転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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松の花言葉、「不老長寿」「永遠の若さ」「勇敢」「同情」




過去の残影

 

「こちらこそ、お会いできて光栄だよ、公爵。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。レヴォルトにはあまり足を運ばないものでね、案内してもらえて助かったよ」

 

 公爵の言葉に、レオナルドは軽く会釈を返した。その口調は公爵に対してはかなりくだけたものだが、公爵自身はまったく気にした様子を見せない。むしろ、後ろに控える細身の男の方が一瞬だけ眉をひそめたのを、桐乃は見逃さなかった。

 

「それにしても、失礼ながら星十字騎士団のお二方がかくも可憐な女性だとは思わなかった。陛下の剣であり盾だと聞いていたから、てっきり二メートルを超えるような豪腕の巨漢でも現れるのかと、身構えていたというのに」

 

 厳つい見た目の男が発したとは思えぬ、やけに柔らかな賛辞に、桐乃は返答に困る。とはいえ、表情に出すわけにもいかずに、彼女は努めて無表情を保った。

 

「お褒めに預かり光栄だね。そういう公爵だって、情熱的な人物だと噂には聞いていたけど、思ったよりもずっと紳士的で安心したよ。武人としても名高い公爵と面会するのは、正直、緊張していたんだ」

 

 この場合の「情熱的」とは、要するに激情家という意味である。公爵、マルクス・フォルトンは軍人からの評価は高いが、一部の貴族からは「古臭い野蛮人」と陰口を叩かれている存在だ。

 

 桐乃は南東都市レヴォルトの詳細な情報は持っていなかったが、マルクス・フォルトン公爵の人物像だけは把握していた。実際に会えば面倒事になりそうだという印象を持っていたため、レオナルドのやや挑発的とも取れる発言に、内心ヒヤヒヤしている。

 

(なんでそんな危ない発言ばかりするんですか!? 私のコミュ力じゃフォローできませんよ……!)

 

 無表情を装いながらも、桐乃の内心は修羅場だ。緊張のあまり、感じるはずのない腹痛まで感じていた。

 

「あの星十字騎士団にそう言われるのは光栄ですな。しかし、その星十字騎士団が急に視察とは、いったい何の御用でしょう? まさか観光というわけでもありますまい」

 

「なぁに、ただの挨拶だよ。星十字騎士団の正式発足に際して、星八世貴族全員に顔を見せておきたくてね。でも、スケジュールがかなり詰まっているから、視察が終わったら少し観光して帰るつもりさ」

 

 公爵の探るような問いに対して、レオナルドは軽くいなすように返す。そのやり取りに区切りをつけるように、公爵は話題を変えた。

 

「そういえば、最近貴族の間で奇妙な噂が広まっておりましてな。何でも星十字騎士団は実は名ばかりの騎士団で、実態は陛下の後宮なんだとか」

 

 ジャブからいきなり踏み込んできた。そう言える発言だ。女性、ましては騎士団員に対しては侮辱にもなりかねない話題である。果たして彼は何を狙っているのか……。

 

「おやおや、随分と不敬なことだね。噂とはいえ、聞き捨てならないな」

 

 レオナルドの声音が、ほんのわずかに硬質になる。その真意を桐乃は読み取れず、ただ静かに成り行きを見守るしかない。

 

「ええ、まったく嘆かわしいことだ。映えある貴族が、そのような噂に踊らされるとは……」

 

「おや、公爵は貴族派閥ではなかったかな? 噂の出どころも、その貴族派閥だろうに」

 

「派閥と思想は必ずしも一致するわけではありません。貴族派閥であっても、陛下への忠誠が篤い者は確かに存在します。ダ・ヴィンチ殿こそ、かなり忠義深いようにお見受けしますが」

 

 今さらながら、桐乃はレオナルドがなぜ皇帝に仕えているのかを知らないことに気づいた。光の帝国の出身ではないと言っていた気もするが、それ以外の過去や動機について、詳しくは語ったことはなかった。

 

 一世紀近くに及ぶ研究の末新たな品種改良技術を確立し、技術革新の一翼を担ってきた彼女がなぜそこまで尽力するのか。その答えが、もしかすると皇帝にあるのかもしれない。

 

「もちろんさ。星十字騎士団に、陛下への忠誠心がない者など一人もいないよ」

 

(……ごめんなさい。わたしです。忠誠心ゼロで星十字騎士団に入っちゃった人が、あなたの隣にいます……)

 

 即座に断言するレオナルドの言葉に、桐乃はいたたまれなくなり、顔が引きつりそうになるのを必死に堪えた。

 

「それは心強い限りだ。詳細が不明な分、不安が噂となって広まってしまったのでしょうな」

 

「陛下も、くだらない噂一つで気を悪くするほど狭量じゃないさ。今のは、聞かなかったことにするよ」

 

 皮肉と腹の探り合いが続く中で、肝心の本題は一向に見えてこない。世間話を延々と続けるだけの時間に、桐乃は内心でため息をついていた。無表情を保つのにも、そろそろ疲れてきた頃だった。

 

「ところで、隣の方はこの辺りでは珍しい髪色をしておられる」

 

 唐突に話題が自分に向けられたことに驚く桐乃だが、態度には出さずに沈黙を貫いた。公爵は気にした様子もなく、言葉を続ける。

 

「光の帝国では黒髪黒目は非常に稀少だ。それこそ、ごく限られた人物しか持ち得ぬ特徴でもある」

 

 実際、黒髪の人間は帝国内では希少である。黒に近い茶髪はともかく、漆黒とも言える髪色はほとんど存在しない。

 

「さらにもう一つ、貴族の間ではこんな噂もあるのです。星十字騎士団の中に、陛下のご子息がいるのではないかと」

 

 もしかしてアレだろうか……。私がその“隠し子”だとでも言いたいのだろうか? 

 

「なんとも興味深い噂だね。でも、公爵? その言い方だとまるで、桐乃がその御子息だと言っているように聞こえるよ?」

 

「いえ、失礼した。もしそれが事実ならば、大問題ですからな。陛下が長年君臨していながらご子息がいないという現状に、不安を感じている者も少なくない」

 

 一見すると軽口に聞こえる公爵の発言の数々だが、そこには探りや意図が潜んでいる。銃の製造に関与しているという疑惑を抱える彼だけに、単なる戯言とは思えなかった。

 

 桐乃が彼の真意を測りかねていると、突然、応接室の扉がノックもなく勢いよく開かれ、慌てた様子の兵士が飛び込んでくる。

 

「し、失礼します! 緊急の報せです!」

 

 兵士は駆け寄って公爵の耳元で何事かをささやく。公爵の顔色が変わり、すぐに立ち上がった。

 

「申し訳ないが、緊急の要件が出来てしまった。美女お二人とこれ以上語らえぬのは誠に残念だが、代わりに文官を一人残しておく。では失礼する」

 

 そう言い残して、公爵は慌ただしく部屋を出ていった。残された細身の男が、頭を下げる。

 

「緊急とはいえ、御二方にはご無礼をお詫び申し上げます」

 

「何があったかは分からないけれど、緊急なら仕方ないさ。ああ、そうだ。あらかじめ伝えていた通り、泊まってみたい宿があるから、客室の案内は必要ないよ」

 

 文官の謝罪に対し、レオナルドは気にした様子も見せずにさらりと返す。

 

 屋敷の宿泊を断り、宿屋に泊まるとあえて伝えたレオナルド。桐乃はそれが貴族のメンツに関わる問題ではないかと危惧したが、今それを口にするのは地雷を踏みに行くようなものであり、大人しく黙っていることにした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 会談が中断され、明らか貴族用と思われる宿屋に移動した三人。受付を素通りし、そのまま部屋に直行するという強行っぷりに、桐乃は本当にここに泊まっていいのかと不安になったが、その辺りは蛇足なので、今は割愛する。

 

「思ったよりも挑発的だったね。聞いていた話とは違くて疲れたよ」

 

「お疲れ様でした」

 

 大きく息を吐いてベットに体を投げ出すレオナルド。その脇で、ドーラがどこからか取り出した大きなうちわのような物で仰ぐ。

 

「貴族の会話って、ずっとあんな感じなんですか? わたしはもうお腹いっぱいです……」

 

 会話には一切入らなかった桐乃だったが、挑発的な言葉を投げつけてくる公爵と、それを涼しい顔で受け流すレオナルドの二人と同じ空間にいるだけで、彼女の精神力はゴリゴリと削られていた。

 

 小さく溜め息をつきベットの端に腰を下ろした桐乃にも、ドーラがゆったりとした風を送ってくる。

 

「実際、あんなものだよ。貴族たちは常日頃から他の貴族の粗探しに忙しいからね。他者の足を引っ張るのが大好きなんだ」

 

 辛辣なレオナルドの発言は、若干の偏見も混じっているかもしれないが、先程の会談を思い返すと、その言葉は案外的を射ているようにも思えてくる。

 

「……なんでそんな貴族制度なんて続いてるんですかね? もう解体しちゃえばいいのに」

 

 ポツリと呟いた桐乃の一言に、レオナルドとドーラの二人はピタリと固まる。その反応に戸惑いながら、桐乃は目を瞬かせた。

 

「えっ、そんなにおかしなこと言いました?」

 

「いや、おかしいというかね。あっさり言ってのけるあたりが現代っ子らしいというか……、異世界おばあちゃんの私には新鮮だっただけだよ」

 

「桐乃様は、中々ユニークな考えを持ってらっしゃると思っただけです」

 

 二人が何を言いたかったのかは正直よくわからないが、少なくとも褒められていないのは、桐乃にも理解できた。

 

「桐乃、貴族ってのはね。光の帝国から与えられた土地を管理するのが主な仕事なんだ。レヴォルトの街だって、公爵の管理下にあるわけだしね」

 

「わたしが言いたいのはそうではなくて、なぜあんなに偉そうになのかが疑問なんです」

 

 貴族と聞いて、いい印象はない。もちろん全員がそうとは思わないが、今日の会談を経て、そのイメージはさらに悪化していた。

 

「偉そうというかね。実際に偉いんだ。彼らは土地を維持と運営する義務がある。その代わりに、一定の富と権力を持つことを認められているんだ。

 ただし、その土地を衰退させたり、問題を起こせば、その責任はすべて領主に降りかかるし、場合によっては極刑だってあり得る」

 

 星八世貴族が管理する大都市以外にも、帝国内には無数の町や村が存在する。貴族たちはそれぞれの領地を任され、法の定める範囲内での統治が許されていた。

 

 貴族たちが権力を持つのは自分の領地内の物や人だけで、富は自分たちで得なくてはならない。仮に税率を法律の規定外に上げれば、管理権を剥奪される可能性もある。

 

「逆に言えば、法律の範囲内であれば税率を自由に変えられるし、領地内では領民も逆らえない。だから、理不尽な話だってあるだろうね」

 

「なら、法律でもっと厳しく縛ればいいんじゃないんですか?」

 

 貴族が領民に横暴を振るっているのであれば、それを取り締まる法を作ればいい。皇帝が絶対なら、それもまかり通るはず。

 

「出来るだろうね。でも、そんな義務と重責だけを背負わされて、何の見返りもない役職をやりたがる人が、何処にいるんだい?」

 

 そう言われると、桐乃は言い返せなくなる。要はアレだ。学校の生徒会長だって、内申点になるのであればやる人はいるだろうが。それがなければ、ただのボランティアに等しい。義務と責任しかない役職を敬遠するのは当然だ。

 

「それにね、現時点でも貴族の責任は結構重いよ?」

 

 光の帝国の法に抜け道はあるが、もし破れば通常の帝国法ではなく、貴族法が適応される。貴族法は総じて刑罰が重く、懲役刑がない代わりに、直接的な罰が多い。

 

「直接的な罰って何ですか?」

 

 桐乃の疑問に、レオナルドは僅かに困ったような笑みを見せる。

 

「う〜ん。あまり桐乃は知らない方がいいんじゃないかな? 桐乃の価値観とはまず合わないだろうし、いつか見る機会があるかもしれないけど、私の口からは言いたくないよ」

 

 

 

 結局、最後までレオナルドがその話を教えくれることはなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「アナタ、あの子はどうにかならないの?」

 

 聞こえてしまった。聞きたくなかった言葉だった。

 耳に届いた瞬間、胸の奥がずしりと重く沈む。自己嫌悪と、何よりも浅ましい恐怖が、わたしの全身を蝕んでいく。

 

「手は尽くしている。そのために金も積んだ」

 

 わたしが悪い。原因は、すべてわたしにある。

 産まれた時から、ずっとそうだった。何もかもが、わたしの存在から始まっていた。

 

「確実に成功するのよね?」

 

 二人は悪くない。たとえ倫理に背いていようとも、その行動はある意味では正しいものだった。

 

「…………確率は低い。出来うる伝手と金を使っても、症例のない手術が成功するかどうかはわからん」

 

 一体、どれくらいの人の人生がわたしのせいで狂ったのだろうか。きっと数人などというものではない。両の手ではとても足りない。

 

「…………そう。私も手を尽くすわ。打てる手は全て打ちましょう」

 

 二人の優しさが、わたしの心と体を虫食いのように蝕んでいく。

 

「あぁ……、全ては娘の為だ。もう失ってたまるか」

 

 神様、ついぞ信じることが出来なかった神様。わたしは浅ましくも願います。

 

 

 

    どうか、誰も知られずに死ねますように

 

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ…………」

 

 嫌な物を見た。今になってこんな夢を見るのは、過去を振り返る余裕が出てきたからだろうか。それとも、忘れることをわたし自身が拒んでいるからか。

 どちらにせよ。気分は最悪だった。

 

 まだ早朝なのか、外はまだ薄暗くて静かだ。寝間着には汗がべったりと張り付いていて、酷く気持ち悪い。

 

 隣のベットにレオナルドはいない。彼女は基本寝ないのでわかってはいたが、こんな姿を見られずにホッとしている自分がいる。

 

 現代顔負けのシャワー設備のついたお風呂場で汗を流し、白いYシャツと長めのズボンを着て、部屋を出る。

 

 この宿には、確か広めのバルコニーがあったはずだ。外の空気をを吸えば、少しは気持ちも落ち着くかもしれない。

 

 桐乃は重たい足を引きずるようにしてバルコニーへと向かうと、そこには1人の人影見える。

 

(こんな時間に……?)

 

 こんな早朝に先客がいることに不思議に感じつつも、今の桐乃にそんなことを気に留める余裕はなかった。バルコニーの椅子に腰を下ろし、ゆっくりと背もたれに体を預ける。

 

 異世界に来て、もう半年。最初の頃は引きこもり、これは夢だと何度も疑った。

 だが現実は容赦なく彼女を突きつけ、現実に引き戻す。

 

 その後、レオナルドの好意で視察に同行して様々な人物と出会い。この世界を五感で実感し、身を以て体感した。

 

 この摩訶不思議な状況を説明する証拠も、揃いつつある。

 あとは、もう少し確証が欲しい。そして、適切なタイミングを見極めるだけだ。

 

 桐乃はこの世界で、数え切れない初めてを経験した。そのすべてが、間違いなく彼女の糧になっていると言っていい。

 

 けれど、どれだけ未来に目を向けて覚悟を決めても、「過去」という名の怪物は、油断した心を狙いすましたように襲いかかってくるものだ。

 

 

「お前、もしかして桐乃か?」

 

 

 その声は聞き覚えのある声だった。同時にこの世界で聞くはずのない声でもある。

 

 桐乃は、息が荒くなっているのを自覚しながらも、どうにか気持ちを落ち着かせようと深く息を吸う。しかし呼吸が整うことはなく、心臓の鼓動が耳を劈くほど大きく響いてうるさい。

 

「無視すんなよ。これでも家族だろ? まぁ、こんなところにいたら誰でも驚くか。俺もびっくりだわ。おかげで眠気が完全に吹き飛んだ」

 

 後ろから聞こえる声は、どこか楽しげだ。まるで失くした玩具を見つけた子供のように、その声は弾んでいる。

 

 桐乃は恐る恐る振り返り、その顔を確認する。どうか気の所為であってくれと、そんな祈りにも似た願望を抱きながら。

 

「と、透さん……?」

 

 その男と目が合った桐乃は、全身が血の気が引いたかのような寒気に襲われ、絶望したかのようにその名を呼ぶ。透と呼ばれたその男は、微笑みと呼ぶにはあまりにも悍ましい表情で、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「よぉ……久しぶり。恥知らずの桐乃ちゃん?」

 





レオナルドの設定暴露その6

貴族法について

貴族は領地の中において大きな権力を持つ。領民に対する命令権や領地の物の所有権などがそれにあたる。(例外あり)

代わりに貴族には領地を管理する義務があり、管理が出来ない状況にした場合や大きな罪を犯せば、帝国法ではなく貴族法で裁かれる。
貴族法に懲役制度はなく、多大な罰金や貴族位の剥奪、最悪の場合は一族諸共死刑にもなる可能性がある。



レ「貴族は特権もある分、義務も厳しい立場にあるんだ。貴族の中には非人道的なことをしている者もいるけど。管理する人間の全てが完全に潔癖なんて、普通はあり得ないからしょうがない部分はあるけどね。
例えるなら学級委員長が国で、クラスメイトが貴族にするとわかりやすいかな?委員長の言葉は正しくても、周りからウザがられるとかはあるあるだよね。
無理に縛り付けて管理させることは出来るけど、それじゃあ今度は国が非人道的になるから本末転倒だ。貴族は都合の良い必要悪みたいなものだよ」

小説の方針について少し考えました。1から3章とは違い、4章では光の帝国の掘り下げの為に長いペースでの展開が目立ちますが、その展開についての考えが知りたいです

  • 正直、遅い
  • 普通
  • 気にしていない
  • 掘り下げは欲しい
  • はよ原作入れ
  • 作者の好きにしてくれ
  • 逆に速い
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