ルミナスって話を進めやすくて便利!
というわけでユリウスのターン。一章から数百年経ち、ようやくリベンジマッチの開始です。
戦場の遥か上空で、四方八方から降り注ぐ大聖弓の雨が、ギィに絶え間なく襲い掛かる。
並大抵の魔物であれば、触れただけで消し飛ぶほどの威力の攻撃も、ギィには空を滑るようにひらりと躱し、その顔には笑みを浮かべる余裕があった。
「返すぜ」
大聖弓の雨を躱したギィが、今度は大聖弓以上の物量の核撃魔法をユリウスに向かって放つ。
それもただの核撃魔法ではない。放ったのは、
「下らん浅知恵だな」
闇金色の輝く魔力が大蛇の如く曲がりくねってユリウスを囲う魔弾は、大聖弓によって次々と撃ち落とされ、誘爆の衝撃がユリウスの肌を通り抜ける。
戦闘開始から数十分。二人は全く同じ攻防を続けていた。軌道を変えたりと工夫はされているものの、お互いの攻撃は当たる素振りすら見られなかった。
「いつまで無意味なことを続けるつもりだ?」
「前なら、これだけでもキツかったんじゃないか?」
ユリウスの言葉に、ギィは何処までも上から目線で評価した。
確かに、以前のユリウスは被弾をゼロに抑えることは困難だっただろう。だが、事実とはいえいつまでも上から批評されるのは、酷く癪に障ることだった。
「
ユリウスが手をギィの方向へと翳すと、刹那の閃光が周囲を満たす。閃光は周囲の核撃魔法を誘爆させ、ギィの肌を焼いた。
ギィは閃光がただの光でないことに驚きを覚えながらも、即座に結界を展開し、その被害を最小限に抑えた。
しかし、大聖弓の雨が結界に殺到し、結界は紙屑のように砕け散ってしまう。
その隙を、ユリウスは見逃さなかった。
「
神聖滅矢を集約した、滅却師十字状の巨大な神聖弓から5本の輝く巨大な光の矢が放たれた。
放たれた一閃が流星群の奔流のように弧を描き、光の矢のすべてがギィの右腕に直撃する。その右腕は血にまみれ、見るも無残な有様だ。だが、ギィは依然笑みを崩さない。
「もう一度聞こう。いつまで無駄なことを続けるつもりだ?」
「右腕を持ってったくらいで勝利宣言か?」
ユリウスの挑発にも、ギィは涼しい顔だ。とても右腕がボロボロの状態とは思えない。何も知らない者からすれば痩せ我慢のように見えてしまう状態も、この場の誰もギィが追い詰められているとは思っていない。
「私が言っているのは、いつまで遊びのつもりでいるのかと言う意味だ。いつまでもその様子なのであれば、この場で消えるぞ」
「そのつもりなら、何も言わずにそうすれば良いのものを。わざわざ言う辺り、そんなにオレに負けたのが悔しかったのか?」
「負けたのは否定しようのない事実だ。まだ二十にすら満たない私の視野が狭かったのも認めよう。だが、いつまでも貴様が上という認識は、断じて認められん」
かつて完敗したユリウスは、越えられなかった壁を知った。
かつて選択したユリウスは、自らの未熟を知った。
かつて夢を持ったユリウスは、世界の広さを知った。
敗北の中で生き残ったことで、今のユリウスがいる。そういう意味では、意味のある敗北だったと言えるのかもしれない。
しかし、それとこれとは話が別だ。負けた男の執念というのは、理屈ではない。
プライドなどという小さなものではなく、一種の本能なのだ。
負けたことを認めても、負けたのが仕方ないと諦めるような人間などと、断じて認めることはできない。
ユリウスは一匹の獅子ととして、目の前の竜を屠るつもりでいた。
だが、ギィは違った。まるで遊びに来たかのように撃ち合いを楽しみ、ユリウスを娯楽のように使っていた。
故に、憤慨していた。本気で殺れと、でなければ意味がないと。
その様子が伝わったのか、ニヤニヤと笑みを浮かべるギィの目に鋭さが浮かび、笑みも自然と落ち着いた。
「…………悪かった。まさか、お前がここまで本気とは思わなかった」
「謝罪など聞いていない。ここに存在するのは、プライドを賭けた格付けだけだ」
その言葉から、場は静寂に包まれる。互いが睨み合い、間合いを測りながら一挙手一投足を観察していく。
ギィの右腕が完全に再生したその時、二人は
「以前の剣とは随分と普遍的な物になったな。ギィ・クリムゾン」
ギィの持つ剣は、黒い細身の刀身を持つロングソード。それでも国家に一つもないような神話級の魔力の籠もった剣だ。
「そういうお前は、無駄に光るその剣はどうにかならないのか?」
対して、ユリウスの剣は霊子兵装で生み出した青い光の剣。以前と見た目は変わらないものの、比べ物にならないほどに、剣に内包する霊子は増大していた。
二人は高速戦闘から、鍔迫り合いで火花を散らすほどに近い距離の間合いに変化していき、状態は拮抗しつつある。
その均衡を破ったのは、ギィからだった。
剣を持つ右手とは逆の左手に鉤爪が、鍔迫り合いになった状態からユリウスの腕に命中する。咄嗟に剣を引いて掠っただけに留めたものの、異常はすぐに出た。
「ゴフッ!!」
ユリウスの口から吐血し、目と鼻から血が流れ出す。原因は明白、掠った攻撃にあった。
ギィの放った一撃"
思わぬダメージにユリウスの動きが止まり、ギィは更に仕掛ける。
急接近したギィはユリウスの首を正面から掴み、その状態でゼロ距離の核撃魔法を放とうとする。いくらユリウスと言えど、ギィの核撃魔法をゼロ距離で受ければタダでは済まない。
それに加え、ギィには一つの思惑があった。以前、重瞳のユリウスが引き起こした謎の現象。時間停止に近いような感覚を覚えたが、時間停止が効かないギィには無意味。
タネは別にある。ギィはそう確信してユリウスのあの力を引き出そうとしていた。ゼロ距離の核撃魔法では、防御も回避も間に合わないと見越して、敢えてこの選択をしたのだ。
「(さぁ、この状態からならお前は使うしかないだろ。オレにアレを見せてみろ!)」
ギィは余計な手加減など一切加えずに核撃魔法を食らわせるその時、ユリウスの目と鼻、口から流れていたはずの血が、消えていることに気づいた。
「私に触れたな?」
毒に侵されていたはずのユリウスが不敵に告げると、ギィの腕に細い血管のような物が侵入する。ミミズ腫れのような腕に驚愕していると、ソレはギィの奥深くに侵入しようと腕から肩へと蠢く。
その瞬間、ギィとユリウスを巻き込んで巨大な爆発が起こる。それは核爆発を軽く凌駕する衝撃で、下の戦場にも大きな揺れが届くほどだった。
「……腕を犠牲に核撃魔法の威力を上げたのか、スキル……いや死霊魔法の一種だな。随分とマイナーなものを使う」
濃い青の
「そういうお前は、硬すぎだな。災厄の魔幻爪や
左腕を丸々失ったギィは腕を再生させながら、ユリウスと同様に呆れていた。牽制の核撃魔法とは違い、ちゃんと攻撃として使ったというのにこれだ。常識外れの硬さに流石のギィも苦笑いするしかない。
この世界において、強者同士の戦闘は大まかに二つパターンに分かれる。必殺の一撃による短気決着か、エネルギーの削り合いによる長期戦だ。
一定以上の強者は、四肢の再生や時間停止なども当然のように行う。腕や心臓などを破壊しても致命傷とは言えず、究極の権能によるゴリ押しや、必殺の一撃でしか殺しきることは出来ない。
故に、戦闘は自然と長期戦になりやすい。互いのエネルギーをより効率的に削り合い、先にガス欠になった方が負ける。そんな攻防を数日、数週間続けながら警戒を怠らない集中力が必要だ。
しかし、ギィとユリウスの頭に長期戦の二文字はなかった。ユリウスは初めからそのつもりだったし、ユリウスの気迫に感化されたギィも、チマチマと削り合うつもりはない。
様子見はここまで、ここからが超常の闘いだった。
「一体……なんじゃ、あれは………………」
ワルプルギスにて、ギィが転移した先を映し出した魔導具の映像を眺めていたルミナスが、その戦闘の規模に思わず言葉を漏らした。
ギィが傷を負う姿など、彼女はこれまでほとんど見たことがなかった。精々、ヴェルザードとの戯れやミリムとの勝負くらいのものだ。
不本意ではあるが、ルミナス自身もあのギィ相手に勝てるかどうか怪しいと思っていた。
だが、そのギィの両腕を(片方はギィの自爆によるものとはいえ)容易く奪い、なおも無傷で立ち続ける人間がいる。
「(……あれが、本当に人間じゃと言うのか?)」
恐らくは勇者の類だと思うが、彼女の知っている勇者の二人でもそんな芸当が出来るかというと、難しいと言わざるおえない。
グランベルでは論外だろう。見込みはあるが、傷をつけられるかどうかさえ怪しい。
ではあの仮面の勇者ならどうか。最近、友として交流を深めたばかりの少女。聡明な彼女の強さは、ルミナスとて完全に測れている訳では無い。
だが、圧が違う。魔導具越しで見るだけでも感じるユリウスの圧は、仮面の勇者の彼女をも上回っているようにルミナスは感じた。
「ミザリー、ギィと張り合うあのユーハバッハとか言う人間を知っておるか?」
ルミナスは、この場で事情知っている可能性が高いミザリーに問いかける。
「あの方は、ユリウス様でございます。以前、ギィ様と戦い敗北しましたが、ギィ様はいたく気に入られたようです」
「ユリウス? ……ユーハバッハではないのか?」
ここで珍しくダグリュールが口を挟んだ。ダグリュールもユリウスに何か感じるものがあったのか、魔王達の中では無口気味な彼ですら前向きな姿勢に、ルミナスは少し違和感を覚える。
「現在は"光の帝国"の皇帝のようで、皇帝としての名を名乗ったではないかと」
ルミナスは予想が合致したことに、内心で苦い顔をする。光の帝国はルミナスが現在統治する領域としている場所と、然程遠くない位置に存在することはわかっていた。ダグリュールの領地の聖虚ダガルマニアもまた同じだ。
しかし不思議だ。ルミナスはギィから光の帝国の情報を聞いた。その状況から判断して、ユリウスが皇帝の可能性に辿り着いた。
だが、ギィですら光の帝国の情報を探ることを諦めたというのに、ダグリュールは何故光の帝国に興味を示すのか。少なくとも、光の帝国の正確な位置すら、ルミナスは知らないと言うのに。
僅かな違和感が大きくなっていくルミナスだったが、それを振り払うように、別の違和感が彼女の注意を引いた。
「(ミリムは先程から、何故黙っておる…………?)」
好奇心旺盛なミリムなら、間違いなくギィの腕を奪ったユリウスにも興味を示すはずだ。だがミリムは口をつぐみ、髪で目元を隠すように俯いている。
それでも興味あるのか、チラチラと魔導具の映像を観ていた。そんならしくない姿に、ダグリュール以上の違和感をミリムに感じていた。
「ミリムよ、貴様から観て、あの人間はどうじゃ? たかだか腕二本とはいえ、あのギィ相手に真正面からここまで渡り合える者など、そうはおらんぞ?」
「うぇ!? あ〜そう……アレ。アレなのだ…………えっと……その…………」
ルミナスが違和感の末に一つ問いかけてみると、ミリムは挙動不審に身振り手振りと繰り返し、言葉尻を小さくさせて黙ってしまう。
「アレが色々と邪魔をしてきたのよね?」
その時、不意に現れたのは、長い白髪と金色の瞳を持つ妖艶な美女の姿をしたヴェルザードだった。ミリムを後ろから包み込むように抱きしめながら、穏やかに口を開く。
「げっ…………」
突如現れたヴェルザードの姿に、ディーノが思わず顔を顰める。
始原の七天使で堕天使のディーノは、かつて星王竜ヴェルダナーヴァの腹心であり、今は亡きヴェルダナーヴァの娘であるミリムを影ながら見守っていた。
だからこそ、ユリウスの存在についてもルミナス以上に把握していて、怠惰な彼でも警戒は怠っていなかった。
だが、ここで一つ問題が浮上する。ギィとヴェルザードの存在だ。
ギィと違い、情報を得る方法がなかった彼はミリムの暴走の件に完全に出遅れてしまい、具体的な詳細までは知らずに、ギィがユリウスを見逃した理由がわからなかった。
ギィの性格からして、敢えて逃がしたことまでは察せたが、そのせいでミリムにまた被害が及び、暴走でもすれば大変な事態に発展しかねない。
故に、自身は影から見守る方針を継続してきた。
ここでヴェルザードの存在が厄介なものになった。以前からミリムに接触していたことは把握していた。だが何を企んでいるのか、誰にも聞かれないように念入りな対策までして接触していたのだ。
そんな彼女がワルプルギスに現れた。その事実だけで、ディーノの警戒心は臨界点に達していた。
「貴様がワルプルギスに顔を出すとは、随分と珍しいこともあるものじゃな」
「(ルミナスって、こういう時便利だよな…………)」
ディーノはぼんやりしているフリをしながら、ヴェルザードを警戒していると、ルミナスがディーノの聞きたかったことを代弁してくれる。
「あら、ギィがワルプルギスを放り出して遊びに行くから、代わりに来たのよ? 後は…………一つ、提案ね」
「……提案? 言っておくがヴェルザードよ。魔王ではない貴様に、本来発言権はない」
「いいじゃない、別に。ワルプルギスなんて、元々はただのお茶会だったんだから」
ルミナスとヴェルザードがバチバチと火花が散るように睨み合い、その場に緊張が走る。ディーノほどではなくとも、このタイミングで現れたヴェルザードはルミナスからすると怪しいのだ。
「とりあえず、提案するだけならいいだろう。そこらの小童でもあるまいし」
このまま睨み合っても意味がないと判断したのか、二人の間に入るようにダグリュールが仲裁する。
「貴様、どういうつもりじゃ」
「どうもこうもない。元々、光の帝国とオークディザスターの戦争を観るだけの話だったはずだ。それがギィの離脱で状況が変わった。今となっては、ワシらもどう動くか考えねばならん。ヴェルザードの提案もそういうモノだろう」
「だいたい正解よ。光の帝国の皇帝は、魔物を管理する調停者を名乗っているの。ギィは認めているけど、勝手に管理すると言われても…………やっぱり、ね?」
ヴェルザードの提案の反応は様々だ。ルミナスとディーノは警戒、ダグリュールは静かに思案。ミリムは再び沈黙し、ラミリスは何がなんだがわからずに右往左往していた。
「……止めるって言うけどさ。コレ、誰が止めんの?」
ディーノの一言で、目を離していた一同の視線が魔導具に集まる。
そこに映し出されていたのは………………
光の槍に全身を貫かれたギィと、全身に氷霜を帯びたユリウスが、空間を破壊しながら、戦闘の衝撃で新たな異空間を創り出す常識を超えた光景だった。
レオナルドの設定暴露その16
ワルプルギスでの思惑について
それぞれが思惑を重ねているワルプルギスでは、ギィとユリウスの戦いに様々な反応を示している。
[ルミナス・バレンタイン]
ギィから忠告を受け、光の帝国の皇帝についての言動も聞いていることから静観気味。作中では描写されていないものの、仮面の勇者からも基本関わらないほうがいいと忠告を受けている。
ただ、普段ワルプルギスに興味を示さないヴェルザードの提案に疑念を抱き、警戒している。
光の帝国の場所を正確に把握していないが、そう遠くないことまでは知っているので、ユリウスも警戒対象に入っていた。(ギィとの戦闘を観て更に警戒度は上昇している)
[ミリム・ナーヴァ]
ギィから誘われて一応参加したが、あまり気が乗らない。ユリウス関連はトラウマになっているので、ユリウスを見るだけでも曇る。
原作から一番乖離している少女。
[ディーノ]
怠惰。だけどヴェルダナーヴァの件で後悔していて、ミリムが曇っているので原作よりも積極的。
ヴェルザードの行動を怪しんでいるので、ギィとも協力などはしていない。
配下がいないので情報が少なく、基本的に行動が遅い。
[ダグリュール]
色々考えている人。聖虚ダガルマニアの位置関係的に光の帝国との関係を考えなくてはならない。ユリウスの戦闘力の高さを観て何かを考えているが、真意は不明。
[ラミリス]
ギィが楽しそうだからオッケー勢。ミリムが曇っているのを気にしているが、この場では慰めるのも難しいため右往左往している。
ユリウスは強くなったな〜くらいの印象。
[ヴェルザード]
嫉妬大爆発!深い思惑なんてない。ギィがここ最近で一番楽しそうにしているので、ユリウスの印象が更に悪くなった。一応強くなりすぎているという警戒もある。
ルドラとここまで対応が違うのは、ヴェルグリンドやルシアの存在が大きい。
最初はヴェルグリンドの恋人だから見逃して、ギィと仲良くなったので嫉妬したが、ルドラの妹のルシアがヴェルダナーヴァとくっついたので、素直に祝福した。
ユリウスはミリムを殺そうとし、ギィと仲良くなって(語弊アリ)更には、ヴェルダナーヴァがギィに与えた称号である調停者を名乗り始めるという、ヴェルザードの地雷原でタップダンスしながらデスボイスで歌うようなことをしている為。
レ「今回もおやすみだよ。今はオーク達の処理で忙しいんだ」
小説の方針について少し考えました。1から3章とは違い、4章では光の帝国の掘り下げの為に長いペースでの展開が目立ちますが、その展開についての考えが知りたいです
-
正直、遅い
-
普通
-
気にしていない
-
掘り下げは欲しい
-
はよ原作入れ
-
作者の好きにしてくれ
-
逆に速い