赤ラインを低空飛行中の作者です。投稿するたびにオレンジになるんじゃ無いかと心臓をバクバクさせてます。
ひとまず、ようやくユリウスとリムルが同じ空間に登場します。
「やっぱやって良かったな開国祭」
「なんだリムルよ、まだ始まってもおらんだろう。王になったのであれば胸を張れ! 胸を!」
ガゼルがそう発破をかけてくれるが、もう酔ってないよな? 心なしか顔が赤くなっている気がする。
何かと兄弟子であることを強調してくるガゼルには苦笑いで対応してきたが、素直に祝福してくれたし、もう少し敬うべきかもな。
「た、大変です!!」
ガゼルと酒を煽っていると、一人の兵士が慌てた様子で会場に駆け込んできた。どうやら、問題が発生してしまったようである。
魔国連邦の迎賓館の周辺には、当然だが警備の者が多く配置されている。各国から来訪した要人達もいるので、大広間の外は人で溢れている状況だ。
そんな中で問題があったとすれば、かなり厄介な事態になっている可能性が高い。
「どうした、何かあったのか?」
俺は慌てる兵士を落ち着かせるべく、ゆっくりと質問する。ラファエルさんが特に何も反応していないことから、緊急事態ではないだろうが、確認は必要だ。
だがその兵士が答えるより先に、各国の護衛達までもが大慌てで部屋に駆け込んできた。
本当に何があったんだ? まるでスクランブル交差点でアイドルを見掛けたファンみたいな慌て具合だ。ちょっと例えが古いかな、これ。
《解。マスターの記憶におけるアイドルのイメージは「そういう解析は要らないから!!」⋯⋯⋯⋯⋯了》
まったく、ラファエルになってから本当に自我でも持っているんじゃないかと疑ってしまう。いや、今はそれどころじゃない。
結局、なんでこんなに慌ててるんだ? ミリム達は遅れると連絡が来たし、ミリムが間違ってオーラを垂れながしながら来たとかか?
それならとっくに気づいてるだろうし、フレイさんがそれを許すとは思えない。
とすると、一体何が⋯⋯⋯⋯。
「大型の飛行物体が、町の外に飛来しました!!」
息切れを落ち着かせた兵士が、会場に響き渡る声で俺にそう報告する。それに続くように、各国の護衛達もそれぞれの主に報告を始める。
「ほ、報告します! ま、魔導王朝サリオンの守護竜王が、その姿を現しましたぁ!!」
「い、一大事です! え、エルメシア・エル・リュ・サリオン陛下その人が、この地に降り立ちまして御座います!!」
「今、エルメシア陛下御一考が、この場へと歩き出されましたぁぁぁぁ!!」
続く続く報告ラッシュに、俺も何事かと驚いてしまう。一瞬焦ったが、サリオンの皇帝が遅れて到着しただけのようである。
「あぁ、びっくりした。何事かと思ったよ」
大したことない話に思わず安堵すると、隣に座るガゼルが呆れたような顔で大きな溜め息を吐く。
「相変わらず、能天気で世間知らずなことよ。あの天帝エルメシアが国を出たとなると、この騒ぎも当然よ。
この俺に対してさえも、各国の連中は顔色を窺っておるようだったが、あの天帝が相手となると荷が重すぎる。
この場に居らぬ者共も、今頃大慌てで本国に向けて使いを飛ばしているだろうよ」
「どういう意味だよ?」
俺が詳しい説明を求めると、ガゼルは待ってましたとばかりに不敵に笑みを浮かべながら説明してくれる。
このオッサン、何んだかんだ言って、俺に自分の知識をひけらかしたいだけに見える。
ガゼル曰く、魔導王朝サリオンは二千年は続く大国で、それこそ武装国家ドワルゴンに並ぶ程の国力を誇り、西方諸国評議会にも参加していない完全なる独立国家。
そして、王朝の名が示す通り、十三の王家を束ねる連合国家でもある。
「魔導王朝サリオンは、皇帝エルメシアが絶大の権力を持っておる。神の末裔であると称し、自らを天帝と定めておるのだ。
その真贋までは俺も知らんが、エルメシアという
つまり、あの大妖はサリオンの歴史よりも長命なのだ」
同じどころの話ではなかった。千年の歴史を持つ武装国家ドワルゴンの倍の歴史を誇る超大国だ。二千年前となると、日本なら弥生時代。まだ稲作をやっていた時代だ。
この世界の歴史書は、きっと前世よりも遥かに分厚くなるだろう。
「だからな、リムルよ。あのエルメシアには、この俺ですら頭が上がらんのだ。ましてや、老い先短い人間達であれば会おうと思っても叶うまいよ」
苦々しげなガゼルを見るに、皇帝エルメシアという人物は、相当厄介な人物なようだ。
「あれだな。招待状には、ちゃんと名前を書くべきだったな」
「⋯⋯⋯⋯そういう問題ではないのだがな」
ガゼルにはジト目で睨まれたが、来てしまった以上、今更追い返すことは出来ない。精一杯もてなす他ないだろう。
そんな会話を続けていると、大広間の入口がざわつき始めた。
「どうやら、到着したみたいだな」
「油断するなよリムル。相手は海千山千の化け物だと思え」
ガゼルが念を押すように忠告してくるくらいだ。相手はよっぽどなのだろうと、俺は覚悟を決める。
会場は既に大騒ぎだ。普段は絶対に会えない、それどころかその姿を見せたのは数十年振りだという、超大国の皇帝が姿を現したのだから、彼らが騒ぐのも当然だろう。
天帝 エルメシア・エル・リュサリオン。自らをそう自称するその人物は、堂々とした歩みで会場に姿を現した。
それはまるで美の化身のように美しい。新雪のように真っ白な肌に、輝くようなサラサラで長い銀髪。先端の尖った長耳と、すべてを見透かすように綺麗な翡翠の瞳。
美しい天帝に見惚れそうになるが、それよりも警戒すべきは天帝を守る守護者達だな。
一人一人から凄まじい力を感じる。礼服を着ているが、それも魔法武具みたいだし。多分だが、その品質は伝説級だ。
ヒナタの持つ月光の細剣と同等の力を、彼らの衣服から感じるのだ。当然ながら、その実力はアルノー達聖騎士に匹敵するだろう。
いや、武装の質を考えるなら、天帝の護衛達の方が上かもしれない。
そして一際目につく黒い鎧姿の護衛に目がいく。鎧というにはかなり細身で、ゴツめのパワードスーツのようにも見える。他の護衛とはかなり違う装いで、血のように赤黒いマントと黒い鎧は、戦場にいそうな格好だ。
この場の各国の護衛は、礼服などがマナーではある。もちろん鎧姿でも魔国連邦としては問題はないのだが、その姿は非常に悪目立ちするだろう。
サリオン側もそれをわかっていると思うのだが、それだけ護衛に力を入れているということなのだろうか?
そんなことを考えていると、守護者達が前に出るのを黒騎士が制して、天帝が俺の前に立った。
「招待、ありがたく頂戴した。朕は嬉しく思う」
涼やかに透き通る声だ。この場にいるお偉いさんは、それだけでうっとりと夢心地になっているようだ。まるで魅了系の魔法を使ったのかと誤解しそうだが、これは魔法ではない。
「こちらこそ、お会いできて光栄です」
正面から向き合うように返礼すると、エルメシアの瞳が俺を映す。
《告。『精神干渉』を感知──ー妨害しました。
これは攻撃ではなく、自然に漏れ出る『英雄覇気』による影響でしょう》
天帝から発せられる声から滲み出る英雄覇気が、精神にまで影響を及ぼしているだけだ。これが無意識なものだと言うのが驚きだ。
「それでは、ささやかながら食事も用意しておりますので、今夜の一時を楽しんで下されば幸いに思います」
「うむ。リムル殿の心配り、朕は心地良く感じておる。明日からの祭りとやらも期待しておる故、せいぜい朕を楽しませてたもれ。
それと──ー」
悠然と笑みを浮かべながらそこまで言って、エルメシアは俺に顔を近づけてきた。そして、耳元で俺にしか聞こえない声で──ー
「今日でなくていいので、時間を作って欲しいわ。堅苦しくない場で、本音で相談したいことがあるのよ」
「了解。日程が決まり次第連絡します」
エルメシアは俺の返答に満足げに頷くと、守護者の輪の中に戻る。
ガゼルよりも遥かに高位の英雄覇気に、伝説級の装備をした護衛達、絶対に敵対したくない国家ナンバーワン入り間違いなしだな。
できるだけ敵対しないようにしよう。そう心の内で決めると、エルメシアと誼を通じようと手ぐすね引く者達に愛想笑いを振り撒きつつ、畳の間の席へと向かって行くのであった。
畳の間に上がろうとするエルメシアの手を取りながらリードする黒騎士姿のユリウスは、護衛というより従者のようだ。
そんなユリウスの内心はと言うと──ー
「(⋯⋯⋯⋯失敗だったかもな)」
──ー絶賛後悔中であった。
それもそのはず、合法的に開国祭に参加するには、一般人としてだと大した情報は得られないとユリウスは思っている。
だからこうして、貸しまで作ってエルメシアの護衛になったのだが、ユリウスの思っていた以上に面倒な事態になっていた。
エルメシアを護衛しやすい奥側の席に誘導し、ユリウスは斜め後ろに立つ。エラルドは隣に座ったが、他の護衛はユリウスが手で合図すると同時に、エルメシアの視界の邪魔にならない範囲で護衛している。
そんな時に、エルメシアがユリウスのマントを摘みながら大広間の中央を指差す。
「(とってきなさい)」
言葉にせずとも、ニッコリと笑みを浮かべるエルメシアからの強い意思を感じ取ってしまう。
「(コイツ⋯⋯⋯俺が護衛になったからやりたい放題するつもりか⋯⋯⋯⋯)」
ユリウスの読み通り、エルメシアは護衛という立場を利用して、普段はできない無茶振りをしまくるつもりだったのだ。
「(こんな機会を無駄にするわけないじゃない。貸しまで作れて一石二鳥ね)」
ユリウスに命令できるのがそんなに嬉しいのか、天帝としての態度は崩れていないのに、とても嬉しげな様子だ。
この場で反論や文句を言えるはずもなく、ユリウスは大人しく食事を取りに行く。かなりの種類のある物から選ぶのはセンスが求められるが、ひとまず軽めの物を数種類持っていくことにする。
後は、希望の寿司とデフォルメされたスライムのアイスが乗ったデザートを持って畳の席へと戻ろうとすると、入り口が騒がしくなる。
エルメシアが来た時も騒がしかったが、更にざわついている。接近する妖力から誰が来ているのかを悟ったユリウスは、さっさと戻ることにする。
「随分と騒がしいわね。なんか私が前座みたいで嫌ね」
一見エラルドに話しかけているようにも見えるが、実際はユリウスに話しかけている。エラルドも理解しているのか、苦笑いだ。
『当たり前のように話しかけるな』
『いいじゃない。便利な魔法道具もあるんだから、普通に話せば良いのに』
『必要でもなければ、護衛中に会話はしない』
エルメシアには、事前にスキルや魔法を介さずに会話ができる魔法道具を渡されている。
指輪型にまで小型化されているそれは、微弱な魔素の反応を用いて思念を送り合うことができる。欠点は有効距離が非常に短く、10メートル程しか思念が送れないことと、指輪型までに小型にするにはまだまだ課題が多いことだ。
二人が話している間に、大広間の入り口には数名の男女が姿を現した。その誰もが一般人の妖力ではなく、特A級の魔物以上の集団だ。
その先頭にいるのは、まだ幼い少女のようにしか見えないプラチナピンクをツインテールにした最古の魔王の一人、ミリム・ナーヴァ。
他にも、元十大魔王のカリオンやフレイとその従者達が勢揃いだ。
『まさか、元とは言っても3人の魔王が一つの勢力に纏まるなんて、西側諸国はさぞ驚いたでしょうね』
『だろうな。西側諸国が魔王の情報を探る方法は非常に限られてる。魔王クレイマンが死んだことや、魔王カリオンと魔王フレイが魔王であることをやめた理由についても、何も知らない者の方が多いだろうな』
知らないからこそ、警戒するのが当然だ。実際、ミリム達が現れてから緊張感が一気に増している。元々魔王の国の開国祭とは言っても、リムル・テンペストの魔王としての行いのほとんどは知られていない。
大多数の者達は、リムル・テンペストがヴェルドラの暴風を鎮めたこと、ヒナタ・サカグチと引き分けたことだけだ。
魔王とは言っても新参で友好的、強欲な者であれば良いように利用しようとしてもおかしくなかった。
『あら、頭を下げたわ。エレンちゃんの言ってた通りの人物像ね』
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
リムルがフレイに頭を下げている姿を見て、周りが少々ざわついているのに気付いたエルメシアが冷静に観察していると、ユリウスはあわあわと慌てているミリムを見ていた。
『不満そうね。やっぱりやめときましょうか?』
『気持ちだけ受け取っておく。別に、俺はミリム・ナーヴァには何も思っていない。既に過去のことだ』
そう断言するユリウスだが、長い付き合いのエルメシアから見れば、その声色にどこか思うことがあると白状しているようなものだった。
しかし、エルメシアは追及しなかった。自身に関係が薄いこともあるが、あまり過去を穿り出すような悪趣味な真似をしたくなかったのだ。
それからしばらく、二人の間に無言の時間が続き、エラルドが気まずい気持ちを押し殺した辺りでエルメシアが動いた。
「ちょっとユーリ、こっち」
小さな声で手招きするエルメシアに従いユリウスが屈むと、初めて使うであろう箸を器用に使い、寿司をユリウスへと差し出したのである。
『は?』
「食べなさい」
エルメシアの顔は笑顔だが、「食え」という威圧感が全身から溢れ出ている。こんな場所では問題になるという口実に断ろうするユリウスだが、それを先読みしたように先手が打たれる。
「目立ちはしないわぁ、だって今はあっちのテーブルに皆注目してるみたいだもの」
ユリウスの知らぬ間に、ミリムの座るテーブルで配下であろう男が、顔を真っ赤にさせて怒っているようだった。食の何やらと喚いているが、まったく意味がわからなかった。
「(いや、そんなことはどうでもいい)」
目の前の寿司をどう対処するかが、ユリウスとっては大きな問題だった。実はユリウス。寿司を取りに行く際に、わさびの説明を鬼人から聞いていた。
元々知識としては寿司やわさびも知っているが、実物を見るのは初めてだ。ユリウスはそんな知識を利用して、好き勝手しようとしているエルメシアにちょっとした悪戯を仕掛けただけだ。
悪戯と言っても、寿司をサビ有りにしただけの可愛いもの。中央に目立つように置かれているのだ。敬遠していては天帝の名に傷がつくと、尤もらしい言い訳を重ねて寿司を持ってきていた。
冷やした米に酢を混ぜて生魚を置いた食べ物としれば、初見なら嫌がる人間の方がきっと多い。
生魚はカルパッチョとして食べる場合はあるが、生魚の流通が難しいこの世界に文化として根付くのは、非常に限られている。
エルメシアとユリウスも生魚を食べたことはあっても、寿司を食べるのは初めてだ。両者の考えは奇しくも一致し、相手に食べさせる方向になっていた。
「俺は護衛だか⋯⋯⋯⋯「いいから食べなさいっ!」⋯⋯⋯⋯むぐっっっ!!!」
なんとか断ろうとしたユリウスの口に、エルメシアが無理矢理寿司を突っ込んだ。
無理矢理寿司を口に入れられたユリウスは、その生魚の匂いと酢の匂いに舌が驚き、声にならない声を小さく挙げてしまう。
ユリウスが以前食べた生魚のカルパッチョは、淡白な白身と野菜をオリーブオイル・塩・ハーブ・レモン汁などを和えたドレッシングに近いソースを使っていた。
しかし、寿司は白身より血の味が強い赤身に酢・わさび・醤油といった非常にシンプルな食べ物だ。慣れ親しんだ日本人ならとても美味しい味だが、一度食べたことない人間にとって、それは赤身独特の匂いと酢飯が絡んだ刺激物に等しかった。
吐き出さないようにプルプルと小さく震えるユリウスに、その様子を見てお腹を抱えて必死に笑いを堪えるエルメシア、その二人を見て呆れ果てるエラルドがいた。
ユリウスの開国祭潜入は、初めて食べた寿司を必死呑み込むことから始まった。
[ユリウスの黒騎士姿]
レオナルド作の黒騎士装備。サリオンの魔導操騎と酷似したようなデザインをしているが、性能は完全にステルスに寄っている。
魔素や霊子などを抑えるためだけの鎧であり、潜入の一躍を担っている。一応伝説級であるが、戦闘向きではない。
念のため兜を付けたまま飲食出来る機能がついているが、却ってユリウスを苦しめていることを、レオナルドは知らない。
見た目のモデルは、FGOのオデュッセウスの鎧を黒くした感じ。
[ユリウス、初めての寿司]
知識でしか知らないユリウスにとって初めての寿司は、慣れ親しんだ味とはかなり違ったため、舌が拒絶した。
外国人も似たような反応をする人がいるらしく、特に魚卵やウニは苦手な人が多いらしいですね。
この作品の見所は何ですか?
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