら謝ったり、ギィから他の原初の悪魔について聞き出したが、ユリウスは精神的な疲れでまともに動けなくなっていた。あの場では、何とか平静を保っていたが本音を言えば今すぐに1人になりたかった。

 

 ミリムとの会合は、ユリウスの想像以上に精神にダメージを与えていた。もし、ミリムが邪悪の権化のような人物ならユリウスは遠慮なく殺す事も出来た。だが、ミリムは幼い少女だった。

 

「素直に恨むことも出来ないのか……俺は…………」

 

「お兄様は、恨みたかったの?」

 

 聞き覚えのある声が耳に届く。その声の持ち主は、ユリウスがあの日からずっと避け続けてきた相手だ。

 

「お兄様から凄く悲しい感情が伝わってきたよ? こんなに感情的なったのは、エルメシアさんだっけ? その人とここで話した時とあの日くらいだよね?」

 

「リーゼ…………」

 

 アンネリーゼは、足元まで届く純白の髪に少しの黒髪を靡かせながら、首をかしげユリウスの上に横抱きのような状態で座った。

 

「チャンドラーから聞いたんだ。お兄様がギィさんに会いに行くって」

 

「…………何しに来た」

 

「お兄様ったら、冷たいなぁ。こんなに可愛い妹が慰めに来たのに、そんなに私に会いたくなかった?」

 

 アンネリーゼはあの日から変わった。昔は素直で実直な妹だった。しかし、そんな姿はもうない。純白の髪には黒が混じり、ルビーのように赤い瞳は、濁ったように暗い赤になった。

 

 見た目だけではない。時間が経つと貴族としての教育をエレナから学ぶようになった。1年前からは、チャンドラーから戦闘も学ぶようにもなった。そうなった原因は、わかっている。

 

 帝国が滅んだあの日。ユリウスとアンネリーゼは対になるようにスキルを得た。

 

 

 ユリウスは『悲哀者(カナシムモノ)』を、

 

 

 アンネリーゼは『憎悪者(ゾウオスルモノ)』を得た。

 

 

 それは2人の運命を大きく変えた。

 

 

 それ以降、ユリウスは大きな憎悪を抱くことがなく、代わりにアンネリーゼの悲哀を感じるようになった。

 

 アンネリーゼは大きな悲哀を抱くことがなく、代わりにユリウスの憎悪を感じるようになった。

 

 ユリウスはこれ以上自身の感情を渡すことは、悪影響になると考え、アンネリーゼと物理的に距離をとった。このことは2人しか知らず誰にも語ろうともしなかった。

 

「お兄様はさ、わかってるでしょ? 自分が大した憎悪なんて抱いてないことも、私が大して悲しんでいないこともさ?」

 

「あぁ…………」

 

「結局さ、私達は相応しいスキルを得たんだよ。お兄様は気にしてるみたいだけど、仮にスキルがなくても何も変わってないと思うよ?」

 

 ユリウスは誰かを憎しみ、恨む才能がなかった。それはスキルにも如実に出ていた。そしてアンネリーゼも同じことが言えた。

 

「ミリム・ナーヴァが謝ってたね? お兄様はどう思った? 私はね、グチャグチャにしたいと思ったよ」

 

 ユリウスはあの場で嘘をついていない。感情で殺すことはないし、ユリウスは許した。だが、他の人物が許したとは一言も言っていない。

 

 アンネリーゼの存在は隠し続けた。ギィが知れば、マズイことになるとわかりきっていたから、チャンドラーをつけた。

 

 ミリムは許されたことに安心しただろう。あの場にいた他の者たちも死んだ人間達のことなど、気にも止めていない。全員人間ではないのだから、当然と言えば当然だ。

 

 だが被害者は絶対に忘れない。そこに正義がなくとも、どれだけ理不尽で残虐な行為でも復讐とはそういうものだ。

 

「いつか、お兄様にも見せたいなぁ…………。あの泣きながら安心した顔を同じ絶望に浸して、苦痛と屈辱で犯し尽くして、最後に飽きたら殺すんだぁ…………。きっと、楽しいよ」

 

 アンネリーゼは甘えるようにユリウスの胸に顔を埋めながら語る。それは将来の夢を兄妹に語る子供のように、キラキラと顔を輝かせている。

 

「大丈夫だよお兄様。お兄様は私に託したんだものね? 私が皆の代わりに、復讐するから…………。ね?」

 

 アンネリーゼ・ベルツは、あの日壊れてしまった。ミリム・ナーヴァが壊してしまった。その事実をミリムはいずれ知ることになる。

 

 ユリウスは決して止めない。少なかろうとアンネリーゼの中に自身の憎悪があるのは確かだから。あの日、ミリムを殺せなかったせいでこうなったのだと。

 

「…………お兄様?」

 

「どうした…………」

 

「私ね、お兄様がいて良かったと思ってる。あの日お兄様まで死んでいたらと思うと怖いの…………」

 

「俺は死なないよ。もう、あんな悲劇は起きない」

 

「約束してくれる?」

 

「約束だ。絶対に死なないし、悲劇は起こさない」

 

 

 似て非なる兄妹は、たとえ壊れていようとも兄妹であり続ける。お互いに夢のために自分が死んでもいいと考えながら、互いが生きる事を望んでいた。

 

 

 

 2人が見上げる空は、全てが壊れたあの日ように満天の星空だった。




ほとんどの人が忘れていたであろうアンネリーゼの登場です。この回のために、今まで全く出番がありませんでした。

原作でミリムは、過去の事を覚えていないみたいなんですよね。ギィやラミリスは伝えなかったのか、単純に忘れてしまったのか。今作では、ユリウスがいるのでバリバリ覚えている設定でいきます。

あとミリムは、ユリウスとほとんど同い年という設定の予定なので、原作時間軸よりかなり幼い感じで描きました。

転スラとBLEACHについてどれくらい知っていますか? 転スラ書籍版を1、BLEACHを2と表記します

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