転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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過去一長い桐乃視点の話です。本当は3話くらいに分ける予定でしたが、話が進まないので少し削って1話に纏めました。

関係ないですが、お気に入り件数1000件突破しました。登録してくれた方々ありがとうございます。


忘れていたもの

「おっ! 結構似合ってるじゃん」

 

 メイドに着替えさせられた桐乃に陽気な声がかかり、その方向を見る。そこにいたのは、自身と色違いの黒の軍服に近い服にプリッツスカートという、まず見ないような組み合わせをした少女だった。

 

「あの、どなたですか?」

 

「うん? この屋敷の主?」

 

「えっ…………」

 

 桐乃は思わず絶句する。どう見てもこの少女は、自分と対して歳が変わらないように見える。そんな少女がこんな豪邸を持っているなど、とても信じられないようなことだった。

 

「これから同じ騎士団の所属になるんだし、よろしくね♪」

 

「騎士団? わたしが?」

 

「ん?」

 

「え?」

 

 お互いに目を合わせ顔を傾げる。少しの沈黙の後、黒い軍服の少女がゆっくりと口を開く。

 

「もしかして何も聞いてないの?」

 

「えっと……ここが光の帝国という場所くらいなら…………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 先程よりも長い沈黙の後、少女が大きなため息を吐く。

 

「ハァァ〜、エリアスってば何の説明もなしに謁見させるって何考えてるんだろ。もしかして結構鬼畜なのかな?」

 

「あの……」

 

「あ~ごめんごめん、ある程度説明されてると思っててさ。知らないなら私から説明するよ。何か聞きたい事ある?」

 

 ようやく、説明の時間が来たらしい。桐乃は山程ある質問のから大事なことから聞くことにする。

 

「まずは、名前からいいですか?」

 

「ん? 私のことも聞いてないんだ。アンネリーゼだよよろしくね♪」

 

「松平桐乃です」

 

「異世界人だからキリノが名前何だっけ?」

 

「はい。そうです」

 

 なんというか、このアンネリーゼさんはかなり不思議な人だ。先程から所作というか、振る舞いが、あざといとはギリギリ言えないような可愛らしい感じが前面に出ている。

 

 男の子ってこういうのが好きなんだっけ。女子にはこういうの嫌われるから、交友関係に影響ありそうだけど。女であるわたしですらここまで可愛いと思えるなら、逆に大丈夫なのかな…………。

 

 これが天然の振る舞いであれば、ただただ可愛らしい子で終わるが、計算された振る舞いだとしたら、相当腹に黒い物を詰めてるかもしれない。

 

 思わず想像した可能性に怖気を覚えながら、桐乃は質問を続ける。

 

「えっと、アンネリーゼさんが言ってた騎士団って何ですか?」

 

「私達はね、光の帝国において最も名誉な騎士団である星十字騎士団のメンバーなの」

 

 星十字騎士団…………。御大層な名前だ。わたしには一生無縁そうな話だが、どうして勝手に所属する事になるんだ? 桐乃の頭の疑問に答えるように、アンネリーゼが話を続ける。

 

「何でキリノちゃんが、星十字騎士団に入るのかって言うとね。お兄様が選んだからかな」

 

「はいっ?」

 

 お兄様って何? というか選んだって、わたし異世界の知り合いなんていないに、どうやって選んだんだ? 

 さらに謎が増えたが、アンネリーゼの話は終わらない。

 

「まぁそこら辺は私も知らないや、興味ないし。ということで頑張ってね。バイバイ♪」

 

 アンネリーゼが別れを告げた瞬間、桐乃は影に呑み込まれて消えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「で、いきなり陛下と謁見した挙げ句ここに来たと」

 

「来たと言うか、気づいたらここにいました」

 

 桐乃はアンネリーゼの唐突な別れの後、皇帝と謁見する羽目になった。なんやかんやで謁見は無事に終わったものの、終わった途端に別の場所にまた跳ばされた訳だ。

 

「だから、不審者という訳じゃないんです」

 

「一応、キミの事はさっき別で聞いたから把握してるよ。こんな急に来るとは思わなかったけどね…………」

 

 不審者扱いで逮捕ルートは、どうやら免れたようだ。誤解されないようで安心する桐乃。

 

「まぁ、まずは自己紹介からだよ。このままじゃ不審者君と呼ばなければならないからね」

 

 訂正、誤解は解けていなかったらしい。流石に不審者君という不名誉な呼ばれ方は避けたかった桐乃は、本日三度目の自己紹介をする。

 

「松平桐乃です。異世界人なので名前が桐乃です」

 

「私はレオナルド・ダ・ヴィンチだよ。ダ・ヴィンチちゃんと読んでくれたまえ」

 

「えぇ…………」

 

 ドン引きだ。とにかく桐乃はドン引きした。明らかに知ってる偉人と同じ名前を名乗っているのだ。痛い厨二病でも、そんな事はしないだろう。

 

 万が一名前が同じだけの人かとも思ったが、相手の様子を見れば、違うのがすぐにわかった。どう見ても、ツッコミ待ちという感じで待機している。

 桐乃は仕方なく、会話の流れに乗ることにした。

 

「…………本名ですか?」

 

「もちろん、違うとも!」

 

「(違うのかよ)」

 

「こっちではそう名乗っているんだ。だから桐乃君もそう呼んでくれ」

 

 桐乃はレオナルドの言い回しに違和感を感じる。こっちではそう名乗るってどういう事? 他では別の名前を使ってるの? 

 

「こっちではそう名乗ってるってどういう事ですか?」

 

「直球だね。簡単な事だよ私も異世界人という訳さ」

 

「…………?」

 

 どういう事だろうか……少しウェーブのある長めの茶髪に整った顔立ちをしているが、彼女の姿はとても日本人には見えない。

 

「ピンときてないみたいだね……。要はアレだよ。キミは転移者で、私は転生者という訳さ」

 

 転生…………。そんな事があり得るのだろうか…………? わたし自身転移している時点で、人のことを言えないが突拍子もない事でイマイチ現実感がなかった。

 

「それで、キミに車椅子を創るように言われててね。陛下の力で歩けるようにはなっただろうけど、いきなりの歩行は難しいだろうし、ずっとその椅子の上は嫌だろう?」

 

 桐乃はアンネリーゼの屋敷の椅子に座ったまま、あっちこっちにたらい回しにされている。今いる部屋は、研究室といった感じの部屋だが、椅子は貴族の屋敷にありそうな無駄に装飾に凝った椅子で、見事に部屋にアンマッチしていた。

 

「お願いします…………」

 

 桐乃は半ば達観した様子で、レオナルドに頼む。

 

「もちろん傑作を用意するとも! あ、出来るまでは、簡単な車椅子を使ってね」

 

 そう言って、普通の車椅子を何処からか出してきたレオナルドに桐乃は思う。

 

「(あるじゃん…………これでいいよ)」

 

 そう言いたかった桐乃だが、既に頼んでしまった以上出した言葉を飲みこむ事は出来なかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 それから半年、桐乃はレオナルドと同じ時を過ごしている。

 

「おはようございます」

 

 桐乃は寝ぼけた声で挨拶する。いつもなら軽快な声がするのだが、今日はそんな様子はない。不思議に思っていると隣の部屋から爆発音が聞こえてくる。

 

 普通ならば驚く事だが、桐乃は慣れた様子で研究室に備えられているキッチンを使い朝ご飯を用意する。

 

 異世界なのに簡易コンロや電子レンジもどきなどがある研究室は、前の世界を思い出して桐乃としては、リラックス出来る空間だった。そこそこ散らかっているのが、偶に傷だ。

 

「朝ご飯出来ましたよ。冷めるので早くして下さいね」

 

「ちょっと待ってて、今終わるから」

 

 調理が終わり、研究室の奥にいるレオナルドに声をかけると待ての声がかかる。返事が返ってくるあたり、本当に終わりそうなのだろう。

 酷い時は、集中し過ぎて周りの声が一切聞こえなくなるから、最初は大変だった。

 

 先に食べ始めていると、レオナルドがやって来て席に着く。正確には椅子ではなく空中に座っているが、もう見慣れた光景だ。

 

「それにしても、慣れたもんだよねぇ」

 

「何がです?」

 

 パンにベーコンとスクランブルエッグを挟みながら、レオナルドが感慨深いと唸る。

 

「ここに住み込んで半年経ったけどさ、桐乃は歩くことすら困難だったはずなのに、今では食事まで用意して、成長が早いなぁって」

 

「半年も経てば慣れますよ。レオナルドだってやれば出来るでしょう?」

 

「レシピ通りに作るのが苦手なんだよ。どうしても私好みに改造したくなる」

 

 レオナルドは料理が出来ない訳ではない。ただ、料理に無駄な遊び心を入れてくるのだ。以前は風船のように膨らむクッキーや逆にこちらを食べようとするステーキを作って、かなり大変だった。

 

「銀架城の部屋は余りまくってるんだから、こんな狭い所にいなくてもいいんだぜ?」

 

「嫌です」

 

 現在、桐乃は銀架城の一室の研究室にいるが、本来であれば桐乃の部屋は用意されていた。しかし中世の城の部屋は豪華過ぎる上に広すぎた。

 

 しかも、専属のメイドまでいてとても落ち着かなかった。どうにか慣れようとしたものの、最終的に同じ異世界人のレオナルドの部屋に転がり込んだ。

 

「ベットは使ってないのがあるけど、もうずっとこの部屋を出ていないだろう? そろそろ外に出ても良いじゃないか」

 

「レオナルドだって、一歩も出てないじゃないですか。良いんですよここは落ち着きますし、同郷の人だっているんですから」

 

 当然のように語る桐乃を見ながら、レオナルドは不味いことになったと思う。

 

「(困ったな〜、この状況に依存しかけてる。報告書には、ワームやワイバーンに襲われたってあったし、何よりアンネリーゼに会ったのが不味かったかな。陛下にも見守るように言われてるし、どうにかしないとだね。というか、こういう時に陛下の出番だと思うけど、あの人は何を考えてるのやら)」

 

 慣れない介護をしろとユリウスから言われたレオナルドは、ため息を吐きながら朝食を食べ終え、早速行動に移すことにする。

 

「桐乃婆さんや」

 

「何ですかレオナルドお爺さん」

 

「実は午後に買い物に行こうと思ってね」

 

 買い物と聞いて、桐乃は体を一瞬だが硬直させる。やはり1人が怖いのだろう。

 

「研究室に桐乃1人残すのは危ないから、ついてきてほしいんだ」

 

「……わかりました。ここは危ない薬品もありますしね。仕方ないです」

 

 桐乃は先程よりも顔が暗いが、今はこれでいい。無理に連れ出したり、部屋から追い出しても逆効果だ。なんでも良いから、行動の理由を作ってあげればいい。

 

「(少しずつこの世界に慣れてもらうしかないかな。まだまだ子供、こういう時に大人がいないとだしね。こんな少女に、最後の一人という重すぎる称号を与えるなんて、陛下は罪づくりな御方だよ)」

 

「そういえば、最近いつお風呂に入りました?」

 

 先程までの和やかな朝食の風景が、一気に南極のように冷え込む。

 

「ここ最近、お風呂に行った痕跡が全くないのですが……」

 

「いやほら、アレだよアレ。えっと……そう! 君が寝ている間に入っているのさ! 研究は大変だからね。ウンウン」

 

 明らかに動揺しているレオナルドに、桐乃が追い打ちをかける。

 

「実は、メイドさんにレオナルドが大浴場に行っているか確認して欲しいと頼んでおいたんです」

 

「いつの間にそんな事を!? というか、私以外と話してたの!?」

 

 唐突なカミングアウトに今日一番の驚きを見せるレオナルド。

 

「研究室に偶に来るので、世間話くらいはしますよ。それでそのメイドのマリーさんが教えてくれたんです。レオナルドはしばらく来てないって」

 

「(何やってんだマリー!!!)」

 

 いつの間に裏切られた同僚に怨嗟の声を上げるレオナルド。もはや袋の中の鼠、完全に追い込まれてしまった。

 

「前にも同じ事言いましたよね? 言い残すことはありますか?」

 

 冷たい声でレオナルドに告げる桐乃。少し俯いているせいか、髪で顔が隠れている。

 

「ええっと、ほら! 私達は精神生命体なんだから、体から老廃物なんて出ないし臭くなる事なんてないからさ、だから…………その、すみません。ちゃんと入ります

 

 雪女の如く冷気を醸し出していた桐乃だが、レオナルドの様子を見て普段の様子に戻る。

 

「ハァ、別に怒ってないですよ」

 

「本当かい?」

 

「呆れてるだけです」

 

「お詫びに欲しい物、買い物ついでに買うからさ? 許してくれよ」

 

「…………わかりました。それで許します」

 

 どうにか媚を売るレオナルドに折れたのか、顔をそっぽに向けて許してくれた。

 

 

 

 桐乃が手伝い、レオナルドが怠けて怒られる。こんな毎日が、当たり前に続く半年間の日常だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 朝が過ぎて午後、桐乃とレオナルドは銀架城の門前で馬車を待っていた。ふと、桐乃がレオナルドを見た。

 

「正直、レオナルドにオシャレという概念があったとは意外です」

 

「酷い言い草だね。いやまぁ、自覚はあるけどね」

 

 桐乃の真正面からの毒舌に、苦笑いするレオナルド。実際に2人は異世界の服とは思えない服装をしていた。

 

 桐乃は、白のティアードワンピースに厚底のサンダルとシンプルな装いだ。

 レオナルドは、薄いカーキで膝上のキュロットスカートに、半袖で白のハビットシャツと水色の薄手のアウターを羽織ってる。

 

 レオナルドは普段から風呂に入らずに、桐乃が来るまで食事も全くしていなかったため、服装に気を遣う性格にはとても見えないが、案外ちゃんとした服も持っていたらしい。

 

「研究室のどこに服があったんですか? 備え付けのクローゼットには、白い軍服しかありませんでしたけど」

 

「簡単だよ。メイドに頼んで持ってきて貰ったんだ。服は色んな種類の物が、城の服飾室にあるからね。そこから希望の服を選んで、メイド達に伝えれば持ってきてくれるよ。ちなみに君の服は、私が選んだんだよ」

 

 衝撃の事実に桐乃は思わず絶句した。つまり、好きな服をタダでコーディネート出来るという事だ。一般人にはまず出来ない贅沢だ。規模が段違い過ぎて、話をついていけなくなりそうになる桐乃だった。

 

「ハイこれ、日傘ね。今日は雲一つない晴天だから気をつけて」

 

 そう言ってレオナルドは桐乃に日傘を渡し、自身は麦わら帽子を被る。

 

 不思議だ。いつもの私生活はぐうたらで、研究室で籠もりっきりのレオナルドが、いつもよりも大人に見える。背格好だってわたしよりも低いのに、どうしてだろうか…………。

 

 思えば、異世界に来てから外の景色をじっくりと見るのは始めてだ。アレから半年、この生活にも慣れてきた。これからもこの生活は続くだろうか…………。

 

「馬車がついたよ。乗り方わからなかった?」

 

 どうやら考えている間に馬車が到着したようだ。馬鹿な事を言うレオナルドに反論し、馬車に乗り込む。

 

「わたしを5歳児か何かだと思ってるんですか? ふざけてないで、ちゃんと座ってください」

 

「ありゃりゃ、怒らせちゃったかな?」

 

「怒ってません。それで買い物って何を買うんですか?」

 

 肝心の何を買うのかを、まだ聞いていない。わたしはこの世界のお金なんて持ってないし、そもそも必要な物はメイドさん達に言えば大抵用意してくれる。服だって幾らでも着せ替え可能なのだから、街で買う物などあるのだろうか? 

 

「買い物とは言ったけど、桐乃が思っている買い物じゃあないよ。どっちかって言うと、確認かな?」

 

「確認?」

 

 的を得ない言い回しに疑問を覚える桐乃。レオナルドはそんな桐乃に説明する。

 

「私が今、何の研究をしているか。まだ説明したことはなかったよね?」

 

「正直、何をやっているかまるでわからなかったので聞きませんでしたけど。それがどうしたんです?」

 

 桐乃が質問すると、嬉しそうに何処からか取り出したメガネをつけて解説しだす。

 

「実はだね桐乃君。私は今、品種改良の研究を行っているのだよ!」

 

 ドヤ顔で語るレオナルドだが、桐乃としては、あまりピンとこない話だった。

 

「品種改良って、アレですよね。種無しブドウとかそういうの」

 

「まぁそんな感じだね。正確に言うのであれば、私のは品種改造だけどね」

 

 一気にレオナルドの研究が怪しく感じる桐乃だったが、ツッコんでいてはきりがないのでスルーすることにした。

 

「要はだね、私は光の帝国に確信的なアイディアの種を植えてきたんだ。今回はその一部が芽吹き始めたから、その確認をしにきたのさ!」

 

 何を言っているのかイマイチわからないが、桐乃はとりあえず頷いて置くことにする。

 

「ついたみたいだし、早速行こうか」

 

 そう言って、レオナルドと共に馬車を降りる桐乃。2人が乗っていた馬車は、白を基調とした特徴的な馬車で銀架城のみに、このデザインを許されているため周囲からは非常に目立つ。

 

 周囲からの視線を受けながら目的の店を見ると、意外にもそこは喫茶店だった。大通りにある店なので、それなりに繁盛しているようだがここで何の確認が出来ると言うのだろうか? 

 

 桐乃は疑問に思いながらレオナルドと共に店に入ると、店員と思われる厳つい男が元気よくレオナルドに話しかける。

 

「よぉ! レオナルド。久しぶりだな!」

 

「やぁ、ラックス。今日は友達と来たんだ。いつもの二つよろしくね」

 

「応! いつものな。ミレーヌ! 案内しろ!」

 

 厳つい男とレオナルドは常連の上にかなり親しいようで、楽しそうに話している。さにげなくわたしの事を友達と言う辺り、レオナルドの陽キャ度が窺える。

 

 ラックスという男に呼ばれたミレーヌと思しき女の子が、裏から出てくる。まだ少女といった感じで、エプロンをつけている姿は非常に可愛らしい。

 

「あんないします!」

 

「は~い案内されま〜す」

 

 可愛らしい少女を見るレオナルドのだらしない顔は置いておいて、ミレーヌの案内で二階に上がり、他の席をスルーし奥の扉を鍵で開ける。そこはテラス席で、大通りを一望することが出来るようだ。

 

「ここです!」

 

「ありがとねミレーヌちゃん。お礼に飴をあげよう。パパには内緒だよ?」

 

「わぁ、ありがとう、ございます!」

 

「どういたしまして」

 

 レオナルドは案内したミレーヌに飴をあげる。するとミレーヌは、目を輝かせてレオナルドにお礼を言い、鼻歌交じりで戻っていった。

 

「子供の扱いがうまいですね」

 

「ミレーヌちゃんがいい子なだけだよ」

 

 

 お互いに人懐っこい印象を受けるのに、レオナルドは気安く安心感があるが、アンネリーゼさんは可愛らしいが何処か怖気を感じてしまう。わたしがおかしいのだろうか…………。アレから半年経ったのに、アンネリーゼさんのことが全く記憶から消えない。

 

「ほらよ。最近仕入れた紅茶とブドウのチーズケーキだ」

 

「どうだい? 最近の様子は?」

 

「紅茶は駄目だな。高すぎて誰も手を付けねぇよ。逆にケーキは上々、市場でもブドウも売れてきてるみたいだぜ」

 

「紅茶は仕方ないさ。ああいうのは、ブランドが大事だからね。庶民向けではないよ。ブドウは大方予想通りかな…………。まぁこれからもよろしくね」

 

 わたしは何がしたかったんだっけ…………。そういえば、足を治して貰ったのにお礼も言っていない気がする。エリアスとも、あれから会えていない。

 

 わたし…………この世界のことを、何も知らない。

 

「桐乃? 大丈夫?」

 

 レオナルドが不思議そうに首を傾げ、わたしを見ていた。いつの間にか、頼んだと思われるケーキも来ていて運んで来たと思われるラックスさんもこちらを見ている。

 

「大丈夫。ちょっと考えごとがあっただけ…………」

 

「嬢ちゃん。何かあった時は甘い物だぜ」

 

 そう言って、ラックスさんはブドウの乗ったチーズケーキを差し出す。

 

「ありがとうございます」

 

「良いってことよ。客はもてなすものたがらな」

 

 ラックスさんはそう言い残してテラスから去っていく。

 

「それで、何の確認をしに来たんですか?」

 

「うーん。やっぱり話聞いてなかったんだね」

 

 どうやら質問を間違えたようだ。慌てて話を戻そうと質問する。

 

「えっと、あまり意味がわからなかったので噛み砕いて説明してくれませんか?」

 

 レオナルドは一瞬、考えるような素振りを見せたがすぐに説明してくれるようだった。

 

「良いよ。事前説明がないとわかりにくかったかな? 品種改良の話はしたよね?」

 

「してましたね。今回は撒いた種が芽吹き始めたとかなんとか…………」

 

「そうそれだよ。このケーキのブドウ、おかしな事はないかい?」

 

 レオナルドに言われて、ケーキを見る。特におかしな事は見られない。普通のブドウに見える。一つフォークに刺して食べてみるが甘いブドウの味が口に広がるだけだ。

 

 何がおかしいと言うのだろうか? そう思って違和感に気づいた。ブドウは皮付きだったのだ。皮といっても非常に薄く、よく味わらなければ気づくこともなかっただろう。

 

「このブドウが品種改良したやつですか?」

 

「わかる? やっぱりわかっちゃうかぁ〜。いやね、種無しにして皮を非常に薄くした上に、糖度もかなり高くしたんだ。しかも病気にも強い上に害虫対策に防寒対策もしたんだ。まさに品種改良のバーゲンセールだよ」

 

 ペラペラと得意気に語るレオナルドは非常に嬉しそうだった。研究の成果が出たのが、よほど嬉しいようだ。

 

「どうやってここまでの品種改良をしたんですか? 詳しい訳じゃないですけど、こういうのは、専用の機械とかが必要なんじゃないんですか?」

 

「うーんとね。普通の方法ではないのはそうだね。死の祝福(デスストリーク)っていう遺伝子配列を書き換える魔法があってね。主にそれを使って改造しているんだ。これ、機密事項だから細かい方法は内緒ね?」

 

「悪趣味な魔法がある事だけはわかりましたよ」

 

 遺伝子配列を弄る魔法と聞いて、桐乃は思った。この魔法を作ったやつは、きっとゴミみたいな性格しているに違いない。

 

「でも結構難しいんだよ? 本来は攻撃のための魔法を精密な遺伝子操作に使うのは大変なんだ。最初はほぼ手探りでやってたから、結果が出るのに一世紀は軽くかかったね」

 

「一世紀!?」

 

 桐乃は桁の違う年数に驚愕せざるおえない。そんな長い年月を一つの研究のために費やすなど、正気の沙汰ではない。桐乃は目の前の少女の異常さを始めて理解した。

 

「まぁ技術を確立してからは、結構簡単に出来るようになったけどね。最近、ブドウと紅茶の実験に成功してさ、今は少しずつ市場に流してるんだよ」

 

 次元が違う…………。素直にそう思った。同じ異世界人でも常識をここまで壊すレオナルドは間違いなく異常だ。本人は明言していないが、クローゼットにあった白い軍服からして、あの星十字騎士団という組織の1人なのだろう。

 

 そんな人と自分が同じ立場なんて、あまりにも釣り合わない。このままで良いのだろうか。あの皇帝は、役にもたたない人間に力を与えて、その価値を証明出来なかったら、自分をどうするのだろうか。

 

 桐乃は思考がループしたように考え続ける。まるで終わらない迷路に迷い込んだように、思考が纏まらない。

 

 わたし、今まで何してたんだっけ? エリアスと別れてから、どんどん思考が纏まらなくなってる。それに訳もわからない状況で部屋に籠もって、何がしたかったんだっけ? 

 ループし続ける思考。解けないパラドックスに嵌ってしまったような感覚になっていく。

 

 

 おかしい…………。この状況は明らかにおかしい。わたしの行動も思考もわたしではないみたいだ。

 

 

 桐乃は自身の異常にようやく気づいた。与えられた物の大きさに、レオナルドに甘えていた自分の弱さに、そして現状の危うさを理解した。

 

「レオナルド!」

 

「んっ!? なんだい急に……声を大きくしなくても聞こえてるよ?」

 

「その……何かわたしに出来る事ってないですか?」

 

 桐乃の急な質問に、レオナルドは少し悩む様子を見せながらも答えた。

 

「パッとは思いつかないけど、知り合いに聞いてみるよ。これでも友達はいるからね」

 

 桐乃は何をすべきなのかは理解していない。半年間、世界を知ろうとしなかった代償だ。

 

 そんな状況で自身の立場を確立しなければならない。それにはまず情報がいる。普通なら詰みに近い状況だが、それを覆す都合の良い力が、桐乃には与えられていた。

 





今回の時系列

桐乃とアンネリーゼの対談
     ↓
皇帝への謁見(話の都合上カット)
     ↓
半年間、レオナルドの部屋に籠もる
     ↓
お出かけの結果、桐乃が異常に気づく

って感じです。実は桐乃は結構凄いことを成し遂げてますが、今回何がおきたかは四章の終わり辺りでわかります。多分、きっと、Maybe

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