転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

46 / 82

4章中盤ラストォォォォ!!!

難産、疲労、GWの三重苦を乗り越えて、過去編は2話分で終わりにします。4章後半をGW内に、もう二話くらい投稿出来たらいいなぁ〜とか思っています。

今回の話には、少しばかりショッキングな場面があります。苦手な人は注意してください。一応、後書きに簡易的な部分をまとめてあります。


過去は消えず、されど未来へ進む

「椿姫が欲しい?」

 

 松平と結ばれて少し経ったある日、蛍伍は一人で松平の家に赴き、松平の祖父である松平東蔵に頭を下げていた。

 

「はい。婚約も考えています」

 

「オメェさんは、その意味が分かって儂に言ってるのか?」

 

 初めて会ったあの日よりも、遥かに険しい表情で、東蔵は静かに圧を放つ。

 

 本来、松平家は由緒正しい名家だ。その一人娘である椿姫を、一介の大学生が欲しいなどと願うのは烏滸がましいにも程がある。"住む世界が違う"そう言い切っても差し支えないほどに、両者の身分には大きな隔たりがあった。

 

 かろうじて釣り合っているのは、二人が通っている大学が日本でも有数の一流校であるという点だけだ。

 

「わかっています。それでも俺は、逃げたくありません」

 

 その言葉に、東蔵は低く、しかし明確な威を孕んだ声で口を開く。

 

「オメェさんのことは少し調べた。 柳 蛍伍、6月16日生まれ。幼少期はかなりのやんちゃ坊主だったらしいな。だが十歳の頃、交通事故で両親を亡くし、遺産目当ての親戚にたらい回しにされて、最終的に母方の祖父に引き取られた。そこから医者を志して今に至ると」

 

 "少し調べた"の範疇を逸脱した情報に、蛍伍は内心で戦慄する。個人情報の尊重など、ここでは通用しないらしい。

 

「よくそんなことを調べましたね」

 

「可愛い孫にハエがたかったら大変だ。このくらいはする」

 

 つくづく、住む世界が違うと実感させられる。常識など歯牙にもかけないその物言いと態度は、まるで穴に潜り牙を研ぐ老獪な熊のようだった。

 

 そして堂々と語る姿は、こうして本人に直接話すことさえ何ら問題だと思っていないのだろう。

 

「オメェさんは、どう考えても椿姫に釣り合っちゃいねぇ。女を守れない男に、孫を渡すつもりはねぇよ」

 

 東蔵の言葉は勝手に聞こえるようで、しかし正論だった。椿姫からの話によると、松平家には当主候補が五人存在している。しかし東蔵は、いずれの候補にも満足しておらず、「椿姫が男だったら」と愚痴をこぼすのが常だったという。

 

 この情報を利用しない手はなかった。ただの学生である蛍伍にとって、その手段は限られている。

 

「俺が椿姫をこの家の当主にします」

 

「それがどういう意味なのか、オメェさんは分かって言ってるんだろうな?」

 

 覚悟を決めて口にした言葉に対し、東蔵の反応は、まるで能面のような無表情だった。

 

「わかっているつもりです」

 

 松平家は、政界、医界、警察、自衛隊にまで伝手を持つ名家。その影響力は計り知れず、世間に知られることのない隠れた権力者でもある。

 

「あなたは、未だに当主の座を息子さんや他のお孫さんに譲ろうとしていない。それは後継ぎに不満があるからでしょう?」

 

「椿姫の入れ知恵か……」

 

「どうでしょう……自分で考えたつもりですが、この状況も彼女の思い通りなのかもしれません」

 

 椿姫は、松平家のことや東蔵の愚痴を、ふとした時にこぼすことがあった。

 

「……椿姫は納得してるのか?」

 

「女じゃなければ、本気で狙っていたそうです」

 

 これはよく耳にした言葉だ。来る前に改めて話し合いもしたが、彼女は否定することなく了承してくれた。

 

 ここまで都合よく進むと、まるで未来を視ていたかのようだ。

 

「……そうか…………」

 

 東蔵はそれだけ呟くと、黙って考え込む。穴だらけの論理に黙り込む姿勢は、逆に後継問題がどれほど深刻かを物語っていた。

 

「椿姫のことだ。オメェさんを医者にして、医界に家の影響を伸ばすつもりなんだろう。政界や警察には強いが、医界はそれほどでもねぇからな。確かにそこを押さえれば、椿姫でも当主になれる可能性はあるだろうな」

 

「それって……」

 

「こんな餓鬼に未来の一端を担わせるのは癪だが、元はと言えば俺の責任だ。この際、毒ごと飲み込むしかねぇだろ」

 

 さにげなく毒扱いされながらも、東蔵はあっさりと承諾する。その言葉に、蛍伍は内心で拳を握る。

 

「でも、どうしてそんなにあっさりと……?」

 

 正直、この計画は綻びだらけだ。蛍伍自身が医界の奥に入り込むなど無謀極まりない。それでも望みを託すのは、無理があるように思える。

 

「オメェさんが思うより、この家は安泰でもなんでもねぇんだよ」

 

 松平家は明治以降に頭角を現し、軍との結びつきで力を蓄えていった。しかし戦後、終戦共にその関係が悪化し影響力は低下。一時は没落寸前にまで追い込まれた。その松平家を再建したのが東蔵であり、三十年で政界との結びつきを強めた。

 

 つまり今の松平家は、東蔵のワンマンチームと言っても過言ではない。

 

「俺はもう七十になる。定期的に医者に診てもらってはいるが、いつ死んでもおかしくねぇ。碌な後継ぎもいねぇまま、死ぬに死ねねぇんだよ」

 

「俺が医学部長になれば、椿姫を当主にできますか?」

 

 医界での地位を確立すれば、外様でも松平家の中で発言権を持てる。しかもそれが、当主の夫であればなおさらだ。

 

「仮定が多すぎるな。女が当主になるのも、オメェさんがその歳で医学部長になるのも、どっちもだ」

 

「それは分かってます。でも、時間をかけてられないのはお互い様でしょう」

 

 東蔵には寿命、椿姫には自由がない。特に椿姫は、家の意向によって婚約者をあてがわれる可能性がある。一刻も早く、蛍伍自身の価値を証明する必要があった。

 

「なら覚悟決めて、夢なんて捨てろ。権力は泥よりも汚ぇモンだ。一度踏み込めば、足なんざ洗えねぇぞ」

 

「彼女に惚れた時点で、似たようなものですよ」

 

 東蔵の最後の警告に、蛍伍は苦笑しながら応じた。

 

 男二人は、それぞれの信念を賭け、胸に無茶無謀の道にへと踏み出したのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 それから二十年。蛍伍は松平家の後ろ盾を得て、学生時代から東蔵の紹介で政財界に繋がりを築き、医学部を卒業。そのまま伝手を駆使し、三十代の若さで医学部長の座を手に入れていた。

 

「椿姫、桐乃はどうしてる?」

 

「元気にしているそうよ。中々会えないのは、とても残念だけど……」

 

 時刻は深夜。二人はホテルの一室にて、密やかに今後の展望を語り合っていた。

 

 桐乃はもう十五歳。高校に通う年齢だ。しかし、両親である二人は滅多に顔を合わせていない。単純に多忙という理由もあるが、それ以上に、彼らは桐乃に対してある種の“負い目”を抱えていた。

 

 先天的に足に障がいを持って生まれた桐乃は、松平家の中では決して良い扱いを受けなかった。とりわけ、当主候補ですらなかった椿姫と、外様の蛍伍との間に生まれた娘とあっては、蔑ろにされるのも無理はない。

 

 当主候補たちは、かつて椿姫が当主への立候補を表明した際には、揃って嘲笑した。しかも、名もなき男と婚約したなどと聞けば、その軽率さに眉をひそめるのも当然だったろう。

 

 だが、五年という歳月は状況を大きく変えた。椿姫の後ろ盾である東蔵の全面的な支援を受けた蛍伍は、政財界に食い込み、松平家の影響力を密かに強めていった。

 

 椿姫自身、内部での評価は芳しくなかったが、その美貌と優雅な物腰は外部には好印象を与えた。なにより、東蔵が椿姫を溺愛しているという話は、広く知られていた。

 

 人は流れに乗るものだ。人気者の周囲に人が集うのは、その人物が魅力的だからではなく、"人気に見える"からだ。松平家の当主・東蔵がなかなか後継を指名しなかったことも手伝い、"現候補者たちに決め手がないのではないか"という噂も立ちはじめていた。

 

 その噂が信憑性を増すのと時を同じくして、椿姫が当主候補として名乗りを上げた。噂と椿姫の台頭は、互いに作用し合い、やがて一つの大きな流れとなった。その流れに便乗しようと、多くの者が椿姫の周囲に集まり始める。

 

 しかし——その勢いは、桐乃の誕生と同時に鈍化した。

 

 子の能力は、親の評価に直結する。桐乃の障がいは、椿姫と蛍伍に向いていた追い風を緩めるには充分だった。

 

「桐乃の体調は、あまり良くないらしい……」

 

 蛍伍は、重く沈んだ声で告げた。桐乃は幼い頃から、慢性的な病に悩まされていた。あらゆる伝手を頼り、治療や研究に尽力したが、その努力はことごとく報われなかった。

 

「あの子、私たちの前では元気に振る舞ってるけど……普段はずっと一人でいるみたいよ」

 

 椿姫もまた、不安げな表情で娘を案じる。本家に残した使用人たちに定期的な報告を求めてはいたが、その内容は明るいものではなかった。

 

 桐乃は日々を、部屋に籠もり勉強や読書に費やしていた。誰とも関わらず、孤独な生活。かといって、他の生徒と同様の生活を強いることは、彼女の身体に大きな負担となってしまう。

 

「あの高校の理事長とは知り合いだ。何かあればすぐにでも連絡は来る。普段から保健室登校を許してもらっているし、学校側とも話は通してある。桐乃のコミュニケーション能力にも問題はなかったはずだろう?」

 

「……表面的なコミュニケーションはね。最近、私たちにすら他人行儀になってきてるって気づいてる?」

 

 椿姫の言葉に、蛍伍は記憶を辿る。確かに、桐乃は誰に対しても敬語で話すようになっていた。

 

「思春期ってだけじゃないのか?」

 

「それもあるとは思うけど……そもそも、家族として過ごす時間なんて、ほとんど無いじゃない」

 

 希望的観測に、椿姫は現実を突きつけた。

 

「そうは言っても……時間なんて取れないぞ。東蔵さんはもう九十歳だ。早く決着をつけないと、余計に泥沼に引き込まれる」

 

 当主争いの現状は芳しくない。東蔵はすでに高齢と病により寝たきりの状態。事実上、彼の死後にしか当主の座は空かないと見られていた。

 

「桐乃とは……もう少し落ち着いたら会いましょう」 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「私は……いわゆる“箱入り娘”だったんです」

 

 桐乃は、先ほどまでの日記の朗読ではなく、自身の言葉で語り出す。

 

「病弱や障がいを理由に、他者との関わりは最低限に制限されていて。話す相手は、いつも使用人の方々だけでした」

 

「うーん……あまり想像がつかない生活だね」

 

 レオナルドの感想に、桐乃は自嘲気味に微笑んだ。

 

「それが、私にとっての“普通”だったんです。そのことに疑問は抱きませんでした。体が弱い私に、同級生と同じような生活は無理でしたし、小学校の頃はいじめられたこともあって……人との関わり自体を避けるようになっていました」

 

「辛くはなかったのかい? ご両親がいるのに、会えないのは」

 

「……意外と、そうでもなかったんです。直接会うことはなくても、誕生日にはプレゼントやメッセージカードをもらってましたし、たまに母と電話もしてましたから」

 

「……愛されていたのかい?」

 

「そう……だと思います。父とはあまり話せませんでしたが、母から“お父さんも心配してる”とは聞いてはいました」

 

 そう、きっと愛されていた。

 

 ……けれど、私は自分の“環境”に、あまりにも無知だった。

 

「高校に入ってすぐの頃に、ある男の人が訪ねてきたんです。親戚だと名乗って、“今まで会えなかったから挨拶したい”と。それだけの理由で、家に入ってきました」

 

 その男。透さんは、初めこそ穏やかで優しげな雰囲気を漂わせていた。使用人が家に招いたのだからと、私は疑うこともせず、笑顔を向けてしまった。

 

 ……それが、どれほど愚かな判断だったのかわたしは身を以て思い知ることになった。

 

 

『え……嫌……やめてください。こんな、ことをしてもなん……』

 

 

 震える声で抗議するわたしの言葉を、怒鳴り声が遮った。

 

『うるせぇなぁぁ!』

 

 怒鳴り散らすような声と同時に、わたしは腹部に強烈な衝撃を受けました。鈍い痛みが身体の芯まで響き、産まれて初めて味わう激痛に、声すら出せず、ただその場に蹲ることしかできませんでした。

 

『お前はさ、生きてる価値のない恥知らずなんだよ。それを良く教えてやるよ』

 

 透さんは、松平家の現状を刷り込むように教えてくれました。わたしが父と母の足を引っ張っていること。他の親戚に酷く馬鹿にされていること。わたしのせいで当主争いが長引き、それに不満を持つ伝手を友人達が多くいること。

 

 それら全て原因は、わたし自身にあると。目立たない場所を選んで殴りながら、じわじわと、その言葉を体と心に刻みつけてくる。

 

『ご、ごめんなさい。ごめん……なさい。ごめんな……さい』

 

 何度も口にする謝罪の言葉は、自分でも何に対する謝罪なのか分からなくなっていた。ただ、痛みと恐怖の中で、それだけが唯一の逃げ道のように思えた。

 

『わかったろ? 俺は当主の座に興味はないけど。兄さん達と椿姫の奴がずっと争われても困るんだよ。だからさ、自殺してよ。遺書を書いて、首でも吊れば後処理が楽だからさ』

 

 透さんのその言葉に、わたしは反応すらできなかった。ただ、全身が震え、喉の奥から押し寄せる嗚咽が漏れる。まるで痙攣するように泣いた。知ってますか? 人は本気で泣くと、息をするのも辛くなるんです。

 

 その後の記憶は曖昧でした。その場で死ぬことはありませんでしたが、その後も何度も透さんはわたしを殴り、蝕むように父と母の苦悩を、まるでわたしを壊す呪文のように話していきました。

 

 彼の疑いもしました。けど、父の日記から、彼の話が何一つ間違っていないことを知って、絶望しました。

 

 使用人たちも彼の味方で、助けを呼ぶだけの気力もなく、彼の恐怖心や父と母に迷惑書ける恐れから、相談することも出来ませんでした。

 

 そんな時に、定期的に通っている病院で、わたしが難病にかかっていることを知りました。早期的な発見ではあっても、難しい手術になるとも言われました。

 

 自殺する勇気もないわたしには、あまりに都合の良い"死の選択肢"だと思ったんです。

 

『絶対に治すから安心しろ』

 

 父の短い言葉に宿る優しさは、まるで静かに降り積もる雪のようで、その重みに、胸が痛んだ。

 

『手術が終わって、退院したら3人で何処かに遊びに行きましょう? 小さい頃には行ったけど、大きくなってからは全然だったもの』

 

 母が微笑みながら頭を撫でてくれる。その温かさに、どうしてか責められているような気がして、私は目を逸らしてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「その後は、どうなったんだい?」

 

 自分を責めるように言葉を吐く桐乃に、レオナルドはあくまで静かに、声色ひとつ変えずに問いかけた。

 

「……手術は成功しました。退院後の定期診察のすぐ後に、この世界に来ました。

 …………わたし、どうしたら良いんでしょうか。わからないんです。この世界に来てから、何もかもが滅茶苦茶で……わけのわからない理由で死にかけて! 怪しい人や怖い人に会って! よくわからない騎士団に入れられて! もう、自分が自分じゃないみたいなんです!」

 

 感情の蓋が壊れたように、桐乃は次々と言葉を吐き出す。

 その声は決して大きくはない。けれど、幼子が泣く声のように不安定で、人の心をざわつかせる、ひどく切実な響きを持っていた。

 

「レオナルドといるのは楽しいんです。足が治って、身体も丈夫になって……でも、だからこそ、もうわからないんです! こんなに辛いのに、どうして私、頑張れているんですか!? 頑張らなきゃって、思ってしまうんですか!?」

 

 口にする言葉一つひとつが、心の奥底からあふれ出る悲鳴のようだった。

 

「レオナルドは、どうして私を助けるんですか!? なんでこんなことに巻き込まれなきゃいけないんですか!? どうして、皇帝は私を選んだんですか!? どれくらい頑張れば、終わるんですか!? 

 ……どうして、私が……こんなことになってるんですか…………」

 

 最後には、力尽きるように声がしぼみ、桐乃はその場に俯いてしまった。

 

 レオナルドは、そっと視線を彼女に落とす。

 

「桐乃。返事はいらない。無理に理解しようとしなくていい。納得なんて、今は必要ない。ただ、私の話を少し聞いてくれ」

 

 これは叫びではない。けれど確かに届いた、桐乃の心からのSOSだった。

 

 知らない世界、知らない常識、誰も信用できない不安。そして何処かにいると察していた自分の敵の影。

 その積み重なった恐怖と混乱が、透という男との出会いをきっかけに、決壊したダムのように一気に溢れ出したのだ。

 

「残念だけど、私は気を使った慰めの言葉は苦手なんだ。

 君の気持ちを完全に理解することはきっとできないし、今この場で正しい答えを出してあげることも、おそらくできない。

 ……だから、私にできるのは、たった二つだけ」

 

 そう言って、レオナルドは胸ポケットから小さなカプセル状の魔導具を取り出した。それは以前テントを収納していたものと同じ形状の装置だった。

 

「まず一つ目。これには、以前君と約束した物が入っている。きっと、君の力になるはずだ」

 

 そう言って彼女の隣に腰を下ろし、そっと桐乃の手にカプセルを握らせる。そしてその手を、包み込むように優しく両手で覆った。

 

「……少し、自分の話をしてもいいかな。私はね、かつてとても大きな失敗をした。取り返しのつかない失敗だった。

 多くの人を巻き込んで、結果的にすべての責任を背負い、私は全ての責任を背負い死ぬことになったんだ。

 それでも、私は仕方のないことだと納得したつもりだった。けれど……いざ死を前にしたとき、私は、怖くてたまらなかった。

 震えながら、情けなく『死にたくない』って……呟いてしまったんだ」

 

 それは、彼女が今まで誰にも語らなかった過去。

 その重みを桐乃は感じ取り、ゆっくりと顔を上げ、レオナルドを見つめた。

 

「……そんなときに、現れたんだよ。信じられないくらい都合の良いタイミングでね。白馬の王子様、というには口下手な人だったけど」

 

「……それって……皇帝陛下のことですか?」

 

 かすれた声で問う桐乃に、レオナルドは少し困ったように、けれどどこか照れくさそうに頷いた。

 

「まぁ、そうだね。あのときは本当に疑ってばかりで、彼の言葉も、助けも、なかなか信じられなかった。

 でも、どこにも行く場所のなかった私は、光の帝国に身を寄せた。

 当時の私はそれはもう尖っていてね。誰も信じられなくて、けれど、見捨てられるのが怖くて、ずっと一人で研究と開発に没頭していたんだよ」

 

 それは、まるで今の桐乃そのものだった。

 

「私が君を助けたのは……昔の自分を、君に重ねていただけさ。

 しょーもない理由だろう? 自分の心を慰めるみたいに、優しくしようとしていただけなんだ。……失望したかい?」

 

「……ちょっとだけしました」

 

 弱々しいながらも、どこか素直な答えに、レオナルドは思わず苦笑した。

 

「これは……意外と、心に刺さるね」

 

「……でも、少し嬉しいです。レオナルドは天才で完璧で、私とは遠い世界の人だと思ってました」

 

「私は、天才でも、完璧でもないさ……」

 

 彼女は少し皮肉を込めて微笑み、桐乃の言葉を否定する。

 いつの間にか、絡まっていた感情の糸が少しずつほどけていくのを、桐乃は感じていた。

 

「落ち着いたようだね。さっき、私にできることは二つだけと言ったけれど。“お願いは聞かない”とは言っていない。

 君が望むなら、何かひとつ叶えてあげようか?」

 

 その屁理屈めいた言い方に、桐乃の胸がほんの少しだけ軽くなった。

 

 ──もう、悩むのはやめよう。

 あとは、ただ前を向いて進めばいい。障害があるなら、乗り越えていくだけだ。

 

「……少しだけ、頼んでもいいですか?」

 

「もちろんだとも。勝利は、諦めずに歩み続ける者だけに訪れる。君の生きたい道を、生き給え」

 

 早朝の空に差し込む陽光が、雲の隙間からその姿を現す。

 その光はまるで、長い曇天に包まれていた桐乃の心にも届いたかのように、そっと優しく彼女を照らしていた。

 

 





レオナルドの設定暴露その8

桐乃の転移前の出来事

桐乃は、安全のために幼少期から東蔵の住む本家に住んでいる。学校は伝手のある私立のエスカレーター式の学校に通い、特別に全日保健室登校を許されている。小学生の桐乃は、同級生との交流を持とうとしたものの、元々金持ち達の子供が通う学校の為、松平家の桐乃は良くも悪くも目立っていた。

その視線や空気に気分が悪くなり、耐えきれなくなった桐乃は、自らの交流をやめて殻に閉じこもるようになる。
桐乃は本の虫となり、常日頃から勉学や読書以外に興味を持つことが少なくなって、完全な箱入り娘になった。

東蔵には、可愛がられていて良く将棋やチェスなどをして遊んでいた。しかし、桐乃が中学2年の頃に体調が悪化し病院暮らしをすることになり、完全に孤立する。

透はそのタイミングの狙って本家に入り込み、桐乃を暴行。信用のおける使用人は桐乃の為に一人配置していたが、使用人は桐乃のプライベートを尊重し常にいることはなかった為に、透は他の使用人を抱え込み犯行に及んだ。

桐乃は透が使用人を抱え込んだことを察し、疑心暗鬼状態に。信用のおける使用人は桐乃の違和感に気づいたが、あくまで使用人の線引きを守り、蛍伍と椿姫に報告するだけに留めた。

透の真意は依然不明である。



レ「業が深いね。感情を抜きして言うなら、透の目的がなんだったのかが気になるよ。異世界に来てまで桐乃を苦しめる辺り、相当歪んでいそうだけど。これは桐乃の戦いだから、私は見守ることにするよ」

小説の方針について少し考えました。1から3章とは違い、4章では光の帝国の掘り下げの為に長いペースでの展開が目立ちますが、その展開についての考えが知りたいです

  • 正直、遅い
  • 普通
  • 気にしていない
  • 掘り下げは欲しい
  • はよ原作入れ
  • 作者の好きにしてくれ
  • 逆に速い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。