転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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本日二話目。

エルメシアのテーマは【唯一無二の関係】です。


エルメシア・エル・リュ・サリオン

 エルメシア・エル・リュ・サリオンにとって初めての友人であり、母のシルビアと喧嘩して家出した際に冒険者として生活していた時に偶然出会った男の子、それがユリウス・ベルツことユーリだ。

 

 そんな偶然の出会いから、なんやかんやで二人で行動することになり、今考えると怪しすぎる依頼を受けて超魔導大国までの道のりを過ごした日々は、狭い世界で生きてきた私にとってとても新鮮で楽しいものだった。

 

 旅の途中で寄り道がしたい私とさっさと超魔導大国の跡地に行きたいユーリで言い争うこともあった。

 当時は今よりも奔放な私と予定通りに進めたいユーリとの相性は、御世辞にも良いとは言えなかったかもしれない。

 

 言い争いをした次の日はしばらく無視したこともあったけど、今では良い思い出だと思っている。そんな楽しい思い出の中にも苦い思い出だってある。

 

 超魔導大国の跡地にあった枯れた神樹に地下迷宮があったのだ。巨大な樹の幹の中に入ったように感じる地下迷宮は、想像よりずっと広大で迷いに迷った挙句何とか最深部と思われる場所に辿り着いた。

 

 ハイエルフの都として栄えた超魔導大国とは思えない精巧な建築様式の神殿は、そこが遥か昔の遺物であることが私にはすぐにわかった。

 

 ママなら無機質に広がる神殿が何なのかわかったかもしれないけど、当時15歳の私にわかるはずもなく、目の前の光景を忘れないように目に焼き付けることくらいしか出来なかった。

 

 最初に違和感に気づいたのはユーリだった。部屋の一番奥にある巨大な扉の脇にある二体の石像にヒビが入り、二体の門番とも言える魔人を目覚めさせてしまった。

 

 侵入者を拒む為の防衛機能だと理解するのがあまりにも遅すぎた。部屋に入る前から想定するべきことを、道中で魔物に一切出くわさなかったからと油断していた。

 

 魔人との戦闘は幸い一対一へと持ち込んだことで拮抗していたけれど、途中で二対二となって戦況が傾き、私の大技で決めることが出来た⋯⋯⋯⋯⋯はずだった。

 

 原初の魔人とかいうのが現れた時、その妖力に思わず逃走を考えた。でも、ユーリにその様子はなくより警戒を強めて戦闘態勢をとっていた。

 

 そこで自分とユーリの差に気づかされた⋯⋯私は足手まといなんだって。そこからはユーリと原初の魔人の戦闘を眺めることしか出来なかった。

 

 あまつさえ、片手間に殺されかけた挙句助けられる醜態を晒した。ママには何度も負けたことはあっても、ここまで何も出来ないのは初めてかもしれない。

 

 そんな悔しさから涙が出そうになったが、ユリウスの様子を見て一瞬で引っ込んだ。ユーリが私を抱えて心配そうに見ていたのだ。

 

 最低限の警戒を私に対してもしていたのに、私のように色々と隠しているのに、心配されてしまった。不甲斐なさと悔しさで心の中が埋め尽くされ、同時に怒りが湧いた。

 

 隠し事があったとはいえ、ある程度対等な関係を築くことが出来ていると思っていた。それが悔しくて感情的になってしまった気がする。

 だからこそ、ユーリに喝を入れた。足手まといにならないために、最悪ユーリが脱出出来ればそれで良かった。

 

 その途中で気絶してしまい、次に目を覚ましたのはベッドの上だった。

 

 ユーリに誘われて見た星空は綺麗だったし、心の内に秘めていたことを共有出来たのは、お互いに警戒していて微妙だった距離感がなくなった気がした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

数千年前 道中

 

 

 超魔導大国の地下迷宮を攻略後、光の帝国を後にしたユリウスとエルメシアはカルテン王国に戻るまでの道中、すっかり暗くなった夜闇で休息をとっていた。

 

「ねぇ⋯⋯⋯⋯⋯」

 

「⋯⋯⋯⋯なんだ」

 

 光の帝国で夢を語り合ったまでは良かったが、その場の気持ちと勢いで話してしまったことで気まずい空気のまま旅を続けていた。

 

「ユーリの夢って、すごく無謀よね。多分、ほとんどの誰かには理解されない理想よ? なのに、何でそんなに頑張れるの?」

 

 民衆は今の生活を保つのに必死だ。種の存続なんて想像すらしない。自分たちが絶滅しないと、誰もが無意識に考える。

 

「俺の夢の根本に、他者の考えが影響しているのは確かだ。

 それでも、この夢を抱いたのは俺自身だ。誰かが否定しようとも俺は変わらない。つまりはエゴだよ」

 

「⋯⋯⋯エゴね。わかりやすいわ」

 

 焚き火を眺めながら膝を抱えるエルメシア。ここまで真っすぐ自分のエゴを貫けるユリウスを羨ましく感じてしまう。今の自分には、そこまで真っ直ぐでいられる気がしなかった。

 

「怖くないの? 理解されないことも、否定されることも、きっと辛いわ」

 

「たとえ世界であろうとも、護るより壊す方が簡単だ。俺が護れる相手は限られてる。夢を叶えるために世界を根本から変えることは、俺はおそらく出来る」

 

全知全能(ジ・オールマイティ)』・『人類之祖(アダム)』・『平和之王(ソロモン)』この3つを使えば、世界を幾らでも変えることが可能だ。ギィですら止められない、ユリウスの意思一つで容易く世界は変革される。

 

「それじゃあ意味がないんだ。俺の力で世界を変えても、人類が自分で歩まないと何も変わらない。

 でも、それを理解している人間は極少数しかいない。滅びた時にはもう遅いんだ。自分の無力に泣き、何故力がなかったのかと後悔に苛まれる」

 

 思い出すのは全てが破壊されたあの日の記憶。街や城も瓦礫の山と化した地獄の惨状。あの日を忘れることは、未だユリウスにも出来ていなかった。

 

「これまでそんな惨状は、決して珍しいことじゃなかった。国が一つ滅びるごとに、新たな強力な魔物が魂を取り込んで生まれる。

 そんな無限に続く悲劇が、当然のように起きてきた。俺が感情のままに動くなら、そんな可能性の根本を断ち切ろうとしたかもしれない」

 

 これは仮の話だ。もしユリウスが怨みを捨てきれなかったら、きっと魔物の全てを滅ぼそうと世界を変えたかもしれない。

 思い留まったのは、人類に自ら変わって欲しいという願いがあったからだ。

 

「怖いんだ。今こうしている間に、いつ人類が滅びるかなんて誰にもわからない。でも、確かに存在するんだ。人類をあっという間に滅ぼせる力を持つ存在が、この世界にはいる」

 

 被害妄想かもしれない。だが、実際にユリウスの元に起きてしまった。

 そんな被害を受けた者たちにとって、そんなことになるわけないという言葉は、きっと届かない。

 

「今の人類に、天災に対する術はない。仕方ないと受け入れることなんて出来ないんだ。俺には力があって、意思があるんだから」

 

「だから⋯⋯⋯⋯理解なんて必要ないの?」

 

「理解してくれることに越したことはない。でも、多分無理だ。

 俺のやろうとしていることは、きっと世界に影響する。その過程で、俺の掌から溢れる命の数はきっと途方もない。

 俺は色々知ってるから先を見越していて、今を犠牲にするやり方をとる。何も知らない人間からすれば、命をなんとも思っていない人間に見えるだろう」

 

「犠牲もなしにやるのは⋯⋯無理なのよね?」

 

「そんな余裕なんて、どこにもない。手段を選ばなければあるだろうけど、さっき言ったように、それじゃあ意味がないんだ」

 

 犠牲を出したくなくとも、犠牲がなければ夢は叶えられない。そんなジレンマが、ユリウスには今後も付きまとい続ける。

 そんな矛盾を抱えながら、残酷で冷酷を決断をユリウスはする。選択肢の片方を犠牲にしながら。

 

「ごめんね。自分から聞いといて、私の知識じゃそれが正しいのか間違ってるのかも言えないわ」

 

 軽い気持ちで聞いた訳ではない。それでも、ユリウスの言葉の節々に感情が滲み出ていた。それが具体的にどんな感情なのか、エルメシアには読み取れなかった。

 

「俺が勝手に語ったんだからいいんだよ。思わず吐き出しただけで、適当に流してくれ」

 

「無理よ、そんなの。しばらく忘れられないわ」

 

 焚き火を二人で囲みながら、夜の帳に再び沈黙が訪れる。パチパチと火の音だけが聞こえる中、エルメシアが口を開く。

 

「⋯⋯⋯もし、もしよ? 世界が平和になって、人類が滅びない世界になったら、どうするの?」

 

「想像出来ないな、そんな世界。世界平和なんて幻想だと思ってるし、叶ったとしてもそこに自由や意思なんて欠片もなくなると思う」

 

「それでもよ」

 

「⋯⋯⋯⋯そうなったら、きっと俺は用済みだな」

 

 ユリウスがその言葉の意味をついぞ語ることがないまま、その夜は明けてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「んっ⋯⋯うぅん?」

 

 かなり懐かしい夢から覚めたエルメシアが、寝ぼけた瞼をゆっくりと開く。魔国連邦の開国祭は終了し、エルメシアたちは飛竜船で帰路を辿っていた。

 

「明日の朝にはつくから、まだ寝とけ」

 

 エルメシアは椅子で寝てしまったようで、知らぬ間に掛けられた膝掛けと、正面に座って夜の空を眺めているユリウスに視線を向ける。

 

「私、寝ちゃったのね」

 

「はしゃぎすぎたんだろ。色々と刺激が強かったからな」

 

 ユリウスは鎧は直用しておらず、ラフな格好で話している。どこか昔の冒険を思い出させる姿に、エルメシアは夢の光景と重ねてしまう。

 

「⋯⋯⋯ユーリ?」

 

「ん?」

 

 寝ぼけ気味だと思っていたエルメシアの表情が、どこか悲しげなことにユリウスは気づく。

 

「魔国連邦を滅ぼすの?」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

「元々、そうなんじゃないかとは思ってたけど、今のユーリを見てるとやっぱりそんな感じがするわ」

 

「曖昧な根拠だな⋯⋯⋯」

 

「理由なんて、それで充分よ。それでどうなの?」

 

 エルメシアには、ユリウスが心の中で揺れているのがわかる。皇帝として誤魔化すか、友人として答えるのか。

 らしくない様子だと、エルメシアは思う。こんな質問は簡単に予想できる。それでも言い淀むのは、きっと自分にあるのだとエルメシアは察していた。

 

「⋯⋯⋯⋯魔国連邦そのものには、大してこだわってない。危険ではあるし、対処の必要はある。きっと俺とリムル・テンペストは相容れないし、魔国連邦に対する方針は何も変わってない」

 

 沈黙の末に出てきた言葉は、そんな曖昧な言葉の数々。考えた結果、意思だけはしっかり伝えることにしたことがわかる。

 

 だからこそ、エルメシアも意思をしっかりと定めなくてはならないと決意する。

 

「ユーリ、私は何もしないわ。貴方の意思を尊重はすれど、協力は出来ない。

 でも、絶対に夢を否定しない。ユーリのその意思にあるのが純粋な願いであることは、私はよく知ってるから」

 

「敵対しても良いんだぞ? 魔国連邦との同盟は大きなメリットだろうし、敵対しても俺はサリオンを滅ぼさない」

 

「それじゃあフェアじゃないわ。ここで誤魔化すことも出来たのに、私に伝えたのはユーリの意思でしょう?」

 

「国よりも個人を優先させるなよ⋯⋯⋯」

 

「そっくりそのまま返すわ」

 

 呆れたように呟くユリウスに、エルメシアはにっこりと笑みを浮かべて発言を返す。眉間を抑えだしたユリウスだが、その顔には小さな笑みが浮かんでいる。

 

 二人は天帝と皇帝だ。時に冷酷な決断を問われることもある。光の帝国とサリオンの関係に、個人の関係を持ち込むのは本来あり得ない行為だ。

 

 それでも、二人は友人であることを捨てたがらなかった。

 

 今だけは、友人のエルメシアとユーリとしての関係でいたかった。

 

 この決断に、愚かだと苦言を呈する者はいる。だがこれでいい、エルメシアとユリウスにとって他の誰にもなれない唯一無二なのだから。

 




[唯一無二の関係]
ユリウスとエルメシアの関係は、他の誰とも違う距離感がテーマになっています。

二人は天帝と皇帝の立場を完全に優先させるのではなく、魔国連邦に関してはお互いを考慮しつつも深入りしないことになりました。

中途半端な選択ですが、これが二人の選択です。この選択が物語にどう影響するかは不明です。

[魔国潜入編について]
5章はユリウスが魔国連邦に潜入する章ですが、今後の伏線とエルメシアとユリウスの関係がメインになっています。

ユリウスはリムルを直接見定めながらも、他のことについても同時並行で進めています。精神的に不安定な描写が所々にありましたが、何故そうなっているのかは最後辺りで一気にわかります。

それまでは基本伏線だったり、濁すような表現が多いので予想しながら読むのがオススメです。

[次の章について]
次はアンネリーゼがメインの章になります。一旦4.5章を少し挟んでから6章に入る予定です。
章を跨ぐごとにリムル目線が増えていくので、原作に似た感じな描写が増えてくると思います。

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