転生したら滅却師だった件   作:抹茶オレン

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今日で初投稿から丁度一年ということなので、特別な話を用意しました。尚、二つに分けて投稿します。

本編四章の20年ほど前の話になりますが、その先をどうするかは作者では判断しきれないので、二つ目に投稿した話にアンケートを載せときます。

読者の意見を参考にして今後を判断しようと思います。


一周年記念 Now Foreveryou
忠義と忠誠のお節介


かつては多くの人の声で賑やかだった国は、たった一晩で音一つしない荒地へと変貌していた。ユリウスは、一人瓦礫の山と化した“かつて国だったもの”の上を歩く。

 

『夢を持ちなさい』

 

母上が最後に力を振り絞って伝えてくれた言葉は、今でもはっきりと覚えている。

別れの言葉すら切り出せぬまま、亡骸となった母上の身体を抱き抱えたとき⋯⋯残った体温の感触まで記憶の底からは消えてくれなかった。

 

きっと、母上には視えていたのだろう。ユリウスのように、未来を死に際に捉えていた。

 

『彼女のように怒りに呑まれないで』

 

彼女とは、きっとミリムのことだ。俺が復讐に興じずに夢を追いかけることを出来たのも、母上のおかげだ。

 

『ユリウス、ありがとう。貴方はすごいわ。そしてごめんなさい。アナタにすべてを押し付けて』

 

最後の言葉に、一体どういう意図があったのか聞くことは叶わない。母上の死体は光に消えてユリウスの下へと還った。

 

少しだけ、それを後悔している自分がいる。せめて骨だけでも埋めれば、空虚な墓が今でも残ることはなかっただろうに⋯⋯。そんな風に思ってしまうのだ。

 

「どうして瓦礫を歩いているんだ?それに⋯⋯ここは」

 

そこで自身があの時と同じ光景を目をしていることに、ようやく気づいた。かつてユリウスの故郷である国があった場所であり、今では光の帝国になった国だった大地。

 

何の気配もしない静寂の国で、たった一人佇むユリウス。夜空は雲で覆われ、空気も淀んでいる。

 

「酷い光景だ。これは忘れるなという意味か?」

 

冷静に状況を分析してはいるが、心臓の鼓動が速まっているのを感じる。耳を劈くような心音は、今にも鼓膜を破壊しようとしている。

 

「どうして⋯⋯」

 

「?」

 

声が聞こえて振り返ると、そこにはボロ布を纏った女が佇んでいる。先程まで気配一つしなかったはずだというのに、ユリウスの気づかぬ内に接近していた。

 

「どうして?」

 

次は男の声だ。ガタイの良い男がユリウスの右に現れて同じ言葉を問いかける。

 

「どうして⋯⋯」

 

老人の声だ。

 

「どうして⋯⋯」

 

年端のいかない少年の声。

 

「どうして?」

 

赤子を抱えた妊婦の声。

 

声と人影は増えていき、ユリウスを中心にひしめき合う程の数えと膨れ上がる。例外なくやつれたその姿は、生きた人間には見えなかった。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

ユリウスは、自らに群がる亡者たちに何かすることもなく、ただ目を閉じてその場を動くことはなかった。やがて群がる亡者はユリウスの身体を飲み込み、消えていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「夢⋯⋯?」

 

いつの間にか、ユリウスは眠っていたらしい。眠る必要性がない身体でも、偶にこうして意識がなくなることがある。そういう時は、大抵夢を見るものだった。

 

しかし、夢の内容をはっきりと覚えている場合は少なく、いつも胸の内に靄がかかったような気分になる。

 

ユリウスが指を軽く動かすと、山のように積み上がった紙が空中で浮遊しながら、一枚一枚手元に揃えられていく。

窓から見える城下町はまだまだ灯りが灯っていて、賑やかな声が聞こえてくるようだ。

 

「お目覚めですか?」

 

「いつからいた?」

 

すぐ側で声が聞こえて、外に向けていた目線を声の主に移す。そこには、書類を整理しているキルゲがいた。

 

「副メイド長から陛下が休む様子がないと報告を聞いたもので、他のメイドには悪いですが、先程交代してもらいました」

 

「適当に休むとモネには言ったぞ、しばらく一人でもいいともな」

 

「お言葉ですが陛下、そう言って休まずに公務を続けていたことが何度あったでしょうか?直属のメイドたちが陛下より先に休めと言われて素直に休めると?」

 

既にユリウスはここ一ヶ月ほど寝ていない。健康的には何の問題がないと言っても、睡眠をとる文化は存在している。食事と睡眠は必要だからではなく、人としての営みを忘れないために全員が行っている暗黙の義務のようなものであった。

 

食事は毎日しているが、睡眠はほとんどしていない。偶に無理矢理身体が休ませるためか、眠るように目を瞑って意識を失っているが、その時間は数分ほどであり、もはや睡眠とすら言えない。

 

そんなことをしていれば心配されるのは当然であり、キルゲの言葉がここにいるのも、改善しないユリウスを責められる人間が非常に限られるからだ。

 

「悪かった、定期的に睡眠はとる。今日からお付きはマリーだったはずだ。騒がしくなる前に代わっておけ」

 

「⋯⋯⋯⋯陛下、一つ提案があります」

 

「なんだ?」

 

「どうでしょう、久しぶりに静かな宴でも開くのは」

 

「今からか?」

 

「実は、ドーラも呼んでいまして。良いワインがあるので三人で静かに飲もうかと」

 

ユリウスは酒はあまり飲まない。キルゲもワインを偶に飲むくらいだったはずだが、どういう風の吹き回しか意気揚々と影からワインを取り出した。

 

「⋯⋯わかった。軽く食べる物はあるか?」

 

「ドーラが用意しています。テラスの方で飲みましょう。今日は快晴の夜空、陛下がお好きな星がよく見える」

 

乗せられている感じはするが、キルゲからの誘いを断る気にもなれなかったユリウスは、テラスにあるテーブルを拡大しながら椅子を三つ創造し、その一つに腰を下ろす。

 

「北東都市ヴァルトで栽培された40年物の赤ワインを用意しました。ダ・ヴィンチの研究には、脱帽するばかりです」

 

キルゲが差し出したワインは、レオナルドがワイン用に品種改造した葡萄で造られたものだった。

熟成期間を大幅に短縮する技術をつい最近確立出来たため、本来であればワインの価値は既に暴落してもおかしくない。しかしこの類のワインは市場には一切流通せず、高位貴族のみを対象に限定し、高値で取引されるように厳重に管理されている。

 

「最近は酒類の品種改造ばかりで、逆に困るがな」

 

レオナルドは今回のワインの完成にすっかり舞い上がり、ここ最近は葡萄の品種改造に没頭していた。後何年続くかは分からないが、早めにマイブームが終わることを祈るしかない。

 

「ダ・ヴィンチは飽き性でもありますから、ある程度成果が出れば他のことを注力するでしょうし、心配の必要はないかと」

 

霊子創造で創り出した三つのワイングラスにワインを注ぐキルゲ。その背後の影から、ドーラが静かに姿を現す。

 

「申し訳ありません。遅れてしまいました」

 

「酒の席だ。無礼講でいい」  

 

まったく気にした様子もなく、ユリウスは立ち上がりグラスを手に取る。キルゲもそれに続き、二人はドーラへと視線を向けた。

 

「私は陛下のメイドですので⋯⋯⋯」

 

「今日は陛下を⋯⋯いえ、ユリウス様とちょっとした宴を開くだけです。身分など些細なことでしょう」

 

そう言って視線を向けてくるキルゲに、ユリウスは小さく息を吐いて、困った様子のドーラに顔を向けた。

 

「ドーラ、今日は俺が楽しみたい。昔のお忍びで城下を歩いたようにしてくれればいい」

 

「⋯⋯⋯かしこまりました。ユリウス様」

 

ユリウスの言葉にドーラは深々と一礼をして了承し、ワイングラスを取った。後は乾杯の言葉を言うだけ⋯⋯ドーラとキルゲの視線が改めてユリウスに集まる。

 

「今日だけは、己を忘れられるように⋯⋯⋯⋯⋯⋯乾杯」

 

「「乾杯」」

 

一気にワイン飲み切ったユリウスは、予想よりも飲みやすい口当たりと不快感が一切ない葡萄の渋みに感嘆の息を漏らした。

 

「ユリウス様、下品ですよ」

 

「言ったろ、無礼講だ。どうせ酔わせるために誘ったんだ。マナーを気にするのもバカらしい」

 

「おや、気づかれてしまいましたか」

 

「隠す気もなかった癖に、よく言う」

 

幼少期の頃からの付き合いの三人は、立場に変化はあれど互いのことをよく理解している。あまり酒を飲まないユリウスの好みのワインまで用意してまで行動、何の目的もないはずがない。

 

「その口調も懐かしいですが、身体はすっかり大人になったせいか少々違和感がありますね」

 

ドーラは、普段“ユーハバッハ”として振る舞うユリウスが、昔の口調で話していることに戸惑いを覚えているようだった。

 

正確には、昔の口調と今の口調が混ざったややこしい話し方になっているのだが、ユリウスも自分で話し方をコロコロと変えているせいか自分でも分からなくなることがあるので、周りから見れば余計に分かりにくい。

 

「背も随分と伸びましたな⋯⋯」

 

「骨格は細めですが、体格も立派になって⋯⋯」

 

「「それでも顔は童顔のまま」

 

「おい、酔うのが早いぞ」

 

酒の席だからか、キルゲとドーラは遠慮なくからかってくる。ユリウスが呆れ気味にツッコむと、誤魔化すようにドーラがユリウスのワイングラスにワインを注ぐ。

 

無礼講でも、ここまで言ってくるのは片手で数えるくらいのものだ。まぁ懐かしんでいることを察し、ユリウスはそれ以上深くは踏み込まなかった。

 

「ラクレット用のチーズがありましたので、バゲットと生ハムを用意しておきました。夜食としては重いですが、ユリウス様は今日の夕食が物足りないと感じていたようですから」

 

「おや、まだ食べ盛りですかな」

 

「茶化すな、今日はメインが魚料理と野菜だったからそう思っただけで、もう食べ盛りの歳じゃない」

 

乾杯して一息ついたドーラが影から出したのは、ツマミにするには大掛かりな塊のチーズだ。まだ数の少ない専用の魔力機械で半月状の塊のチーズの表面を熱で溶かし、生ハムを置いて切り分けたバゲットに、一つずつ見えないナイフで適量垂らしていく。

 

「随分と⋯⋯変わったな」

 

「どうなさいました?」

 

「いや、昔はこうして酒を交す余裕はなかったっていうのに、今では贅沢でも何でもないほどに豊かになった。半ば無理矢理の建国も、今は安定の軌道を描いている」

 

瓦礫の山から随分と成長したと、遠くまで見える街の景色を見下ろしながらユリウスはそう思う。当時は食料にも余裕がなかったというのに、今では夜食に困ることはない。

 

民のほとんどは、飢えから遠い生活を今では送っている。出自も文化も異なる者同士で、当初はトラブルも絶えなかったというのに、今では単一民族のように纏まっていた。

 

「僅か数百年でここまで成長したのは、それだけ個の力の大きさと、同時に危険性を示していると言っていい」

 

たった数百年で文明を一から現代レベルにまで上げることが出来たら、それは革命どころの騒ぎではない。他国が知ればきっと恐れ、同時にどうやったのかを喉から手が出るほど欲するはずだ。

 

「マルクス・フォルトンを知ってるか?」

 

「勿論存じています。星八世貴族の方で、まだまだお若く野心がある」

 

キルゲは相槌を打つように会話をするが、ドーラは邪魔をしないように黙って耳を傾けている。

 

「マルクスが当主になった時、他国に侵略してでも土地を広げるべきだと進言された。実際、人口は増え続けているし、軍に在籍している者が溢れるのもそう遠くない」

 

平和とは立派だが、その分維持コストは馬鹿にならない。人が減らなければ、いずれ土地・食料などは足りなくなり奪い合う結果に繋がる可能性がある。

 

「光の帝国は外敵を用意しなければ人は増え続ける。だから外敵を人工的に用意した。それを知らないフォルトンからすれば、遠くない未来に内側から崩壊する可能性を考えたんだろうな」

 

光の帝国には、高濃度の霊子が大聖樹によって満たされている。それは逆に魔素が少なくなる結果に繋がり、魔物の発生数は他国に比べて非常に少ない。

 

天候・疫病・災害に対してもエイクスュルニルが対策をしているので、人が少なくなる原因のほとんどを潰してしまっているのだ。

 

「そう、普通の国ならそうするのも手だ。やがて飢えて潰れるくらいなら、他国に侵略してでも土地を得る。戦争で軍の人数も調整できて、尚更楽になる」

 

人口の調整は、平和ならではの悩みであった。医療技術も発展しずきないように調整している今でさえ、これなのだ。悠長にしていられないというフォルトン公爵の進言にも一理はあった。

 

「しかし、それは杞憂というものでしょう。フォルトン公爵は知らないが故にそう進言したのでしょうが、光の帝国には的外れの意見になる」  

 

「他国を間接的にしか知らない状態で、そこまで先を見透せるのは立派かと思います。同時に、気づいてしまっては下がることをしない御方でしょうから、残念です」  

 

光の帝国内の統制され限られた情報の中で、そこまで予想出来るのは簡単ではない。他国を間接的に知らないのであれば尚更だ。

 

しかし、野心あるフォルトン公爵は同じく勘づいているアーデンベルク公爵とは違い、己の考えや目的のために光の帝国を変えようとする。20年前から予想できていた必然であった。

 

「反乱はそう遠くない。30年以内には起こすだろうな」

 

「そのタイミングで、今回の剪定を行うので?」

 

「あぁ、エイクスにはもう話してある。マルクスにとっては、皮肉な結末になる」

 

災害とは、自然に予想出来ないタイミングで起こるもの。しかし、それを防ぐ手段と同時に、任意のタイミングで人口的に起こす術を光の帝国は持っていた。

 

反乱と同時に、今回の人口調整のための災害は発生する。そこにワイバーンの群れを投入すれば、ワイバーンの調整も出来る。

 

「キルゲ、ドーラ。これが俺の予想する完璧で平和で最悪な世界だ。何もかもが調整され、支配される世界。民衆は何も知らず、平和に生きていく。牙や爪を抜かれ、ぶくぶくと太らされていることも知らずに」

 

光の帝国は、人類の自立を完全になくした世界の末路と言っていい。方法は違えど、平和の先にあるのは支配の究極であり、何もかもが管理された社会であると。

 

民衆からすれば悪くないだろう。秩序のある社会に飢えはなく、娯楽もある。技術は他国よりも発展していて生活の助けになっている。

 

「平和はいい、見ていて悪くない。だが停滞は衰退を意味し、進歩とはほど遠い。結局、生物は争うから失わないように学び成長する。争いがなくなれば人類はいずれ内側から腐っていき、やがて争うための牙と爪を失って滅ぶ」

 

話しながら飲むペースを上げていったユリウスは、もうワイン数本を一人で飲み干している。分かっていても口に出すことをしなかったユリウスの本音であり、根幹であった。

 

「ユリウス様、我々から一つお節介があります」

 

「ん?珍しいな。まぁ、言ってみろ」

 

毒耐性を切っているユリウスの頬は赤く染まり、酔いは回ってきている。そんなユリウスに、ドーラはキルゲと話し合った提案を代表して進言した。

 

「そろそろ、身を固めることを進言いたします」

 

その言葉を予想出来た人間はきっといない。未来が視えるユリウスが思考を停止して固まってしまったのだから、尚更いる訳がなかった。

 




【皇帝直属メイド統括長 ドーラ】  
貴族の四女としてこの世に生を受けた彼女は、平民よりも幸福であった。優秀なほうだった彼女は、父親の打診で若くして王妃であるエルザ・ベルツのメイドになることができた。

エルザとはそれなりに歳が離れていたが、馬が合いメイドでありながら二人の時は気安い関係になっていた。やがてエルザは妊娠し、一人の男の子を出産することになる。かなりの早産で産まれる前に死ぬ可能性もあったが、無事出産。

しかし、長男であるユリウスは障害を多く抱え、生まれながらに特殊なスキルを有していた。エルザは自分のスキルでユリウスのスキルを封じ、最も信頼のおけるドーラに世話を任せていた。

ユリウスの障害は成長するとすっかり消えてなくなり、物分かりの良い子に育っていった。代わりに長女であるアンネリーゼを出産してからというものの、エルザの体調は悪くなるばかりであった。

帝国が滅びる前日、エルザはドーラに何かあったときはユリウスとアンネリーゼを任せることを伝え、次の日に地下の隠し通路がまだ使えるか確認して欲しいと頼む。

ドーラは疑問こそあったが、それを了承。次の日に隠し通路の状況を確認していると、国は瓦礫の山になっていた。

すぐにエルザを見つけるも、ユリウスを呼んで欲しいと言われる。本当は一緒にいたかったが、必死に涙を堪えてユリウスとアンネリーゼを捜索。

気絶しているユリウスを起こし、エルザの位置を伝える。ドーラはアンネリーゼの捜索を続け、瓦礫に下半身が下敷きになっているエレナとアンネリーゼを見つける。

絶望に浸る暇もなく、ユリウスの聖別を間近で確認した。

ユリウスとアンネリーゼは友人であるエルザの形見であり、使える主でもある。主の道を遮ることなどできないが、幸福の道を歩んで欲しい願望がある。

今日の19時に後半を投稿します。

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