転スラ要素まったく無し!!!
それから二年間、俺とエレナは1ヶ月に一度のペースで会うようになり、口調も砕けるくらいには親しくなった気がする。
公爵領と首都は片道3日はかかるので、かなりのハイペースで会っている。
婚約者なので会わないといけないのはわかるがエレナの負担なんじゃないんだろうか?
そう思い聞いてみたところ、そんなことはないと言われてしまった。
謙遜なのかどうかはわからないが、問題ないと言われてしまえば俺には何も出来ないので、エレナには負担だったら言ってくれと言って特に干渉しないことにしている。
ここ最近のエレナの娯楽は俺の鍛錬を観戦することらしく、文官の家系だからか、人が戦ってる姿をあまり見たことがないからと来るたびにキルゲとの模擬戦をお菓子をつまみながらリーゼと一緒に観戦している。
リーゼとエレナはいつの間にか意気投合したようで、いつも通りキルゲに負けた俺をからかって来る。正直やりづらいから勘弁して欲しい。別に悪いことではないのだが、最初の頃とは随分と印象が変わった…………。
「何か、失礼なことでも考えましたか? ユリウス様?」
エレナがジト目で俺を見てくる。何でわかるんだ……? ユニークスキルでも持ってるのか?
「生憎とそんな便利なスキルは持っていません」
「やっぱり、心を読んでるだろ」
「ユリウス様は顔を見れば思っていることがすぐにわかります。キルゲ様も言っていたではありませんか?」
「そんなに出てるか? 自覚ないんだよ全然」
「結構わかりやすいですよ。ねぇドーラさん?」
エレナがお茶のおかわりを用意しているドーラに聞いた。ドーラは間髪入れずに答えた。
「そこがユリウス様の良いところかと」
「顔に出てることは否定しないのな」
「否定できるところがありませんので」
どうやら俺の味方は居ないらしい。反論を諦め大人しく紅茶を飲んでいると、エレナが気まずそうに聞いてくる。
「ところで、エルザ様が倒れたと聞きましたが体調は大丈夫なのでしょうか?」
エルザとは俺の母親のことだ。昔から病弱で、一日の殆どをベットの上で過ごしている。俺とリーゼを産んでからは更に体調が悪化したらしく、外に出ることすらままならない。
俺はエレナに不安にさせないように、落ち着いた口調で説明する。
「大丈夫だよ。倒れたといってもいつもあることだし、特に何かあったわけじゃない」
「だといいのですが、パーティーまでに回復するでょうか…………」
1週間後には俺の誕生日パーティーがある。3年毎に全ての貴族を城に招き大々的に行う。これには政治的理由が色々含まれているが自分の誕生日にそんなこと考えたくないので父上にはあえて聞かないようにしている。
「まぁパーティーに参加せずとも、毎年母上には個人的に祝ってもらっているから大丈夫だよ。無理に参加して倒れたら一大事だ」
「それもそうですね。パーティーには私も出席しますのでエスコートお願いしますね?」
「全力でエスコートさせていただきますよ。お嬢様?」
「フフッ似合いませんね」
からかうつもりで言ってみたユリウスのキザなセリフに、エレナが可笑しそうに小さく笑う。
「笑うなよ。恥ずかしい」
「だってドーラさんと話す時と全然違いますから。つい」
「ドーラと話す時は、立場を気にしなくていいから楽なんだ」
「私と話す時も少し堅いですよ」
「君と俺は婚約者という立場があるだろう?」
「ここには私とユリウス様それにドーラさんしかいないのですから立場など関係ないと思いますよ?
それともまだ私とは話しづらいですか?」
エレナが不安そうに聞いてくる。そういうわけじゃないんだけどな…………
「話しづらいってわけじゃないけど…………わかった立場は気にしないようにする。話し方はまぁ気をつける…………」
「えぇありがとうございます。実は距離を置かれているのではないかと不安だったんです」
「そんなに器用じゃないよ俺は」
「パーティー楽しみにですね?」
「あぁ楽しみだ」
エレナと出会って2年、婚約者としての距離間がイマイチわからず苦戦したが、ようやく距離を一歩詰めれた気がする。小さな一歩だが確かな実感に嬉しく思った。
パーティー当日。ユリウスは略礼服に身を包み、大広間の大扉の前で静かに待機していた。今はただ、エレナが到着するのを待つのみだ。
すでに貴族たちは広間に集まっており、主役であるユリウスとエレナは、全員の注目を集めるために最後に入場する段取りとなっている。
今回の宴は、次期皇帝たるユリウスの婚約者を正式に紹介するという大事な場でもある。そのため、エレナもまた主役の一人だ。
とはいえ、ほとんどの貴族はすでにエレナが婚約者であることを察しているだろう。だからこそ、この入場はあくまで儀式であり舞台装置に過ぎない。
ちなみに、母上は体調が戻らず、残念ながら今回のパーティーには参加できなかった。それも仕方のないことだと割り切り、パーティーが終わったら必ず見舞いに行こうと心に決める。
「ユリウス様、お待たせしました」
その声に振り返ると、そこには白いドレスを纏ったエレナがいた。
長い金髪は後ろで美しくシニヨンにまとめられ、白い花飾りが慎ましやかに添えられている。その姿は、年齢を感じさせないほどに洗練されていて、とても12歳とは思えぬほど大人びて美しかった。
「どうでしょうか……変ではないですか?」
「いや、すごく綺麗だよ。髪型が違うだけで、こんなに印象が変わるなんて」
「そうですか? ユリウス様も、とてもお似合いです」
「ありがとう」
二人で穏やかに言葉を交わしていると、大扉の向こうからざわめきが聞こえてきた。どうやらいよいよ出番のようだ。
ユリウスはそっとエレナに手を差し伸べ、彼女と腕を組むと目を合わせて尋ねる。
「準備はいいか?」
「はい、問題ありません」
エレナは力強く頷いた。大扉がゆっくりと開き、二人は無数の視線を浴びながら、堂々と大広間の中へと足を踏み入れた。
その少し前、皇帝アルベルトは拡声のマジックアイテムを手に取り、貴族たちへと呼びかけてた。
「さて、皆。今日の宴に集まってくれたこと、心より感謝する。
子どもの成長は早いというが、私の息子も気づけばもう12歳。いずれ彼は、皇帝にふさわしい器となるだろう。その未来のために、皆にと息子のことを支えてくれることを思う。
そして、本日もう一つ、嬉しい報せがある。
我が息子、ユリウスの婚約者が決まった。皆に直接紹介しよう」
その言葉に合わせて、大扉が開く。ユリウスとエレナが腕を組み姿を現すと、広間の空気がわずかに張り詰める。
それぞれの視線を浴びながらも、二人は落ち着いた足取りでアルベルトの元へと進んだ。
「あらためて紹介しよう。我が息子の婚約者、エレナ・ハッシュヴァルト嬢だ」
その声と共に広間に拍手と歓声が巻き起こり、貴族たちが次々と祝杯の言葉を送る。
「これはめでたいですなぁ…………」
「えぇまったくです!」
「ハッシュヴァルト嬢であれば、ユリウス皇子の婚約者に相応しいでしょう!!」
一見すれば、誰もが笑顔で祝福しているように見える。だが、ユリウスの目には、明らかに目が笑っていない者や隣と小声で何かを囁き合う貴族たちの姿も映っていた。
そのほとんどが、武官派閥に属する貴族たちである。一方、文官派閥は概ね好意的だが、全員というわけではない。
こうして垣間見える派閥争いの雰囲気に、思わず辟易としそうになるがユリウスは表情に出さないよう気を引き締めた。
そのとき、父上が拡声のマジックアイテムをユリウスに手渡してきた。事前に説明を受けていたとはいえ、この状況で挨拶をするのは逃げ出したくなるほど気が重い。
だが、逃げることはできない。ユリウスは深く息を吸い、覚悟を決めて話し始めた。
「本日は、パーティーにご参加いただきありがとうございます。私の名は皆さんご存知かとは思いますが、改めて申し上げます。ユリウス・ベルツ・ローゼンベルクです。
私はまだ未熟な若輩者ですが、父上を見習い、いつかは良き皇帝となれるよう努力してまいります。どうか今後とも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
一瞬の静寂のあと、万雷の拍手が大広間を覆い尽くした。なんとか、挨拶は無事に乗り切れたようだ。
その後、エレナと共に大勢の貴族達とのご挨拶を済ませ、パーティはようやく終わりが見えてきた。
「ユリウス様、各貴族達のご挨拶もお疲れ様です」
「あぁ、エレナもお疲れ様」
「なんとか終わりそうですね……」
「そうだな。でも、終わる前に思い出作りをしようか」
「思い出、ですか?」
ユリウスはふと微笑むとエレナの前で手を差し出し、優しく告げた。
「俺と踊っていただけませんか?」
エレナは一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべ、うなずいた。
「もちろん、喜んで」
パーティーが終わって夜も更けた頃、俺はそっと母上の部屋を訪れていた。控えめにノックしようと手を上げかけたその瞬間、中から落ち着いた声が響いた。
「ユリウス、入ってらっしゃい」
俺は驚きを隠せずに扉を開けると、そこには母上のいつもの姿があった。部屋には、一目で上質とわかる調度品が並んでいるものの、装飾品や余計な家具はほとんどない。城の中でも特に質素で、静謐さを感じさせる空間だった。
「いつも思うけどさ、なんで来るのわかるの?」
俺の問いに、母上は柔らかく微笑む。
「あら、女性の秘密は軽々しく暴いてはだめよ」
その様子からして、本気で答える気はなさそうだった。おそらく何かスキルか魔法の類なのだろう。
「まぁいいや、お見舞いに来たよ」
「ありがとうユリウス。いつも来てくれて嬉しいわ」
「どういたしまして体調はどう?」
「大丈夫よ。それよりも、今日パーティーだったんでしょう? 挨拶、とても良かったわよ」
「えっ見てたの?」
その言葉に思わず目を見開く。
「ドーラがマジックアイテムで見せてくれたわ。アルベルトは歳を含めて及第点だって言ってたけれど、私は本当に良かったと思うわ」
「気持ちは嬉しいけど、父さんの評価が正しいと思うよ。本当に挨拶しかしなかったし」
「でもアルベルトを見習うなんて言って、あれは武官派閥への牽制でしょう? よくやったと思うけど……」
母上は俺の成長を嬉しそうに見守ってくれている。その眼差しには、ただの母としての愛情だけでなく、国の行く末を案じる一人の貴族としての強さも宿っていた。
「エレナは文官派閥筆頭のハッシュヴァルト家なんだよ? 武官派閥が有利なるようなことを、あの場面じゃ言えないよ」
俺は肩をすくめながらも、冷静にそう言った。パーティーという表舞台の裏で、すでに政治は動いている。子供である俺でさえ、それを理解していた。
「それがわかるだけで、今は充分よ。わざと目立つようにエレナちゃんと踊って親交をアピールしただけでも、パーティーは成功だと思うわ」
「まぁね、でもここ最近物騒になってきたり、魔物が活性化してるから少し荒れそうだけどね」
俺が思わず吐いた不安に、母上は静かにわらう。
「大丈夫よ。ユリウスはいつもキルゲと模擬戦してるんですもの。武力でも、きっと負けないわ」
母上の言葉に、俺は静かに頷いた。確かに目的は果たした。形式だけではない、意味のある夜だった。
「ありがと。…………じゃあ、俺はもう寝るよ。おやすみなさい母上」
「えぇ。おやすみなさいユリウス」
母上の部屋を後にし、自室へと戻る。寝台に体を横たえ、天井をぼんやりと見つめながら、今夜のことを考えた。
どうなるか不安だったパーティーは成功したと言っていいだろう。
ハッシュヴァルト家との関係が進めば、文官派閥の勢力はさらに増す。そうなれば父上も動きやすくなり、国の地盤も安定し不安定だった景気も改善される。
そう信じた俺は、静かな安堵とともに目を閉じ安心しながら眠りについた。
ハッシュヴァルト家との関係構築により、文官派閥は武官派閥に一步先んじることとなり、不安定だった景気や治安も確実に改善されていった。
今後も、上手く帝国が成長していくはずだった。
一年後、隣国のスペル小国が我が国に宣戦布告をするまでは。
2025年4月12日 加筆修正
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