転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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書きたい場面がいっぱいあるのに、その場面に全く辿り着かない今にモヤモヤしながら執筆してます。何年も小説を書き続ける人の凄さの一端がわかった気がします。


信じたい人

「松平桐乃さん。貴方とは、一度お話してみたかったのです」

 

 翡翠の鹿、もといエイクスュルニルは桐乃に微笑みかける。

 

「どうして、わたしの名前を知っているんですか?」

 

「貴方が最後の星十字騎士団になるという報告は、全ての星十字騎士団のメンバーに通達されています」

 

 そういえば、レオナルドも初対面で報告を受けたとか何とか言っていたような……。

 

「少々強引ですが、無理矢理此方に呼び出しました。レオナルドは今頃慌てているかも知れませんね」

 

 それはそうだろう。突然、一緒にいた筈のわたしが消えたんだ。レオナルドからしたら意味不明だ。

 

「それで、何故わたしと話したいんですか?」

 

「貴方は今、非常に不安定な立場にいます。貴方自身、その自覚はあるのでは?」

 

 エイクスュルニルの言葉に桐乃は黙る他無い。桐乃としてはあまりしたくない話でもあった。

 

「何故、そんな事をわたしに告げる必要が?」

 

 桐乃を害する気があれば、この事を話す必要は無い。だからと言って、エイクスュルニルが味方である保証は何処にも無いのだ。桐乃からしたら、疑わしく見えるのは当然だ。

 

「貴方は陛下が選んだ星十字騎士団の一人です。どんな存在であれ、私は受け入れるつもりです。同時に少しお節介をと思いまして」

 

 桐乃の疑いの言葉に、エイクスュルニルは微笑みを崩すことなく自身が味方である事を告げる。

 

「わたしは何もしてません。皇帝陛下に忠誠を誓った訳でもありません」

 

 桐乃はレオナルドのように偉業を成し遂げた訳でも、ドーラのように絶対な忠誠を捧げている訳でも無い。

 有用な存在でも味方だと信用出来る訳でも無い。それが、松平桐乃の今の価値だ。

 

「今でもなくとも、貴方は陛下の力となる。陛下はそれを見越して貴方に聖文字を与えた。故に私は貴方を信じます」

 

 エイクスュルニルは桐乃の言葉を否定する。何処までも皇帝を信頼している故に、桐乃を受け入れていた。

 

「………………」

 

 桐乃は何も言えなかった。エイクスュルニルの考えは、自分にとってまるで理解出来ない故に。

 

「貴方は…………、頭で少し考え過ぎる癖がありますね」

 

 唐突にそう告げるエイクスュルニルに桐乃はギョッと驚く。まるで自分の頭の中を覗いた様だった。

 

「貴方は、なんなんですか…………」

 

 桐乃から出てきた言葉は要領を得ない曖昧な物だった。

 

「(怖い。この人は何を考えているのかがまるで読めない)」

 

 桐乃から見たエイクスュルニルは不気味の一言だ。決して、見た目がホラーチックで恐ろしい訳では無い。むしろ神秘的な雰囲気を放っていて、神々しさすら感じる。

 言動も雰囲気も表情も何もかもが信じてしまいそうな優しさが見える。その優しさが、桐乃とって不気味に写った。

 

「申し訳ありません。私はあまり人と関わらないもので、ここに来るのもレオナルドか陛下くらいですから」

 

「(恐怖心を見透かされてる。何か、何か考えないと

 ……)」

 

「少し、手荒が過ぎると思うんだよ。だからコミュ症ディアなんて呼ばれるんだよ」

 

 聞き慣れた声が聞こえてくる。桐乃はその声に安堵を覚えると、ホッと息を吐き出す。

 

「そのコミュ症? というのはわかりませんが、確かアンネリーゼが言っていた呼び方ですね。多少強引だったのは謝罪しますよ」

 

「謝れば良いってわけじゃあないと思うけどね」

 

「どうしても2人でお話したかったものですから」

 

「やっぱり色々ズレてるよ。君」

 

「…………?」

 

 気安いやり取りを続ける2人に桐乃は驚いていた。桐乃目線、不気味なエイクスュルニルと普通に会話しているという意味とレオナルドに本当に友達がいたという二つの意味でだ。

 

「それで? 桐乃と何を話したんだい?」

 

「挨拶がしたかっただけです。怖がられてしまったようですが……」

 

 嘘だ。挨拶だけでレオナルドを引き離す必要はない。本題はもっと別にある筈だ。

 まだここに来て10分程しか経っていない。エイクスュルニルの様子から、本来であればもっとゆっくり話すつもりだったのだろう。

 

 エイクスュルニルの嘘にレオナルドだって既に気づいている筈だ。しかし、レオナルドはそれを問い詰める様子はなく、軽い口調で話し続ける。

 

「そりゃあ、こんな無理矢理連れてきたらね。挨拶が済んだのであればもう行くよ」

 

「おや、いつものはもう終わったのですか?」

 

「桐乃を探すついでに終わらせて来たよ。本当は桐乃にも見せようと思ったけど、また樹海に潜るのも嫌だろうしね」

 

 レオナルドに気遣いに心が暖かくなる。できれば樹海探索など二度御免だった。

 

 桐乃が一息つきながらレオナルドの後をついて行こうとした時、エイクスュルニルから声がかかった。

 

「まだお節介が終わっていなかったので、一つ忠告を。

 全てを疑う事も、全てを信じる事も実に容易な事です。ですが、それは思考の放棄に他ならない。何故疑うのか、何故信じるのか、それをはっきりさせなさい」

 

 その言葉は、きっとわたしに向かって放った言葉なのだと思った。エイクスュルニルが何をしたかったのかは、はっきりとはしない。本当にお節介をかける味方なのか、それとも騙そうとしている敵なのか、断定する事は出来ずとも成果はあった。

 

 レオナルドは味方だ。味方である証拠などない。敵でない保証などない。それでも決めた。

 半年以上もわたしを支えてくれた人を信じることを自分自身に誓った。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 桐乃とレオナルドが、樹海から馬車で去っていく事を確認したエイクスュルニルは、ハァと軽く溜め息を吐き出す。

 

「これでよろしいのですか?」

 

 エイクスュルニルは誰もいない筈の場所で誰かに問いかける。誰にも姿は見えない。しかし、声だけが聞こえてきた。

 

「損な役回りになってしまい、申し訳ありません」

 

「えぇ、全く。彼女とは仲良くしたかったというのに完全に台無しです。レオナルドを怒らせてしまいましたし、損ばっかりです」

 

 声だけが響く事にエイクスュルニルは、驚くことなく返答する。その声には何処か呆れが混じっていた。

 

「陛下の考えはある程度察する所はありますが、少々あの子に求めすぎなのでは?」

 

「陛下の考えを読める者など存在しません。我々は疑わず従うべきかと」

 

 声の主はエイクスュルニルを鋭い声で咎める。しかしエイクスュルニルは動じない。

 

「疑っている訳ではありません。ただ、出来るとやりたいは違うと思っているだけですよ」

 

「………………私は、貴方様のように心の流れを読める訳ではありませんので」

 

「まだ子供の感情を読む事は出来るのでは?」

 

「方針の違いかと…………」

 

「そうですね。だからこそ、陛下はこの役目を私に任せたのでしょうね」

 

 エイクスュルニルと声の主は似ていて、お互いに共感も覚えている。ただ、声の言う通り方針の違いがあった。

 

「せめて、彼女の心をしっかりと見て下さいね?」

 

「承知しています」

 

 エイクスュルニルは今回、損な役を演じたのはそう命じられたからだ。その命令に不満などない。

 ただ、懸念がエイクスュルニルにあっただけ、それだけだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 方向すらわからなかった樹海は、木々が自ら避けるように道を作り一直線に馬車に辿り着いた。

 

「済まないね。こんな所まで待たせて」

 

 レオナルドが御者に話しかけると、御者はギョッとした表情を一瞬浮かべたが、すぐに微笑む様な顔になる。

 

「構いませんとも、それが私の仕事ですので」

 

「仕事は終わったから、街までお願いするよ」

 

「畏まりました」

 

 そう言ってレオナルドと桐乃は馬車に入っていくと、すぐに馬車は動き出した。

 

 桐乃は何処か気不味い雰囲気を感じ取っていた。その原因はレオナルドにある。

 エイクスュルニルと別れてから、レオナルドは桐乃に話しかけないのだ。普段であれば軽口を言ってくるが、その様子もなく黙っている。

 

「(もしかして、怒ってる? はぐれたから? それともお礼の一言でも言うべき?)」

 

 グルグルと思考が回り続けるが、答えが出ない。いつも明るい会話を続けるレオナルドが黙ると、こんなに気不味い空気になる事を桐乃は思い知る。

 

「ごめんよ。こんなつもりじゃなかったんだ」

 

「えっ……」

 

 レオナルドが悲しげに謝ってきた。予想もしていなかった言葉に桐乃は呆けるしかない。

 

「桐乃に私以外の交友関係を作ろうと思ったんだ。けど、余計なお世話だった」

 

「謝らないで下さい。わたしは……レオナルドに頼りっぱなしです。何もしていないのにわたしに、文句など言えません」

 

 わたしに謝罪される権利はない。これまで頼ってきただけで充分過ぎる程だと言うのに、更に謝罪なんてとても受け取れない。

 

「桐乃、君はここから逃げたいたかい?」

 

「に……げる?」

 

 ここから逃げる事なんて考えた事もなかった。どうして? 

 

 桐乃はレオナルドからの質問に答えられなかった。これまで逃げるという考えは、桐乃の頭に一切浮かび上がる事はなかった。

 

「いや……すまない。忘れてくれ」

 

 何も答えずに黙る桐乃を見て、レオナルドは自身の発言を撤回する。その表情は桐乃にはまるで読めず、ただ外を眺めるレオナルドの横顔が見えるだけだった。

 

 

 

 北東都市ヴァルトの視察は、そう時間もかからずに終了した。しかし、桐乃とっては何よりも長く濃い体験であった。

 

 

 

運命の日まで、約3ヶ月

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 蹂躙せよ。蹂躙せよ。足を喰らわば頭まで。

 

 蹂躙せよ。蹂躙せよ。喰える全てを喰らうまで。

 

 蹂躙せよ。蹂躙せよ。果ての先まで呑み込まん。

 

 

 豚頭族(オーク)達が声高々に叫ぶ合唱が世界に響く。機械のように規則正しく行進し叫ぶその姿は、まさに絶望だ。彼等が通った道には何も残らない。

 

 森も、動物も、水も、村も、国も残らない。あるのは食い荒らされた大地だけ。彼等は止まらない。

 

 中央諸国の内の3つの国が、オーク達によって蹂躙されていた。誰一人生き残ることなく、国のあった痕跡すら残さず呑み込まれている。

 

 

 蹂躙せよ。蹂躙せよ。頭を喰らわばその全て。

 

 蹂躙せよ。蹂躙せよ。喰えぬ物すら喰らうまで。

 

 蹂躙せよ。蹂躙せよ。果てなき世界を呑み込まん。

 

 

 彼等の歩みはあらゆる抵抗を退け、喰らうその時までその合唱は続き、聞く者全てを恐怖させる。

 

 誰もが思う。食べられたくないと。

 

 そんな弱者の思いを無視して、オーク達は静かに喰らい続ける。

 

 グチャグチャ グチャグチャ グチャグチャボキッ

 

 かつて国だったその地に、悍ましい音だけが響く。彼等は合唱をやめ、その音だけが鳴り響いた。

 

 グチャグチャ グチャグチャ グチャグチャボキッ

 

 喰らう物がなくなれば、また合唱は始まる。蹂躙せよと。

 

 彼等に理性などない。あるのは幾ら喰らおうと消えぬ飢えと溢れ続ける食欲。

 

 それがユニークスキル『飢餓者(ウエルモノ)』の力であった。彼等が飢えれば飢える程、喰らえば喰らう程、その力は強大になっていく。

 

 彼等は普通のオークの筈だった。しかし、その面影はない。

 

 それは不幸が重なった結果であった。

 一つ目は『飢餓者』を持つオークが産まれてしまった事。

 二つ目は西側の大陸が天災によって砂漠と化した事によって、世界がバランスを取るように世界全体が豊作に満たされた事。

 三つ目は人の発展が進みすぎたが故に、オークの生息域を狭め彼等の生存本能を刺激してしまった事。

 四つ目はジュラの大森林にオークが集まり、人の手の届かない場所で勢力を大きく広げた事。

 

 それら全てがタイミングよく重なってしまった。彼等は喰らっては産むを繰り返し、気付けば100万を超える軍勢へとなっていた。

 

 彼等はより多くの、そして上質なエサを望んだ。それ故に発展する人間の国、中央諸国を蹂躙した。

 彼等の飢えは収まることを知らず、地獄の飢餓に苛まれた破滅の軍勢。

 

 死ぬまで飢え、世界をも喰らわんと地獄の行進を続ける魔王。

 

 

 その名は豚頭魔王(オーク・ディザスター)と言う。

 

 

「しかしこれは、酷いですねぇ」

 

 蹂躙され、何一つ残らなかった国だった地にて呟く者がいた。

 

「これは伝承以上の力と軍勢ですねぇ。中央諸国は、北部を除いてまともに残らないかもしれません」

 

「縁起でもないことやめて下さいッス。進行ルートは真西なんですから、確実に光の帝国にぶつかるッスよ」

 

 惨劇が起きた場所だと言うのに、軽い世間話をするように話し続ける2人は異質と言って良いだろう。

 現に部下の滅却師の一部は気分が悪くなり、吐いてしまう者もいた。

 

「どうするんスか。キルゲさん? 介入するッスか?」

 

「いいえ、我々の任務はあくまで別にあるのですから。オーク・ディザスターは無視します」

 

「良いんスか? まだ西には幾つかの国があるッスけど」

 

「この程度の事態に対処出来ないのであれば、いずれ淘汰されるだけのこと」

 

 これからオーク・ディザスターに食い荒らされるであろう国々を、冷酷に見捨てる判断をするキルゲ。人によっては糾弾されるような判断であったが、この場に糾弾する者はいない。

 

「これも試練ってやつなんスかね〜」

 

「おや、ゼローゼに感化されたのですか?」

 

「いやいや、あのイカレポンチと一緒にしないで欲しいっス。で、報告なんスけど」

 

 ヘラヘラと軽い印象を受けるその少女は、軽口を一転させ真面目な声色でキルゲに報告する。

 

「例の仮面の勇者なんスけど。ぶっちゃけなんもわからなかったッス」

 

「………………」

 

「ちょッ! そんな怖い顔しないで欲しいっスよ。マジでなんもわかんないんスよ」

 

 なんの成果も得ずにヘラヘラとする少女に、キルゲは眉を潜め静かに圧をかける。少女は焦ったように弁明しようとするが、なんの弁明にもなっていなかった。

 

「碌な情報も得られなかったと?」

 

「会おうとはしたんスよ。でも何故か会えないんスよね〜

 他に情報を探っても、仮面をつけた女性って事しかわからずその他は一切不明。本当に存在するかすら、怪しいッスよ」

 

「妙ですね…………」

 

 ヘラヘラとした態度をとる少女。レーア・ティーゼルは諜報員としてこの世界で最も優れた力を持っている。そんな彼女がなんの情報を得ることが出来ないなど、本来あり得ない。

 

 そんな事が可能なのは、自分達が仕える皇帝しかいない。

 

「どうするんスか? 正直、自信なくしたッスよ。幽霊でも探してるんスかね?」

 

「……仕方ありません。貴方はもう一人の光の勇者を妨害しなさい。仮面の勇者に関しては、此方で対応しましょう」

 

「無意味だと思うッスよ。陛下に頼んだ方が良い気がするッス」

 

「我々の力不足に陛下のお力を借りるなど、あってはならない事ですよ」

 

 ネガティブなレーアの提案をキルゲは注意するように否定する。実際、レーアでも探る事が出来ない相手にキルゲの部隊では無意味に終わる可能性は高いだろう。

 

 

 

「仮面の勇者……一体、何者なのやら」

 

 

 

 キルゲの呟きは誰に届く訳でもなく、荒れ果てた地へと消えていった。

 

 

 

 





お久しぶりのキルゲさん。新キャラと登場しましたが、彼の登場はこの章ではこれが最初で最後です。たぶん。

関係ないけど。春休みってなんでこんなに短いんですかね?あと1週間くらい伸ばして欲しい。

転スラとBLEACHについてどれくらい知っていますか? 転スラ書籍版を1、BLEACHを2と表記します

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