転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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1、2、3話を加筆修正しました。大体500文字から1000文字くらいが増えました。




問題の意図

「……納得いきません」

 

「そんな気にすることか?」

 

 昼時も過ぎて落ち着いてきた頃、桐乃とユーリの二人は大通りの市場へと向かっていた。

 

「当たり前です! なんでわたしが奢られないといけないんですか!」

 

 桐乃は納得がいかなかった。自分の分はお金を出そうとしたと言うのに、ユーリが勝手に払ってしまったのだ。

 

「あの場で俺が奢らなかったら、彼奴等に一体何言われるかわかったもんじゃないんだよ。というか、アイスは特に文句言わなかっただろ」

 

「アイスは貴方の気遣いであり、善意だから受け取ったんです。ですがそれは強迫観念じゃないですか! そういうのが一番嫌なんです!」

 

「……わかった。俺が悪かった。今回は俺の顔を立ててくれ」

 

「…………わかりました」

 

 桐乃は完全に納得できたわけではなかったが、ユーリの意図も理解出来たため、これ以上言葉を重ねなかった。

 

 そうして話している内に、大通りの市場に到着する二人。

 

「ようやく人が少なくなってきました」

 

 桐乃がうんざりしたように呟く。人混みはかなり少なくなってはいるものの、まだ午後になったばかりでそこそこの人で市場は賑わっている。

 

「ユーリさんは、普段から市場に来ますか?」

 

「俺? まぁ、そこそこ来るけど」

 

 桐乃の目的は情報収集だ。欲しい情報は多岐に渡るが、今一番欲しいのはこの世界の国勢だ。桐乃が光の帝国の中核である星十字騎士団なのであれば、それは絶対に必要な情報だった。

 

 勿論、レオナルドに聞けば解決する問題かもしれない。きっと質問には答えてくれるだろう。だが、レオナルドは自分からこの世界について話してくれた事は殆どない。授業の一環としてだったり、わたしの質問の流れで話したりするくらいだ。

 

 何か理由があってそうしているのではないかと、わたしは考えているがその真相は不明だ。なんにせよ、レオナルドに直接聞く事は出来るだけ控えるようにした。ほぼ直感だが、これで正解な気がしてならない。

 

 わたしは文化や常識に関してほぼ無知と言っていい、何処に地雷があるのかすら不明で、ゴールも鮮明に見えない迷路の中にいると言っていい状況だ。

 はっきりしているのは、自身の価値の証明という信用も目的も曖昧な目標のみ。

 

「(わかってはいましたけど、酷い状況ですね。運営が存在したらクレーム入れてましたよ)」

 

 内心で愚痴りつつ、桐乃は思考を切り替える。様々な情報を集めるのに必要なのは情報通を捕まえる事。

 桐乃が思いついたのは、商人との交流だ。彼等は同業の横の繋がりがかなりある筈だ。何でもいいから情報が欲しい桐乃からすれば、是非とも仲良くなりたかった。

 

「(問題は、わたしにそんなコミュ力がないことと、常識のない人間など彼等にとってカモにしか見えないだ)」

 

 致命的である。交渉にこれ程向かない人選はないだろうと断言出来るのが今の桐乃であった。

 

「(解決策がないわけじゃあない。レオナルドが用意してくれた案内人のユーリさんは、この街に住んで長い筈だ)」

 

 ユーリを利用し、交流を深めようというのが桐乃の策であった。完全に他人任せな策であったが、如何せん桐乃が使える手札は少ない。

 

「(わたしの手札の片方が切り札であり、片方は役に立つかもわからない物だ。切り札は切り時を考えたいし、もう片方も情報のない今は効果が薄い。他人任せでも使える物は使うしかない…………)」

 

「という訳で、仲のいい商人などは知りませんか?」

 

「何がという訳なのか一切わからないけど、知り合いが商人をやってる」

 

「じゃあ、そこに行きましょう」

 

 見事桐乃の予想通り、ユーリには伝手があった。後はその商人から情報を探るだけ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………で、終わるのであれば苦労などしない。

 

 そもそも交流も交渉もどちらも情報とコミュ力が必要で、桐乃にはどちらもない。

 伝手で紹介まではしてくれても、ユーリはあくまで案内人。手伝ってはくれても助けは期待できない。

 

 常識すら知らない余所者に、気前良く情報を提供してくれる商人などいる筈もなく、桐乃は無残にも失敗した。

 

「一体、どうすれば…………」

 

 時刻は既に夕方、幾つもの商店を周り交流を深めようとしたが何も買わない人間など客ですらないと一蹴されたり、いつの間にか話の主導権を握られ危うく騙されそうになったりと散々な結果だ。

 

 ベンチに座る桐乃は、ユーリにまたアイスの施しを受ける事になったのだった。

 

「あー、うーん、アレだ。視点を変えてみろよ」

 

「…………視点ですか?」

 

 無心でアイスを食べる桐乃に何を思ったのか、ユーリからアドバイスが飛んでくる。

 

「行き詰まったら、一度考え方を変えてみるんだ。あった物をなかった事にしたり、ない筈の物を付け足したり」

 

「それの何の意味が…………」

 

「視点を固定すると、似たような考えばっかりになる。だから一度頭を真っ白にする勢いでやってみればいい。進展するかはともかく、停滞はしない筈だ」

 

 何とも尤もらしいアドバイスが来た。少なからず今の状況よりはマシになるかと思い、アドバイスを素直に受け取る桐乃。

 

「わかりました。少し視点を変えてみます。とりあえず、今日はここまでにしましょう。もう日が暮れますし」

 

 

 そうして、何の成果も得られないまま一日目の探索は終わった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その日の夜、桐乃は帰って来たレオナルドと一緒に屋敷の食堂で食事をとっていた。

 

「街の探索は楽しかったかい?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「こっちも面倒でね。会議ってのは本当に嫌になるよ」

 

「そうですね」

 

「大丈夫かい?」

 

「はい」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

「今日の下着は白?」

 

「はい…………って何言わせてるんですか!」

 

 生返事を繰り返す桐乃に、レオナルドは悪戯を仕掛ける。まんまと引っかかった桐乃は顔を真っ赤にさせている。

 

「何って、今の桐乃はちょっと変だよ?」

 

「…………少し考えてる事があっただけです」

 

 嘘である。桐乃の頭は昼間の件で頭が一杯だった。視点を変えようにも、何をすれば良いのかすらわからなくなって雁字搦めになっていた。

 

「桐乃、私に出来ることはそう多くないけど、話くらいは聞けるよ? なんせ何百年も生きてるからね」

 

「もし、もしですよ…………。レオナルドが何か行き詰まった状況で、自分一人で打開しないといけない場合はどうしますか?」

 

 レオナルドは一切悩む様子も見せずに即答した。

 

「簡単さ。全てに意味を与えて考えてみるんだ。一見不自然で辻褄が合わない時でもその行動や思考に意味を与えた時、全く別の意味が生まれる」

 

 レオナルドの言葉は、奇しくもユーリさんの言っていた事と似ているような気がした。

 

 桐乃は思考を深くし、状況を整理していく。冬に月が朧に隠れる事はないように、今ある情報は逃げはしない

 

 出てきたのは酷く曖昧な仮説だ。論理などない。証拠もなければ、裏付ける手段もない。それでも行動する必要があって、時間は恐らくそう長くないのだ。やるしかなかった。

 

 言われた通りに、見方と考え方を変えよう。曖昧な仮説も情報を肉付けしていけばハッキリと見えてくる筈だ。後は少しずつ、要らない仮説を切り捨てていけば良い。

 

 桐乃は悩む事をやめた。今までの考えを全て捨て、別の切り口で切り込む事にしたのだ。

 

「ありがとうございます。少しスッキリしました」

 

「そうかい? ならよかったよ」

 

 今の桐乃が出来ることは行動する事だけだ。失敗など、今更気にしてる余裕などない。

 

 

 

 次の日、まだ日も出ていない早朝に起きた桐乃は早速行動に移すことにする。

 

「ユーリさん。少し頼みがあるんです」

 

「元々、桐乃の言う事を聞くように言われてるからなんなりとどうぞ」

 

「まずは■■■■■■■■をお願いしたいのですが」

 

「それって全部?」

 

「全部です」

 

「マジかよ…………。とりあえず了解。出来るだけやってみる」

 

 ユーリさんは酷く驚き、これからのことを考えて半ば絶望しているがそうも言ってられない。多少ゴリ押しではあるが、立派な策だ。

 

 桐乃の行動が吉と出るか、凶と出るかはわからない。少なからず彼女が前向きになったのは間違いなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あの、わたしは部外者じゃないんですか?」

 

 桐乃が行動に移してから数日後、レオナルドと桐乃の二人は軍の施設にいた。

 レオナルドがここ数日毎日会議しているという場所で、関係者ではない桐乃は入れない筈だ。

 

「面倒なのから桐乃と話したいってうるさくてね。私としては会わせたくないんだけど、私が勝手に決めるのもおかしいと言われたら何も言えなくて、渋々連れてきたんだ」

 

 レオナルドは心底嫌そうな顔で話す。レオナルドがそこまで嫌がる姿を桐乃は見たことがなかった。相当嫌な人なのかと桐乃が考えていると、高級そうな木製のドアの前に辿り着く。

 

「いいかい桐乃。君は嫌だと感じたら即座に出てくるんだ。そしたら私が全力で味方しよう」

 

「レオナルドは入らないんですか?」

 

「二人で話したいとうるさくてね。桐乃が嫌がったら即座に私が間に入るって条件で許したんだ。勝手で悪いけど、一度言い出したら煩いんだ」

 

 ウンザリするように言うレオナルドだが、わたしとしては逆に興味が湧いてきた。問題は相手にどんな考えでわたしを呼んだかだ。

 もし相手に敵意、害意があった場合は即座にレオナルドを呼ぼう。

 

 コンコンッ

 

 桐乃は気合を入れ、ドアのノックする。すると中から声が聞こえてくる。

 

『どうぞ』

 

「失礼します」

 

 

 中は普通の執務室のようだった。全体的に高級そうなアンティーク調の部屋ではあるが、落ち着いた雰囲気で統一されている

 

 桐乃は奥に座っている人物に目を向け、思わず動きを止めてしまう。金髪を短く刈り込み、月桂樹の花冠を被ったその男の姿は、まるで古代ローマの彫像のようだった。白いトーガ風の衣装に身を包み、堂々とソファに腰を下ろしている姿には、不思議な威圧感と胡散臭さが同居していた。

 

 異世界での常識に疎い桐乃ですら「これはさすがに変」と思えるほどの奇抜さだ。

 

 軽い調子で語りかけてきたその人物は、まるで旧友に話しかけるかのように馴れ馴れしい口調で桐乃に話しかける。

 

「やぁ、君が松平桐乃ちゃん?」

 

「そうです。あと、ちゃん付けは大丈夫です。それで……えっと、貴方は?」

 

「僕かい? 僕は、ガイウス・ユリウス・カエサルさ★」

 

 歯の浮くような口調で、彼は満面の笑みを浮かべて名乗った。語尾についたキラキラと音がしそうな語調が、なんとも言えない不快感を与える。

 

(……今すぐ帰りたい)

 

 桐乃は内心でため息をつきつつ、努めて平静を装う。レオナルドと同じく偽名だろうとは思いつつ、一応、一応ッ確認だけはしておこうと口を開く。

 

「あの、本み……」

 

「偽名だよ★」

 

 即答された。まるでそれを楽しんでいるかのような態度に、桐乃の疲労感が加速していく。

 

「何の用件で私を呼んだのでしょうか?」

 

「なんか他人行儀だね。緊張しているのかな? 安心しなよ。このカエサル、女性の扱い方には自信があるんだ★」

 

 的外れな返答と謎に見せる妙な自信に、桐乃はレオナルドがこの人物との会話を嫌がる理由をようやく理解する。無理もない。会話が成立しないのだから。ついでに先程まで興味を持っていた自分を殴りたくなった。

 

「あの……何の用件で私を呼んだんですか?」

 

 今度は丁寧に言い直してみるが、それでもカエサルは取り合おうとはしない。

 

「おや、世間話は嫌いかい? まぁ、ゆっくりしなよ。お茶でも淹れるから」

 

 と、まるでこの空気を楽しんでいるかのように、勝手に立ち上がって隣の部屋へと移動する。

 

(……この人、絶対まともじゃない)

 

 半ば確信に近いものを抱きながらも、桐乃はじっとその背中を見つめた。

 

 

「紅茶は好きかい? 最近は茶葉の種類も増えてきてね。これもレオナルドの成果だよ」

 

 そんな他愛もない世間話とともに、丁寧に淹れられた紅茶が目の前に置かれる。桐乃は恐る恐るカップを手に取り、ひと口だけ飲んでみる。

 

「……普通に美味しい」

 

 思わず呟いてしまった言葉は本音だった。味は確かで、紅茶としての完成度は高い。むしろこの奇人が自分よりもずっと美味しく紅茶を淹れられるという現実に、なんとも言えない敗北感と遣る瀬なさが湧いてくる。

 

「将棋は好きかい?」

 

「え?」

 

「僕は将棋が好きでね。ここ数十年飽きずにいるんだ」

 

 唐突に語りだすカエサルに、桐乃はなんと返せば良いかわからずに適当に返してしまう。

 

「でも残念な事に、将棋は人気がなくてね。貴族たちはチェスは嗜んでも将棋はやらないんだ。おかげで対局する相手がいなくて、ずっと寂しかったんだ」

 

 そう言ってカエサルは人差し指でテーブルを軽く叩くと、中央から将棋盤がせり上がってくる。

 

「(えっ……、何この無駄機能)」

 

「こういうのは男心くすぐるよね★」

 

 無駄機能を搭載したテーブルの将棋盤には、既に駒が並び、中盤の局面らしき状況が出来上がっていた。

 

「君は将棋をやった事はあるかい?」

 

「一応、あります。どっちかと言うとチェス派ですけど」

 

「じゃあ、この局面の正解を導き出して」

 

 ーー本当に意図が読めない人だ。

 いきなり将棋の話をしたり、問題を解けと言ったり……この人、一体何がしたいんだ…………? 

 

 今まで出会った事のないタイプの人間に、桐乃は完全に振り回されていた。しかしカエサルは、そんな桐乃の混乱などお構い無しだった。

 

「あの……」

 

「なんだい?」

 

「問題を解くのは構いませんが、まず話の本題を聞かせてもらえませんか?」

 

「本題はもう話終わったよ?」

 

「へ?」

 

 今度こそ桐乃の頭は真っ白になった。ずっと警戒して考えていたことが、頭からずっぽ抜けるほどの衝撃だった。

 

 まさか本題って、この将棋のこと? 

 

 わざわざ呼び出しておいて、これが用件? 

 

「……本気ですか?」

 

「まじ★本気と書いてマジ★」

 

 こんな事なら無視して市場行くべきだった。時間を無駄にはしたくないのに、今完全に無駄になった。

 

「じゃあ僕は会議があるから、終わったら答えを聞くよ。答えられたら必要な物をあげるから、それまで頑張って★」

 

 用件は終わったとばかりに、カエサルは足早に部屋を出ていく。桐乃はそれをポカンと口を開けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで? 一体何を話したんだい?」

 

 レオナルドの疑わしい様子を隠そうともしない視線が、カエサルを貫く。しかし当の本人は、まるで気にした様子もなく軽く答える。

 

「ちょっとしたアドバイスさ。宣言通り、そこまで時間は使ってないだろう?」

 

「アドバイスね。君がそんな殊勝な事をするようには見えない。という点を除けばありがたい話だよ」

 

 相変わらず、レオナルドの声は冷たいままだ。実際にレオナルドから見たカエサルという男は、誰かにアドバイスをするような性格ではないはずだ。

 

「嘘は何もないさ。彼女が問題をどこまで解けるかどうかはともかくとして、しっかりとアドバイスは送ったよ」

 

「アドバイス"は"送った…………ね。君は今回、どちら側に付いているんだい?」

 

「いつも通り、どちらにも付いてないよ。僕は平和主義なんだ」

 

「自虐かい? 笑ってあげようか?」

 

「手厳しいな……。でも、どのみち答えを出すのは彼女だ。僕たちは見守ることしか出来ないよ?」

 

「…………わかってるさ」

 

 レオナルドには、桐乃を見守る事しか出来ない。それはわかりきった事だが、それをあえて言うあたり、カエサルの言葉には何かしらの警告が含まれているのかもしれない。

 

 何も出来ないもどかしさを噛み締めながらも、レオナルドはありもしない神に祈る。

 

 

 

 どうか、彼女に幸運がありますように…………。

 

 





レオナルドの設定暴露その3

北方都市アルテの市場について
北方都市アルテの市場は価格が変動しにくい傾向にある。通常、他の六大都市は運搬用の馬車を使い運搬しているが、北方都市アルテは地形の都合上、影を使っての運搬が許可されており物資が不足する場合が少ない傾向にある。

しかし、他の都市と比べて価格が特別安いという事はなく物資の輸送量や時期は徹底管理されている。例外は首都のゼーレのみで、ゼーレだけは物資が不足する事がない。

レ「市場でも、基本物資の供給や価格設定は全て光の帝国の管理化にあるんだよね。安定性はピカイチだけど、需要と供給のバランスがなかなか崩れないから、価格が基本一定なんだ。
それだと商人は、売り時や買い時を見極める必要がなくなっちゃうんだよね。
そのせいか、北方都市の商人は商魂が抜けてる連中が多くて、横の繋がりで群れてばかりだよ。正直、わたしみたいに新しい商品を提供する人間を良く思ってないし、新たな事業を始めることも難しい。いずれテコ入れが必須だね」

小説の方針について少し考えました。1から3章とは違い、4章では光の帝国の掘り下げの為に長いペースでの展開が目立ちますが、その展開についての考えが知りたいです

  • 正直、遅い
  • 普通
  • 気にしていない
  • 掘り下げは欲しい
  • はよ原作入れ
  • 作者の好きにしてくれ
  • 逆に速い
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