転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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次話まで続きます。


獣狩りの夜

それから半年後、エヴァレットの卒業まで後半年を切り、ホルニカの心には焦りが見え隠れするようになった。

 

「エヴァの卒業までに勝てるチャンスは後一度。もう一年近く一緒に鍛えているのに⋯⋯⋯まるで勝てる気がしない」

 

ホルニカは、自室のベットの上で毛布に包まりながら弱音を吐いていた。エヴァレットと知り合って二度のチャンスも不意にし、とうとう追い詰められている。

 

これまで意気込んで来たホルニカも、時間という制限に太刀打ちは出来ないのだ。本当であれば、こんな所で籠もるのではなく今すぐにでも出来ることをやるべきなのだが、今の彼女にそんな気持ちには到底なれないでいた。

 

最近、派閥関係のお茶会などで時間を取られてばっかりなせいか、エヴァレットとあまり会えていない。

 

ロレーヌ嬢は本格的にホルニカを派閥に組み込みたいようで、周囲にアピールを続けているのだ。慣れていても、あまり好ましいことだと昔から思えなかったホルニカとっては、ストレスの原因になっていた。

 

「⋯⋯⋯霊子起動典(レーゼンシュタルテン)

 

ホルニカが小さく呟くと手から糸状の霊子が漏れ出し、やがて書物のような形に変化していく。

 

これはエヴァレットに教えてもらった霊子の記録方法だ。魂に紐付いている滅却師の力を、糸状の霊子として形成し記録として取り出す技能。

 

これには少々コツが必要で、魂に根付いた滅却師の力を明確に自覚しなくてはならない。なんとなくでも使えるのが滅却師の力だが、その根本を理解しているのとそうでないのでは天と地程の差がいるとエヴァレットは言っていた。

 

本の形をしているが文字はなく、糸状の霊子がびっしりと埋まっている。これに触れれば、記憶から今までの霊子の使い方を読み取ることが出来るのだ。

 

滅却師の力の本質は霊子の操作。突き詰めれば、霊子に関することであれば何でも出来る異能。ここまでいくともはや別物の力にすら思えるが、まぁ実際に可能なら良いだろう。

 

小さな疑問を頭の中から消し去り、糸状の霊子から記録を読み取っていく。これまで記録してあったエヴァレットとの模擬戦を記憶が擦れ切れるまで振り返ってきたが、残念ながらこれといった弱点は見当たらない。

 

エヴァレットの霊子兵装には、どれも隙がなさすぎる。二刀一対の短剣と弓を状況によって使いこなすオールラウンダータイプ。

しかも空中に剣を複数形成して射出してくるのだ。中距離では絶対に勝てないとホルニカは早々に判断していた。

 

だがここでホルニカは大きな壁に突き当たった。それは滅却師の性質の問題である。滅却師の力は弓が最もスタンダードであり、剣は霊子兵装が得意である者しか使えない。

 

ホルニカは短剣一本を形成するのが精いっぱいであり、大弓での狙撃を最も得意としていた。そもそもの話、一対一での戦闘でエヴァレットに勝てる勝算は限りなく低いのだ。

 

それに戦闘試験の評価基準も問題だ。トロイエのメイドに求められるのは護衛としての力。ホルニカが幾ら数十キロ先の対象を狙撃しようとも、何の評価にもならない。

 

座学やメイド技能などはエヴァレットとホルニカは常に満点のため、争う意味が薄い。勝利には、どうしても戦闘で出し抜く必要があった。

 

「⋯⋯閉じろ(シュリーセン)

 

結局、明確な答えを出せぬまま記録を閉じたホルニカは、暗い部屋で毛布に包まる。目を閉じれど眠気は来ず、眠りについたのはそこから数時間後だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

期末試験当日。エヴァレットと争う機会が最後となる試験なのだが、ホルニカのコンディションは良いとは言えない。

対策はあるのだが、気持ちばかりが先走って体が追いついていないようなチグハグな感覚が、ホルニカの身体を支配していた。

 

「皆様良く集まりました。今回の試験ですが、急遽変更となり一対一の戦闘試験から、より実戦に近い護衛試験となります」

 

戦闘試験を担当する教員から告げられたいきなりの試験内容の変更に、周囲に動揺が走る。

 

何時も試験から実戦的な試験になるのはまだ理解できる。しかし当日の変更はおかしい。実戦に近い試験ならば、いつもの戦闘試験より複雑になるだろう。

そんな試験を当日に変更が決まったとは思えない。この変更は、元から決まっていたことが簡単に予想できた。

 

「では試験の内容を説明します。一度しか言わないので、しっかり頭に叩き込むように。

一つ。この試験は護衛試験です。一人につき護衛対象を一人用意しました。

二つ。ここから北東に位置する森まで移動し、三日後の昼まで護衛対象を守ること。森には幾つかの種類の魔物や罠などを用意しています。護衛対象に重傷に相当する怪我を負わせる事態になった場合、護衛失敗と見做し即座にそのメイドは不合格として失格です。

三つ。食料などは最低限用意していますが、護衛対象はメイドに一切手を貸しません。食事や護衛もすべて貴方たちが行いなさい。以上」

 

ルールそのものは、思ったよりもシンプルだった。要は護衛から食料調達まで一人でこなし、魔物や罠などから三日間護衛対象を守ればいい。

 

これまで学んだことを組み合わせた複合試験と言ったところだろうか?サバイバル技能は学びはするが、座学やメイド技能、戦闘技能ほど重視されていない。

実戦の護衛やサバイバルが初めてものすらいる中で、完璧にこなせる者は極少数だろう。

 

ホルニカが思考を巡らせていると、スッと手を挙げる者が一名。その者に気づいた教員が視線を合わせる。

 

「なんですか、ロレーヌ嬢?」

 

「いくつか質問があります。よろしいでしょうか?」

 

「許可します」

 

「では失礼して、通常の試験でしたら上位三名に白花が与えられますが、この試験ではどうやって上位三名を決めるのでしょうか?」

 

そういえば、具体的な審査基準の説明がない。護衛を無事に完了された者が三人以上いた場合、どうやって優劣を決めるのだろうか?

 

「これまで学んできたことを生かして護衛をすれば、白花は与えられます。一つ言うとすれば、先程言った三つがこの試験のすべてです」

 

「成る程、良くわかりましたわ。ありがとうございます」

 

教員の答えに納得がいったのか、引き下がるロレーヌ嬢。新たな試験にほとんどの者が動揺しながら、試験は始まりの時を迎えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一日目。指定された森の中にいた護衛対象の女性と共に、ホルニカは比較的歩きやすい場所を歩いていた。

 

「足元が不安定なので、ゆっくり歩いてください」

 

「ありがとうございます。森の中を二人で歩いたことなくて⋯⋯⋯すみません」

 

「謝ることはありません。主人を守ることがメイドの努めですから」

 

「はぁ~、メイドってすごいんですね」

 

護衛対象の女性は、どこか気の抜けた大人の女性だった。橙色の髪を後ろで三つ編みに纏め、森に入るのには適していない普通の服を着た女性。流石にメイド全員分の護衛対象を関係者で埋めることが出来なかったのか、彼女はお金で雇われた人のようだった。

 

「高い給料だからって、まさかこんなことになるなんて⋯⋯⋯」

 

「ご安心ください。ご主人様のことは、このホルニカがしっかりお守り致します」

 

「ご主人様って言われると、ちょっと恥ずかしいですけど。お願いします」

 

そう言って穏やかに微笑む女性はドーラさんと言うらしく、口外出来ない代わりにかなり高い給料に釣られたようで、まさかの三日間のサバイバルだと伝えた時は顔を青ざめさせていた。

 

恐らく、これが試験だということも伝えられていないのだろう。ならば、下手に不安を煽るようなことは言えない。出来れば緊急時に指示に従ってもらうように危険性を伝えたかったが、学園側もわかってて一般人を護衛対象にしたのかもしれない。

 

しばらく森を進み少々開けた場所に出たホルニカは、日が暮れる前に夜を明ける準備を始めることにする。

 

「ドーラ様、今日はここで休みましょう。食事などの準備はお任せください」

 

「じゃあ、お任せしますね」

 

そう言って木に寄りかかるドーラさんを横目に、ホルニカは野宿の準備を進める。初期装備として用意された大きなリュックサックには、水が入った水袋二つと軍用の保存食三日分、簡易テントと寝袋のみだ。

 

サバイバル技能はホルニカが思っていたよりも問われない試験らしい。サバイバル技能が前提であれば、もっと厳しい装備になっていてもおかしくないのだが、求められているのは護衛能力なのだろう。

 

「(懸念点があるとすれば、やっぱりこれだよね⋯⋯⋯⋯)」

 

ホルニカはリュックサックの中にある長めの筒を取り出す。両手で持つには丁度いいサイズの黒い筒には、細い紐が付いている。中からする火薬の匂いから花火の類だと思われるが、ホルニカはこんな小さな花火など見たことがなかった。

 

祭りに使われる花火はもっと大きな筒だったし、そもそも設置して使うタイプだ。この感じからして、手で持って紐を引けば良いのだろうが用途が不明だ。

 

「(せめて使用用途くらい教えて欲しい⋯⋯⋯)」

 

初期装備はドーラさんと一緒の場所にあったので、残念ながら教員に聞くことも出来ない。用途不明な道具を使うのはリスクがあるので、この試験での使用を諦めたホルニカはさっさと食事の準備を始めた。

 

道中で集めた乾いた枝を一箇所に纏め、はいでおいた繊維質の木の皮を着火剤として利用し魔法で火を出すホルニカ。

実は、ホルニカは簡単な魔法が使える。光の帝国では魔法を使う人間は少ないが、一応はひっそりとしたコミュニティがあったりはしている。

 

そんなホルニカの実家であるレドナス家には、御抱えの魔術師がいた。護衛としてではなく、魔法的な価値がある物の目利きとして雇っている魔術師であり、簡単な魔法くらいしか使えないような人だった。

 

それでも、普段は綺麗な水や温かい風などを出す魔法を使ってメイドたちからは引っ張りダコだったことを良く覚えている。幼いホルニカは可愛がってもらったし、お父様に内緒で魔法を教えてくれた優しい人でもある。

 

そんな過去から簡単な魔法が使えるホルニカは、サバイバルで困ることはない。火や水には困らず、土で簡単な土台を用意したり、風で濡れたものを簡単に乾かせる。

 

一家に一人の魔術師なんて格言があるくらいには重要視されているので、光の帝国でも魔術師が完全に廃れない要因でもあった。

 

 

閑話休題

 

ホルニカが焚き火を用意すると、軍用の保存食を二つリュックサックから取り出す。用意されていた軍用の保存食は、すべて火が必須なタイプの物だ。

しかし、火さえあれば容器や調理道具いらずであり、そのまま火に焚べれば良いと言う優れものだ。

 

大きな弁当箱のような物を火に焚べ完成を待つホルニカは、食糧調達までしなくて良いことに若干の安堵を覚えながら、簡易テントの準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

簡易テントでドーラが眠りについたことを確認したホルニカは、周囲の探索に向かう準備を始めた。焚き火用に余分に作っておいた紐を周囲の囲むように木に括り付ける。間には保存食の空箱を噛ませその下には空箱の蓋を置いた。

 

保存食の箱は軽いが金属製のため、紐に引っ掛かった場合空箱が落下し蓋に当たることで甲高い音が鳴る仕組みだ。

魔物であればその音に警戒を示すし、こんな森の中で金属がぶつかるような甲高い音はほとんどないため、ホルニカも警戒がしやすい。

 

周囲の地形は既に把握済みだが、ホルニカはもう少し森の全体を把握しておきたかったのだ。

 

手頃な木に登り、周囲を警戒しながら木の先端で屈む。曇り空のせいで月明かりはなく、森全体が暗闇に包まれていた。

 

「(この森がかなり広いことはわかっていたけど、問題はどのくらいバラけて配置されているか)」

 

ホルニカは教員に指定された座標に一直線に向かうように指示されており、他の生徒たちも同様だろうと予想している。森は全体的に平坦だが、木が密集している。開けた場所は少なく、見える範囲に川も見当たらない。

 

試験に参加している生徒は数百名。生徒一人につき護衛対象が一人ならそれなりの人間が森にいることになるが、その気配は未だない。

 

魔物の縄張りであろう場所は道中で確認出来たし、罠も回避してきた。順調に進んでいるだけに、この静けさが嵐の前触れにも思えるのだ。

 

 

ッカン

 

 

ホルニカの耳に金属が軽くぶつかる音が届く。その音に反応し、すぐさまに木から飛び降りたホルニカは、木の間を縫うように駆け抜ける。

 

ドーラの眠っている場所に近づくと、ホルニカは開けた場所にある簡易テントの周囲を囲うように夜闇の草木に紛れる四足歩行の獣を確認した。

 

ホルニカはすぐに大弓ではなく、短弓を形成し神聖滅矢(ハイリップファイル)を放つ。見事胴体に命中した矢に悶える獣に接近し頭に短剣を差し込むと、他の獣たちが獲物であるドーラではなくホルニカに警戒の意識を向けた。

 

「(動揺する様子がない?)」

 

ホルニカが仕留めたのは、狼型の魔物だ。群れで獲物を狩る習性を持っていて、社会性が強い種類の魔物でもある。社会性がある程度ある魔物なら、仲間が死ねば多少の反応があって然るべきだ。

 

だが、狼型の魔物は動揺するどころか強い警戒をホルニカに向けている。これは統率する個体が優秀であることを示していて、さっさと逃げ出して欲しかったホルニカにとってはあまりよろしいことではない。

 

「(初日から血をばら撒いて跡を残すようなことはしたくなかったんだけど⋯⋯⋯⋯)」

 

焚き火の跡は土で隠蔽出来るし、足跡にも辿られないようにフェイクも混ぜたのである程度の誤魔化しは効くが、ここで群れを壊滅させるとなれば隠蔽を諦めるざる負えない。

 

血の匂いというのはどれだけ洗い流しても、生物である以上は敏感に反応する。魔物の群れは出来るだけ避けたかったが、運がないと割り切るしかなかった。

 

「(仕方ない。出来るだけ脳天を撃ち抜いて終わらせよう)」

 

すぐに今後のことから、ホルニカを囲むように動き始めた狼型の魔物の対象へと意識を変える。ボス個体を始末したいが、それらしい個体は今のところ見当たらない。

 

ひとまず後ろに回り込んだ二体の狼型の魔物の脳天を神聖滅矢で撃ち抜き、囲まれないように後ろへとバックステップで距離を取る。

既に警戒されているホルニカを無視して、獲物であるドーラさんの元へと行く可能性は警戒心の高い獣がやるとは思えないが、念の為いつでも戻れる距離を取り続ける。

 

闇夜の中で草木に紛れようとも、ホルニカには関係ない。静寂な森の中で激しく動く獣の動きなど容易に捉えられた。両サイドからホルニカを追いかけていた魔物の脳天をさらに撃ち抜くと、魔物の動きが止まった。

 

「(流石に同じ殺り方は警戒されるか⋯⋯⋯)」

 

否、違う。警戒心が別の方向へと向けられたことにホルニカは気づく。魔物はジッとホルニカから正面の方向を見据え、何処か怯えているようにも見えた。

 

ガサガサと存在を誇示するように草木を掻き分けこちらに近づいてくるナニカに、ホルニカも同じように警戒心を上げた。

 

「今夜は⋯⋯⋯月が綺麗だな」

 

聞き覚えのある声と共に雲の隙間から差し込まれる月明かりが、その者の姿を露わにする。狼型の魔物の首を片手に現れたのは、他の生徒たちとは違う狩人のようにも見える格好をしたエヴァレットだった。

 

 




[複合護衛試験]
急遽決まったとされる護衛試験。試験に合格すれば白花がもらえるようになっていて、魔物や罠のある森で行われる。⚠️狩人に注意

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