酒カスエルフ、ダンジョンへ行く   作:エルフスキー

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原作開始前二次創作あるある
以前年齢を調べたキャラが思わぬ年齢に成長しており、大きくなって……と近所のおばちゃんの気持ちになれる



しんゆう

 

 そのファミリアには……というよりかは、ファミリアの主神の性質かもしれないが……とにかく時運がなかった。

 彼女はウン百年前メレンを拠点にしようと目論み、眷属を率いて攻め込んだのだが、その際競合相手となるファミリアがいた。強豪【ポセイドン・ファミリア】だ。

 

 大砲と魔法が飛び交う波上、衝突したタラップから白兵戦の戦端が開き、大嵐の中海の兵たちがぶつかり合う。

 心踊る戦いだった。しかし激戦を極めた海戦で、惜しくも彼女等は敗れてしまった。

 

 以来モンスター・人間を問わず気ままに遊撃する回遊探索系ファミリアだった彼らは、明確に一つの獲物を定めた。

 メレンを拠点とする【ポセイドン・ファミリア】や半ばその同盟相手たる【ニョルズ・ファミリア】に、ちょっかいをかける日々を送っていたのだが。

 

 逢瀬を邪魔する連中が現れた。メレンに進出した【ギルド】支部と、懇意の二大ファミリアの冒険者たちである。

 メレンの発展に伴いこの街は英雄都市オラリオの玄関口として見られるようになった為、海上保安が行われたのだ。

 

 荒海を泳いできた【ゼウス・ファミリア】の益荒男が船底に穴を開け、【ヘラ・ファミリア】の女どもは港から超遠距離狙撃で攻撃してくる。

 素晴らしい闘争で潰されるならば本望だったのに、悲しきかな、彼らは真っ当な海戦など行ってくれなかったのであった。

 

 フラストレーションが溜まっていた。報復を胸に歳月を重ねた。しかし復讐を果たすより先に、『最強』は黒竜討伐失敗によって壊滅してしまった。

 拳の振り下ろす場所を失った彼女は仕方なく、本来の目的である『港町メレン』に手を伸ばそうとした……のだが。

 

 そのファミリアには時運が無かった。新たなオラリオの頂点たる美神がそこにいるなんて、彼女は知りもしなかった。

 

 更には【フレイヤ・ファミリア】が千年分の掃除に慣れ過ぎて、ゼウスとヘラの後始末に飽き飽きしていることなど……青天の霹靂だったのである。

 

 

 参謀・ヘディンは冷静だった。彼は【ギルド】メレン支部長を()()して事情の一切を()()()()、一隻の船を用意するように()()()(とても優しい表現)。

 

 彼らは直様海に漕ぎ出す。寡黙な猪人の櫂の一振りは十人の水夫のそれに優る。器用な四人の小人族が前後左右の舵取りを熟し、黒妖精の剣士はマストの上から方角を見定める。

 

 この世界・この時代には存在しない概念だが、超越存在ならその前進を『魚雷』に喩えただろうか。

 十数名の美神の眷属たちは珍しく堅い団結を見せると、海原を爆走したのであった。

 

「アーニャ!なんで着いてきやがった!」

「フフン、兄様の考えなんかお見通しだニャ!ミャーだって上級冒険者!置いて行こうったってそう簡単には……フギャー!??」

「ああクソ、言わんこっちゃねえ……!」

 

「さて、あとは見物よな」

 

 魚型モンスターを粗方三枚下ろしにした帰雁は、船縁に腰掛けて遠方の海戦を眺めていた。ニョルズと彼が連れてきたファミリアが一応網を張っているが、この荒れ具合では魔石しか掛かるまい。

 

 飛び出してきた中型船から雷霆と見紛う一矢が飛び、見知らぬエンブレムを掲げる海賊船を瞬く間にぶち抜く。散らばった船の残骸を小柄な猫人達が辿っていき、外套を靡かせた黒妖精が敵船に降り立つ。

 それを見届けた猪人の青年は、自らの大剣を振りかぶり……()()()()()()にそれを打ち当てた。

 

「!!?」

 

 ブッと酒を吹き出した。Lv6の膂力である。頑丈とはいえ木製のそれが敵うはずもなく、当然巨大な柱が倒れ、帆が千切れて船が傾き、合わせて反対側のマストも折られる。

 いやバランス取れば良いって訳じゃなかろ。ジェンガでもあるまいに。

 

 白妖精がキレ散らかしている声が聞こえる気がするが、オッタルはお構いなしだ。彼はふんぬと折れたマストを持ち上げると、それを敵船へ投げ付けた。

 

 ザブンと飛沫が上がる音。沈みゆく船から次々に【フレイヤ・ファミリア】が離脱する。

 その内最も巨大な主船に飛び乗った小人族が黒地の旗を引き剥がし、代わりに『女神の横顔』を掲げた。

 

 もう座っていることも出来ず、転げ回りながら帰雁は爆笑する。

 

「ふっ、ふふふ……あはははは!フレイヤ様、お宅の坊主共は腕白でござるなぁ!ミアは余程骨太な教育をしたと見える!」

 

「そうね……」

 

 優雅に日傘を差すフレイヤは呆れ顔だ。彼女が求める『新鮮な海の幸』は、荒れたこの海域では獲れないだろう。されど彼女の美貌は愉しげであった。

 

「本当に、仕方のない眷属たち……」

 

 溜め息交じりの言葉には、子供への滴るような愛情がたっぷりと含まれている。その声音が何よりも美しいと思ったので、酔いどれはもう一つ、彼女に奉仕することにした。

 

「女神よ。船釣りは諦めて、物見遊山と洒落込まぬか?素敵な眺めを約束する」

 

 そう言って手を差し出せば、不思議そうな顔ながらフレイヤが腕を預けてくる。帰雁は軽く目を瞑り、慣れない詠唱を開始した。

 

 

「【化粧うは天女の羽衣 仙境を臨み虚空を登らん】」

 

 

 【地足不(チニアシツカズ)】。内心で結べば足元に魔法円(マジックサークル)が浮かぶ。

 同時に発現した嫌なスキルを思い出し、なんとなく複雑な気分になりながらも……まるで酩酊したかの如く、ふわりと体が持ち上がるのが分かった。

 

「……飛行魔法?随分珍しいものを発現したのね」

 

「うむん。拙者は剣術畑の人間ゆえ、歩法が使えぬと弱るでござるが……まあ散歩には勝手が悪くない」

 

 三歩で足元が覚束なくなる。五歩で体が更に浮つく。十度宙を踏んだ頃には、足の使い方さえ忘れた気分だ。

 それでもスイスイ飛べはするので、己が生来鳥であったような気さえしてくる。

 

 もう地上には戻れない心持ちだが、足の裏が何かに触れれば強制的に魔法は解除されるらしい。数度の墜落を経て判明した条件であった。

 

 海戦の特等席を自負して女神を見やれば、彼女はじっと眼下の眷属たちを眺めている。

 そこで彼女が摩天楼の頂上を買い取ったことを思い出し、彼女にはさして目新しくないだろうかと思い至った所で、ようやくフレイヤが口を開いた。

 

 

「私は……ミアを手放してあげるべきかしら?」

 

 女神と持つ最大の接点を唐突にぶち込まれ、帰雁は面食らった。それからあからさまに嫌な顔をし、渋々と口を開く。

 

「……随分な不遜を申し上げるが」

 

「構わないわ」

 

「一介の凡人としてならば頷こう。ミアの奉公は既に、御身からの御恩に報いるに十分かと存じる。存じては、ござるが……」

 

 ミアの事情は薄ら伝え聞いていた。ミアは女神フレイヤに借りがあり、眷属として動く形でそれを返しているらしい。

 尤も責任感皆無のカス侍からすれば、履行すべき義理があろうか?と正直首を傾げる所だ。

 

 しかしその理論を通すと、大変困ったことが起きる。

 

「……拙者もミアに言い訳できないレベルで迷惑を掛けているので、御身に縁切りを勧めると我が身に返ってくる可能性がある。よって沈黙を答としたい……!」

 

「全部言ってしまってるのだけど」

 

 フレイヤが流し目で突っ込む。帰雁は間抜けにも愕然とし、恐る恐る傍の女神を見た。

 

「よもや……妙に口が滑るでござるが、もしや魅了とかなさっておられる?」

 

「していないわよ。貴方が素直なのか、私に見惚れているのかのどちらかね」

 

「……拙者素直でござるから、美しい御身に見惚れちゃってござるのかも……」

 

 真剣にトンチキな答えを出すエルフに、フレイヤは美麗な憂い顔を崩した。

 全く好みの魂ではないし、好みの美しさでもないけれど。フレイヤ自慢の戦乙女(ヴァルキュリア)が、この剣士と縁を切らずにいる理由は分かった。

 

 海面では眷属たちが全ての船を鎮圧した様子だ。見知らぬ超越存在が船端に吊るされて、ジタバタと蓑虫のように踠いている。

 

 折角我が子たちが用意してくれた乗り物なのだから、当然そちらに降り立ちたい。ふよふよ宙に浮かぶエルフにそう頼めば、従順に帰雁が帆先に降り立つ。

 

「ねえ。私に尽くしてくれるのはどうして?」

 

「……ミアに嫌われるのは堪えるゆえ」

 

 不貞腐れた表情で言う下界の子に擽ったい気持ちになって、フレイヤは花開くような笑みを浮かべた。

 

 

 階下。その様子を見ていた彼女の眷属の猪人が、苦渋の滲む声音で呟く。

 

「あの女、遂に物理的に浮世離れたか……」

 

 『【呑んだくれ】が女神を攫うなら、もっと派手に誘拐するだろう』と吐き捨てたオッタル。

 耳まで伏せたその言葉に、【フレイヤ・ファミリア】の面々は彼の暗澹たる少年期を思った。

 

 

 

「……そうか。探らないでいてくれるか」

 

「ロキではあるまいし、好奇心で場を引っ掻き回したりはしないわ」

 

「助かる。代わりと言っちゃなんだが、メレンにいる間は不便はさせん。【ギルド】の対応も請け負うぜ」

 

 フレイヤとニョルズが交わした怪しげな取引も、【フレイヤ・ファミリア】主神以下幹部級の滞在に泡を食っているメレン支部長の危機も、帰雁にとっては関係がない。

 

 結果として直近に迫る脅威の一つが片付いたニョルズは、迅速にデメテルとの取引を履行した。

 彼は約束通り食用に向かない魚の運送を始めたので、依頼としては帰るだけが仕事である。

 

 顔見知りの猪人を揶揄いたい気持ちはあるが、残念ながら時間がなかった。『カーチャンが引退して寂しいでござるなぁ???』と弄り倒したい所を堪え、オラリオへの帰路に着く。

 なお『カーチャンではない』とオッタルは再三否定しているが……酔っ払いは話を聞かないものだ。

 

「ウチの眷属たちをありがとう。またお願いしても良いかしら?」

 

「喜んでッ!」

 

 デメテルから丁寧なお礼とお酒と報酬を受け取り、ニコニコしながら脳内の金額を足し合わせる。期限はあと三週間弱。

 

「……残り500万ヴァリスばかりか。マ、なんとかなるであろ」

 

 結局なんとかならずに二日オーバーしたのだから、救えない酒カスである。

 

 

 

 『豊穣の女主人』の開業は、実にひっそりしたものであった。広告はなく宣伝もない。値段は割高。ただ、味と量は約束する。

 女将の力強い流儀に依然として変わりはなく、やむを得ず店を畳むものが多いオラリオの現在で、燦然と輝く心意気があった。

 

 店を訪れた中に、熟練のドワーフの戦士がいた。若き猪人の剣士がいた。今なお英雄都市に留まる、名だたる冒険者達がいた。

 彼らは密かに小さな料理屋を訪ね、顔見知りとも言葉を交わさず舌鼓を打ち、どこか寂しげに帰っていく。女将は空いた皿を見て、彼らの辛気臭い顔を笑った。

 

 二日目の営業がもう終わる。看板を下ろそうと表に出た従業員の耳に、カランと奇妙な足音が響く。

 

「か、可愛らしい娘さん。今日はもう仕舞いでござるか……!?」

 

「えっと、はい、すみません……先程ラストオーダーが終わってしまって……」

 

「良いよ。入れてやりな」

 

 可愛らしいウェイトレスはパチパチと瞬いたのち、ニッコリ笑って客に頷く。怪しさ120%の笠頭は、やけにそうっと戸口を潜り……

 

「遅い」

 

「ごめんなさい!!!」

 

 そのまま流れるような動作で、女将に平謝りするのであった。

 

 

「それじゃお客さん、ご注文は?」

 

「ん、ん、んん……ぬしに任せる。おまかせを頼むでござる」

 

「そう言うと思った」

 

「あとはお酒を……」

 

「分かってるよ」

 

 カウンターに腰掛けた帰雁に、フンとミアが鼻を鳴らす。同時に陶器製のお猪口が置かれ、透明な液体が注がれる。

 

 酒とは正に千差万別、如何なる酒にもそれぞれの魅力があろうが、故郷の水は格別だ。くいーっと米酒で喉を潤した目の前に……()()()()()の小皿が現れた。

 

 まさかと思って匂いを嗅ぎ、恐る恐る口に運ぶ。ポキポキ小気味良い食感と、舌が一瞬麻痺する塩気。

 ハッとして顔を上げれば、自信ありげな友人の顔。

 

「『ふっくらした白米に漬物と味噌汁。焼き魚があれば尚嬉しい』……でもって」

 

 不意に漂う味噌の香り。出汁の濃厚さと混ざり合ったそれが、じわじわと唾液腺を刺激する。開きの魚は鱒だろうか、焼き目の縁で脂がテラテラと輝いていた。

 最後に空いたお猪口が、もう一度清酒で満たされる。

 

「『一杯呑めればこの上ない』。これで間違いないだろ?」

 

「み、ミア〜!ぬしはまっこと粋な女でござる!毎日味噌汁作ってくれ!!!」

 

「馬鹿なこと言ってないでさっさと食いな」

 

「頂きます!」

 

 残飯だろうと糧食だろうと“馳走”で片付けるQOL底辺エルフが、心底嬉しそうに手を合わせる。それから満面の笑みで「美味い」と言うので、ドワーフはしてやったりとほくそ笑んだ。

 

 実の所。この女からこの一言を引き出すまでに、相当の年月を要したのだ。

 ミアの腕前を以てして、好みを探り当てるのは苦難の連続だった。何せ帰雁には傾向がない。

 なんでも褒めるしなんでも喜ぶ。美食も悪食も好きも嫌いも、全て同じ反応を返してきやがるのだ。あまりに作り甲斐が無い奴であった。

 

 この友人は思いの外素朴な味を好むし、それは極東の味覚に由来する。言われてみれば当たり前のことだが、奇怪な振る舞いに騙されていた。

 

 猪小僧の分かり易さを少しは見習ってほしいものだ。彼はハンバーグとシチューを好むがこの理由は明確で、『お袋の味』が上等すぎたあまり、味覚が子供時代から育たなかった為だった。

 

「しかしやられた、先を越されるとは思わなんだ。さっさと渡せばよかったでござる」

 

「なんだい、開業祝いは要らないって言っただろ。貰えるものは貰うけど……って」

 

 ペロリとお代わりまで平らげた帰雁が、頬を染めて溜息を吐いた。その袂から取り出された木箱にミアは怪訝げに眉を顰め、数秒のちギョッとする。

 

 押された印は三槌に焔。神聖文字が示すは偉大なる鍛治神の真名である。

 あまりのことに絶句しながら、一振りの包丁を取り出す。その鋼の輝きに、覚えがあった。

 

「ええと、ミア。怒らないで聞いて欲しいでござるが……」

 

 言い訳の口調で帰雁が呟く。

 

「ゴブニュ様、拙者が脇差しか何かを拵えるつもりと思ったそうで、既に素材を用意してしまわれていて……。お気持ちも勿体無いので、折角なら使って頂こうと……」

 

「だからって何処に不壊属性(デュランダル)の包丁をオーダーメイドする莫迦がいるんだい……!」

 

「だってぇ……!面白そうでござったからぁ……!」

 

 そう言い張る友人に、ミアは深い溜息を吐いた。とことん格好の付かない関係である。だからこそ……こんな時代でも悪くないと思えるのだが。

 

 ぴしゃんと跳ね除けられたエルフが、しょんぼりと肩を落としている。

 背を向けた女主人と客とを見比べ、可愛らしいウェイトレスはあたふたと両者を取り持とうとするも。

 

「……どうしてくれるんだい。頑丈な俎板を探さなきゃならなくなっちまっただろ」

 

「! ゴブニュ様にご相談してみるでござるか!」

 

「アンタはもう黙りな」

 

 そのやり取りを聞いて、漠然と。友達とはこういうものだったかしらと、そんなことを思った。

 

 

「さあ、リオン!行きましょう!今日も正義の翼を広げて!」

 

 赤く鮮烈な『憧憬』が、太陽のような輝きが、彼女の世界を明るくする。

 差し伸べられた手を取って、その温もりに頬を緩める。温かい人だと、そう思う。

 

「ええ、アリーゼ。行きましょう」

 

 この暗闇も、きっと、貴方となら。





豊穣の女主人始動編 兼 ともだち編
に、フレイヤファミリアが突っ込んできて収拾が付かなくなった編 【完】

フレイヤ様はどっちにも掛かってたりします

章分けとタグ追加を検討してるんですが……なにをどう手を付ければ良いのか分からない……

既出の誰との関係が好き?

  • ソーマ
  • ザニス
  • アルフィア
  • ミア
  • リヴェリア
  • メーテリア
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