隣国からの宣戦布告、父上から聞いた時、動揺と疑問で頭が埋め尽くされた。どう考えても隣国の行動はおかしいのだ。戦力差は数、質、魔法、どれをとっても隣国に勝てる見込みはないはずだ。
俺は今、執務室で父上と今後の方針について話し合っている。
「父上、戦争をどうにか避けられないのですか?」
「無理だ。向こうは宣戦布告していて、今さらなかったことにはできん」
「そもそも何故こうなったのですか!?」
「どうやら軍の人間が隣国の孤児院の人間を皆殺しにしたそうだ」
「本当なんですか?」
「さぁな、引き渡すように要求したが拒否された。一応調べさせてはいるが、まぁ嘘だろうと本当であろうと向こうは変わらん」
「戦争となれば武官派閥の影響が増しますよ?」
「仕方ないと受け止めるしかない。こちらは戦う気がなくとも、向こうにはあるのだ。戦争は避けられん」
どうにか戦争を回避することは出来ないのか?
そもそもなんで勝ち目のないを戦争をする。馬鹿の暴走か切り札があるのか、いや切り札があるにしても戦力差を丸々ひっくり返すくらいのものではないとだめだ。
それこそ戦略級の何かが、戦術級のものでは戦場を有利に出来ても勝ち目があるのかは微妙だ。仮に勝ったとしても、向こうの被害もかなりのものになる。
何かこの状況を挽回する手はないかのか?
戦争は避けられない。
降伏は論外。
戦争をしても武官派閥を抑える方法は…………いや一つある。危険だが試す価値はある。
「父上、自分も戦場に出ます」
「なっ!! 却下だ! 皇子のお前が戦場出るなど論外だ! 自分の立場を考えろ!」
「わかっています。けどこれが効率的でしょう! 武官たちに任せるのではなく、自分が出ることで武官派閥の影響を最小限に抑えられます」
「それに皇子が出るのであれば兵士の士気も上がります。もとより勝てる戦いなのですから私が出るメリットは大きいはずです!」
「危険すぎると言っている! お前が死ねばアンネリーゼしかいなくなるのだぞ!」
「消極的になっては何もできません! 不都合な状況をチャンスに変えなくてはジリジリと同じ状況が続くだけです!」
父上と俺は言い争うように自分の考えをぶつける。どちらの考えが良いと考えるかは人によるだろう。得るメリットと失った際のデメリットどちらも大きい。言い争いが感情的な言い合いに発展しそうになったその時、執務室のドアからノックする音が聞こえた。
父上はノック音に気づき、一度冷静になろうと息を整え
「入れ」
「失礼します。陛下お呼びでしょうか?」
入ってきたのはキルゲだった。俺は驚きつつ様子を見守ることにした。
「あぁ、キルゲお前も戦場に行け」
「今の自分はあくまでも教育係ですがよろしいので?」
「かまわん。それと騎士団の人間も何人か連れていけ元騎士長のお前であれば問題なく従うだろう」
「陛下、これは提案なのですがよろしいでしょうか?」
「言ってみろ」
「私は皇子を戦場に連れていくことに賛成します」
「キルゲ、いくら国の英雄であるお前であろうとそれは許されんぞ」
今まで、聞いたこともない冷たい声でキルゲを威圧する。
「えぇ、わかっていますとも。失礼ながら先ほどの陛下と皇子の話を聞きまして、皇子が参加するのがこの国のためになると判断しました」
「ユリウスを失うことの大きさはお前もわかっているはずだ」
「陛下とて、昔は戦場に赴き戦ってはいたではありませんか?」
「昔とは状況が違う! あの時はそうしかなかった。今は違う! 今、ユリウスを失うわけにはいかん!」
「皇子は既に陛下より強いですよ」
「ッ!」
キルゲの一言に父上は思わず黙った。
「陛下のあの時の判断は英断だと私は今でも思っています。そして今回の皇子の判断もまた英断だと思っています」
「自らの命を使うような策ですが上手く使えば非常に効果的です。危険もあるでしょうが、私や騎士団の者がいれば問題ないかと、なりより皇子は強い。いずれは私をも超えるでしょう」
「自ら戦場に赴き、兵士を鼓舞し、皆を魅せる。次代の皇帝に相応しいお姿かと愚考致します」
キルゲが話し終えたあとも父上は何も話さない。説得は失敗かと思われたその時、父上はゆっくりと口を開いた。
「わかった。キルゲ、お前の意見を採用する。ユリウス」
「はい」
「お前もキルゲや騎士団と共に戦場に赴け」
「ありがとうございます!」
「フンッ、今回はいいが次は安々と認めんぞ」
どうやら、キルゲの説得に納得というより折れてくれたらしい。
「時期は1ヶ月後、場所は国境沿いの平原だ。必ずや勝利を掴め」
キルゲと共に執務室を出ると俺はキルゲ頭を下げる。
「キルゲ、迷惑をかけた」
キルゲのやったことは一歩間違えば首がとんでもおかしくなかった。父上もキルゲの言う事でなければ聞く耳すら持たなかっただろう。
「次代皇帝たるものがただの教育係に頭を下げてはなりません。それに私は皇子の意見が正しいと思ったから賛成したのです。無謀だけの意見であれば賛成しておりません。皇子は国のために自ら決断なさったのです。それを誇ってください」
「あぁ、ありがとうキルゲ」
その後貴族達から一部反対の声(特にハッシュヴァルト家から)があったようだが父上はそれらの声を一蹴し、俺の戦争参加を決定した。
1ヶ月後、隣国スペル王国との戦争が始まろうとしていた。国境線の平原までは約1週間かかるのでまだ開戦までの時間ははある。
既に先遣隊と本隊は国境線に向かっているようで俺が着く頃に開戦となるだろう。俺は基本的にキルゲと騎士団員15名と行動することになっている。
騎士団員は全員がCランクの魔物を単独で討伐でき、集団であればA−ランクの魔物を討伐可能らしい。俺は書物でしか高ランクの魔物を知らないのでどれくらい凄いかはよくわからないがキルゲが直接教えているというので安心して背中を任せられる。
ただ、今回の目的はあくまで俺が戦場にいるというアピールなので基本は俺の護衛をし、状況次第では戦場に参加することになっている。
いざ出発という時、城の門にいる俺達に向かってリーゼが走ってこっちに来る姿が見える。俺は慌てて馬を降りリーゼの元へと向う。
「お兄様!!」
「リーゼ、どうした?」
「本当に戦場に行くのですか?」
リーゼは今にも泣きそうになるほど顔を歪めながら俺に聞いてくる。その姿を見て申し訳なくなったが突き放すように言った。
「そうだ、俺は今から戦場に行く」
「必要なことなんですよね?」
「俺が行くことに意味があるんだ」
「私は冷静に物事を考えるのが得意ではありません。お兄様を説得することも出来ないと思います。
だから約束してください! たとえ何があっても、生きて帰ってください!!」
「わかった、約束するよ。俺は死なないし、リーゼを1人なんてさせない」
「待ってますから」
「あぁ、行ってくる」
そうして、俺達は馬に乗って戦場へと出発した。死ねない理由をもう1つ増やして。
《ユニークスキル
「本当にただの平原だな」
俺達は1週間かけて戦場となる国境線の平原まで来た。既に相手も陣地を敷いているようで、いつ開戦してもおかしくない。
「えぇここは丘すらない平原ですからねぇ策を用いるにはあまり適さない場所です」
「敵はそんなに自信があるのか? 数はどう見てもこっちが多いよな?」
「兵力差はおよそ十倍といったところですかねぇ、あるとしたら少数精鋭の奇襲あたりでしょうか……」
「この平原でどう奇襲するんだよ…………」
「魔法やマジックアイテムは魔法部隊が対策済みですし、本格的に相手の目的が見えなくなってきましたねぇ。それよりも気になるのは軍が我々を作戦会議に参加させなかったことでしょう」
「俺はともかく、キルゲや騎士団を参加させないのはおかしいだろ。何かあった時にどうするつもりなんだ?」
「そもそもこの戦いは勝って当然ですから貴族が考えているのはどう勝つかではなく、どれだけ自分の取り分を得られるかを考えていますからねぇ」
キルゲが当然のことのように言う。正直納得がいかない。これでは何か起きた時にすぐに対応ができるのだろうか?
「戦場では味方だろうと背は預けてはいけませんよ皇子。味方が必ず背中を守ってくれるとは限りませんし、味方だと思ったら敵だったなんてこともありますからねぇ」
「下のものは生きるために必死で上のものは利益を得るのに必死なわけか、そりゃあ士気も上がらないわな」
「そういうものですよ。戦争というのは…………」
「いや、いい勉強になるよこうしてここに来なかったら知らないままだった」
用意された天幕の中で外の状況を見ながらキルゲと話していると何やら騒がしくなる。
「相手が攻めてきたようですよ皇子」
「みたいだけどただの突撃にしか見えないぞ」
「本当にただの突撃のようですねしかも全軍で」
「不気味だな。何を考えてる?」
ここまで安直だと、敵の罠なのではないかと疑いたくなる。どうやらこちらも迎え撃つらしい。相手の方が人数は少ないし勝つのはこちらだろう。
「相手の兵士の様子がおかしいですねぇ」
そう言われて、目を凝らすと……確か変だ。動きがどこか散漫なのに対し身体能力はかなり高くこちらが押し負けている。
「これは私が行くべきですね」
「頼むぞ、キルゲ」
「おまかせください。お前達は皇子を御守りしろ」
キルゲは俺の後ろにいる騎士団員に命令し、押され始めている部隊の援護に向う。すごい速さだあったという間に戦場に向かっていく。キルゲが戦場は大丈夫だろう。俺のところには騎士団がいるし、
突如、いわれもない悪寒に俺は襲われた。何故急にそんな悪寒に襲われたのかはわからないだが今は戦争中、そんな時に何か起こるとしたら十中八九、
「オラッァァァァァァ」
敵襲だ。
騎士の3人が襲撃者の拳で天幕ごとふっ飛ばされた。ふっ飛ばされたのは俺の真後ろにいた3人だ。言うまでもなく俺を狙った奇襲だろう。直前で退避していた俺と真後ろにいなかった12名の騎士達は無事だ。意味ないだろうが一応聞いておこう。
「お前、何者だ?」
「それで自分が誰か言うやつがいると思うのか?」
まぁ、いないよな普通、俺も期待して聞いたわけじゃないし。
問題はキルゲがいなくなったタイミングでコイツが来たことだ。つまりコイツは俺たちの近くにずっといたってことだ。俺達はそれに一切気付かなかった。
そもそもこの平原で隠れられる場所なんてない。魔法やマジックアイテムは魔法部隊が対策しているはずだが、だとするとスキルかそれともこちらの対策を上回るほどの魔法使いかとは言え、まずはこの状況の打開からだな。
「騎士たちに告ぐ! お前達は周囲を警戒し伏兵がいないか探れ!」
「しかし皇子!」
「本陣に攻められているのだぞ! ここで本陣が落とされたら我らの負けだ! これは命令だ」
「………………了解しました。皇子」
騎士団員達は、即座に2人1組となり周囲に散開する。伏兵はこれ以上いないと思いたいが…………いや、今は目の前の敵に集中しよう。
「13のガキって聞いてつまんねー仕事だと思ったら、案外ヤリごたえがありそうじゃねーか」
襲撃者は独り言を口にしながら懐から黒い玉を取り出し地面に叩きつけた。すると周囲が黒く濁った膜のようなものに覆われた。
「これでニゲラんねーぞ。ガキンチョ」
「もとより逃げるつもりもない。それより、今降伏するならこっちで雇ってやってもいいぞ」
「オイオイ、普通自分をコロしに来たやつを雇うか?」
「有能なやつは、勧誘する主義なんだ」
「肝が据わったガキじゃねーか。ワリーが受けた依頼は守る主義でな。受けるつもりはねーヨッッ」
当然の突進に俺は動揺する。突進に動揺したのではない。その突進があまりに速すぎたのだ。左に飛び、避けようとするもあまりの速さに右腕がかすってしまった。
いや速さだけじゃない。コイツめちゃくちゃデカイ。俺の身長は165cmくらいだが、向こうは俺の倍はある体格もかなりゴツい、タックルだけでも脅威だな。
咄嗟に
それにしてもこのスピード、単純な速さであればキルゲよりも速いな。だがコイツがキルゲより強いようには感じない。とすると
「お前のそのスピード、スキルか?」
「勘がいいじゃねーか。オレはユニークスキル
なるほどコイツの奇襲に気づかなかったのは、何らかの手段で隠蔽してたんじゃなくてただ遠くにいただけか。
キルゲが戦場に向かった後に加速者で近づいて奇襲したと、シンプルすぎて見落としていた。誰も気づくより先に奇襲されるなんて思っていないだろう。ユニークスキルを持っている奴なんてそうそういないしな、こんな馬鹿みたいな方法本陣を突破されたなんて恥だな。
俺は霊子兵装で剣を造り、ゆっくりと腰を落としながら構える。
「こい、その速さ……攻略してやるよ……」
誓約者はアンネリーゼのスキルです。のちのちこれが結構やらかします。
転スラとBLEACHについてどれくらい知っていますか? 転スラ書籍版を1、BLEACHを2と表記します
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1は知っているが2は知らない
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1も知らないし2も知らない