転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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総合評価2000突破、日間15位感謝です。最近、総合評価2000が投稿小説全体の一割以下なことを知って驚きました。

4章も終わりが近いですが、桐乃のターンです。それが終わればユリウスになります。




超克せし者

 恥ずかしくも泣き喚いたあの日から、すでに二ヶ月の時が経過している。

 

 あの日以降のレヴォルトの視察は中止にされ、銀架城へと帰還した。レオナルドがわたしの心の重荷を理解しての配慮だった。

 

 それからすぐにレオナルドは戦争に参加する為、しばらく会えないと言われた。

 

 そのことはすでに知っていたので特に驚きは特になかったが、レオナルドは念を押すように言った。

 

『いいかい? これはきっと、君の力になるはずだ。だから約束して欲しい…………、絶対に死なないでくれ。

 負けても、無様でも、逃げてでも、必ず生きるんだ』

 

 レオナルドはわたしの肩に手をおいて、真剣な表情で頼み込んできた。その手にはいつになく力が籠もっている。

 

 レオナルドは守る力をくれたのだ。その力で今、わたしは一人の人間を殺そうとしている。

 

 彼女はきっと怖いのだろう。自分が与えた力が原因の一端になって、わたしが死んでしまうのが。

 

 それでも止めなかったのは、わたしの意思を尊重してくれたからだ。

 

 たがら、絶対に死ぬわけにはいかない。

 

 桐乃は一人、レヴォルトの都市の中でも特に広い中央広場にいた。そこは中央に公爵の銅像がある広場だが、地震の影響か銅像は倒れ、石畳も所々ひび割れていて辺りは完全に廃墟と化している。

 

 かなり広い円形状の広場だが、周囲に人の姿はなく、重い沈黙で辺りは静まり返っていた。

 

 空は重苦しい灰色の雲で覆われ、遠くには煙と埃の匂いが混じる広場で、真っ白な車椅子に腰掛けて待つ桐乃。

 

 そこに、一人の美青年と呼べる男が広場に現れる。

 

「人様を呼び出すなんて、随分と偉くなったな」

 

 開口一番、透の皮肉が冷たく響く。覚悟はしていたつもりでも、その声色はわたしの思考を凍りつかせそうなほどの恐怖だ。

 

 やっぱり、予想通り怒っている。今はこれでいい、あとは…………

 

「手紙の内容は見てくれましたか?」

 

 桐乃の言葉と同時に、近くに横たわっている銅像が、透が振った剣の衝撃で吹っ飛ばされ、破片が舞い上がる。ざらつく破片の雨が二人に降り注ぐ。

 

「……おい、いつ話をしていいって言ったんだよ。お前に話す権利はねぇよ。俺がここに来たのは、あの日出来なかった再教育をするためであって、お前の話を聞くためじゃない」

 

 銅像は剣の間合いにはなかった。しかし、透が剣を振った瞬間に銅像はいとも簡単に砕けてしまう。桐乃はその様子を観察しながら、平然と応えた。

 

「再教育を受ける気はありません。手紙に書いてあった通り、わたしは自立します。もう、貴方の指図を受けるつもりもありません」

 

「そんな震えながらの宣言のどこに説得力があんだよ。お前はどこまで行っても、恥知らずの無能。まともに立てない障がい者の病弱な娘、まともな子供すらも産めない椿姫、学歴だけの真面目野郎。急に出しゃばって、松平家を泥沼に引き込んだ厄介者がお前らだろ!」

 

 桐乃の手は小刻みに震えたていた。抉られるような罵詈雑言は、記憶に深く刻まれた恐怖を呼び覚まし、体を硬直させる。それでも、わたしはもう──過去のままでいたくない。

 

 苦しくても、痛みを抱えて辛くても、目の前の恐怖を乗り越えたい。

 

 病弱や障がいを理由に、もう自分を諦めたりしたくない

 

 諦めるための言い訳を探して逃げたりしたくない。目を逸らし続けたりしたくない。

 

「そうかもしれません。わたしはお母さんにも、お父さんにも迷惑をかけて、松平家に泥を塗り続けてきました」

 

「そうだよ。お前が産まれてからは最悪だった。他所からは、あのジジイの脛を齧る能無し扱い。結局、松平はどこまで行ってもあのジジイ以外は有象無象でしかないんだよ! 

 なのに、お前の両親のせいで余計に面倒なことになって、俺の人生まで巻き込んで来やがる。お前さえいなければ、全部終わるんだよ!」

 

 透の言葉は、これまで桐乃が耳にしたどんな暴言よりも鮮烈だった。罵倒と暴力しか注がれなかった日々。その本心を初めて聞けた気がした。

 

「わたしは、死にたくありません。殺されるつもりも、ありません」

 

「お前は、どこまで自己中なんだよ」

 

 桐乃の言葉が透の怒りの導火線となったかのように、その手にはいつの間にか銃が握られていた。引き金が引かれ、閃光とともに弾丸が放たれる。

 

 通常の銃よりも更に速い速度で射出される弾丸は、寸分違わず桐乃の眉間へと飛来する。

 

 しかしその直前、巨大な鉄塊が閃光を屈曲させ、弾丸を弾き返した。

 

 否、鉄塊ではない。それは三メートルに迫る、真っ白な鎧姿の騎士だった。

 

「あ?」

 

 止められたことに苛立ちを覚えたのか、透は声を一層低くして眉間に皺を寄せる。

 

「透さん、手紙を見たかの答えをもらっていないので、この場で改めて宣言します。

 お互いの命を賭けて、殺し合いましょう。大義も、正義も、倫理も要りません。ただお互いが譲れないのであれば、勝者であることがすべてです」

 

 透は、桐乃がその目を鋭くさせて宣言するその姿に、何故か東蔵と重ねてしまう。

 

 そうだ。椿姫も同じなのだ。透のことを見透かしたような目で見つめ、持論を叩き込むその姿と東蔵は似ていた。

 

 その娘の桐乃は、椿姫と瓜二つの顔で東蔵と同じ"威"を透に放つ。

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁ!」

 

 透は怒りのまま銃の引き金を連続で絞る。弾丸は通常ではあり得ない軌道で曲がり、桐乃の急所を狙う。

 

 だが、白騎士がそれを許すはずがなかった。曲線を描く軌道で弾丸は襲いかかるが、白騎士は大剣で難なく叩き斬った。

 

「デカけりゃいい訳じゃね―だろ!」

 

 その隙に白騎士に接近した透が、銃のないもう片方の手に剣が現れ、白騎士の兜に斬撃が命中する。

 

「チッ」

 

 斬撃は命中したものの、斬ることは出来ずに兜を弾き飛ばすだけに終わった。透はその硬さに舌打ちするも、それ以上に驚く光景に目を見張った。

 

「…………空の鎧?」

 

 白騎士の中身は人ではなく、空だった。鎧が独りでに動いて桐乃を護っていたのだ。

 

 独りでに動く鎧の魔物は存在するが、白騎士がその類ではないことに透は直感的に悟った。そもそも、その魔物は透の攻撃を防げるほど強くない。

 

 つまりアレは……………………

 

「自信満々の理由はそれか? 空の鎧に護ってもらってお姫様気分かよ」

 

「お姫様気分はともかく、自信の理由ではあります。なにせ、レオナルドからのプレゼントですから」

 

 透の皮肉にも、桐乃は特段否定せずに答える。その凛とした態度に、透の苛立ちは増すばかりだった。

 

「そんな人形一つで、本気で勝てると思ってるのか?」

 

歩兵(ポーン)が一人だけと言った覚えはありませんよ」

 

 桐乃の言葉と同時に青い光が周囲に照らし、同じ白騎士が出現する。その数はおよそ三十体。

 

「透さん、わたしは本気です。わたしは我儘で凄く悪い子なので、貴方を殺します」

 

 今まで泣き顔や怯えた顔しか見せなかった桐乃が、静かな敵意を透に向けている。

 

「…………その顔で、俺を見下すな」

 

 目が血走るほどに怒りを顕にした透が、桐乃に銃を向ける。しかし白騎士達は、射線から遮るように立ち塞がる。

 

 それでも透は、お構い無しに引き金を引く。弾丸は先程と同じように叩き斬れるが、弾は斬られた瞬間に激しく爆炎を伴って爆発する。

 

 桐乃は別の白騎士に護られ無傷だったが、弾を斬った白騎士の鎧の胴部分は、完全に融解して上半身と下半身で分かれて崩れ落ちた。

 

「……弾の種類、変えられるんですね」

 

「それがわかった所で、なんの意味がある? お前にどんな弾なのかはわからねぇよ」

 

 透のユニークスキル『想像者(ソウゾウスルモノ)』は、想像上の物体を再現するスキルだ。想像するだけで、銃の細かい構造を知らずとも再現可能で、弾の種類も自由自在で威力や射程、元の世界では不可能な弾ですら、創ることが出来る万能なスキルだ。

 

『想像者』で装填動作なくリロードが可能で、弾の種類を知るのは不可能であり、効果も不明。

 

 ただ人形に護ってもらってる桐乃に勝ち目ない。透はそう確信して、さっさと片付けようと新たな弾を想像する。

 

 創る弾は毒ガスを散布する弾だ。着弾の瞬間に広範囲に広まり、相手をドロドロに溶かすことが出来る。ガス状に広がれば、護ることも不可能だ。

 

 この距離では透も巻き込まれる可能性もあったが、解毒の弾を想像して自分に撃ち込めば、なんの問題もなかった。

 

「死ね」

 

 その一言と共に放たれ、一直線に桐乃に向かう弾丸。白騎士は何も変わらずに桐乃との間に入り、弾を叩き斬る。その瞬間、猛毒の煙が二人を瞬く間に包み込む。

 

 解毒の弾を自らに撃ち込んだ透は、毒に侵されてドロドロに溶けたであろう桐乃を見るためにガスの中を進む。

 

 しかしその時、背後からの衝撃が透を襲った。

 

「(…………後ろ!?)」

 

 そのまま倒れ込む透を次々と無数の白騎士が抑え、制圧する。

 

 自分の後ろには何もないはずだった。それでも透は、桐乃が死んでも前にいる白騎士達が動く可能性を考慮して警戒していた。だというのに、何故か後ろから襲われた。

 

「…………なっ!?」

 

 透は、倒れた自分の腕を掴み抑えている存在見て驚愕する。それは兜を失い、胴体を吹き飛ばされた白騎士の上半身だった。

 

「驚きましたか?」

 

 混乱も覚めやらぬまま、不意にあり得ないはずの声が聞こえてくる。あっという間に肉体を溶かす毒を浴びて生きている生物は普通いないはずだった。

 

 ガスが晴れると、桐乃は結界のような白い膜に包まれ、無傷で座していた。近くには他とは異なる、別種の白騎士が立っている。

 

 その姿は騎士の鎧ではなく、白のローブを羽織るのっぺりとした顔を持つ真っ白の人形だった。その手には剣ではなく杖が握られ、桐乃の側で静かに佇んでいた。

 

「駒が歩兵(ポーン)だけと言った覚えもありません。

 ………………さようなら、今までありがとうございました」

 

 白魔道士の杖先から放たれた炎が、透の身体を焼き尽くす。激しい痛みに呻く透だが、炎の勢いが収まることはない。

 

 完全に燃え尽きるまで、桐乃は目を逸らさずにその姿を見届けた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 決着がついた桐乃はとても長く深い息を吐き、長年の確執が終わった事実を噛み締める。

 

 透さんは、恐怖の対象であっても特別怒りがあった訳ではない。そのせいだからだろうか、解放された達成感はあまりない。親戚を失った喪失感もない。人を殺した罪悪感もない。あるのは、身体にのしかかる酷い倦怠感。

 

 重い心を晴らす為に空を仰ぐと、灰色の分厚い雲が空を覆っていた。その冷たい景色は、余計に心が重くなりそうで桐乃は目を閉じる。

 

「楽しそうだね♪」

 

 災害が被害が残る場には相応しくない陽気で甘い声が、静かな広場に響き渡る。

 

「そう…………見えますか?」

 

 桐乃は閉じていた目を開け、驚く素振りもないまま、正面にいる少女を見据える。

 

「だって、因縁の相手を殺せたんだよ。楽しくて仕方ないだろうなぁ〜って思うじゃん♪」

 

「不思議な気分ではありますが、良い気分とは言えません。

 …………それにしても、どうしてアンネリーゼさんは、透さんとの関係を知っているんですか?」

 

 桐乃の過去を知っているのは、この世界においてレオナルドしかいない。アンネリーゼが知るはずがないのだが、現実に彼女は桐乃の過去を知っているようだった。

 

「なんでだろうね〜? もしかして、レオナルドが喋っちゃたとかかな?」

 

「あり得ません」

 

「アッハハ、そんな食い気味に即答しなくてもいいって、ただのジョークだよ」

 

 センスの欠片のないジョークに、桐乃が笑うはずもない。そんな無反応の桐乃がつまらないのか、アンネリーゼは何処か不貞腐れた顔になる。

 

「何をしに来たんですか?」

 

「なんでだと思う?」

 

 わかっている。この人は、わたしを煽っている。此方から手を出させて、大義名分を得ようとしているだけだ。

 

「わたしを殺しに来たとかでしょうか?」

 

 桐乃の解答に、アンネリーゼは腹を抱えて笑い始めた。

 

「何それ! 意味わかんない! 私そんなに桐乃ちゃんのこと、きょ「興味ない」…………」

 

「ですよね?」

 

 言葉を遮った瞬間に笑みを引っ込めるアンネリーゼに、桐乃は自分の予想が当たっていたことを確信した。

 

「可愛くないな〜。エリアスと違ってからかい甲斐がないし、わかった気になって得意気に語り始める所とかさ」

 

「図星ですか? それとも、貴方がここに来た理由をわたしが察しているからですか?」

 

 桐乃がアンネリーゼに会ったのは一度のみ。その時の桐乃は、彼女を可愛らしいとも思った。それと同時に、腹黒いのではないかと疑いもした。

 

 確証はない。一度会ったきりの第一印象で、人は判断出来ない。

 

 それでも、今回の糸を引いた一人がアンネリーゼだと、桐乃は断定した。

 最終的には直感になってしまったが、そもそも証拠なんて掴みようがないし、魔法とかスキルがある世界で、物理的な証拠など幾らでも捏造や隠蔽が出来る。

 

「まぁいいや、負けた感じして嫌だけど、そろそろ時間もないしね。

 桐乃ちゃんを殺しに来たのは正解。でも弱いものいじめって嫌いだしさ。力に溺れて襲い掛かってくれたら、遠慮なく殺れたんだけどね」

 

 パチパチと手を叩き拍手するアンネリーゼに、桐乃は内心で最悪のパターンを引き当てたこと自分の運の悪さを呪った。

 

「(資料通りであれば、相手の強さは間違いなく透さん以上。戦闘経験がまともにないわたしの勝率は、非常に低い)」

 

 桐乃は思考を必死に回転させながら、計画していたパターンに沿った策を組み上げる。

 

「じゃ、殺すね?」

 

燃ゆる獅子(レグルス)

 

 青白い巨大な光線が白騎士達ごと飲み込まんと迫り、桐乃の視界は真っ白に染まった。

 

 

 

 

『異常を感知、確認しました。

 

 個体名キリノ・マツダイラがユニークスキル『超克者(ノリコエルモノ)』の一定条件を満たした為、封印が解除されました』

 

 

『異常を感知、確認しました。

 

 個体名キリノ・マツダイラのユニークスキル『超克者(ノリコエルモノ)』が一定条件を満たした為、超克代行(オルタナティブ)を実行。

 

 ユニークスキル『超克者(ノリコエルモノ)』が、究極能力(アルティメットスキル)超克之神(オーディン)』へと進化しました』

 





レオナルドの設定暴露その14

松平 透について
幼少期から、松平の神童と呼ばれる程に賢く、次期当主として周りから期待されて育ってきた。透自身も、周りの期待に答える為に努力し続け、容姿端麗、文武両道の道を貫いてきた。

高校入学の際に、初めて松平東蔵と当主候補達と会う機会があったが、東蔵と目があった時に、彼の目が自分を含めた当主候補達になんの期待もしていないことを透だけが気づいた。

それが認められなかった透は、更に努力を続けて来たが、東蔵がついぞ透をしっかりと見ることはなく、彼は絶望した。

しかし、東蔵の当時高校生だった椿姫を見る目が期待に溢れていることに偶然気づき、歪んでしまう。

やがて破滅願望に近いものを抱き始めた透は、椿姫に執着するようになる。

椿姫が当主候補になったと知り、期待されている椿姫や自分を見ない東蔵を本格的に敵視し始め、二人に大事にされている桐乃に手を出した。

歪みに歪んだ透は、最後に桐乃と一緒に木炭を使った自殺を試みるが、死の直前に二人とも異世界に転移してしまった。



レ「私としては同情の余地もない相手だけど、桐乃にとっては何か思うところがあるみたいだね。本人が納得する結果になったのであれば、部外者がとやかく言うべきではないから、これ以上追求はしないさ」

小説の方針について少し考えました。1から3章とは違い、4章では光の帝国の掘り下げの為に長いペースでの展開が目立ちますが、その展開についての考えが知りたいです

  • 正直、遅い
  • 普通
  • 気にしていない
  • 掘り下げは欲しい
  • はよ原作入れ
  • 作者の好きにしてくれ
  • 逆に速い
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